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【判例】訴因変更の要否(最決平13.4.11・スワット事件等)

訴因変更の要否に関する最決平13.4.11(スワット事件)等を解説。訴因の特定・拘束力・裁判所の審判対象の範囲について判旨・学説・試験対策を詳述。

この判例のポイント

訴因変更の要否は、訴因における事実の記載が審判対象の画定に必要不可欠な事項であるか、それとも被告人の防御にとって重要な事項であるかによって区別され、前者については事実の変動があれば原則として訴因変更が必要であるが、後者については被告人の防御に実質的な不利益を生ずるか否かによって判断すべきであるとした決定。訴因変更の要否に関する判断基準を体系的に示した重要判例である。


事案の概要

暴力団の組長であった被告人が、配下の組員らによる拳銃等所持について、共謀共同正犯としての責任を問われた事案である(いわゆるスワット事件)。

検察官は、被告人が配下の組員らと共謀の上、拳銃等を所持した旨を訴因として起訴した。すなわち、訴因は被告人を共謀共同正犯として構成されていた。

第一審は、被告人と組員らとの間に共謀共同正犯が成立するとして有罪判決を言い渡した。被告人が控訴したところ、控訴審は第一審判決を破棄し、実行行為者の認定に関して訴因と異なる事実を認定した。具体的には、訴因では特定の組員Aが実行行為者とされていたが、控訴審は実行行為者がAではなく別の組員Bであると認定した。

ここで問題となったのは、実行行為者の変更について訴因変更手続を経る必要があったか否かである。


争点

  • 訴因変更の要否の判断基準はどのようなものか
  • 共謀共同正犯の訴因において、実行行為者の明示は審判対象の画定に不可欠な事項か
  • 実行行為者が変わる場合に訴因変更手続を経ずに異なる事実を認定できるか
  • 訴因変更が不要とされる場合にも、被告人の防御との関係で問題は生じないか

判旨

最高裁第三小法廷は、以下のとおり判示した。

訴因変更の要否の判断枠組み

訴因と認定事実とを対比してみると、前記のとおり、両者は実行行為者の点で相違があるにとどまり、その余の点はおおむね一致しているが、訴因変更の要否を判断する際には、この実行行為者がだれかという点がどのような意味を有するかについて検討する必要がある

― 最高裁判所第三小法廷 平成13年4月11日 平成11年(あ)第423号

審判対象の画定と訴因変更

訴因についてみると、訴因は、裁判所に対し審判の対象を画定するとともに、被告人に対し防御の範囲を示すものである。したがって、訴因の変更が必要となるのは、審判対象の画定という見地からは、訴因として記載された事実と認定すべき事実との間に実質的な差異がある場合であり、被告人の防御という見地からは、訴因の記載と異なる事実を認定することが被告人の防御に実質的な不利益を生ずる場合である

― 最高裁判所第三小法廷 平成13年4月11日 平成11年(あ)第423号

共謀共同正犯における実行行為者の記載

共謀共同正犯の訴因としては、その実行行為者がだれであるかが明示されていないからといって、それだけで直ちに訴因の記載として罪となるべき事実の特定に欠けるものとはいえないと考えられるから、訴因において実行行為者が明示された場合にそれと異なる認定をするとしても、審判対象の画定という見地からは、訴因変更が必要となるとはいえない

― 最高裁判所第三小法廷 平成13年4月11日 平成11年(あ)第423号

被告人の防御との関係

とはいえ、実行行為者がだれであるかは、一般的に、被告人の防御にとって重要な事項であるから、当該訴因の成否について争いがある場合等においては、争点の明確化などのため、検察官において実行行為者を明示するのが望ましいということができ、検察官が訴因においてその実行行為者の明示をした以上、判決においてそれと実質的に異なる認定をするには、原則として、訴因変更手続を要するものと解するのが相当である。しかしながら、実行行為者の明示は、前記のとおり訴因の記載として不可欠な事項ではないから、少なくとも、被告人の防御の具体的な状況等の審理の経過に照らし、被告人に不意打ちを与えるものではないと認められ、かつ、判決で認定される事実が訴因に記載された事実と比べて被告人にとってより不利益であるとはいえない場合には、例外的に、訴因変更手続を経ることなく訴因と異なる実行行為者を認定することも違法ではないものと解すべきである

