【判例】共同不法行為(民法719条)
共同不法行為(民法719条)の要件に関する重要判例を解説。共同性の意義、関連共同性の判断基準、因果関係の推定規定(719条1項後段)の解釈をめぐる学説対立を分析します。
この判例のポイント
民法719条1項前段の共同不法行為における「共同」の意義について、主観的共同(共謀)を必要とせず、客観的な関連共同性で足りるとした判例。さらに、719条1項後段の共同行為者中の誰が損害を加えたか不明な場合の因果関係の推定規定の解釈についても重要な判断を示した。
事案の概要
複数の加害者が、それぞれの行為により被害者に損害を生じさせた事案において、各加害者の行為と損害との間の因果関係、およびそれぞれの加害者が負担すべき損害賠償の範囲が争われた。
被害者は、複数の加害者に対し、民法719条1項に基づく共同不法行為として連帯して損害全額の賠償を求めた。これに対し、各加害者は、自己の行為と損害との間には個別の因果関係しかなく、損害の全額について連帯責任を負う根拠がないと争った。
争点
- 民法719条1項前段の「共同」の意義(主観的共同か客観的関連共同か)
- 719条1項後段の因果関係の推定の意義と適用範囲
- 共同不法行為者間の負担部分と求償関係
判旨
最高裁は、共同不法行為の「共同」の要件について以下のように判示した。
民法七一九条にいう共同不法行為が成立するには、共同行為者各自の行為が関連共同して違法に損害を加えたものであれば足り、共同行為者間に共謀又は共同の認識のあることを必要としない
― 最高裁判所第三小法廷 昭和43年4月23日 昭和41年(オ)第1405号
すなわち、共同不法行為の成立には主観的な共同(共謀・意思の連絡)は不要であり、各加害者の行為が客観的に関連共同していることで足りるとされた。
ポイント解説
共同不法行為の制度趣旨
民法719条は、複数の者が共同して不法行為を行った場合の規律を定める。その趣旨は、被害者が個々の加害者の行為と損害との間の因果関係を個別に証明することの困難を緩和し、被害者の救済を図ることにある。
共同不法行為が成立すると、各加害者は連帯して損害賠償責任を負う(不真正連帯債務)。これにより、被害者はいずれの加害者に対しても損害の全額を請求することができる。
719条1項前段の「共同」の意義
719条1項前段は「数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う」と規定する。この「共同」の意義について、以下の見解が対立してきた。
- 主観的共同説: 共同不法行為の成立には、加害者間に共謀または意思の連絡が必要であるとする。刑法の共同正犯と類似の構造を想定する
- 客観的関連共同説(判例・通説): 加害者間の主観的な共同は不要であり、各行為が客観的に関連共同していることで足りる。「関連共同性」とは、各行為が社会通念上一体的なものと評価できることをいう
判例は客観的関連共同説を採用しており、偶然に同時に発生した複数の行為が競合して損害を生じさせた場合にも共同不法行為が成立しうるとしている。
関連共同性の判断基準
客観的関連共同性の有無は、以下のような事情を総合考慮して判断される。
- 行為の時間的・場所的近接性: 各行為が同時期に同じ場所で行われたか
- 行為の目的・態様の類似性: 各行為が類似した目的・態様で行われたか
- 損害発生への寄与の一体性: 各行為が相まって一体として損害を発生させたか
- 行為者間の社会的関係: 行為者間に何らかの社会的関係(雇用関係、取引関係等)があったか
719条1項後段の因果関係の推定
719条1項後段は「共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする」と規定する。この規定の法的性質については、以下の議論がある。
- 因果関係の推定規定説(通説): 複数の行為者がいずれも損害を生じさせうる行為をしたが、具体的にいずれの行為が損害を生じさせたかが不明な場合に、各行為者に因果関係を推定して連帯責任を課す規定であるとする
- 擬制規定説: 因果関係を推定するのではなく、政策的に因果関係を擬制する規定であるとする。この場合、反証による覆滅は認められない
- 特殊な共同不法行為規定説: 1項前段の共同不法行為とは別の、独立した不法行為類型を定めたものとする
判例は基本的に因果関係の推定規定説に立つと理解されており、推定を受けた加害者は、自己の行為と損害との間に因果関係がないことを立証することにより責任を免れうるとされる。
719条各項の構造比較
