【判例】愛媛玉串料事件(最大判平9.4.2)
愛媛玉串料事件を詳しく解説。県が靖国神社等に玉串料を公金から支出した行為の政教分離違反について、最高裁大法廷が目的効果基準を適用して違憲と判断した法理を分析します。
この判例のポイント
愛媛県知事が靖国神社の例大祭に際し玉串料として、また護国神社の慰霊大祭に際し供物料として公金を支出した行為は、憲法20条3項が禁止する宗教的活動に当たり、また憲法89条に違反するとした判決。津地鎮祭事件で確立された目的効果基準を適用して初めて違憲判断を導いた判例であり、政教分離原則の実効性を示した最重要判例のひとつである。
事案の概要
愛媛県は、毎年、靖国神社の春季例大祭および秋季例大祭に際して玉串料(各5,000円)を、護国神社の慰霊大祭に際して供物料(各7,000〜8,000円)を、知事の交際費等から公金で支出していた。これらの支出は、1981年から1986年にかけて継続的に行われていた。
愛媛県の住民である原告らは、この公金支出が憲法20条3項(国及びその機関の宗教的活動の禁止)および憲法89条(公の財産の宗教上の組織への支出禁止)に違反するとして、地方自治法242条の2に基づく住民訴訟を提起し、知事個人に対する損害賠償請求を行った。
第一審(松山地裁)は原告の請求を棄却したが、控訴審(高松高裁)は公金支出が違憲であるとして、知事に対する損害賠償を命じた。愛媛県知事が上告した。
争点
- 県が靖国神社・護国神社に玉串料・供物料として公金を支出する行為は、憲法20条3項が禁止する「宗教的活動」に当たるか
- 同支出は、憲法89条に違反するか
- 目的効果基準の適用において、いかなる場合に違憲となるか
判旨
目的効果基準の適用
最高裁は、津地鎮祭事件で確立された目的効果基準を本件にも適用した。
県が特定の宗教団体の挙行する重要な宗教上の祭祀にかかわり合いを持つたということが明らかである。そして、一般人がこのような行為をどう評価しているかも、右行為についての目的についての判断や右行為の宗教的効果の有無の認定において重要な要素となるものと考えられる
― 最高裁判所大法廷 平成9年4月2日 平成4年(行ツ)第156号
支出の宗教的意義
玉串料及び供物料を奉納することは、建物の建設に伴い土地の平安堅固等を祈願するために行われる儀式における起工式の場合とは異なり、時によりそれが民俗的な行事にとどまるということのできる場合があるとしても、一般に、神社自体がその境内において挙行する恒例の重要な祭祀に際して右のような玉串料等を奉納することは、建築主が主催して建築現場において土地の平安堅固等を祈願するために行う儀式である起工式(地鎮祭)の場合とは異なり、たとえそれが戦没者の慰霊及びその遺族の慰謝ということを主たる目的としてされたものであるとしても、社会的儀礼にすぎないものとは言い難い
― 最高裁判所大法廷 平成9年4月2日 平成4年(行ツ)第156号
最高裁は、靖国神社や護国神社の祭祀に際して玉串料・供物料を奉納する行為は、津地鎮祭事件における地鎮祭とは質的に異なるとした。地鎮祭は建築儀式として社会的慣習化している面があるのに対し、靖国神社・護国神社の例大祭は宗教団体が主催する重要な宗教上の祭祀であり、これに公金を支出することは社会的儀礼にすぎないとはいえないと判断した。
違憲判断
以上の事情を総合的に考慮して判断すれば、県が本件玉串料等を靖国神社又は護国神社に前記のとおり奉納したことは、その目的が宗教的意義を持つことを免れず、その効果が特定の宗教に対する援助、助長、促進になると認めるべきであり、これによつてもたらされる県と靖国神社等とのかかわり合いが我が国の社会的・文化的諸条件に照らし相当とされる限度を超えるものであつて、憲法20条3項の禁止する宗教的活動に当たると解するのが相当である
― 最高裁判所大法廷 平成9年4月2日 平成4年(行ツ)第156号
最高裁は、目的効果基準を適用し、目的が宗教的意義を持ち、効果が特定の宗教に対する援助・助長・促進になるとして、違憲と判断した。あわせて、憲法89条にも違反するとした。
ポイント解説
津地鎮祭事件との対比