― 最高裁判所第三小法廷 平成13年4月11日 平成11年(あ)第423号


ポイント解説

訴因の二つの機能

本決定は、訴因の機能を以下の二つに整理した。

審判対象の画定機能: 訴因は裁判所に対して審判の対象を画定する機能を有する。裁判所は訴因に記載された事実の範囲内で審判を行わなければならない(不告不理の原則)。

防御の範囲の告知機能: 訴因は被告人に対して防御の範囲を示す機能を有する。被告人は訴因に記載された事実に対して防御を行えば足りる。

訴因変更の要否の二段階判断

本決定が示した訴因変更の要否の判断は、以下の二段階で行われる。

第1段階(審判対象の画定の見地): 訴因として記載された事実と認定すべき事実との間に実質的な差異があるかどうか。実質的な差異がある場合には、訴因変更が必要となる。

第2段階(被告人の防御の見地): 第1段階で訴因変更が不要とされた場合であっても、訴因の記載と異なる事実を認定することが被告人の防御に実質的な不利益を生ずる場合には、訴因変更が必要となる。

「不可欠な事項」と「重要な事項」の区別

本決定の核心は、訴因における事実記載を不可欠な事項重要な事項に区別した点にある。

不可欠な事項: 審判対象の画定のために必要不可欠な事項。例えば、犯罪の日時・場所・方法・相手方など、訴因の同一性を画する事項がこれに当たる。不可欠な事項に変動がある場合には、原則として訴因変更が必要となる。

重要な事項: 被告人の防御にとって重要な事項であるが、審判対象の画定のためには不可欠ではない事項。共謀共同正犯における実行行為者の特定がこれに当たる。重要な事項に変動がある場合でも、被告人の防御に実質的な不利益を生じない場合には、例外的に訴因変更なしに異なる事実を認定することが許される。

例外が認められる要件

実行行為者について訴因と異なる認定をする場合に訴因変更が不要とされる例外的な要件は、以下の二つである。

  1. 不意打ちでないこと: 被告人の防御の具体的な状況等の審理の経過に照らし、被告人に不意打ちを与えるものではないこと
  2. 不利益でないこと: 判決で認定される事実が訴因に記載された事実と比べて被告人にとってより不利益であるとはいえないこと

訴因変更の要否と訴因変更の可否の区別

訴因変更の「要否」と訴因変更の「可否」は異なる問題であることに注意が必要である。

  • 訴因変更の要否: 訴因と異なる事実を認定するために訴因変更手続を経る必要があるかの問題
  • 訴因変更の可否: 訴因変更が「公訴事実の同一性」(312条1項)の範囲内で許されるかの問題

本決定は訴因変更の要否に関する判例であり、訴因変更の可否とは問題の次元が異なる。


学説・議論

審判対象論

訴因変更の要否を理解するためには、審判対象論の理解が不可欠である。審判対象が何であるかについて、以下の見解が対立している。

訴因対象説(通説・判例): 裁判所の審判の対象は検察官が設定した訴因であるとする。この立場からは、訴因に記載された事実と異なる事実を認定するには訴因変更が必要となるのが原則である。

公訴事実対象説: 裁判所の審判の対象は公訴事実(社会的事実としての犯罪事実)であるとする。この立場からは、訴因の変更は検察官の訴追裁量の問題にとどまり、裁判所は公訴事実の範囲内で自由に事実を認定できることになる。

