【判例】事後強盗罪の成立要件(刑法238条)
事後強盗罪(刑法238条)の成立要件に関する主要判例を解説。窃盗の機会、暴行・脅迫の相手方、身分犯としての性格について判例・学説を分析します。
この判例のポイント
事後強盗罪(刑法238条)は、窃盗犯人が財物の取返しを防ぎ、逮捕を免れ、または罪跡を隠滅するために暴行・脅迫を加えた場合に成立し、強盗として論じられる。判例は、暴行・脅迫が「窃盗の機会」に行われることを要求し、窃盗行為と暴行・脅迫の時間的場所的近接性を重視している。また、事後強盗罪の身分犯としての性格については、共犯との関係で重要な議論がある。
事案の概要
窃盗の機会と暴行の関連性(最決平14.2.14)
被告人は、商店で商品を万引きした後、店外に出て追跡してきた店員に対し暴行を加えた。万引き後に店外で暴行を加えた場合に、暴行が「窃盗の機会」に行われたといえるか、事後強盗罪が成立するかが争われた。
事後強盗と共犯(最決平15.11.18)
窃盗犯人である被告人Aが商品を万引きした後、追跡してきた店員に対して、窃盗には関与していない被告人Bと共同して暴行を加えた事案。窃盗の実行に関与していないBについて事後強盗罪の共同正犯が成立するかが問題となった。
事後強盗の未遂(最決昭41.4.5)
被告人は窃盗を行った後、逮捕を免れる目的で暴行を加えたが、暴行の程度が相手方の反抗を抑圧する程度に達しなかった事案。事後強盗罪の未遂が認められるかが争われた。
争点
- 「窃盗の機会」の意義と判断基準
- 事後強盗罪の暴行・脅迫の程度(反抗抑圧の要否)
- 事後強盗罪の身分犯性と共犯の成否
- 事後強盗の未遂の成否
判旨
窃盗の機会の判断
窃盗犯人が財物を取得した後、その犯行を目撃していた者に追跡され、これを逃れるために暴行を加えた場合、その暴行は窃盗の機会における暴行に当たる
― 最高裁判所第二小法廷 平成14年2月14日 平成13年(あ)第1408号
本決定は、窃盗後に追跡してきた者に対する暴行が窃盗の機会における暴行に当たるとした。窃盗行為と暴行との間に時間的場所的近接性が認められ、窃盗の現場ないしその延長線上で行われた暴行は「窃盗の機会」の要件を充たすとの判断である。
事後強盗と共犯
窃盗犯人でない者が、窃盗犯人と共謀の上、窃盗の機会に暴行又は脅迫を加えた場合には、当該非窃盗犯人についても事後強盗罪の共同正犯が成立する
― 最高裁判所第二小法廷 平成15年11月18日 平成14年(あ)第730号
本決定は、窃盗行為自体には関与していない者であっても、窃盗犯人と共謀の上で暴行・脅迫を加えた場合には、事後強盗罪の共同正犯が成立するとした。事後強盗罪の身分犯としての性格との関係で重要な判断である。
ポイント解説
事後強盗罪の趣旨と構造
事後強盗罪(刑法238条)は、窃盗犯人が一定の目的で暴行・脅迫を加えた場合に、強盗として論じる(強盗罪と同様に扱う)規定である。その趣旨は、窃盗後に暴行・脅迫を加える行為が強盗と実質的に同視しうる危険性を有する点にある。
事後強盗罪の成立要件は以下のとおりである。
- 窃盗犯人であること: 窃盗の実行に着手した者であることが前提となる。窃盗が既遂であるか未遂であるかは問わない
- 目的: 財物の取返しを防ぐこと、逮捕を免れること、または罪跡を隠滅すること
- 暴行・脅迫: 相手方の反抗を抑圧する程度の暴行・脅迫であること(強盗罪の暴行・脅迫と同程度)
- 窃盗の機会: 暴行・脅迫が窃盗の機会に行われること
「窃盗の機会」の判断基準
「窃盗の機会」は条文上の明文の要件ではないが、判例は事後強盗罪の成立にこの要件を課している。窃盗の機会とは、窃盗行為と暴行・脅迫との間に時間的場所的近接性があることをいう。
具体的には、以下の場合に「窃盗の機会」が認められる。
- 窃盗の現場で暴行・脅迫を加えた場合: 最も典型的な場合
- 窃盗の現場から逃走中に追跡者に対して暴行・脅迫を加えた場合: 追跡が途切れていない限り、窃盗の機会が継続している
