【判例】尊属殺重罰規定違憲判決(最大判昭48.4.4)
尊属殺重罰規定を違憲とした最高裁大法廷判決を解説。法の下の平等(憲法14条1項)の意義、合理的差別の判断基準、多数意見と反対意見の対立構造を詳しく分析します。
この判例のポイント
尊属殺人罪(旧刑法200条)の法定刑が死刑または無期懲役のみとされていたことは、立法目的に合理性があるとしても、刑罰加重の程度が極端であり、憲法14条1項に違反し無効であるとした判決。法の下の平等の意義と合理的差別の限界を示し、目的・手段審査の枠組みを確立した最重要判例。
事案の概要
被告人(女性)は、14歳の頃から実父による性的虐待を受け続け、実父との間に数人の子をもうけるという悲惨な境遇にあった。29歳のとき、職場で知り合った男性と交際を始めたところ、実父がこれに激昂し、被告人を脅迫・監禁した。被告人は、この状況から逃れるため実父を絞殺した。
検察官は尊属殺人罪(旧刑法200条)で起訴した。旧刑法200条の法定刑は「死刑又は無期懲役」のみであり、普通殺人罪(刑法199条)の「死刑又は無期若しくは3年以上の懲役」と比べて著しく重い刑罰が定められていた。
第一審は刑法200条を違憲・無効として刑法199条を適用し、刑の執行を猶予する判決を下した。控訴審は刑法200条を合憲としつつも、心神耗弱を認めて減刑し、懲役3年6月の実刑とした。
争点
- 尊属殺人罪(旧刑法200条)の重罰規定は、憲法14条1項の「法の下の平等」に違反するか
判旨
多数意見(8裁判官)
憲法14条1項は、国民に対し法の下の平等を保障した規定であつて、同項後段列挙の事項は例示的なものであること、およびこの平等の要請は、事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものでないかぎり、差別的な取扱いをすることを禁止する趣旨と解すべきこと
― 最高裁判所大法廷 昭和48年4月4日 昭和45年(あ)第1310号
多数意見は、まず憲法14条1項の解釈として、同項は絶対的平等ではなく相対的平等を保障するものであり、事柄の性質に応じた合理的な区別は許容されるとした。
そのうえで、尊属に対する敬愛・報恩という自然的情愛ないし普遍的倫理の維持・尊重を目的として、尊属殺について普通殺人とは異なる取扱いをすること自体は、直ちに合理的な根拠を欠くとはいえないと判断した。
しかし、刑罰加重の程度について以下のように述べた。
尊属殺の法定刑は、それが死刑または無期懲役刑に限られている点において、あまりにも厳しいものというべく、(中略)普通殺に関する刑法199条の法定刑に比し著しく不合理な差別的取扱いをするものと認められ、憲法14条1項に違反して無効であるといわなければならない
― 最高裁判所大法廷 昭和48年4月4日 昭和45年(あ)第1310号
すなわち、立法目的自体には合理性を認めつつも、手段(刑罰の加重の程度)が著しく不合理であるとして違憲と判断した。
ポイント解説
憲法14条1項の「法の下の平等」の意義
本判決は、法の下の平等について以下の2点を明確にした。
- 後段列挙事項は例示的なものであり、列挙されていない事由による差別も14条1項で禁止される
- 相対的平等説を採用し、事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づく区別は許容される
これは現在の判例・通説の立場として確立している。
目的と手段の二段階審査
本判決の重要な点は、目的の合理性と手段の合理性を分けて検討した点にある。
| 審査の段階 | 本判決の判断 |
|---|---|
| 立法目的 | 尊属に対する尊重報恩は合理的(合憲) |
| 手段(加重の程度) | 死刑・無期懲役のみは著しく不合理(違憲) |
立法目的は正当でも、手段が不合理であれば違憲となりうることを示した点で、その後の違憲審査の枠組みに大きな影響を与えた。
「著しく不合理」の基準
多数意見は、尊属殺の法定刑を「あまりにも厳しい」と評価したが、どの程度の加重であれば合憲であったのかについては明示していない。仮に法定刑に有期懲役が含まれていれば合憲とされた可能性があり、この点は「加重の程度」という量的判断が違憲審査において決定的な意味を持つことを示している。