本決定は訴因対象説を前提としつつ、実行行為者の特定が審判対象の画定に不可欠ではないとして、例外的に訴因変更なしの認定を認めた。

訴因の特定の程度

訴因がどの程度具体的に特定されなければならないかについて、以下の見解がある。

厳格特定説: 訴因は犯罪構成要件に該当する具体的事実を可能な限り特定して記載すべきとする。

概括的記載許容説: 訴因の記載は、審判対象を他の犯罪事実から区別できる程度に記載されていれば足りるとする。

本決定は、共謀共同正犯において実行行為者の明示が訴因の記載として不可欠ではないとしたことから、概括的記載許容説に親和的な立場をとったと評価されている。

被告人の防御権保障のあり方

本決定が訴因変更の要否の判断において「被告人の防御に実質的な不利益を生ずるか否か」を考慮した点については、以下の評価がある。

肯定的評価: 訴因変更の要否を形式的に判断するのではなく、被告人の防御権の実質的保障の観点から判断することは、適正手続の保障に資する。

批判的評価: 「実質的な不利益」の判断基準が不明確であり、裁判所の裁量に委ねられる部分が大きいため、被告人の防御権保障として不十分である。


判例の射程

本決定の射程は以下のとおりである。

  • 共謀共同正犯における実行行為者の変更: 本決定の直接の射程であり、上記の例外要件を満たせば訴因変更なしに異なる実行行為者を認定できる
  • 単独犯と共同正犯の間の変動: 単独犯の訴因で共同正犯を認定する場合(又はその逆)については、本決定の射程が直接及ぶかどうか議論がある。一般的には、単独犯と共同正犯の間の変動は審判対象の画定に影響する実質的な差異であり、訴因変更が必要とされることが多い
  • 犯罪の日時・場所・方法の変更: これらは審判対象の画定に不可欠な事項として、原則として訴因変更が必要
  • 殺意の有無: 最判平24.2.29は、殺意の有無に関する認定の変更について訴因変更の要否を検討した判例であり、本決定の判断枠組みを踏襲している

反対意見・補足意見

本決定は全員一致の決定であり、反対意見は付されていない。

もっとも、本決定の射程については、学説上活発な議論がある。特に、本決定が共謀共同正犯に特有の問題を扱ったものか、それとも訴因変更の要否に関する一般的な判断基準を示したものかについては見解が分かれている。多くの学説は、本決定が示した二段階の判断枠組みは一般的な適用可能性を有するものと理解している。


試験対策での位置づけ

訴因変更の要否は、司法試験・予備試験において以下の形式で出題される。

  • 公訴論の論文問題: 訴因変更の要否が問われる事例問題。共謀共同正犯における実行行為者の変更が典型的な出題パターン
  • 訴因の特定との関連: 訴因の特定の程度と訴因変更の要否の関係を問う問題
  • 審判対象論との関連: 訴因対象説と公訴事実対象説の対立を前提とした問題
  • 短答式試験: 本決定の判旨と射程に関する正誤問題

本決定は訴因論の中核的判例であり、判旨の正確な理解と答案への適切な引用が求められる。


答案での使い方

訴因変更の要否が問題となる事案では、以下の構成で論述する。

  1. 訴因の機能の指摘: 訴因は審判対象の画定機能と防御範囲の告知機能を有することを指摘
  2. 二段階の判断枠組みの提示: 審判対象の画定の見地と被告人の防御の見地からの二段階の判断を提示
  3. 不可欠な事項か重要な事項かの検討: 問題となる事実が審判対象の画定に不可欠な事項か、被告人の防御にとって重要な事項かを検討
  4. あてはめ: 具体的事案について、訴因変更の要否を判断
  5. 例外の検討: 訴因変更が原則として必要な場合でも、不意打ちでなく不利益でない場合の例外の可否を検討

試験に出るポイント

  1. 訴因は審判対象の画定機能と防御範囲の告知機能を有する
  2. 訴因変更の要否は、審判対象の画定の見地と被告人の防御の見地から判断される
  3. 共謀共同正犯における実行行為者の明示は訴因の記載として不可欠な事項ではない
  4. 実行行為者について訴因と異なる認定をする場合、原則として訴因変更が必要だが、不意打ちでなく不利益でない場合は例外的に不要
  5. 審判対象の画定に不可欠な事項(日時・場所・方法等)の変動には原則として訴因変更が必要

覚えるべき要点

項目 内容 判例 最決平13.4.11(スワット事件) 争点 訴因変更の要否の判断基準 結論 審判対象画定に不可欠な事項は原則変更必要、重要な事項は防御への実質的不利益で判断 根拠条文 刑訴法256条3項、312条1項 キーワード 訴因の機能、審判対象の画定、被告人の防御、不意打ち、不可欠な事項

