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【判例】共犯の離脱の要件(共犯関係の解消)

共犯の離脱(共犯関係の解消)に関する主要判例を解説。着手前の離脱と着手後の離脱の区別、因果性の遮断、判例の判断基準を詳しく分析します。

この判例のポイント

共犯の離脱とは、共謀に参加した者がその後に共犯関係から離脱した場合に、離脱後に残余の共犯者が行った犯罪について責任を負わないとする法理である。判例は、離脱が認められるためには、離脱者が自己の行為の影響を除去して因果性を遮断することが必要であるとし、着手前の離脱と着手後の離脱で要求される因果性遮断の程度を区別している。


事案の概要

着手前の離脱(最決平元.6.26)

被告人は、他の共犯者らと共謀の上で強盗を計画したが、犯行前に共犯者に対して「やめよう」と伝え、現場から立ち去った。しかし、残余の共犯者はそのまま計画を実行し、強盗を遂行した。犯行着手前に離脱した被告人が、残余の共犯者の強盗について責任を負うかが争われた。

着手後の離脱(最決平6.7.18)

被告人は、他の共犯者と共にある犯罪の実行に着手した後、途中で犯行を断念して現場から離脱した。しかし、残余の共犯者は被告人の離脱後も犯行を継続し、結果を発生させた。犯行着手後に離脱した被告人が、離脱後に生じた結果について責任を負うかが問題となった。

共謀関係の解消と因果性(最決平21.6.30)

被告人は、住居侵入・強盗の共謀に参加した後、犯行の数時間前に「抜ける」旨を共犯者に伝えた。しかし、被告人は共謀の際に犯行に有用な情報(被害者の住居の間取り、生活パターン等)を提供しており、その情報は残余の共犯者による犯行の遂行に利用された。情報提供という先行的関与の因果性が遮断されたかどうかが争われた。


争点

  • 共犯の離脱が認められるための要件は何か
  • 着手前の離脱と着手後の離脱で要件はどのように異なるか
  • 因果性の遮断とは具体的にどのような措置を意味するか

判旨

着手前の離脱

共謀者の一人が犯行着手前に共謀関係から離脱したと認められるためには、残余の共謀者に対し離脱する旨を伝えるだけでは足りず、残余の共謀者がこれを了承し、当該離脱者が離脱したことによって共謀関係が解消したと認められることが必要である

― 最高裁判所第一小法廷 平成元年6月26日 昭和63年(あ)第1134号

本決定は、着手前の離脱が認められるためには、離脱の意思表示だけでなく、残余の共犯者の了承共謀関係の解消が必要であるとした。

着手後の離脱と因果性の遮断

共謀者の一人が犯行着手後に離脱した場合、残余の共謀者がその後も犯行を継続したときは、離脱者は、自己の離脱前の行為の影響が残余の共謀者の犯行に及んでいる限り、その結果についても責任を負う

― 最高裁判所第二小法廷 平成6年7月18日 平成6年(あ)第382号

本決定は、着手後の離脱の場合、離脱者が自己の先行行為の因果的影響を除去しなければ離脱は認められないとした。

共謀関係の解消と情報提供(最決平21.6.30)

被告人は、共謀者に犯行に有用な情報を提供していたのであるから、その後に「抜ける」旨を伝えたとしても、提供した情報が犯行の遂行に利用された以上、共謀関係の解消は認められない

― 最高裁判所第一小法廷 平成21年6月30日 平成20年(あ)第1657号

本決定は、被告人が提供した情報が犯行に利用された以上、離脱の意思表示のみでは因果性の遮断が認められず、共謀関係の解消は否定されるとした。


ポイント解説

着手前の離脱と着手後の離脱の区別

共犯の離脱は、離脱のタイミングにより要件が異なる。

区分 要件 理由 着手前の離脱 離脱の意思表示+残余の共犯者の了承+共謀関係の解消 着手前であれば、共謀関係の解消により心理的因果性が遮断される 着手後の離脱 着手前の要件に加え、自己の先行行為の物理的・心理的因果性の遮断 着手後は、既に結果発生に向けた因果の流れが開始されているため、より強い措置が必要