最高裁初の法令違憲判決としての意義
本判決は、最高裁判所が法律の規定を憲法に違反し無効であると判断した初めての判決(法令違憲判決)である。1947年の日本国憲法施行以来、最高裁は違憲立法審査権(憲法81条)を有していたが、法律そのものを違憲と判断したことはなかった。本判決によって、違憲立法審査権が実際に行使されることが示され、司法による憲法保障の実効性が確認された点で歴史的意義がある。
法定刑の比較と刑の減軽の問題
本判決を理解するうえで、旧刑法200条と刑法199条の法定刑の差異を具体的に把握することが重要である。
| 条文 | 法定刑 | 酌量減軽後の下限 |
|---|---|---|
| 刑法199条(普通殺人) | 死刑又は無期若しくは3年以上の懲役 | 懲役1年6月(執行猶予可能) |
| 旧刑法200条(尊属殺) | 死刑又は無期懲役 | 無期懲役を減軽して懲役3年6月 |
旧刑法200条の場合、2回の減軽(心神耗弱による必要的減軽と酌量減軽の併用)を行っても懲役3年6月が下限であり、刑の執行猶予(刑法25条、懲役3年以下が要件)を付すことができない。この構造的な問題が、多数意見が「あまりにも厳しい」と判断した核心であった。
学説・議論
尊属殺規定の合憲性をめぐる立場の対立
本判決をめぐっては、大きく3つの立場が対立した。
- 目的違憲説: 尊属殺を加重処罰すること自体が封建的な身分秩序の残滓であり、立法目的そのものが憲法14条1項に反する。田中二郎裁判官らの反対意見がこの立場をとった
- 手段違憲説(多数意見): 尊属に対する尊重報恩の倫理を保護する目的は合理的だが、死刑・無期懲役のみという法定刑は手段として著しく不合理である
- 合憲説: 尊属殺の加重処罰は立法政策の問題であり、裁判所が違憲とすべきではない。下村三郎裁判官らがこの立場をとった
学説上は、目的違憲説が多数説となっている。理由として、個人の尊厳(憲法13条)と法の下の平等(憲法14条)の趣旨からすれば、特定の親族関係を理由とした刑罰の加重は、身分による差別にほかならないという批判がある。多数意見は目的の合理性を認めた点で、学説からは保守的にすぎるとの評価を受けている。
相対的平等説と合理的差別の判断方法
本判決が採用した相対的平等説(合理的な区別は許容される)自体は争いがないが、「合理的な根拠」の有無をどのように判断するかが問題となる。
本判決は目的と手段の二段階で審査する枠組みを用いたが、審査の厳格度については明示していない。この点、アメリカ法の三段階審査基準(厳格審査・中間審査・合理性の基準)の影響を受けた学説では、差別の事由や権利の性質に応じて審査基準を変えるべきとされており、本判決がどの審査基準に相当するかについても議論がある。
14条後段列挙事由と審査基準の関係
本判決は後段列挙事由が「例示的なもの」であると判示したが、後段列挙事由に該当する差別についてはより厳格な審査が必要かという問題が残されている。学説上は、人種・性別などの後段列挙事由は歴史的に差別が行われてきた分野であり、「疑わしい分類」として厳格審査が妥当するとする見解が有力である。本判決の尊属・卑属という区分が後段列挙事由の「社会的身分」に当たるかについても、田中二郎裁判官らの反対意見は肯定的に解しており、この点の理解は答案構成にも影響する。
判例の射程
刑法200条の削除へ
本判決後、刑法200条は形式的には存続したものの、検察実務上は適用されなくなった。1995年(平成7年)の刑法改正で、尊属殺人罪(200条)、尊属傷害致死罪(205条2項)、尊属遺棄罪(218条2項)、尊属逮捕監禁罪(220条2項)がすべて削除された。
「法の下の平等」判例への影響
本判決の目的・手段審査の枠組みは、その後の平等原則に関する判例に広く影響を与えた。
- 国籍法違憲判決(最大判平20.6.4): 国籍法3条1項の準正要件について、立法目的の合理性は認めつつ手段の不合理性を理由に違憲と判断した。本判決と同様の審査枠組みを用いている
- 非嫡出子相続分規定違憲決定(最大決平25.9.4): 民法900条4号ただし書の相続分差別について、かつては合憲としていた判例を変更し違憲と判断した。社会状況の変化により「合理的な根拠」が失われたとする判断は、合理的差別の基準が時代とともに変化しうることを示した