- 窃盗の現場付近で発見された際に暴行・脅迫を加えた場合: 窃盗行為との時間的場所的近接性が認められれば、窃盗の機会に当たる
逆に、窃盗行為から相当の時間が経過した後に暴行・脅迫を加えた場合は、「窃盗の機会」が認められず、事後強盗罪は成立しない。この場合は窃盗罪と暴行罪(または脅迫罪)が別個に成立する。
暴行・脅迫の程度
事後強盗罪の暴行・脅迫は、強盗罪(刑法236条)の暴行・脅迫と同程度、すなわち相手方の反抗を抑圧する程度のものであることが必要である。単なる暴行・脅迫では足りず、反抗抑圧の程度に達しない暴行は事後強盗罪を構成しない。
事後強盗の未遂
事後強盗罪の未遂がいかなる場合に成立するかについては議論がある。
- 窃盗が未遂の場合: 窃盗が未遂にとどまった場合に暴行・脅迫を加えたときは、事後強盗罪の未遂が成立するとされる
- 暴行・脅迫が反抗抑圧に至らない場合: 暴行・脅迫が相手方の反抗を抑圧する程度に達しなかった場合については、事後強盗罪の未遂が成立するとする見解と、そもそも事後強盗罪の構成要件に該当しないとする見解がある
学説・議論
身分犯説と結合犯説
事後強盗罪の法的性格については、以下の対立がある。
- 身分犯説: 事後強盗罪は「窃盗犯人」という身分を有する者のみが主体となりうる身分犯であるとする。この立場からは、窃盗犯人でない者が事後強盗罪の共同正犯となりうるかについて、刑法65条(身分犯の共犯)の適用が問題となる
- 結合犯説: 事後強盗罪は窃盗と暴行・脅迫の結合犯であるとする。この立場からは、窃盗と暴行・脅迫の双方を実行してはじめて事後強盗罪が成立するのであり、窃盗の実行に関与していない者は事後強盗罪の正犯となりえない
判例(最決平15.11.18)は、窃盗犯人でない者にも事後強盗罪の共同正犯の成立を認めており、身分犯説に親和的な結論をとっている。もっとも、判例は事後強盗罪の法的性格について明示的に論じておらず、理論的な根拠は必ずしも明らかではない。
事後強盗罪の共犯をめぐる議論
事後強盗罪の共犯については、以下の問題が議論されている。
- 窃盗に関与せず暴行のみに共謀・加功した者の罪責: 身分犯説によれば刑法65条1項の適用により事後強盗罪の共同正犯が成立する。結合犯説によれば、暴行罪の限度で共同正犯が成立するにとどまる
- 窃盗に共謀したが暴行に関与しなかった者の罪責: 窃盗の共同正犯が成立するが、事後強盗の暴行に共謀・加功していなければ事後強盗罪は成立しない。窃盗犯人であるという身分のみでは事後強盗罪の責任を負わない
- 暴行の相手方: 事後強盗罪の暴行・脅迫の相手方は、窃盗の被害者に限られず、追跡してきた第三者(通行人、警備員等)に対するものでもよいとされている
事後強盗罪の処罰根拠
事後強盗罪がなぜ強盗罪と同様に処罰されるのかについて、以下の理解がある。
- 危険性同視説: 窃盗後に暴行・脅迫を加える行為は、暴行・脅迫によって財物を奪取する強盗と実質的に同程度の危険性を有するとする
- 全体的評価説: 窃盗行為と暴行・脅迫を全体として評価すれば、財物の奪取と暴行・脅迫が一体となった強盗と同視しうるとする
判例の射程
「窃盗の機会」の限界
「窃盗の機会」の要件は、事後強盗罪の適用範囲を限定する機能を持っている。窃盗行為から時間的に相当離れた後の暴行は「窃盗の機会」に当たらず、事後強盗罪は成立しない。もっとも、追跡が継続している限りは窃盗の機会が継続するとされており、追跡の途絶の有無が「窃盗の機会」の限界を画する重要な要素となっている。
共犯に関する判例の射程
平成15年決定は、窃盗犯人と共謀して暴行を加えた非窃盗犯人に事後強盗罪の共同正犯を認めたが、事前の共謀がない場合(例えば、偶然居合わせた者が暴行に加担した場合)にまで射程が及ぶかは明らかではない。少なくとも、暴行についての意思連絡(共謀)が必要であることは前提とされている。
反対意見・補足意見