本判決は、津地鎮祭事件と同じ目的効果基準を用いながら、結論を異にした。両判決の比較は、目的効果基準の適用の具体的なあり方を理解するうえで重要である。
| 津地鎮祭事件(合憲) | 愛媛玉串料事件(違憲) | |
|---|---|---|
| 行為の性質 | 建築工事の起工式(地鎮祭) | 靖国神社等の例大祭への玉串料奉納 |
| 主催者 | 建築主(市) | 宗教団体(神社) |
| 場所 | 建築現場 | 神社の境内 |
| 世俗性 | 社会的慣習として世俗化 | 宗教上の祭祀であり世俗的とはいえない |
| 金額 | 7,663円(一回限り) | 年間数万円(継続的) |
| 目的 | 世俗的(工事の安全祈願) | 宗教的意義を持つ |
| 効果 | 特定宗教の援助にならない | 特定宗教の援助・助長・促進になる |
目的効果基準の限界と精緻化の必要性
本判決は、目的効果基準の適用により違憲判断を導いたが、津地鎮祭事件との結論の相違は基準自体の曖昧さを改めて浮き彫りにした。
同じ基準を用いながら、地鎮祭は合憲とされ玉串料奉納は違憲とされたことは、基準の客観性に対する疑問を生じさせる。目的の「宗教的意義」や効果の「援助・助長・促進」の有無は、結局のところ個別具体的な事情の評価に依存しており、予測可能性に乏しいとの批判がある。
支出の継続性と金額の評価
本判決においては、玉串料等の支出が1981年から1986年にかけて継続的に行われたことが重視された。一回的・偶発的な支出ではなく、恒例的・継続的な公金支出であったことは、国と宗教団体との制度的なかかわり合いを認定する重要な事情である。金額自体は年間数万円と比較的少額であったが、金額の多寡ではなく支出の趣旨・態様が問題とされた点に注意が必要である。
靖国神社の特殊性
本判決は、靖国神社が戦没者の慰霊と密接に関連する宗教施設であるという特殊性を考慮している。靖国神社への公金支出は、単なる宗教団体への財政的支援にとどまらず、戦没者の追悼のあり方という政治的・歴史的に敏感な問題と結びついている。
この点は、首相や閣僚による靖国神社参拝の問題とも関連し、国家と靖国神社の関係をめぐるより広い議論の文脈に位置づけられる。
学説・議論
目的効果基準の妥当性をめぐる議論
本判決を契機として、目的効果基準の妥当性が改めて議論されている。
- 基準の維持を支持する立場: 目的効果基準は、国家と宗教の関わり合いを柔軟に判断するための有用な枠組みであり、本判決は基準の適切な適用例であるとする。地鎮祭と玉串料奉納の結論の相違は、事案の相違を反映したものであり、基準の不明確さの表れではないとする
- 基準の厳格化を求める立場: 目的効果基準は緩やかに過ぎ、政教分離の要請を十分に満たさないとの批判がある。特に、津地鎮祭事件で地鎮祭を「世俗的」と評価したことは基準の骨抜きであり、より厳格な分離基準を採用すべきとする
- 基準の転換を求める立場: 目的効果基準自体の限界を指摘し、エンドースメント・テスト(政府の行為が特定の宗教を支持・推奨しているとの印象を与えるかどうかを基準とする)や強制テスト(個人が宗教的行為に参加することを事実上強制されるかどうかを基準とする)への転換を提唱する見解がある
公金支出と信教の自由の関係
本判決は、公金支出が信教の自由の侵害に当たるかどうかは直接判断していないが、政教分離違反が間接的に信教の自由を侵害する構造を有することが議論されている。
- 納税者の信教の自由: 特定の宗教団体への公金支出は、他の宗教の信者や無宗教者の納税義務との関係で問題を生じうる。自己の信仰に反する宗教団体に公金が支出されることは、間接的に信教の自由を侵害するとの見解がある
- 宗教的少数者の保護: 政教分離原則の趣旨は、特定の宗教と国家が結びつくことにより宗教的少数者が不利益を被ることを防止する点にある。本判決は、この趣旨を実質的に実現するものとして評価されている
住民訴訟による政教分離の実現
本判決は住民訴訟(地方自治法242条の2)を通じて政教分離違反を争ったものであり、住民訴訟が政教分離原則の実現において果たす役割が注目される。