違憲審査手法としての意義
本判決は、法令の一部(法定刑の加重の程度)が違憲であるとして法令全体を無効とした。この手法は、法令の規定を限定的に解釈して合憲とする合憲限定解釈をとらなかった点で、違憲審査のあり方としても注目される。
反対意見・補足意見
田中二郎裁判官ほか3名の反対意見(目的違憲説)
田中二郎、下田武三、色川幸太郎、大隅健一郎の4裁判官は、尊属殺の加重規定そのものが違憲であるとした。
その理由として、個人の尊厳と人格価値の平等を基本理念とする憲法のもとでは、たとえ尊属に対する尊重報恩の倫理が社会的に重要であるとしても、それを刑罰の加重という形で法的に強制することは、封建的な家族制度の残滓であり、憲法の趣旨に反するとした。
この立場は、目的の合理性を認めた多数意見に対し、尊属・卑属という身分関係による差別自体を許さないという、より徹底した平等観に立つものである。
下村三郎裁判官ほか1名の反対意見(合憲説)
下村三郎、岡原昌男の2裁判官は、刑法200条は合憲であるとした。尊属殺の加重処罰は立法政策の問題であり、法定刑の当不当は国会の裁量に委ねられるべきであるとの立場である。
意見の分布と意義
本判決は、15名の裁判官のうち14名が結論として違憲と判断(ただし理由づけは分かれる)し、合憲としたのはわずか2名であった。しかし、違憲の理由が「目的違憲」か「手段違憲」かで大きく分かれた点が重要である。多数意見の8名は手段違憲説、反対意見の6名のうち4名が目的違憲説、2名が合憲説をとった。
この意見の分布は、法の下の平等における「合理的差別」の判断基準が裁判官の間でも大きく分かれうることを示しており、平等原則の解釈の難しさを象徴している。
試験対策での位置づけ
本判決は、司法試験・予備試験の憲法科目において最重要判例の一つに位置づけられる。出題される論点は主に憲法14条1項の「法の下の平等」の意義および違憲審査基準としての目的・手段審査である。
短答式試験では、判例の基本的な枠組みを正確に理解しているかが問われる。具体的には、多数意見が立法目的を合憲としつつ手段を違憲とした点(手段違憲説)、反対意見が目的違憲説をとった点、15名中14名が違憲の結論をとった点などが出題される。相対的平等説と絶対的平等説の区別、後段列挙事由が例示であること等も頻出事項である。
論文式試験では、法の下の平等に関する事例問題において、本判決の目的・手段審査の枠組みを用いた答案構成が求められる。平成18年新司法試験公法系科目第1問では、平等原則の審査枠組みが問われており、本判決の理解は不可欠であった。また、法令違憲の判断手法として、立法目的の正当性と手段の合理性を順に検討するという二段階審査の枠組みは、平等権に限らず他の人権制限の場面でも応用可能であり、汎用性が高い。
本判決は、最高裁初の法令違憲判決でもあるため、違憲審査制に関する統治機構分野の論点としても出題されうる。
答案での使い方
基本的な論証パターン
法の下の平等(憲法14条1項)の問題として答案に引用する場合、以下の流れで論証する。
「本件では、〔具体的な区別の内容〕が憲法14条1項の法の下の平等に反しないかが問題となる。この点、判例は、憲法14条1項は、事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものでない限り、差別的な取扱いをすることを禁止する趣旨と解している(最大判昭48.4.4)。すなわち、同条項は相対的平等を保障するものであり、合理的な区別は許容される。そこで、本件の区別が合理的な根拠に基づくものかを、立法目的の合理性と手段の合理性に分けて検討する。」
「まず、立法目的について、〔目的の合理性の検討〕。次に、手段の合理性について、〔手段が目的との関係で著しく不合理でないかの検討〕。以上のとおり、本件の区別は〔結論〕。」
答案に引用すべき規範部分
本判決から答案に引用すべき核心的な規範は以下の部分である。
「事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものでないかぎり、差別的な取扱いをすることを禁止する趣旨」