平成15年決定には個別の反対意見は付されていない。もっとも、事後強盗罪の身分犯性をめぐっては下級審段階で判断が分かれた事案もあり、最高裁の判断が理論的にどの立場に立つものであるかについては、学説上の分析が続いている。
試験対策での位置づけ
事後強盗罪は、司法試験・予備試験の刑法科目において頻出する重要論点である。財産犯の中でも窃盗罪と強盗罪の接点に位置し、身分犯の共犯という刑法総論の問題とも交錯する点で、出題可能性が極めて高い。
短答式試験では、事後強盗罪の成立要件(窃盗犯人・目的・暴行脅迫・窃盗の機会)の正確な理解、強盗罪との比較、事後強盗致死傷罪(刑法240条)との関係が出題されている。特に、暴行・脅迫の程度が強盗罪と同程度(反抗抑圧の程度)であることの理解が問われる。
論文式試験では、令和元年司法試験刑法で事後強盗罪の法的性質が正面から出題された。採点実感では、事後強盗罪が身分犯か結合犯かという法的性格の議論を踏まえた上で、窃盗犯人でない者の共犯関係を論じることが求められた。平成28年予備試験でも事後強盗罪の成否が問われている。
出題パターンとしては、(1)「窃盗の機会」の認定が問題となる事案、(2)非窃盗犯人の事後強盗罪の共犯の成否、(3)事後強盗致死傷罪の成否の3類型が典型的である。特に(2)の共犯関係は、事後強盗罪の法的性格(身分犯説・結合犯説)という理論的問題と直結するため、答案構成力が問われる。
答案での使い方
基本的な論証パターン
パターン1: 事後強盗罪の基本的な成否を論じる場合
「本件では、甲が万引き後に追跡してきた店員に暴行を加えた行為について、事後強盗罪(刑法238条)の成否が問題となる。
事後強盗罪が成立するためには、(1)窃盗犯人であること、(2)財物の取返しを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅する目的、(3)暴行又は脅迫、(4)窃盗の機会に行われたことが必要である。
本件では、(1)甲は商品を万引きしており窃盗犯人に当たる。(2)甲は逮捕を免れる目的で暴行を加えている。(3)暴行は店員の反抗を抑圧する程度のものであった。(4)万引き直後に追跡してきた店員に対する暴行であり、窃盗行為と暴行との間に時間的場所的近接性が認められるから、窃盗の機会に行われたものといえる。よって、事後強盗罪が成立する。」
パターン2: 非窃盗犯人の共犯を論じる場合
「本件では、乙は甲の窃盗行為には関与しておらず、暴行にのみ共謀・加功している。乙に事後強盗罪の共同正犯が成立するかが問題となる。
この点、事後強盗罪の法的性格については、窃盗犯人という身分を有する者のみが主体となりうる身分犯であるとする見解と、窃盗と暴行・脅迫の結合犯であるとする見解が対立する。
身分犯説によれば、事後強盗罪は真正身分犯であり、刑法65条1項の適用により、非身分者である乙にも共同正犯が成立する。判例も、窃盗犯人でない者が窃盗犯人と共謀の上暴行を加えた場合に事後強盗罪の共同正犯の成立を認めている(最決平15.11.18)。
結合犯説によれば、窃盗と暴行の双方の実行が必要であり、窃盗に関与していない乙は事後強盗罪の正犯とはなりえず、暴行罪の共同正犯が成立するにとどまる。承継的共同正犯の理論によっても、先行する窃盗行為についての因果的寄与がない以上、事後強盗全体の共同正犯は認められないとする。」
答案作成上の注意点
- 身分犯説と結合犯説の対立を明示すること。どちらの立場をとるかを明確にした上で、理由を付す必要がある
- 「窃盗の機会」の認定は具体的事実に基づいて行うこと。時間的場所的近接性、追跡の継続性等の事実を摘示する
- 事後強盗致死傷罪が問題となる場合は、暴行と死傷結果との因果関係を別途検討すること
- 事後強盗の未遂が問題となる場合は、窃盗が未遂の場合か、暴行・脅迫が反抗抑圧に至らない場合かを区別すること
重要概念の整理
事後強盗罪の成立要件の一覧