因果性の遮断の具体的内容

因果性の遮断として具体的に要求される措置は、離脱者の先行的関与の態様に応じて異なる。

  • 心理的因果性の遮断: 共謀への参加が残余の共犯者の犯行決意を強化した場合、離脱者はその心理的影響を除去する必要がある。共犯者に対する離脱の意思表示とその了承により、一般的には心理的因果性は遮断される
  • 物理的因果性の遮断: 離脱者が凶器を提供した場合、犯行に有用な情報を提供した場合、見張り等の物理的寄与をした場合には、その物理的影響を除去する必要がある。凶器を回収する、提供した情報を無効化する(例えば被害者に計画を知らせる)等の措置が求められる

首謀者の離脱

共謀における首謀者(犯罪計画を主導した者)の離脱は、一般の共謀者の離脱と比べてより厳格な要件が課される傾向にある。首謀者は共謀の形成に中心的役割を果たしているため、その心理的・物理的影響は大きく、離脱の意思表示のみでは因果性の遮断が困難であるとされる。


学説・議論

離脱の法的根拠

共犯の離脱の法的根拠については、以下の見解が対立する。

  • 因果的共犯論に基づく理解: 共犯の処罰根拠は、共犯者が結果に対して因果的影響を与えたことにある(因果的共犯論)。離脱者が自己の因果的影響を除去すれば、離脱後の結果に対する因果関係が切断されるから、離脱後の結果について責任を負わない。判例はこの立場に親和的とされる
  • 共犯解消論: 共犯関係の「解消」それ自体が離脱の法的根拠であるとする。共謀関係が解消されれば、離脱者は残余の共犯者の行為について責任を負わない。この立場は、因果性の遮断を共犯関係の解消の要件の一つとして位置づけるが、因果性の遮断以外の要素も考慮する

着手後の離脱と中止犯の関係

着手後の離脱と中止犯(刑法43条但書)の関係が問題となる。中止犯は「自己の意思により犯罪を中止した」場合に刑の必要的減免を認める制度であるが、共犯者が犯行を継続した場合には中止犯は成立しない。

この点について、着手後に離脱した者が中止犯として刑の減免を受けうるかについては、以下の議論がある。

  • 否定説: 残余の共犯者が犯行を継続し結果が発生した以上、離脱者について中止犯は成立しない。離脱が認められる場合は着手後の行為についての責任が否定されるのみであり、中止犯の問題とは別である
  • 肯定説: 離脱者が自己の意思で積極的に結果発生の防止に努めた場合には、たとえ結果が発生しても中止犯の規定を適用(ないし準用)すべきである

離脱の立証責任

共犯の離脱は、被告人に有利な事実(犯罪の成立を否定する方向に作用する事実)であるため、原則として被告人側に主張・立証の責任があるのか、それとも検察側が離脱の不存在を証明すべきかが問題となる。

この点について、離脱の事実は犯罪の成否に関わる事実であるから、「合理的な疑いを超える証明」の原則に服し、検察側が離脱の不存在(共犯関係の継続)を証明すべきであるとの見解が有力である。


判例の射程

情報提供型の関与と離脱

平成21年決定は、犯行に有用な情報を提供した者の離脱について、情報が犯行に利用された以上、離脱の意思表示のみでは因果性の遮断が認められないとした。この法理の射程は、情報提供・技術支援等の知的寄与型の関与に広く及ぶ。

もっとも、提供した情報が犯行の遂行に実際に利用されなかった場合(例えば、残余の共犯者が独自の情報に基づいて犯行を行った場合)には、情報提供の因果的影響が否定され、離脱が認められる可能性がある。

幇助犯の離脱

本記事で取り上げた判例は主に共同正犯の離脱に関するものであるが、幇助犯の離脱についても同様の法理が適用されうる。幇助犯の離脱の場合は、幇助行為の因果的影響を除去することが求められるが、幇助犯は正犯に比べて関与の程度が軽いため、因果性の遮断に要する措置も相対的に軽いとされることがある。


反対意見・補足意見

平成21年決定には個別の反対意見は付されていない。もっとも、共犯の離脱の判断基準については下級審段階で判断が分かれた事案もあり、因果性の遮断の具体的内容について個別事案ごとの検討が必要とされている。