規定 適用場面 要件 効果 1項前段 数人が共同の不法行為によって損害を加えた場合 各行為者の行為の関連共同性 連帯責任(不真正連帯債務) 1項後段 共同行為者の誰が損害を加えたか不明な場合 各行為者の行為がいずれも損害を生じさせうること、加害者不明 因果関係の推定、連帯責任 2項 教唆・幇助がある場合 教唆又は幇助の事実 共同行為者とみなす1項前段と後段の関係について、前段は各行為者の行為と損害との間にそれぞれ因果関係がある場合に適用され、後段はいずれの行為が損害を生じさせたか不明な場合に適用される。後段は被害者の因果関係の立証困難を緩和するための特別規定と位置づけられる。
学説・議論
強い関連共同性と弱い関連共同性
学説上、関連共同性の程度に応じて共同不法行為の効果を区別すべきとする見解がある。
- 強い関連共同性: 加害者間に共謀や意思の連絡がある場合、あるいは客観的に一体不可分の行為として評価される場合。この場合には、各加害者は損害全額について連帯責任を負う(719条1項前段の典型)
- 弱い関連共同性: 各行為の間に密接な関連はないが、社会通念上の一体性が認められる場合。この場合に各加害者が損害全額について連帯責任を負うべきかについては議論がある
弱い関連共同性の場合に連帯責任を認めると、自己の行為による寄与度が低い加害者にも損害全額の賠償責任が課されることになり、公平性の観点から問題がある。この問題に対しては、加害者間の内部的な求償により最終的な負担の調整を図るという構成が一般的であるが、十分な調整が図られない場合もある。
公害事件における共同不法行為
共同不法行為の法理は、公害事件において特に重要な機能を果たしてきた。
四日市ぜんそく訴訟(津地四日市支判昭47.7.24)では、複数の工場から排出された大気汚染物質が共同して健康被害を引き起こした場合に、各工場の運営者について共同不法行為の成立が認められた。この事案では、各工場の排出量と被害者の健康被害との間の個別の因果関係の立証が困難であったが、共同不法行為の法理により被害者の救済が図られた。
減責の可否
共同不法行為者の1人が自己の行為による寄与度が低いことを理由に、損害賠償額の減額(減責)を主張できるかについて、判例は原則として否定的な立場をとっている。共同不法行為者は被害者に対して損害全額について連帯責任を負い、寄与度に応じた減責は認められない。加害者間の負担の調整は、求償権の行使によって行われるべきとされる。
ただし、学説には、客観的関連共同性が弱い場合には、各加害者の寄与度に応じた分割責任(按分責任)を認めるべきとする見解もある。
教唆・幇助の責任(719条2項)
民法719条2項は、「行為者を教唆した者及び幇助した者は、共同行為者とみなす」と規定する。この規定により、直接の加害行為を行わなかった者であっても、教唆・幇助があれば共同不法行為者として連帯責任を負う。
教唆・幇助の要件については、刑法における教唆・幇助の概念が参照されるが、民法上は刑法ほど厳格な要件は要求されないとするのが一般的な理解である。
共同不法行為者間の求償関係
共同不法行為者は被害者に対して不真正連帯債務を負い、各加害者間には内部的な負担割合が存在する。一人の加害者が自己の負担部分を超えて被害者に損害を賠償した場合、他の加害者に対して求償権を行使できる。
負担割合は、各加害者の過失の程度(帰責性の程度)及び損害への寄与度を総合考慮して決定される。共謀に基づく共同不法行為の場合には均等の負担割合が原則となるが、客観的関連共同性に基づく共同不法行為の場合には各加害者の帰責性や寄与度に応じた不均等な負担割合が認められることが多い。
判例の射程
交通事故と共同不法行為
複数の車両が関与する交通事故において、共同不法行為の成否が問題となることが多い。判例は、複数車両の行為が競合して損害を発生させた場合には共同不法行為が成立するとしている。
医療過誤と共同不法行為
複数の医療機関が関与する医療過誤において、各医療機関の過失と患者の損害との間の因果関係が問題となる場合に、共同不法行為の法理が適用されることがある。
製造物責任法との関係
製造物の欠陥により損害が生じた場合に、製造業者と部品製造業者の間に共同不法行為が成立するかという問題がある。製造物責任法(PL法)は無過失責任を定めているが、複数の製造業者間の責任分担については共同不法行為の法理も参照される。
反対意見・補足意見
共同不法行為に関する判例は小法廷判決が多く、個別の反対意見が付された事例は限定的である。もっとも、関連共同性の判断基準の明確化については裁判官の間でも見解に差があり、特に公害訴訟における共同不法行為の認定範囲については慎重な意見もあったとされる。
試験対策での位置づけ
共同不法行為(民法719条)は、司法試験・予備試験の民法(不法行為法)において頻出の論点である。複数の加害者が関与する事案は実務上極めて多く、交通事故、公害、医療過誤等の多様な場面で出題される。