要件 内容 判断基準 主体 窃盗犯人 窃盗の実行に着手した者(既遂・未遂を問わない) 目的 取返防止・逮捕免脱・罪跡隠滅 三つの目的のいずれか一つで足りる 行為 暴行又は脅迫 相手方の反抗を抑圧する程度(強盗罪と同程度) 時間的要件 窃盗の機会 窃盗行為と暴行・脅迫の時間的場所的近接性身分犯説と結合犯説の比較
項目 身分犯説 結合犯説 事後強盗罪の性格 窃盗犯人を身分とする身分犯 窃盗と暴行の結合犯 非窃盗犯人の共犯 65条1項により共同正犯成立 暴行罪の限度で共同正犯 実行行為 暴行・脅迫 窃盗+暴行・脅迫の全体 判例との関係 判例に親和的(最決平15.11.18) 判例と不整合 長所 共犯処理が容易 事後強盗罪の構造に忠実 短所 身分犯の認定に理論的疑問 共犯処理が困難事後強盗罪と関連犯罪の比較
犯罪類型 行為 法定刑 強盗罪(236条1項) 暴行・脅迫により財物を強取 5年以上の有期懲役 事後強盗罪(238条) 窃盗後に暴行・脅迫(強盗として論ずる) 5年以上の有期懲役 昏酔強盗罪(239条) 昏酔させて財物を奪取 5年以上の有期懲役 強盗致傷罪(240条前段) 強盗が人を負傷させた 無期又は6年以上の懲役 強盗致死罪(240条後段) 強盗が人を死亡させた 死刑又は無期懲役発展的考察
事後強盗致死傷罪の問題
事後強盗罪が成立する場合に、暴行により相手方が死傷したときは、事後強盗致死傷罪(刑法240条)が成立する。事後強盗罪は「強盗として論ずる」とされているため、強盗致死傷罪の規定が適用される。事後強盗致傷罪の法定刑は無期又は6年以上の懲役、事後強盗致死罪の法定刑は死刑又は無期懲役であり、万引きから発展した事件であっても極めて重い処罰が科される可能性がある。
承継的共同正犯との関係
事後強盗罪の共犯関係は、承継的共同正犯の問題とも関連する。承継的共同正犯とは、先行者が犯罪の一部を実行した後に、後行者がこれに加担した場合の処理をいう。事後強盗罪において、窃盗行為の後に暴行行為にのみ加担した者を、窃盗部分を含む事後強盗罪全体の共同正犯とするかという問題は、承継的共同正犯の一般理論との整合性が問われる。判例は、強盗罪の承継的共同正犯について、先行者の暴行・脅迫の効果を利用した場合に全体の共同正犯を認める傾向にあるが、事後強盗罪における承継的共同正犯の成否については、なお判例の蓄積が十分とはいえない。
窃盗未遂後の事後強盗
窃盗が未遂にとどまった場合(例えば、商品を手にとったが店外に出る前に発見された場合)に暴行・脅迫を加えたときの処理は、事後強盗罪の既遂・未遂の判断として重要である。判例は、窃盗が未遂の場合には事後強盗罪の未遂が成立するとしている。この場合、事後強盗罪の未遂として強盗未遂罪の法定刑が適用される。窃盗が既遂の場合に暴行・脅迫が反抗抑圧に至らなかったときの処理については見解が分かれている。
居直り強盗との関係
窃盗犯人が窃盗行為の途中で発見され、その場で暴行・脅迫を加えて財物を奪取した場合は、事後強盗罪ではなく居直り強盗として通常の強盗罪(236条)が成立する。事後強盗罪と居直り強盗の区別は、暴行・脅迫の時点で財物の占有が既に行為者に移転しているか否かによる。占有の移転前であれば居直り強盗(236条)、移転後であれば事後強盗(238条)となる。
よくある質問
Q1: 万引き後に逃走して暴行を加えた場合、事後強盗罪はどこまで成立しますか。
万引き後に追跡してきた者に暴行を加えた場合、窃盗行為と暴行との間に時間的場所的近接性が認められる限り、事後強盗罪が成立する。判例は、追跡が継続している限り「窃盗の機会」が続いているとしている。例えば、万引き後に数百メートル逃走した地点で追跡者に暴行を加えた場合でも、追跡が途切れていなければ事後強盗罪が成立する。他方、一旦追跡を逃れて自宅に戻った後に、翌日以降に目撃者に暴行を加えた場合には、窃盗の機会は終了しており、事後強盗罪は成立しない。