政教分離は制度的保障であり、個人の主観的権利を直接保障するものではないため、個人が政教分離違反を争う方法は限定される。住民訴訟は、地方公共団体の財務会計行為の適法性を住民が争うことを可能にする制度であり、公金支出の形をとる政教分離違反を争う有力な手段となっている。
判例の射程
政教分離に関する後続判例
本判決の射程は、後の政教分離判例にも及んでいる。
- 空知太神社事件(最大判平22.1.20): 市有地を神社の敷地として無償で使用させていた事案。最高裁は目的効果基準を明示的に用いず、諸般の事情を考慮し、社会通念に照らして総合的に判断するという手法を採用した。この判決は、目的効果基準からの転換の可能性を示唆するものとして重要である
- 白山比め神社事件(最判平22.7.22): 市有地を神社施設の敷地として無償で利用させていた事案。空知太神社事件の総合判断の手法が踏襲された
靖国神社参拝訴訟との関係
本判決は公金支出の違憲性を判断したものであり、首相等による靖国神社参拝の合憲性を直接判断したものではない。しかし、靖国神社との関わり合いが政教分離に反しうるとの判断枠組みは、靖国参拝訴訟にも影響を与えている。もっとも、靖国参拝訴訟では訴えの利益が認められないとして実体判断に至らないケースが多く、政教分離の実体的判断が示される機会は限られている。
反対意見・補足意見
可部恒雄裁判官ほか2名の反対意見
可部恒雄、大西勝也、河合伸一の3裁判官は、本件公金支出は合憲であるとした。
反対意見は、玉串料・供物料の奉納は戦没者の追悼という世俗的目的に出たものであり、宗教的意義は希薄であるとした。また、金額が少額かつ定型的であり、特定の宗教を援助・助長・促進する効果はないとした。
反対意見は特に、戦没者の追悼は国として重要な責務であり、その追悼が神社の祭祀の形をとるからといって、直ちに政教分離に違反するとすべきではないとの立場をとった。
三好達裁判官の反対意見
三好達裁判官は、独自の反対意見を述べ、本件公金支出は社会的儀礼の範囲内であり合憲であるとした。三好裁判官は、目的効果基準の適用にあたり、社会通念を重視すべきであり、一般人の多くが靖国神社への玉串料奉納を政教分離違反とは感じていないことを指摘した。
意見の分布と意義
本判決は13対2で違憲の結論が出された。この大差は、靖国神社等への公金支出が政教分離に反することについて、最高裁において広いコンセンサスが存在したことを示している。もっとも、反対意見が戦没者追悼の重要性を強調した点は、政教分離と戦没者追悼の関係という解決困難な問題が残されていることを示している。
試験対策での位置づけ
本判決は、司法試験・予備試験の憲法科目における最重要判例のひとつであり、「政教分離原則」(憲法20条3項、89条)の論点として出題される。政教分離に関する判例としては、津地鎮祭事件と並んで必ず学習すべき判例である。
短答式試験では、目的効果基準の内容と適用結果が問われる。特に津地鎮祭事件(合憲)との結論の違いとその理由、「社会的儀礼にすぎないとはいえない」という判断のポイントが頻出である。また、反対意見の論旨(戦没者追悼の世俗的目的、少額定型的な支出)についても出題される。
論文式試験では、政教分離違反が問われる事案において目的効果基準の内容と適用を論じることが求められる。近時は空知太神社事件(最大判平22.1.20)における総合判断の手法との関係も問われるため、目的効果基準と総合判断の手法の異同を整理しておくことが不可欠である。政教分離に関する出題は比較的頻度が高く、判例の正確な理解が合否を分ける。
答案での使い方
論証パターン
本判決を答案で引用する際の基本的な論証パターンは以下の通りである。
「本件では、〔具体的な国・地方公共団体の行為〕が憲法20条3項の禁止する『宗教的活動』に当たるかが問題となる。この点、判例は、憲法の政教分離原則は国家と宗教との完全な分離を実現することは不可能であることから、国家と宗教とのかかわり合いが相当とされる限度を超えるものと認められる場合にこれを許さないとする趣旨であるとし、ある行為が宗教的活動に該当するか否かは、当該行為の目的が宗教的意義を持ち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるような行為であるかどうかによって判断すべきであるとしている(目的効果基準、最大判昭52.7.13、最大判平9.4.2)。」