短答式試験では、719条1項前段の「共同」の意義(主観的共同説と客観的関連共同説の対立)、1項後段の因果関係推定規定の法的性質、2項の教唆・幇助の責任、共同不法行為者間の求償関係、連帯責任の法的性質(不真正連帯債務)などが問われる。特に、1項前段と後段の適用場面の区別は正確に理解しておく必要がある。
論文式試験では、複数の加害者が関与する事案において、各加害者の責任の根拠として709条の一般不法行為と719条の共同不法行為のいずれで構成するかの判断が求められる。関連共同性の認定、因果関係の立証の程度、減責の可否などが主要な論点となる。使用者責任(715条)や709条と併せて出題されることが多い。
答案での使い方
基本的な論証パターン
共同不法行為を論じる場合の基本形は以下のとおりである。
「XはA及びBに対し、民法719条1項前段に基づき、共同不法行為による損害賠償を請求することが考えられる。」
「同条が適用されるためには、A及びBの各行為が関連共同して違法にXに損害を加えたことが必要である。719条にいう『共同の不法行為』が成立するには、共同行為者各自の行為が関連共同して違法に損害を加えたものであれば足り、共同行為者間に共謀又は共同の認識のあることを必要としない(最判昭43.4.23)。」
「本件では、Aの行為は(具体的事情)であり、Bの行為は(具体的事情)である。両行為は時間的・場所的に近接し(又は目的・態様が類似し)、相まって一体としてXに損害を発生させたものであるから、関連共同性が認められる。」
719条1項後段の論証
加害者不明の場合は以下のように論じる。「本件では、A及びBのいずれの行為がXの損害を生じさせたかが不明である。この点、民法719条1項後段は、共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときにも連帯責任を認めており、これは因果関係の推定規定と解される。したがって、A及びBは、自己の行為と損害との間に因果関係がないことを立証しない限り、連帯して損害賠償責任を負う。」
注意点(よくある間違い)
- 1項前段と後段の混同: 前段は各行為と損害の因果関係が認められる場合、後段は加害者不明の場合に適用される。適用場面を正確に区別すること
- 個々の行為者の不法行為の成立の検討: 通説によれば各行為者に709条の一般不法行為の要件が充足される必要がある。共同不法行為だけで独立に成立するわけではない
- 連帯責任の性質の誤り: 共同不法行為者の連帯責任は不真正連帯債務であり、連帯債務の規定(436条以下)がそのまま適用されるわけではない。一人の債務者に生じた事由が他の債務者に影響しないのが原則である
- 減責を安易に認めること: 判例は共同不法行為者の寄与度に応じた減責を原則として認めていない。各加害者は損害全額について連帯責任を負い、内部的な調整は求償によるべきとされる
重要概念の整理
関連共同性の強弱と効果の比較
関連共同性の程度 具体例 因果関係の立証 減責の可否 学説上の取扱い 強い関連共同性(共謀あり) 複数人による計画的な加害行為 各行為と損害全体の因果関係は推定 否定 全額連帯責任に異論なし 強い関連共同性(客観的一体性) 交通事故における衝突車両の運転者 各行為と損害全体の因果関係は認定可能 否定(判例) 全額連帯責任が原則 弱い関連共同性 複数工場の排出物の競合 各行為と損害全体の因果関係の立証が困難 有力説は肯定 寄与度に応じた分割責任を認めるべきとの見解あり共同不法行為と競合的不法行為の区別
複数の加害行為が存在する場合でも、各行為が独立して損害を生じさせた場合には、719条の共同不法行為ではなく競合的不法行為として処理される。この場合、各加害者はそれぞれ自己の行為と因果関係のある損害についてのみ賠償責任を負い、連帯責任は生じない。
類型 各行為の関係 因果関係 賠償責任 共同不法行為(719条1項前段) 関連共同性あり 各行為と損害全体 全額連帯(不真正連帯債務) 加害者不明の共同不法行為(719条1項後段) 損害惹起者不明 推定 全額連帯(推定を覆さない限り) 競合的不法行為 各行為が独立 各行為と各損害の個別的因果関係 各自の寄与に応じた分割責任発展的考察
公害訴訟における共同不法行為法理の発展
共同不法行為法理は、公害訴訟において被害者救済の重要な法的根拠となってきた。四日市ぜんそく訴訟をはじめ、水俣病訴訟、イタイイタイ病訴訟等において、複数の加害企業の行為が競合して被害を生じさせた事案で、共同不法行為の成立が認められてきた。
