【判例】窃盗罪の重要判例(不法領得の意思)
窃盗罪の重要判例を解説。不法領得の意思の意義と要否、財物の概念、占有の有無の判断基準について、判例・学説の議論を詳しく分析します。
この判例のポイント
窃盗罪の成立には、構成要件的故意のほかに、不法領得の意思が必要である。判例は不法領得の意思を「権利者を排除して他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従い利用・処分する意思」と定義し、毀棄隠匿の意思や一時使用の意思との区別基準として機能させている。また、財物の概念と占有の有無の判断も窃盗罪の成否を左右する重要論点である。
事案の概要
不法領得の意思に関する判例(最判昭26.7.13)
被告人は、他人の所有物を領得する意思ではなく、嫌がらせの目的でその物を持ち出して隠匿した。この場合に窃盗罪が成立するか、それとも器物損壊罪(刑法261条)にとどまるかが問題となった。
使用窃盗に関する判例(最決昭55.10.30)
被告人は、他人の自動車を一時的に使用する目的で持ち出し、数時間使用した後に元の場所に戻した。一時使用の目的で他人の物を持ち出す行為に窃盗罪が成立するかが争われた。
財物性に関する判例(大判明36.5.21)
電気が窃盗罪の客体である「財物」に該当するかが問題となった事案。有体物に限定されない「財物」の概念が争われた。
死者の占有に関する判例(最判昭41.4.8)
被告人が殺害した被害者の所持品を領得した事案。死者に占有が認められるか、死者の所持品の領得が窃盗罪に当たるかが争われた。
争点
- 窃盗罪の成立に不法領得の意思は必要か
- 不法領得の意思の内容は何か
- 「財物」の意義と範囲
- 占有の有無の判断基準
判旨
不法領得の意思の定義
刑法の窃盗罪の成立には、他人の財物を不法に領得する意思、すなわち、権利者を排除して他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従い利用し又は処分する意思が必要であると解すべきである
― 最高裁判所第二小法廷 昭和26年7月13日 昭和26年(れ)第1259号
本判決は、不法領得の意思を二つの要素から構成されるものとした。
要素 内容 機能 排除意思(権利者排除意思) 権利者を排除して他人の物を自己の所有物として扱う意思 一時使用(使用窃盗)との区別 利用処分意思 物の経済的用法に従い利用・処分する意思 毀棄隠匿との区別使用窃盗に関する判断
他人の自動車を、数時間にわたって完全に自己の支配下に置く意図のもとに、所有者に無断でその自動車を使用したときは、たとえ使用後に元の場所に返還する意思があったとしても、不法領得の意思を認めることができる
― 最高裁判所第二小法廷 昭和55年10月30日 昭和55年(あ)第188号
本決定は、他人の自動車を数時間にわたって使用する行為について、返還意思があっても不法領得の意思が認められるとした。自動車のような財物については、一時的な使用であっても所有者の利用を相当時間排除するものであり、不法領得の意思が肯定されるとの判断である。
死者の占有
被告人がAを殺害した後、はじめてその所持品を領得する意思を生じ、直後にこれを奪取した場合には、殺害行為によって被害者の占有を離脱させたのは被告人自身であるから、たとえ死者には占有がないとしても、被告人に窃盗罪が成立する
― 最高裁判所第三小法廷 昭和41年4月8日 昭和40年(あ)第1597号
本判決は、被告人自身が殺害によって被害者の占有を離脱させた場合には、死後に領得意思を生じて所持品を奪取しても窃盗罪が成立するとした。これは、死者に占有を認めたものではなく、被告人の先行行為(殺害)によって占有が離脱したことを捉えて窃盗罪の成立を認めたものと解されている。
ポイント解説
不法領得の意思の二つの機能
不法領得の意思は、以下の二つの場面で区別機能を果たす。
利用処分意思による区別(窃盗罪と毀棄罪の区別)
物を経済的用法に従って利用・処分する意思がない場合(例えば、嫌がらせのために物を隠匿・破壊する場合)は、窃盗罪ではなく器物損壊罪(刑法261条)が成立するにとどまる。器物損壊罪は親告罪であるため、被害者の告訴がなければ処罰されない。不法領得の意思の要否は、この点で実際上の差異を生じさせる。