判例の規範部分
答案に引用すべき規範部分は以下の通りである。
「県が特定の宗教団体の挙行する重要な宗教上の祭祀にかかわり合いを持った」
「その目的が宗教的意義を持つことを免れず、その効果が特定の宗教に対する援助、助長、促進になると認めるべきであり、これによってもたらされる県と靖国神社等とのかかわり合いが我が国の社会的・文化的諸条件に照らし相当とされる限度を超えるものである」
答案作成上の注意点
第一に、目的効果基準と空知太神社事件の総合判断の関係を整理しておくことが重要である。空知太神社事件では目的効果基準を明示的に用いず、「諸般の事情を考慮し、社会通念に照らして総合的に判断する」という手法を採用した。答案では、問題となる行為の性質に応じてどちらの手法を用いるかを意識すべきである。公金支出型の事案では愛媛玉串料事件の目的効果基準が、施設利用型の事案では空知太神社事件の総合判断が参照されやすい。
第二に、津地鎮祭事件との結論の違いの理由を具体的に説明できるようにすることが重要である。両判決の結論の違いは、主催者が誰か(建築主か宗教団体か)、行為の場所(建築現場か神社境内か)、行為の性質(社会的慣習か宗教上の祭祀か)、支出の態様(一回限りか継続的か)等の違いに基づく。
第三に、憲法89条違反の点も忘れずに論じることが必要である。愛媛玉串料事件では20条3項違反だけでなく89条違反も認定されている。公金支出の事案では両条項の違反を論じるのが丁寧な答案である。
重要概念の整理
政教分離に関する主要判例の比較
| 判例 | 行為の類型 | 判断手法 | 結論 |
|---|---|---|---|
| 津地鎮祭事件(最大判昭52.7.13) | 市主催の地鎮祭 | 目的効果基準 | 合憲 |
| 愛媛玉串料事件(最大判平9.4.2) | 靖国神社等への公金支出 | 目的効果基準 | 違憲 |
| 空知太神社事件(最大判平22.1.20) | 市有地の神社敷地としての無償利用 | 総合判断 | 違憲 |
| 白山比め神社事件(最判平22.7.22) | 市有地の神社施設敷地としての無償利用 | 総合判断 | 違憲 |
| 孔子廟事件(最大判令3.2.24) | 市有地の孔子廟敷地としての無償利用 | 総合判断 | 違憲 |
目的効果基準の構造
| 判断要素 | 津地鎮祭事件での評価 | 愛媛玉串料事件での評価 |
|---|---|---|
| 目的の宗教的意義 | 世俗的(工事の安全祈願) | 宗教的意義を免れない |
| 効果の援助・助長・促進 | 特定宗教の援助にならない | 特定宗教の援助・助長・促進になる |
| かかわり合いの限度 | 社会的・文化的諸条件に照らし相当の限度内 | 相当とされる限度を超える |
発展的考察
空知太神社事件以降の政教分離判断基準
本判決後の最も重要な展開は、空知太神社事件(最大判平22.1.20)における判断手法の転換である。同判決は、目的効果基準に明示的に依拠せず、「諸般の事情を考慮し、社会通念に照らして総合的に判断する」という手法を採用した。この転換は、目的効果基準の曖昧さと予測可能性の低さに対する批判を背景としている。
さらに、孔子廟事件(最大判令3.2.24)は空知太神社事件の総合判断の手法を踏襲し、那覇市が市有地を孔子廟の敷地として無償で使用させていた行為について違憲と判断した。同判決は、宗教性の判断において一般人の評価を重視する手法を採用しており、政教分離の判断基準はなお発展途上にある。
靖国神社参拝問題との関係
本判決は公金支出の合憲性を判断したものであり、首相等の靖国神社参拝の合憲性を直接判断していない。しかし、靖国神社への公金支出が政教分離に違反するとの判断は、靖国参拝訴訟の文脈にも間接的に影響を与えている。靖国参拝訴訟では、多くの場合訴えの利益(原告適格や確認の利益)が否定されて実体判断に至らないが、本判決の趣旨を踏まえれば、公的立場での靖国参拝にも政教分離上の問題が生じうるとの指摘がある。
住民訴訟の活用と政教分離