この規範は、憲法14条1項の解釈として最も基本的なものであり、平等権の問題が出題された場合にはほぼ必ず引用すべきである。
加えて、目的と手段を分けて審査する枠組みを示す際には、本判決が「尊属に対する尊重報恩という自然的情愛ないし普遍的倫理の維持・尊重を目的として尊属殺について異なる取扱いをすること自体は直ちに合理的な根拠を欠くとはいえない」としつつ、「法定刑が死刑または無期懲役刑に限られている点において、あまりにも厳しい」として手段の不合理性により違憲と判断した論理構造を示すとよい。
注意点
答案でよくある間違いとして以下の点に注意が必要である。
- 多数意見と反対意見の混同: 多数意見は立法目的の合理性を認めており(手段違憲説)、目的自体を違憲としたのは田中二郎裁判官らの反対意見である。学説の多数が目的違憲説を支持していることと、判例の立場を混同してはならない
- 射程の誤解: 本判決は「刑罰の加重の程度」が問題となった事案であり、あらゆる法定刑の差異が直ちに違憲となるわけではない。判例の射程を正確に把握し、事案に即した適用を行うべきである
- 審査基準の特定: 本判決の審査基準は厳格審査でも合理性の基準でもなく、目的の合理性と手段の著しい不合理性という独自の枠組みである。アメリカ法の三段階審査基準に機械的に当てはめることは避けるべきである
重要概念の整理
違憲判断の構造比較
本判決における多数意見と反対意見(目的違憲説・合憲説)の論理構造を整理すると、以下のとおりとなる。
| 項目 | 多数意見(8名) | 反対意見・目的違憲説(4名) | 反対意見・合憲説(2名) |
|---|---|---|---|
| 立法目的の評価 | 合理的根拠あり | 封建的で違憲 | 合理的根拠あり |
| 手段の評価 | 著しく不合理 | (目的段階で違憲のため判断不要) | 立法裁量の範囲内 |
| 結論 | 違憲 | 違憲 | 合憲 |
| 理論的立場 | 手段違憲説 | 目的違憲説 | 立法裁量論 |
平等権の審査基準比較
本判決と関連判例における審査基準を比較整理すると、以下のとおりである。
| 判例 | 差別事由 | 審査の枠組み | 審査の厳格度 | 結論 |
|---|---|---|---|---|
| 尊属殺重罰規定(昭48) | 尊属・卑属の身分 | 目的・手段審査 | 中程度 | 違憲 |
| 国籍法違憲判決(平20) | 嫡出・非嫡出の区別 | 目的・手段審査 | 中程度 | 違憲 |
| 非嫡出子相続分(平25) | 嫡出・非嫡出の区別 | 合理的根拠の有無 | 中程度 | 違憲 |
| 再婚禁止期間(平27) | 性別 | 合理的根拠の有無 | やや厳格 | 一部違憲 |
「合理的差別」判断の考慮要素
本判決から導かれる合理的差別の判断において考慮すべき要素は以下のとおりである。
- 差別の事由の性質: 後段列挙事由に当たるか、歴史的に差別が行われてきた分野か
- 立法目的の正当性: 区別を設ける目的に合理的根拠があるか
- 手段の合理性: 目的と手段の間に合理的関連性があるか
- 手段の相当性: 区別の程度が目的との関係で著しく不合理でないか
- 影響の重大性: 区別によって個人に生じる不利益の程度
発展的考察
本判決の現代的意義
本判決は1973年の判決であるが、その示した目的・手段審査の枠組みは現在も平等権の違憲審査の基本構造として機能している。特に、2008年の国籍法違憲判決(最大判平20.6.4)および2013年の非嫡出子相続分規定違憲決定(最大決平25.9.4)は、いずれも本判決の審査枠組みを基礎としつつ、社会状況の変化に対応した判断を行っている。
近時の平等権判例との関係
2015年の再婚禁止期間違憲判決(最大判平27.12.16)は、民法733条の再婚禁止期間のうち100日を超える部分を違憲とした。この判決は、本判決と同様に目的の合理性を認めつつ手段の過剰性を理由に違憲と判断しており、目的・手段審査の枠組みの継続的な適用を示すものである。
また、2021年の夫婦同氏制合憲決定(最大決令3.6.23)では、民法750条の夫婦同氏制について合憲と判断されたが、反対意見は本判決の枠組みに基づき目的・手段の不合理性を指摘しており、平等権の審査における本判決の影響力の大きさが確認される。