排除意思による区別(窃盗罪と使用窃盗の区別)
権利者を排除する意思がない場合(例えば、他人の傘を借りてすぐに返す場合)は、使用窃盗として不可罰となる。ただし、判例は使用の態様・時間・物の性質等を考慮して排除意思の有無を判断しており、自動車のような高価な財物を数時間にわたって使用する場合には、排除意思が肯定される。
「財物」の概念
窃盗罪の客体は「他人の財物」(刑法235条)である。「財物」の意義について、以下の議論がある。
- 有体物説: 財物は有体物(固体・液体・気体)に限られるとする。電気は有体物ではないため財物に当たらないが、刑法245条の規定により「財物とみなす」とされている。この規定は、電気を有体物でないにもかかわらず財物として扱うための注意規定であるとされる
- 管理可能性説: 管理可能なものは財物に当たるとする。この立場では、電気のほか情報やデータ等も財物に含まれうるが、情報窃盗を処罰する一般的規定がない現行法の下では、情報を財物と解することには慎重な見解が多い
占有の意義と判断基準
窃盗罪は「他人の財物を窃取」する犯罪であるから、他人の占有する財物を奪取する行為が要件となる。占有の有無は、占有の事実(財物に対する事実上の支配)と占有の意思(支配の意思)から判断される。
占有の有無が問題となる代表的な場面として、以下がある。
- 封緘物の占有: 封をされた委託物の内容物の占有は、委託者と受託者のいずれに帰属するか。判例は内容物の占有は委託者に帰属するとしており、受託者が内容物を領得した場合は窃盗罪が成立する
- 死者の占有: 上記のとおり、判例は死者自体には占有を認めないが、被告人自身が殺害した場合には窃盗罪の成立を認めている
- 遺失物の占有: 遺失物には占有がないため、遺失物を領得する行為は窃盗罪ではなく占有離脱物横領罪(刑法254条)が成立する
学説・議論
不法領得の意思の要否
不法領得の意思の要否について、以下の対立がある。
- 必要説(判例・通説): 窃盗罪が財産犯として毀棄罪と区別されるためには、不法領得の意思が必要である。不法領得の意思は超過的内心傾向(主観的違法要素)として、故意とは別に要求される
- 不要説: 窃盗罪の故意(他人の財物を占有者の意思に反して自己の占有に移す認識)があれば足り、別途不法領得の意思を要求する必要はないとする。毀棄目的での窃取も窃盗罪と器物損壊罪の観念的競合として処理すれば足りるとする
不要説に対しては、器物損壊罪は親告罪であり窃盗罪は非親告罪であるから、毀棄目的での窃取を窃盗罪で処罰することは被害者の意思を無視するものであるとの批判がある。
利用処分意思の内容
「経済的用法に従い利用・処分する意思」の内容について、以下の見解がある。
- 広義説: 物本来の用法に限らず、何らかの形で利用する意思があれば足りるとする。例えば、証拠品として利用する意思や、他人に見せるために持ち出す意思もこれに含まれる
- 狭義説: 物本来の経済的用法に従った利用・処分の意思が必要であるとする。物を隠匿するだけの目的では利用処分意思が認められない
判例は、利用処分意思をやや広く解する傾向にあり、物本来の用法に厳密に限定するものではないとされる。
使用窃盗の可罰性の限界
使用窃盗がどの程度まで不可罰とされるかは、不法領得の意思の排除意思要素の解釈に依存する。判例は自動車の数時間の無断使用について不法領得の意思を肯定したが、より短時間の使用や価値の低い物の使用については判断が分かれうる。
使用窃盗の不可罰性を支える実質的根拠は、一時的な使用は権利者の利用を実質的に妨げるものではなく、可罰的違法性に達しないという点にある。しかし、他人の財物を無断で使用する行為が社会的に許容されるかどうかは、物の性質、使用時間、使用態様等の具体的事情に依存し、一律の基準を設けることは困難である。
判例の射程
不法領得の意思に関する判例の射程
不法領得の意思の定義は昭和26年判決以来一貫しており、すべての窃盗事案に適用される一般的法理である。もっとも、その具体的適用においては、個別事案の事情に応じた柔軟な判断が行われている。