Q2: 事後強盗罪の暴行・脅迫の相手は被害者に限られますか。
限られない。事後強盗罪の暴行・脅迫の相手方は、窃盗の被害者に限らず、事後強盗の目的を遂げるのに障害となりうる者であれば誰でも該当する。追跡してきた通行人、店の警備員、たまたま現場に居合わせた第三者に対する暴行・脅迫であっても、事後強盗罪は成立する。
Q3: 事後強盗罪が身分犯だとすると、非窃盗犯人には常に共同正犯が成立するのですか。
身分犯説を採った場合でも、非窃盗犯人に事後強盗罪の共同正犯が成立するためには、窃盗犯人との間に暴行・脅迫についての共謀が存在し、かつ非窃盗犯人が暴行・脅迫に共謀・加功していることが必要である。身分犯説は、刑法65条1項の適用により非身分者にも共犯の成立を認めるものであるが、共犯としての一般的要件(共謀・加功)は別途充たされなければならない。
Q4: 事後強盗罪と強盗罪の法定刑に違いはありますか。
事後強盗罪は「強盗として論ずる」と規定されているため、法定刑は強盗罪と同一(5年以上の有期懲役)である。事後強盗致死傷罪の場合も強盗致死傷罪の法定刑が適用され、致傷の場合は無期又は6年以上の懲役、致死の場合は死刑又は無期懲役となる。万引きのような軽微な窃盗であっても、事後の暴行により人を死傷させた場合には極めて重い刑が科される点に注意が必要である。
Q5: 窃盗犯人が暴行・脅迫を加えたが、反抗抑圧の程度に達しなかった場合はどうなりますか。
この場合の処理については見解が分かれている。事後強盗罪の暴行・脅迫は反抗抑圧の程度に達することが必要であるとの前提に立てば、反抗抑圧に至らない暴行は事後強盗罪の構成要件を充たさない。この場合、窃盗罪と暴行罪が別個に成立するとする見解と、事後強盗罪の未遂が成立するとする見解がある。後者の見解は、暴行・脅迫が反抗抑圧に向けられたものであれば、その程度が不十分であっても未遂として評価しうるとする。
既存セクションの拡充についての補足
ポイント解説の補足: 「窃盗の機会」の判断要素の詳細
「窃盗の機会」の認定に際して考慮される要素を整理すると以下のとおりである。
判断要素 肯定方向 否定方向 時間的近接性 窃盗直後 窃盗から相当時間経過 場所的近接性 窃盗の現場又はその付近 窃盗の現場から遠く離れた場所 追跡の継続性 追跡が途切れていない 一旦追跡を逃れた後 被害者の認識 被害者が窃盗を現認・追跡中 被害者が窃盗を認識していない 犯行の発覚状況 現行犯的状況が継続 犯行が一旦終了した状況学説・議論の補足: 事後強盗罪の真正身分犯性と不真正身分犯性
事後強盗罪を身分犯と解する場合、それが真正身分犯(身分がなければ犯罪が成立しない)か不真正身分犯(身分がなくても犯罪は成立するが、身分によって刑が加重される)かという問題がある。真正身分犯説は刑法65条1項の適用により非身分者にも共犯が成立するとし、不真正身分犯説は65条2項の適用により非身分者には暴行罪の刑で処断するとする。判例は非窃盗犯人に事後強盗罪の共同正犯を認めており、真正身分犯説に近い立場と解されるが、理論的根拠については学説上の検討が続いている。
関連条文
窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる。
― 刑法 第238条
暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。
― 刑法 第236条第1項
関連判例
まとめ
事後強盗罪は、窃盗犯人が一定の目的で暴行・脅迫を加えた場合に強盗として論じる規定であり、判例は「窃盗の機会」の要件を通じてその適用範囲を限定している。事後強盗罪の法的性格(身分犯か結合犯か)は、特に共犯の成否との関係で重要な理論的問題であり、判例は窃盗犯人でない者にも共同正犯の成立を認める立場をとっている。事後強盗罪は窃盗から強盗への発展形態として財産犯体系の中で独自の位置を占めており、その要件論の精緻化は引き続き重要な課題である。