学説の最新動向
近時の学説では、本判決が示した審査基準をさらに精緻化する方向での議論が活発である。具体的には、差別事由の類型に応じて段階的な審査基準を適用すべきとする見解が有力であり、後段列挙事由に該当する差別には厳格審査を、それ以外の差別には合理性審査を適用するという枠組みが提唱されている。また、間接差別(外形上は中立的な基準であるが、特定の集団に不均衡な影響を及ぼすもの)に対する審査基準の確立も重要な課題として議論されている。
実務への影響
本判決は、立法実務においても重要な意義を有する。1995年の刑法改正による尊属殺人罪等の削除は本判決の直接的帰結であり、違憲判決が立法に対して与えるインパクトの典型例である。また、本判決以降、法律の制定・改正にあたっては平等原則との整合性がより慎重に検討されるようになり、内閣法制局における法律案審査においても本判決の枠組みが参照されている。
よくある質問
Q1: なぜ多数意見は立法目的を合憲としたのですか。学説は目的違憲説が多数なのに、判例はなぜ異なるのですか。
多数意見は、親に対する尊重報恩の倫理は「自然的情愛ないし普遍的倫理」であり、これを刑法上保護すること自体には合理的根拠があると判断した。これは個人の尊厳を基調とする憲法の理念とも必ずしも矛盾しないという理解に基づく。学説が目的違憲説を支持するのは、尊属・卑属の区別による刑罰の加重は身分による差別にほかならず、憲法13条・14条の趣旨に反するとの考慮による。判例と学説の乖離は、この価値判断の相違に起因する。
Q2: 本判決の「手段違憲」の考え方は、他の判例にも応用できますか。
応用可能である。本判決の目的・手段審査の枠組みは、国籍法違憲判決(最大判平20.6.4)で明確に踏襲された。同判決は、国籍法3条1項の準正要件について、立法目的の合理性を認めつつ、手段としての区別が合理的関連性を欠くとして違憲と判断した。このように、立法目的は正当でも手段が不合理であれば違憲となるという枠組みは、平等権の審査における一般的な手法として確立している。
Q3: 本判決後も刑法200条はすぐに削除されなかったのですか。
本判決により刑法200条は違憲無効と判断されたが、形式的には1995年まで条文として残存していた。もっとも、本判決後は検察実務において刑法200条は適用されず、尊属殺人も刑法199条の普通殺人罪で処理された。1995年(平成7年)の刑法改正により、尊属殺人罪のほか、尊属傷害致死罪、尊属遺棄罪、尊属逮捕監禁罪がすべて正式に削除された。
Q4: 本判決は「法令違憲」判決ですが、「適用違憲」判決との違いは何ですか。
法令違憲とは、法律の規定そのものが憲法に違反し無効であると判断することであり、当該規定は一般的に効力を失う。本判決は刑法200条の規定自体を違憲無効としたため法令違憲に当たる。これに対し、適用違憲とは、法律の規定自体は合憲であるが、特定の事案への適用が違憲であると判断する手法である。法令違憲の方が影響範囲が広く、最高裁がこれを行った本判決は、違憲審査制のあり方として重要な意義を持つ。
Q5: 多数意見の「手段違憲説」と反対意見の「目的違憲説」は、答案ではどちらを書くべきですか。
答案では、まず判例の立場(手段違憲説)を正確に記述することが基本である。そのうえで、学説からの批判として目的違憲説に言及し、自らの見解を示すという構成が望ましい。試験では判例の理解が問われるため、判例の枠組みを正確に摘示することが最優先である。もっとも、目的違憲説に立つ場合でも、その理由づけ(個人の尊厳、身分による差別の不当性等)を具体的に論じる必要がある。
関連条文
すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
― 日本国憲法 第14条第1項
関連判例
- 国籍法違憲判決(最大判平20.6.4) - 目的・手段審査による違憲判断
- 非嫡出子相続分規定違憲決定(最大決平25.9.4) - 合理的差別の基準の変化
- 森林法違憲判決(最大判昭62.4.22) - 立法目的と手段の合理性の審査
試験に出るポイント(5つ)