特に問題となるのは、情報の窃取の場面である。USBメモリに保存された機密情報をコピーして持ち出す行為について、USBメモリ自体は財物であるが、コピー元の情報は消失しないため、権利者を排除する意思が認められるかが問題となる。判例上、情報それ自体の窃取については窃盗罪の成立が否定される傾向にあり、不正競争防止法等の特別法による処罰が行われている。
死者の占有に関する判例の射程
昭和41年判決は、被告人自身が殺害した場合に限って窃盗罪の成立を認めたものであり、第三者が殺害した場合には射程が及ばない。第三者が殺害した被害者の所持品を領得する場合は、占有離脱物横領罪が成立するにとどまる。
反対意見・補足意見
不法領得の意思に関する昭和26年判決、使用窃盗に関する昭和55年決定のいずれにも個別の反対意見は付されていない。もっとも、不法領得の意思の要否については学説上根強い対立があり、判例の立場が理論的に十分に根拠づけられているかについては議論が続いている。
試験対策での位置づけ
窃盗罪は、司法試験・予備試験の刑法科目において最も出題頻度の高い犯罪類型の一つである。刑法各論の財産犯の基本として、不法領得の意思、占有の概念、財物性の問題が短答式・論文式の双方で繰り返し出題されている。
短答式試験では、不法領得の意思の定義と二つの要素(排除意思・利用処分意思)、使用窃盗と窃盗罪の区別、財物の概念(有体物説・管理可能性説)、占有の有無の判断基準、死者の占有、封緘物の占有が定番の出題テーマである。
論文式試験では、窃盗罪の成否は事例問題の中核として出題されることが多い。平成29年司法試験採点実感では、不法領得の意思について、その要否と内容を明らかにした上で、肯定・否定いずれの結論であっても具体的事実を指摘してあてはめを行うことが求められた。令和元年・令和4年にも窃盗罪の成否が出題されている。
出題パターンとしては、(1)不法領得の意思の有無が問題となる事案(使用窃盗・毀棄目的の窃取)、(2)占有の帰属が問題となる事案(封緘物・死者の占有・上下主従関係)、(3)窃盗罪と横領罪・詐欺罪との区別が問題となる事案の3類型が典型的である。
答案での使い方
基本的な論証パターン
パターン1: 不法領得の意思の有無を論じる場合
「本件では、甲がAの所有する書類を持ち出した行為について、窃盗罪(刑法235条)の成否が問題となる。窃盗罪の成立には、故意のほかに不法領得の意思が必要である。
不法領得の意思とは、権利者を排除して他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従い利用し又は処分する意思をいう(最判昭26.7.13)。不法領得の意思は、(1)権利者排除意思(一時使用との区別)と(2)利用処分意思(毀棄隠匿との区別)の二つの要素から構成される。
本件では、甲は書類の内容を入手する目的で持ち出しており、物の経済的用法に従い利用する意思が認められるから、利用処分意思が肯定される。また、甲は書類を自己の支配下に置き、Aの利用を排除する意思を有していたから、権利者排除意思も認められる。よって、不法領得の意思が認められる。」
パターン2: 使用窃盗との区別が問題となる場合
「甲は、Aの自動車を一時的に使用した後に返還する意思であったところ、不法領得の意思(排除意思)が認められるかが問題となる。
この点、返還意思があっても、財物を相当時間にわたり完全に自己の支配下に置く意図があった場合には、権利者排除意思が認められる(最決昭55.10.30)。本件では、甲はAの自動車を数時間にわたって使用しており、その間Aの利用を完全に排除しているから、権利者排除意思が肯定され、不法領得の意思が認められる。」
パターン3: 占有の帰属が問題となる場合
「本件では、Aが殺害された直後に甲がAの所持品を領得しており、窃盗罪と占有離脱物横領罪のいずれが成立するかが問題となる。死者には占有が認められないのが原則であるが、被告人自身が殺害によって被害者の占有を離脱させた場合には、死後の領得行為についても窃盗罪が成立する(最判昭41.4.8)。本件では、甲自身がAを殺害しているから、Aの所持品の領得について窃盗罪が成立する。」
答案作成上の注意点
- 不法領得の意思の定義を正確に記述すること。二つの要素(排除意思・利用処分意思)を明示し、それぞれを具体的事実にあてはめる
- 使用窃盗が問題となる場合は、使用の態様・時間・財物の性質を具体的に検討すること