本判決が住民訴訟(地方自治法242条の2)を通じて政教分離違反を争った点は、実務的に重要である。政教分離は制度的保障であり個人の主観的権利を直接保障するものではないため、個人が政教分離違反を争う手段は限定される。住民訴訟は公金支出の違法性を客観訴訟として争う制度であり、政教分離原則の実効的な担保手段として機能している。もっとも、住民訴訟の対象は地方公共団体の財務会計行為に限られるため、国の行為については別途の訴訟形態を検討する必要がある。
よくある質問
Q1: 目的効果基準は現在も判例として生きていますか。
目的効果基準は明示的に判例変更されていない。しかし、空知太神社事件以降の判例は目的効果基準に明示的に依拠せず、総合判断の手法を採用している。学説上は、目的効果基準から総合判断への「転換」があったとする見解と、総合判断は目的効果基準の「発展形」にすぎないとする見解が対立している。答案では、問題となる行為の類型に応じて適切な判断手法を選択することが重要である。
Q2: 津地鎮祭事件と愛媛玉串料事件で結論が異なるのはなぜですか。
両判決の結論の相違は、行為の性質の違いに基づく。津地鎮祭事件の地鎮祭は建築主が主催し建築現場で行う儀式であり、社会的慣習として世俗化している面がある。これに対し、愛媛玉串料事件の玉串料奉納は宗教団体が主催する重要な宗教上の祭祀への参加であり、社会的儀礼にすぎないとはいえない。行為の宗教的色彩の濃淡が結論を分けた。
Q3: 反対意見は何を根拠に合憲としたのですか。
反対意見は主に2つの根拠を挙げた。第一に、玉串料等の奉納は戦没者の追悼という世俗的目的に出たものであり、宗教的意義は希薄であるとした。第二に、支出額が少額かつ定型的であり、特定宗教への援助・助長・促進の効果はないとした。反対意見は、戦没者追悼が国の重要な責務であるとの立場から、追悼の形式が宗教的であっても直ちに政教分離に違反するとすべきではないと主張した。
Q4: 憲法89条違反の意義は何ですか。
本判決は20条3項違反に加えて89条違反も認定した。89条は公金の宗教上の組織への支出を禁止する規定であり、20条3項が行為の宗教的活動該当性を問題にするのに対し、89条は財政面からの政教分離を担保する。両条項を併せて適用することで、政教分離違反をより確実に認定する構造となっている。
Q5: 本判決の13対2という票差にはどのような意義がありますか。
13対2という大差は、靖国神社等への公金支出が政教分離に違反するとの判断について最高裁内部に広いコンセンサスが存在したことを示している。この票差は、本判決の判例としての安定性の高さを示唆するものであり、同種の事案について判例変更が行われる可能性は低いと考えられている。
関連条文
国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。
― 日本国憲法 第20条第3項
公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。
― 日本国憲法 第89条
関連判例
- 津地鎮祭事件(最大判昭52.7.13) - 目的効果基準の確立と合憲判断
- 砂川事件(最大判昭34.12.16) - 統治行為論と司法審査の限界
- 尊属殺重罰規定違憲判決(最大判昭48.4.4) - 違憲判断の手法
試験に出るポイント(5つ)
- 目的効果基準で初めて違憲とされた判例: 津地鎮祭事件で確立された目的効果基準を適用しながら、初めて違憲判断を導いた点が最重要。短答で「目的効果基準を適用した結果の合憲/違憲」を各判例について正確に分類できるかが問われる
- 津地鎮祭事件との対比: 主催者(建築主か宗教団体か)、場所(建築現場か神社境内か)、行為の性質(社会的慣習か宗教上の祭祀か)、支出の態様(一回限りか継続的か)の違いが結論を分けた理由として論文で具体的に論じるべき
- 空知太神社事件の総合判断との関係: 空知太神社事件(最大判平22.1.20)以降、目的効果基準から総合判断への転換が見られる点は近時の出題可能性が高い。答案で公金支出型と施設利用型を区別して判断手法を選択する力が問われる