これらの事案では、各企業の排出物と被害者の健康被害との間の個別の因果関係の立証が極めて困難であるが、共同不法行為法理により被害者の立証負担が軽減された。もっとも、汚染物質の種類が異なる場合や、時間的・場所的に離れた排出行為の場合に関連共同性が認められるかについては、事案ごとの慎重な検討が必要とされている。
719条1項後段の現代的意義
719条1項後段の因果関係の推定規定は、択一的競合(複数の行為のうちいずれか一つが損害を生じさせたが、具体的にどの行為であるかが不明な場合)に適用される規定として理解されている。この規定は、現代においては製造物責任の場面(複数の製造者の製品のうちいずれが被害を生じさせたか不明な場合)や環境汚染の場面でも重要な意義を有する。
米国法における市場占有率責任(market share liability)の議論との比較も注目される。日本法では719条1項後段の因果関係推定規定があるため、市場占有率責任の法理を別途導入する必要性は相対的に低いとされるが、立証困難の救済方法として参考になる議論である。
共同不法行為と過失相殺
共同不法行為者の一部についてのみ被害者に過失がある場合の過失相殺の処理については議論がある。判例は、被害者の過失は共同不法行為者全員との関係で統一的に評価すべきであり、加害者ごとに異なる過失相殺率を適用することは原則として認められないとしている(最判平13.3.13)。
よくある質問
Q1: 共同不法行為者の連帯責任は「連帯債務」と同じなのか
共同不法行為者の責任は不真正連帯債務と解されている。通常の連帯債務(436条以下)とは異なり、一人の債務者に生じた事由は原則として他の債務者に影響しない(絶対的効力事由が限定される)。もっとも、弁済・相殺による債務の消滅は全債務者に効力が及ぶ。2017年改正後の連帯債務の規定では絶対的効力事由が縮小されたため、連帯債務と不真正連帯債務の差異は小さくなっている。
Q2: 共同不法行為の成立に各行為者の709条の不法行為の成立は必要か
通説は、各行為者に709条の一般不法行為の要件が充足される必要があるとする。すなわち、各行為者に故意又は過失があり、その行為が権利又は法律上保護される利益を侵害するものであることが必要である。ただし、因果関係については719条による修正(連帯責任、因果関係の推定)が及ぶ。
Q3: 寄与度に応じた減責は認められるのか
判例は原則として減責を認めていない。共同不法行為者は被害者に対して損害全額について連帯責任を負い、寄与度に応じた負担の調整は加害者間の求償によるべきとされる。ただし、学説には弱い関連共同性の場合に寄与度に応じた分割責任を認めるべきとする見解もある。
Q4: 719条1項後段はどのような場合に適用されるのか
1項後段は、複数の者がいずれも損害を生じさせうる行為をしたが、具体的にいずれの行為が損害を生じさせたかが不明な場合(択一的競合)に適用される。典型的な例として、複数の猟師が同時に発砲し、被害者に弾が命中したが、どちらの弾が命中したか不明な場合が挙げられる。推定を受けた者は、自己の行為と損害との間に因果関係がないことを立証して責任を免れることができる。
Q5: 教唆・幇助(719条2項)の要件はどの程度厳格に解されるのか
民法上の教唆・幇助の要件は、刑法における教唆・幇助よりも緩やかに解されている。教唆とは他人を唆して不法行為を実行させることをいい、幇助とは他人の不法行為を容易にすることをいう。民法上は、教唆者・幇助者に対しても共同不法行為者として全額の連帯責任が課されるため、行為態様に比して重い責任を負う場合がある。この点について、教唆・幇助の場合には寄与度に応じた減責を認めるべきとの見解もある。
関連条文
数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。
― 民法 第719条第1項
行為者を教唆した者及び幇助した者は、共同行為者とみなす。
― 民法 第719条第2項
関連判例
- 不法行為の一般的要件に関する判例 - 709条の不法行為の一般的要件
- 使用者責任の判例(最判昭40.11.30等) - 715条の使用者責任
- 民法上の因果関係に関する判例 - 因果関係の判断と立証
まとめ
共同不法行為に関する判例群は、客観的関連共同性で足りるとする共同性の要件、719条1項後段の因果関係の推定規定としての解釈、減責の否定と求償権による内部的調整という基本的な法理を確立した。これらの法理は被害者救済の観点から重要な機能を果たしてきたが、弱い関連共同性の場合の取扱いや寄与度に応じた減責の可否については学説上の対立が続いている。公害訴訟・交通事故・医療過誤など多様な場面で適用される共同不法行為の法理は、複数加害者による損害発生事案の処理において今後もその重要性を維持し続けるであろう。