- 占有の有無は客観的事実(財物に対する事実上の支配)と主観的要素(占有の意思)の総合判断であることを示すこと
- 窃盗罪と横領罪の区別(委託関係に基づく占有の有無)を正確に行うこと
重要概念の整理
不法領得の意思の要素と機能
要素 内容 否定されるとどうなるか 区別対象 排除意思 権利者を排除して自己の所有物として扱う意思 使用窃盗として不可罰 一時使用(使用窃盗) 利用処分意思 経済的用法に従い利用・処分する意思 窃盗罪不成立、器物損壊罪が成立しうる 毀棄隠匿目的の領得占有の帰属が問題となる類型
類型 占有の帰属 領得した場合の罪名 判例 封緘物の内容物 委託者に帰属 窃盗罪 大判大8.4.5 死者の所持品(犯人が殺害) 生前の占有が保護される 窃盗罪 最判昭41.4.8 死者の所持品(第三者が殺害) 占有なし 占有離脱物横領罪 ― 遺失物 占有なし 占有離脱物横領罪 ― 上下主従関係の財物 上位者に帰属 窃盗罪(下位者が領得した場合) 最決平16.8.25 委託を受けた財物 受託者に帰属 横領罪(受託者が領得した場合) ―窃盗罪と類似犯罪の比較
犯罪類型 客体 行為 不法領得の意思 法定刑 窃盗罪(235条) 他人の占有する財物 窃取 必要 10年以下の懲役又は50万円以下の罰金 強盗罪(236条) 他人の財物 暴行・脅迫+強取 必要 5年以上の有期懲役 詐欺罪(246条) 財物・財産上の利益 欺罔+交付 必要 10年以下の懲役 横領罪(252条) 自己の占有する他人の物 横領 必要 5年以下の懲役 器物損壊罪(261条) 他人の物 損壊・傷害 不要 3年以下の懲役又は30万円以下の罰金(親告罪)発展的考察
情報窃盗とデジタル社会の課題
情報化社会の進展に伴い、デジタルデータや電子情報の窃取が重大な問題となっている。現行刑法上、情報それ自体は「財物」に該当しないとするのが通説・判例の立場であり、USBメモリ等の記録媒体を窃取した場合には窃盗罪が成立するが、データをコピーするのみで媒体自体を持ち出さない場合には窃盗罪の成立が困難である。もっとも、下級審裁判例には、秘密資料をコピーする目的で一時持ち出した行為について不法領得の意思を肯定したものがある。情報窃盗については、不正競争防止法(営業秘密の不正取得等)や不正アクセス禁止法による対応が図られているが、一般的な情報窃取罪の立法の要否が議論されている。
占有概念の現代的展開
占有の概念は、社会の変化に伴い新たな問題が生じている。例えば、インターネットバンキングの預金口座における占有の帰属、電子マネーやポイントの占有の有無、クラウドストレージ上のデータに対する占有の成否等が議論されている。判例は、預金口座における占有について、預金者が事実上の支配を有しているとして預金者の占有を認めてきたが、電子マネー等の新たな財産形態については、なお判例の蓄積が十分とはいえない状況にある。
窃盗罪と不正利得罪の不在
日本刑法には、財物の窃取に対応する利益窃盗(不正利得罪)の一般的処罰規定がない。すなわち、「財産上の利益」を窃取する行為は、詐欺利得罪(246条2項)や強盗利得罪(236条2項)のように暴行・脅迫や欺罔行為を伴う場合に限り処罰されるが、単なる利益の窃取は処罰の対象外である。無銭飲食や無銭乗車が当然には窃盗罪に該当しないのはこの理由による。利益窃盗の処罰規定の立法の要否については、学説上議論がある。
キャッシュカード窃取と暗証番号
キャッシュカードを窃取した上で暗証番号を用いてATMから預金を引き出す行為は、カードの窃取について窃盗罪、ATMからの引出しについて窃盗罪又は電子計算機使用詐欺罪が成立しうる。近時は、特殊詐欺において被害者からキャッシュカードをだまし取る手口が増加しており、カードの財物性と引出し行為の法的評価が実務上重要な問題となっている。
よくある質問
Q1: 他人の傘を間違えて持ち帰った場合、窃盗罪は成立しますか。
窃盗罪の成立には故意が必要であり、自己の物であると誤信して持ち帰った場合には、他人の財物を窃取する認識がないため、故意が阻却され窃盗罪は成立しない(事実の錯誤)。ただし、他人の傘であることを認識しながら持ち帰った場合には、たとえ「借りるだけ」の意思であっても、使用の態様・時間等によっては不法領得の意思が認められ、窃盗罪が成立する可能性がある。