試験対策での位置づけ

出題科目と重要度

共犯の離脱は、司法試験・予備試験の刑法(刑事系科目第1問)において重要な論点である。共犯論の中核をなす問題であり、共謀共同正犯の認定と離脱の要件を正確に論じることが求められる。特に、因果性の遮断の具体的判断は事案に即した丁寧なあてはめが必要であり、答案の差がつきやすい論点である。

出題実績

司法試験論文式では、共犯関係にある者の一部が犯行から離脱する事案が繰り返し出題されている。平成21年決定の事案のように情報提供型の関与がある場合の離脱の可否は、実務的にも重要な出題パターンである。短答式では、着手前の離脱と着手後の離脱の要件の違い、中止犯との関係が頻出である。

関連論点との接続

共犯の離脱は、共謀共同正犯の要件(練馬事件判決)、承継的共同正犯中止犯(43条但書)共犯と錯誤との関係で問われることが多い。特に、離脱が認められなかった場合には共犯関係が維持されるため、残余の共犯者が当初の共謀とは異なる犯罪を行った場合の共犯と錯誤の問題にも連動する。


答案での使い方

着手前の離脱の論証パターン

「甲は犯行の着手前に乙に対し離脱する旨を伝え、乙がこれを了承した。犯行着手前の離脱が認められるためには、離脱の意思表示及び残余の共犯者の了承により共謀関係が解消されたと認められることが必要である(最決平元.6.26参照)。甲は乙に離脱を伝え、乙もこれを了承しているから、共謀関係は解消されたと認められ、甲は乙がその後に行った犯行について責任を負わない。」

着手後の離脱の論証パターン

「甲は犯行の着手後に離脱したが、着手後の離脱が認められるためには、離脱の意思表示と了承に加え、自己の先行行為が残余の共犯者の犯行に及ぼしている物理的・心理的因果性を遮断することが必要である。甲は乙に凶器を提供していたところ、離脱に際してこれを回収していないから、物理的因果性の遮断がなされたとはいえない。したがって、甲の離脱は認められず、乙の犯行について共同正犯としての責任を負う。」

情報提供型の離脱の論証パターン

「甲は共謀の際に犯行に有用な情報(被害者の住居の間取り等)を提供しており、この情報は乙らの犯行に利用された。甲は犯行前に離脱を伝えたが、提供した情報が犯行に利用されている以上、甲の先行的関与の因果性は遮断されていない(最決平21.6.30参照)。したがって、甲の離脱は認められない。」

答案記述上の注意点

  • 離脱のタイミングを特定する: 着手前か着手後かによって要件が異なるため、まず離脱時期を明確にする
  • 因果性の内容を具体的に論じる: 心理的因果性か物理的因果性かを区別し、それぞれの遮断の有無を検討する
  • 離脱が否定された場合の罪責を論じる: 離脱が認められなければ残余の共犯者の行為について共同正犯の責任を負うことになるため、その罪責を具体的に検討する

重要概念の整理

離脱の要件の段階的整理

離脱の場面 要件の内容 因果性遮断の程度 代表判例 着手前・心理的関与のみ 離脱の意思表示+了承 心理的因果性の遮断で足りる 最決平元.6.26 着手前・物理的関与あり 離脱の意思表示+了承+物理的寄与の除去 物理的因果性の遮断も必要 最決平21.6.30 着手後 上記に加え、結果発生防止の積極的措置 より強い因果性遮断が必要 最決平6.7.18 首謀者の離脱 特に厳格な要件 共謀形成への中心的関与の影響除去 下級審裁判例

離脱と類似概念の比較

概念 内容 効果 根拠条文 共犯の離脱 共犯関係からの離脱 離脱後の結果について責任を負わない 60条の解釈 中止犯 自己の意思による犯罪の中止 刑の必要的減免 43条但書 共犯の錯誤 共犯者間の認識のずれ 錯誤の範囲で故意が否定されうる 38条の解釈

