職業の自由の規制態様とは
しょくぎょうのじゆうのきせいたいよう
職業の自由の規制態様とは、許可制、資格制、免許制、営業方法の規制など、職業の自由に加えられる制限の形のことです。判例は規制の目的だけでなく、制約の強さと職業の性質を併せて見て、審査の厳しさを決めています。
お酒を売る店を開くには税務署の免許が要り、登記の申請を代理できるのは司法書士だけで、風俗案内所は学校の近くに出せません。どれも職業の自由への制限ですが、店を開くこと自体を止める規制と、開いたあとの売り方や場所を縛る規制では、受ける側の痛みが違います。だから判例は、規制の目的だけで審査の厳しさを決めず、制約がどこまで強いか、その職業が人の生命や健康にどれほど関わるかを併せて見ています。
職業の自由の制限は参入規制と営業方法の規制に分かれ、制約の強さが違います
職業の自由の規制態様は、許可制だけではありません。一定の資格を持つ者にしか業務を認めない資格制、営業の総量を管理する免許制、広告や営業時間、店舗の場所といった営業方法の規制があり、それぞれ制約の強さが違います。憲法22条1項は「公共の福祉に反しない限り」という留保の下で職業選択の自由を保障しており、最大判昭和50年4月30日(薬事法距離制限事件)は、職業が社会的相互関連性の大きい活動である以上、規制を要求する社会的理由も、経済的弱者の保護などの積極的なものから安全の保障や秩序の維持などの消極的なものまで千差万別だと述べました。さらに最判平成4年12月15日(酒類販売の免許制)は、租税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという国家の財政目的による制約も認めています。「職業選択の自由は、社会生活における安全の保障及び秩序の維持等の消極的な目的や、国民経済の円満な発展や社会公共の便宜の促進、経済的弱者の保護等の社会政策及び経済政策上の積極的な目的のほか、租税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという国家の財政目的のために制約され得る」という肢は正しいです。判例は、規制目的の二分論だけで審査密度を決めず、規制の態様と職業の性質を併せて考慮しています。二分論で割り切れない判例群をどう位置づけるかが、この項目の主題です。
- 資格制業務独占を認め、無資格者の業務を禁ずる。試験や登録による参入規制
- 免許制事業の適正な運営や税の確保のために参入を管理する
- 財政目的の規制租税の適正かつ確実な賦課徴収を目的とする規制
- 営業方法の規制広告、営業時間、店舗の立地など、職業活動の内容と態様に対する規制
酒類販売の免許制は、財政目的の規制として審査されます
最判平成4年12月15日(酒類販売の免許制)は、酒税が国税収入のうちに占める比重が高いこと、酒税は酒類製造者を納税義務者とし、酒類販売業者を介して最終的に消費者に転嫁されることを前提に、免許制を酒税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという財政目的のための規制と位置づけ、立法府の政策的、技術的裁量を尊重する審査を行いました。租税をどう課しどう徴収するかは、国家財政や社会経済の実態を踏まえた総合判断が要るため、裁判所が立ち入るのに向かない領域だからです。したがって「酒類販売業について免許制とすることを定めた酒税法の規定は,酒類販売業者には経済的基盤の弱い中小事業者が多いことに照らし,酒類販売業者を相互間の過当競争による共倒れから保護するという積極目的の規制であり」という肢は誤りです。同じ理由で、「一部地域における販売店の乱立による過当競争のために経済的基盤の弱い小売商の経営が不安定となることを防止するとともに,酒税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという目的で実施された」という肢も誤りです。判例は経済的弱者の保護を目的に含めていません。また、酒類が致酔性を有する嗜好品であることから国民の健康安全を守る規制でもあるとして目的を複合的に捉えたとする肢も、判旨の理解として誤りです。判例は酒類を致酔性のある嗜好品だと述べてはいますが、規制の目的は財政目的に一本化しています。立法事実の変化を理由に審査の厳格度を高めたと述べる肢も誤りで、判例は立法事実の変化に触れながらも基準は変えず、免許制を存置した立法府の判断が著しく不合理とは断定し難いとしています。加えて、経済的弱者保護という積極目的の規制とは異なるとした上で、免許の許否が既存業者の権益を擁護する運用になっているかに着目すべきだとし、そのような運用がなされていない限り立法目的を明らかに逸脱するとはいえないと述べた、という理解も判旨と異なります。それは補足意見の内容であって、法廷意見はそのような区別を述べていません。判例が用いたのは、免許制という制度そのものが著しく不合理かどうかを問う枠組みです。
資格制による業務独占も、合理的な規制として合憲とされています