論証への活かし方

訴因変更の要否を論じる際の論証パターンは以下のとおりである。

訴因は、裁判所に対し審判の対象を画定するとともに、被告人に対し防御の範囲を示す機能を有する(最決平13.4.11)。したがって、訴因変更の要否は、審判対象の画定の見地と被告人の防御の見地から判断すべきである。審判対象の画定の見地からは、訴因として記載された事実と認定すべき事実との間に実質的な差異がある場合に訴因変更が必要となる。被告人の防御の見地からは、訴因の記載と異なる事実を認定することが被告人の防御に実質的な不利益を生ずる場合に訴因変更が必要となる。


重要概念の整理

訴因変更の要否・可否・命令の体系

概念 内容 根拠条文 訴因変更の要否 異なる事実の認定に訴因変更が必要か 256条3項・312条1項 訴因変更の可否 訴因変更が公訴事実の同一性の範囲内か 312条1項 訴因変更命令 裁判所が検察官に訴因変更を命じうるか 312条2項

訴因の特定に必要な事実

刑訴法256条3項は「公訴事実は、訴因を明示してこれを記載しなければならない。訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない」と規定している。

  • 必要的記載事項: 犯罪構成要件に該当する具体的事実
  • 任意的記載事項: 犯罪の動機・経緯等。記載は望ましいが不可欠ではない
  • 実行行為者の記載: 共謀共同正犯においては不可欠ではないが、被告人の防御のために重要

よくある質問

Q1: 訴因変更の「要否」と「可否」の関係はどのようなものですか?

A: 訴因変更の「要否」は、訴因と異なる事実を認定するために訴因変更手続が必要かどうかの問題であり、「可否」は検察官が行おうとする訴因変更が公訴事実の同一性の範囲内にあるかどうかの問題です。論理的には、まず「要否」を検討し、訴因変更が必要であるとされた場合に「可否」を検討するという順序になります。

Q2: 裁判所は検察官に対して訴因変更を命じることができますか?

A: 刑訴法312条2項は「裁判所は、審理の経過に鑑み適当と認めるときは、訴因又は罰条の追加又は変更を命ずることができる」と規定しています。もっとも、裁判所の訴因変更命令義務の範囲については議論があり、判例は裁判所に広い裁量を認める傾向にあります。

Q3: 本決定の判断枠組みは共謀共同正犯以外にも適用されますか?

A: 本決定が示した二段階の判断枠組み(審判対象の画定の見地と被告人の防御の見地)自体は、共謀共同正犯に限らず一般的に適用可能なものと理解されています。もっとも、具体的にどの事項が「不可欠な事項」であり、どの事項が「重要な事項」にとどまるかは、犯罪類型や事案の具体的事情によって異なります。

Q4: 訴因変更なしに異なる事実を認定した場合、どのような上訴理由になりますか?

A: 訴因変更手続を経ずに訴因と異なる事実を認定した場合、刑訴法378条3号の「審判の請求を受けない事件について判決をし」た場合に該当し、絶対的控訴理由となります。


関連条文

  • 刑事訴訟法256条3項: 訴因の明示・特定
  • 刑事訴訟法312条1項: 訴因変更の許可
  • 刑事訴訟法312条2項: 訴因変更命令
  • 刑事訴訟法378条3号: 絶対的控訴理由(不告不理違反)

関連判例

  • 最判平24.2.29: 殺意の有無と訴因変更の要否に関する判例。本決定の判断枠組みを踏襲
  • 最決昭58.12.13: 訴因変更の可否(公訴事実の同一性)に関する判例
  • 最判昭46.6.22: 訴因の特定に関する判例
  • 最決平24.9.18: 共謀共同正犯における共謀の認定と訴因の関係に関する判例

まとめ

最決平13.4.11(スワット事件)は、訴因変更の要否に関する判断基準を体系的に示した重要判例である。本決定は、訴因の機能を審判対象の画定と被告人の防御範囲の告知に整理した上で、訴因変更の要否をこの二つの見地から判断すべきとした。共謀共同正犯における実行行為者の明示は訴因の記載として不可欠ではないが、被告人の防御にとって重要な事項であるため、原則として訴因変更が必要であり、不意打ちでなく不利益でない場合に限り例外的に不要とされる。試験対策においては、二段階の判断枠組みと「不可欠な事項」「重要な事項」の区別を正確に理解し、具体的事案に適用できるようにしておくことが重要である。

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