- 多数意見の手段違憲説: 多数意見は尊属殺の加重処罰の立法目的(尊属に対する尊重報恩)の合理性を認めつつ、死刑又は無期懲役のみという法定刑は「あまりにも厳しい」として手段の不合理性により違憲と判断した。短答式で「判例は目的違憲説をとった」とする選択肢はひっかけである
- 反対意見の目的違憲説との区別: 田中二郎裁判官ら4名の反対意見は、尊属殺の加重処罰の目的自体が封建的で違憲とした。学説の多数は目的違憲説を支持するが、判例の立場(手段違憲説)との混同が頻出の出題パターンである
- 相対的平等説と後段列挙事由の例示性: 14条1項後段列挙事由(人種・信条・性別・社会的身分・門地)は例示であり、列挙されていない事由による差別も14条1項で禁止される。絶対的平等説と相対的平等説の区別が短答で問われる
- 最高裁初の法令違憲判決: 本判決は1947年の憲法施行以来、最高裁が初めて法律の規定を違憲無効と判断した判決である。統治機構分野の違憲審査制の問題としても出題される
- 刑の減軽の構造: 旧刑法200条は酌量減軽を2回重ねても懲役3年6月が下限であり、執行猶予(懲役3年以下が要件)を付すことができない。この構造的問題が「あまりにも厳しい」と判断された核心であり、論文でのあてはめの際に重要
覚えるべき要点
キーフレーズ
- 「事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものでないかぎり、差別的な取扱いをすることを禁止する趣旨」
- 「尊属殺の法定刑は、それが死刑または無期懲役刑に限られている点において、あまりにも厳しい」
- 「普通殺に関する刑法199条の法定刑に比し著しく不合理な差別的取扱いをするもの」
数字・日付
- 昭和48年4月4日(1973年4月4日):判決日
- 昭和45年(あ)第1310号:事件番号
- 15名中14名が違憲の結論(多数意見8名+目的違憲説4名+合憲説2名のうち14名が違憲)
- 1995年(平成7年):刑法改正で刑法200条が削除
対比表
| 項目 | 多数意見(手段違憲説) | 反対意見(目的違憲説) |
|---|---|---|
| 立法目的の評価 | 合理的根拠あり | 封建的で違憲 |
| 手段の評価 | 著しく不合理で違憲 | 目的段階で違憲のため判断不要 |
| 理論的背景 | 尊属への尊重報恩は普遍的倫理 | 個人の尊厳・人格価値の平等が基本 |
論証への活かし方
規範の明示
答案で引用すべき規範部分:
憲法14条1項は、国民に対し法の下の平等を保障した規定であつて、同項後段列挙の事項は例示的なものであること、およびこの平等の要請は、事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものでないかぎり、差別的な取扱いをすることを禁止する趣旨と解すべきこと
論文での引用例
「本件では、〔区別の内容〕が憲法14条1項に反しないかが問題となる。同項は、事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものでない限り差別的取扱いを禁止する趣旨であり(最大判昭48.4.4)、相対的平等を保障する。そこで、本件区別の合理性を立法目的と手段に分けて検討する。まず立法目的について、〔目的の合理性の検討〕。次に手段の合理性について、本判決が法定刑の加重の程度を問題として『あまりにも厳しい』と評価したように、目的との関連で手段が著しく不合理でないかを検討する。〔あてはめ〕。」
あてはめのコツ
- 目的と手段を明確に分けて論じ、目的が正当でも手段が過剰であれば違憲となりうることを示す
- 法定刑の比較表(199条と200条の法定刑・酌量減軽後の下限)を具体的に指摘し、執行猶予の可否の差を示す
- 判例の立場(手段違憲説)と学説の多数説(目的違憲説)を対比し、自説の根拠を明確にする
まとめ
尊属殺重罰規定違憲判決は、法の下の平等(憲法14条1項)の解釈において目的・手段の二段階審査を用いた最重要判例である。多数意見は立法目的の合理性を認めつつ手段の不合理性により違憲と判断したが、反対意見の一部は目的違憲説をとり、学説の多数もこれを支持する。本判決の枠組みはその後の国籍法違憲判決や非嫡出子相続分違憲決定にも継承され、平等原則の判例法理の基礎を形成している。
科目を選び、肢別演習で知識を確かめられます。