最判平成12年2月8日(司法書士法の資格制)は、登記制度が国民の権利義務等社会生活上の利益に重大な影響を及ぼすことから、司法書士以外の者が他人の嘱託を受けて登記手続の代理や登記申請書類の作成を業として行うことを禁じ処罰する規定を、公共の福祉に合致した合理的な規制として合憲としました。「登記制度が国民の権利義務等に重大な影響を及ぼすことなどから,原則として司法書士に登記業務の独占を認める職域規制は,公共の福祉に合致した合理的な規制である」という肢は正しいです。資格制は職業選択そのものへの制約ですが、業務の専門性と国民の利益の保護という目的から、許可制よりも緩やかに審査される傾向があります。資格制では、試験や研修という手段と、業務の適正という目的との結び付きが分かりやすく、距離制限のように参入の可否が偶然の事情に左右される規制とは性質が異なるためです。タクシー事業について無免許営業を処罰する規定も、最大判昭和38年12月4日(タクシー事業の免許制――白タク営業事件)が、公共の福祉のために必要な制限として合憲としています。
営業方法の規制は、職業選択そのものの制約より緩やかに審査されます
店舗の立地や広告、販売方法といった営業の態様への規制は、職業を選ぶこと自体を妨げないため、制約が相対的に弱いとされます。最判平成28年12月15日(風俗案内所規制条例の合憲性)は、学校等の周辺での風俗案内所の営業を禁ずる条例について、青少年の健全育成と良好な風俗環境の保全という目的の重要性を認め、規制の対象と範囲が限定されていることから合憲としました。もっとも、緩やかな審査で済むとは限らず、最判平成25年1月11日(医薬品のネット販売規制)は、第一類医薬品と第二類医薬品の郵便等販売を一律に禁ずる薬事法施行規則について、法律の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効だとしました。「判例は,インターネット販売が認められる医薬品を一定の医薬品に限定した薬事法施行規則について,法律の委任の範囲を逸脱した違法なものであるとした」という肢は正しいです。違憲判断ではなく委任の範囲の問題として処理した点が重要で、職業の自由への制約の強さは委任の範囲を読むときの考慮要素とされました。すなわち、職業活動の内容及び態様に対する規制であっても、それまで適法に郵便等販売を行ってきた事業者にとって死活的な販売方法を封じる場合には、法律自体から規制を命令に委ねる授権の趣旨が明確に読み取れることが必要になります。
輸入制限のように、特定の業者に不利益が及ぶ規制も裁量の問題とされます
最判平成2年2月6日(西陣ネクタイ事件)は、生糸の輸入を制限し一元的な輸入機関を通させる措置について、積極的な社会経済政策の実施の一手段として、著しく不合理であることが明白とはいえないとしました。特定の業種に不利益が集中する規制でも、経済政策の当否は立法府の判断に委ねられるという枠組みです。同時に、立法府が正当な目的のもとに採った手段であっても、被害を受ける者の犠牲が著しく大きい場合には、補償や経過措置の要否という別の問題が生じ得ます。職業の自由の審査で救えない部分は、財産権や損失補償の議論で拾うことになります。西陣ネクタイ事件は、積極目的の規制について明白の原則に近い緩やかな審査を用いた例として、小売市場判決と同じ側に位置づけられます。輸入制限のように国際的な政策判断が絡む場面では、裁判所が立ち入って判断するのに適さないという事情も、裁量を広く認める理由になります。
規制目的は一つに定まらず、態様と強度を併せて考えます
判例を並べると、同じ距離制限でも目的の認定が分かれ、同じ許可制でも審査の厳しさが違うことが分かります。職業の自由の制約理由は消極目的と積極目的だけではなく、財政目的もあり、複数の目的が併存することもあります。大切なのは、規制が職業選択そのものに及ぶのか営業方法にとどまるのかという制約の強度と、その職業が国民の生命健康にどこまで関わるかという職業の性質を、目的と並べて評価することです。二分論を当てはめて終わる答案より、制約の強度を丁寧に認定した答案の方が説得力を持ちます。短答でも、判例がどの目的を認定したかを正確に理解しているかが問われ、目的の認定を入れ替えた肢が繰り返し作られています。目的、態様、職業の性質の三点を判例ごとに結び付けて理解しておくことが確実です。
最判平成4年12月15日(酒類販売の免許制)
租税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという国家の財政目的のための職業の許可制による規制については、その必要性と合理性についての立法府の判断が、右の政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するもので、著しく不合理なものでない限り、これを憲法二二条一項の規定に違反するものということはできない。
論文ではこう使う
論文では、まず規制の態様を、参入規制か営業方法の規制かに分けます。参入規制であれば、許可制、資格制、免許制のいずれかを特定し、職業選択そのものへの強力な制限であることを述べます。次に目的を認定し、消極目的、積極目的、財政目的のどれに当たるかを、立法の経緯と条文構造から示します。目的が財政目的であれば政策的、技術的裁量を尊重する審査に落とし、消極目的であればより緩やかな規制の可能性まで検討します。法律ではなく政省令による規制であれば、違憲審査に入る前に委任の範囲の問題として処理できないかを先に考えます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。