- 憲法89条違反の併記: 20条3項違反だけでなく89条違反も認定された点を見落とさないこと。公金支出型の政教分離違反の事案では両条項の検討が必要
- 13対2の票差の意義: 靖国神社等への公金支出が政教分離に反することについて広いコンセンサスがあったことを示す。反対意見(戦没者追悼の世俗的目的、少額定型的支出)の論旨も短答で問われる
覚えるべき要点
キーフレーズ
- 「その目的が宗教的意義を持つことを免れず、その効果が特定の宗教に対する援助、助長、促進になると認めるべきであり、これによつてもたらされる県と靖国神社等とのかかわり合いが我が国の社会的・文化的諸条件に照らし相当とされる限度を超えるものである」
- 「神社自体がその境内において挙行する恒例の重要な祭祀に際して右のような玉串料等を奉納することは、建築主が主催して建築現場において土地の平安堅固等を祈願するために行う儀式である起工式(地鎮祭)の場合とは異なり、社会的儀礼にすぎないものとは言い難い」
- 「県が特定の宗教団体の挙行する重要な宗教上の祭祀にかかわり合いを持つた」
数字・日付
- 平成9年4月2日(1997年4月2日)判決
- 平成4年(行ツ)第156号
- 玉串料: 各5,000円(靖国神社の例大祭)、供物料: 各7,000〜8,000円(護国神社の慰霊大祭)
- 支出期間: 1981年〜1986年(継続的)
- 関連条文: 憲法20条3項、憲法89条
- 票差: 13対2で違憲
対比表
| 項目 | 津地鎮祭事件(合憲) | 愛媛玉串料事件(違憲) |
|---|---|---|
| 主催者 | 建築主(市) | 宗教団体(神社) |
| 場所 | 建築現場 | 神社の境内 |
| 行為の性質 | 社会的慣習として世俗化 | 宗教上の祭祀であり世俗的とはいえない |
| 支出の態様 | 7,663円(一回限り) | 年間数万円(継続的) |
| 結論 | 社会的儀礼として合憲 | 宗教的活動に該当し違憲 |
論証への活かし方
規範の明示
答案で引用すべき規範部分:
県が本件玉串料等を靖国神社又は護国神社に奉納したことは、その目的が宗教的意義を持つことを免れず、その効果が特定の宗教に対する援助、助長、促進になると認めるべきであり、これによつてもたらされる県と靖国神社等とのかかわり合いが我が国の社会的・文化的諸条件に照らし相当とされる限度を超えるものであつて、憲法20条3項の禁止する宗教的活動に当たる
論文での引用例
「本件行為が憲法20条3項の禁止する『宗教的活動』に当たるか否かは、当該行為の目的が宗教的意義を持ち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるかにより判断すべきである(目的効果基準、最大判昭52.7.13、最大判平9.4.2)。本件行為は〔目的の検討〕であって宗教的意義を持つことを免れず、その効果は〔効果の検討〕として特定の宗教に対する援助、助長、促進になる。これによりもたらされる〔主体〕と〔宗教団体〕とのかかわり合いは、社会的・文化的諸条件に照らし相当とされる限度を超えるものである。」
あてはめのコツ
- 行為の主催者が宗教団体かどうか(宗教団体主催なら違憲方向に傾く)を第一の判断要素とする
- 行為が「社会的儀礼」として世俗化しているかどうかを検討する際は、一般人の認識を基準とする
- 支出の継続性・恒常性は国と宗教団体の制度的なかかわり合いを推認させる重要事実として評価する
まとめ
愛媛玉串料事件は、津地鎮祭事件で確立された目的効果基準を適用して初めて違憲判断を導いた政教分離に関する最重要判例である。靖国神社等の例大祭に際する玉串料・供物料の公金支出は、その目的が宗教的意義を持ち、効果が特定の宗教に対する援助・助長・促進になるとして違憲と判断された。地鎮祭と異なり、宗教団体が主催する重要な宗教上の祭祀への公金支出は社会的儀礼にすぎないとはいえないとした判断は、目的効果基準の適用の具体的な指針を示すものである。後の空知太神社事件では目的効果基準から総合判断への転換が見られ、政教分離の判断基準はなお発展途上にある。
科目を選び、肢別演習で知識を確かめられます。