発展的考察

因果性遮断の具体的基準

判例が要求する因果性の遮断の具体的内容は、先行的関与の態様に応じて異なる。例えば、凶器を提供した場合にはその回収が、見張りを担当していた場合にはその中止と通報が、情報を提供した場合にはその無効化(被害者への通報等)が求められると解されている。もっとも、情報提供の因果性を完全に遮断することは実際上困難であり、いかなる措置が「遮断」として十分かの判断基準は必ずしも明確ではない。

離脱と量的過剰防衛の接点

犯行途中で離脱した者が、残余の共犯者が行った過剰な行為について責任を負うかは、離脱の問題と量的過剰防衛の問題が交錯する場面である。例えば、暴行の共謀に参加した者が途中で離脱したが、残余の共犯者が被害者を死亡させた場合、離脱者に傷害致死罪の共同正犯が成立するかが問題となる。

離脱と共犯の処罰根拠論

共犯の離脱の法理は、共犯の処罰根拠論と密接に関連する。因果的共犯論を徹底すれば、離脱者の先行行為の因果的影響が残る限り責任を免れないことになり、離脱のハードルは高くなる。一方、共犯関係の「合意の解消」に重点を置く立場からは、合意の解消自体が離脱の核心的要件となり、因果性の遮断はその徴表として位置づけられる。

組織犯罪と離脱の困難性

暴力団等の組織犯罪の文脈では、組織的な共謀からの離脱は事実上極めて困難である。組織の上位者の指示に基づく共謀の場合、下位の構成員が離脱を申し出たとしても、組織の構造的影響力が残る限り因果性の遮断は認められにくい。この問題は、離脱の要件を厳格に適用することの当否として議論されている。


よくある質問

Q1: 離脱を伝えただけで離脱は認められますか

場合による。着手前であれば、離脱の意思表示とそれに対する残余の共犯者の了承があれば、原則として離脱が認められる。ただし、物理的な寄与(凶器の提供、情報の提供等)がある場合には、その因果的影響を除去する措置がさらに必要となる。着手後の場合は、意思表示のみでは不十分であり、より積極的な措置が求められる。

Q2: 離脱が認められた場合、離脱者の罪責はどうなりますか

離脱が認められた場合、離脱者は離脱後に残余の共犯者が行った犯罪について責任を負わない。ただし、離脱前に自ら行った行為については、その限度で責任を負いうる。例えば、離脱前に暴行を加えていれば、その暴行部分については暴行罪の責任を負う可能性がある。

Q3: 離脱と中止犯は両立しますか

理論的には別の問題である。離脱は共犯関係の解消の問題であり、中止犯は自己の意思による犯罪の中止の問題である。離脱が認められれば離脱後の結果について責任を負わず、中止犯が認められれば刑の必要的減免がなされる。もっとも、共犯者が犯行を継続して結果が発生した場合には中止犯は通常成立しないため、実際には両方が問題となることは稀である。

Q4: 着手後の離脱はどのような場合に認められますか

着手後の離脱が認められるためには、結果発生の防止に向けた積極的な措置が必要であるとされる。例えば、凶器の回収、被害者の救助、警察への通報等である。単に現場から立ち去るだけでは、先行行為の因果性が遮断されたとはいえず、離脱は認められない。

Q5: 共謀の途中で犯罪計画が変更された場合、離脱の問題になりますか

犯罪計画が当初の共謀内容と異なるものに変更された場合、当初の共謀に参加した者が新たな計画について同意していなければ、共犯の錯誤の問題として処理されることが多い。離脱の問題とは異なるが、当初の共謀の因果的影響が新たな犯罪に及んでいるかという点では、離脱における因果性の遮断と類似の考慮が必要となる場合がある。


関連条文

二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。

― 刑法 第60条

犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。

― 刑法 第43条


関連判例


まとめ

共犯の離脱に関する判例は、離脱が認められるための要件として因果性の遮断を中核に据え、着手前と着手後で要求される措置の程度を区別している。着手前は離脱の意思表示と了承による共謀関係の解消で足りるのに対し、着手後は先行行為の物理的・心理的因果性の除去が必要とされる。情報提供型の関与については、提供した情報が犯行に利用された以上、離脱の意思表示のみでは不十分であることが示された。共犯の離脱は因果的共犯論の帰結として理論的に位置づけられ、共犯体系の重要な一部を構成している。

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