Q2: コンビニで商品を食べてから代金を支払わずに出た場合、窃盗罪ですか。
商品を手に取った時点で窃盗の故意と不法領得の意思があった場合には窃盗罪が成立しうる。もっとも、レジに並ぶ前の段階で商品を手に取る行為は、通常は購入の意思に基づくものと推定されるため、窃盗の故意の認定は慎重に行う必要がある。代金を支払う意思がないのに商品を手に取ってレジを通過した場合(万引き)は、窃盗罪が成立する。なお、飲食店で代金を支払う意思なく注文した場合は、詐欺罪(246条1項)が問題となる。
Q3: 窃盗罪と横領罪はどう区別されますか。
窃盗罪は他人の占有する財物を奪取する犯罪であり、横領罪は自己の占有する他人の物を領得する犯罪である。区別の基準は、行為者が当該財物の占有を有していたか否かにある。行為者に占有がなければ窃盗罪、占有があれば横領罪が成立する。占有の有無の判断は、財物に対する事実上の支配と支配の意思を総合して行われる。上下主従関係にある場合(例えば、店主と店員の関係)は、原則として上位者(店主)に占有が帰属するため、下位者(店員)が財物を領得した場合は窃盗罪が成立する。
Q4: 電子マネーやポイントは窃盗罪の客体になりますか。
現行法上、電子マネーやポイントは有体物ではないため、窃盗罪の客体である「財物」には該当しないとするのが一般的理解である。もっとも、電子マネーが記録されたカード自体は財物に当たるため、カードを窃取した場合には窃盗罪が成立する。電子マネーの不正使用については、電子計算機使用詐欺罪(刑法246条の2)による処罰が問題となる。ポイントの不正取得についても同様であり、「財産上不法の利益を得た」と評価できる場合には同罪が成立しうる。
Q5: 自分が所有する物でも窃盗罪が成立することはありますか。
刑法242条は、「自己の財物であっても、他人が占有し、又は公務所の命令により他人が看守するものであるときは、この章の罪については、他人の財物とみなす」と規定している。したがって、自己所有の財物であっても、他人が適法に占有している場合には窃盗罪が成立しうる。例えば、質屋に預けた自己の物を無断で持ち出す行為は窃盗罪に当たる。
既存セクションの拡充についての補足
ポイント解説の補足: 使用窃盗の可罰性判断基準
使用窃盗が不可罰となるか窃盗罪が成立するかの判断は、以下の要素を総合して行われる。
判断要素 不可罰方向(使用窃盗) 窃盗罪成立方向 使用時間 短時間(数分程度) 長時間(数時間以上) 財物の性質 価値が低い物・消耗しない物 高価な物・消耗する物(自動車等) 返還意思 確定的な返還意思あり 返還意思不明確又はなし 権利者への影響 利用を実質的に妨げない 利用を相当程度排除する学説・議論の補足: 窃取行為の態様に関する近時の議論
窃盗罪の「窃取」とは、他人の占有する財物を占有者の意思に反して自己又は第三者の占有に移すことをいうが、キャッシュカードのすり替え(被害者のカードを取り上げ、偽カードを渡す行為)が窃取に当たるかが近時問題となっている。特殊詐欺において多用される手口であるが、被害者の同意を得てカードを受け取る形式をとる場合には、窃取ではなく詐欺罪における交付行為が問題となる。窃盗罪と詐欺罪の区別は、被害者の意思に基づく占有移転があったか否かによるが、欺罔を伴うすり替え行為の法的評価については見解が分かれている。
関連条文
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
― 刑法 第235条
この章の罪については、電気は、財物とみなす。
― 刑法 第245条
関連判例
- 詐欺罪の重要判例 - 財産犯における不法領得の意思の問題
- 事後強盗の判例 - 窃盗犯人の事後強盗への発展
- 横領と背任の区別に関する判例 - 窃盗罪と横領罪の区別
まとめ
窃盗罪に関する判例は、不法領得の意思の要否と内容、財物の概念、占有の有無という三つの論点を中心に豊富な法理を形成してきた。不法領得の意思は権利者排除意思と利用処分意思の二要素から構成され、毀棄隠匿目的の場合や一時使用の場合との区別基準として機能している。財物概念と占有概念については、社会の変化(情報化社会の進展等)に伴い、従来の法理の射程と限界が改めて問われている。