民事保全の基本構造(仮差押え・仮処分・疎明・当事者恒定)とは
みんじほぜんのきほんこうぞう
民事保全とは、本案の判決を待っていては権利の実現ができなくなるおそれがあるときに、仮の救済を与える手続で、金銭債権の執行を保全する仮差押え、特定物の請求権を保全する係争物に関する仮処分、争いのある権利関係について仮の地位を定める仮処分の三つがあります(民事保全法1条・20条・23条)。保全命令の要件である被保全権利と保全の必要性は疎明で足ります(同法13条2項)。
訴えを起こしてから判決が出るまでには時間がかかります。その間に相手が財産を隠したり、土地を他人に売ったり、建物の占有を別の人に移したりすると、勝訴しても判決が空振りになります。そこで、判決の前に、相手の財産を仮に押さえたり、目的物の処分や占有の移転を禁じたりする手続が民事保全です。急いで出す仮の判断なので、権利があることを完全に証明する必要はなく、一応確からしいと思わせる疎明で足ります。
民事保全には、金銭債権を保全する仮差押えと、特定物の請求権を保全する係争物に関する仮処分と、仮の地位を定める仮処分があります
仮差押命令は、金銭の支払を目的とする債権について、強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき、又は強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができます(民事保全法20条1項)。係争物に関する仮処分命令は、その現状の変更により債権者が権利を実行できなくなるおそれがあるときなどに発し(同法23条1項)、特定物の引渡しや登記の請求権を保全します。仮の地位を定める仮処分命令は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるため必要なときに発します(同法23条2項)。仮差押えで保全できるのは金銭債権だけなので、所有権移転登記の抹消登記請求権を保全するには、仮差押えではなく処分禁止の仮処分によります。「Zに対する所有権移転登記抹消登記請求権を被保全権利として,甲土地について,仮差押命令の申立てをすることができる」という肢は誤りです。
- 仮差押え金銭債権の強制執行を保全する(民事保全法20条)
- 係争物に関する仮処分特定物の引渡し・登記などの請求権を保全する。処分禁止の仮処分・占有移転禁止の仮処分(同法23条1項)
- 仮の地位を定める仮処分争いのある権利関係について著しい損害・急迫の危険を避ける。職務執行停止・代行者選任など。原則として口頭弁論か債務者が立ち会える審尋が必要(同法23条2項・4項)
保全命令の要件である被保全権利と保全の必要性は、証明ではなく疎明で足ります
保全命令の申立ては、その趣旨と、保全すべき権利又は権利関係(被保全権利)及び保全の必要性を明らかにしてしなければならず、被保全権利と保全の必要性は疎明しなければなりません(民事保全法13条)。民事保全は本案の判決を待てない場合の仮の救済なので、迅速さを優先し、裁判官に一応確からしいとの推測を得させれば足りるとしたのです。「民事保全法上の保全命令の発令要件の立証は,疎明で足りる」という肢は正しいです。民事保全の手続に関する裁判は口頭弁論を経ないですることができますが(同法3条)、仮の地位を定める仮処分は債務者への影響が大きいので、原則として口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければなりません(同法23条4項)。証明と疎明の区別は、証明と疎明の語で扱います。
占有移転禁止の仮処分を執行しておけば、その後に占有を取得した者にも本案の債務名義で明渡しの強制執行ができます
建物の明渡しを求める訴訟の途中で被告が占有を他人に移すと、被告に対する勝訴判決ではその他人に執行できず、訴訟承継の手続を取り直さなければなりません。占有移転禁止の仮処分命令の執行がされたときは、債権者は、本案の債務名義に基づき、その執行がされたことを知って係争物を占有した者と、執行後にそれを知らないで債務者の占有を承継した者に対して、引渡し又は明渡しの強制執行ができます(民事保全法62条1項)。執行後に占有した者は、執行を知って占有したものと推定されます(同条2項)。こうして被告を当事者に固定したまま訴訟を進められる効果を、当事者恒定効といいます。賃借人と転借人を相手に建物明渡しを求める賃貸人について、「転借人に対し,占有移転禁止の仮処分を申し立てることができる」という肢は正しいです。執行前に債務者を特定することが困難な特別の事情があるときは、債務者を特定しないで占有移転禁止の仮処分命令を発することもできます(同法25条の2)。登記請求権を保全する処分禁止の仮処分は処分禁止の登記をする方法で執行し、その登記の後にされた登記に係る権利の取得は、債権者が保全した登記をする場合にはその限度で債権者に対抗できません(同法53条・58条)。訴訟承継との関係は、参加承継と引受承継の語で扱います。
仮差押えがあっても本案の給付訴訟の利益は失われず、職務執行停止・代行者選任の仮処分があれば本案訴訟でも代行者が会社を代表します
判例は、債権が仮差押えを受けても、仮差押えの目的は債務者の財産の現状を保存して金銭債権の執行を保全することにあり、その効力は必要な限度でのみ認められるから、仮差押債務者は第三債務者に対する給付訴訟を提起・追行する権限を失わず、無条件の勝訴判決を得られるとしました(最判昭和48年3月13日)。「債権的請求権に基づく給付の訴えについては,その債権に対して仮差押えの執行がされた場合には,訴えの利益が認められない」という肢は誤りです。仮の地位を定める仮処分の例である代表取締役の職務執行停止・職務代行者選任の仮処分が出ると、職務を停止された代表取締役は会社を代表できず、その取締役を選任した株主総会決議の無効確認の本案訴訟でも、会社を代表するのは職務代行者です(最判昭和59年9月28日)。「当該株式会社を代表すべき者は,当該職務を代行する者である」という肢は正しいです。詳しくは、法人の代表者の語で扱います。
民事保全法13条
保全命令の申立ては、その趣旨並びに保全すべき権利又は権利関係及び保全の必要性を明らかにして、これをしなければならない。2 保全すべき権利又は権利関係及び保全の必要性は、疎明しなければならない。
民事保全法62条
占有移転禁止の仮処分命令の執行がされたときは、債権者は、本案の債務名義に基づき、次に掲げる者に対し、係争物の引渡し又は明渡しの強制執行をすることができる。一 当該占有移転禁止の仮処分命令の執行がされたことを知って当該係争物を占有した者 二 当該占有移転禁止の仮処分命令の執行後にその執行がされたことを知らないで当該係争物について債務者の占有を承継した者 2 占有移転禁止の仮処分命令の執行後に当該係争物を占有した者は、その執行がされたことを知って占有したものと推定する。
論文ではこう使う
論文では、口頭弁論終結前に係争物の占有が移転した場面で、訴訟承継(参加承継・引受承継)との対比として使います。占有移転禁止の仮処分を執行しておけば、民事保全法62条により当事者恒定効が生じ、訴訟承継の手続を取らなくても本案の債務名義でその後の占有者に執行できることを示し、仮処分を得ていない場合には50条の引受承継の申立てによるべきことを書き分けます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。