【判例】共同訴訟の類型と審判(最判昭43.3.15)
通常共同訴訟と必要的共同訴訟の区別に関する最高裁判例を解説。類似必要的共同訴訟・固有必要的共同訴訟の概念と共同訴訟人独立の原則の射程を分析します。
この判例のポイント
共同訴訟には通常共同訴訟と必要的共同訴訟があり、必要的共同訴訟はさらに固有必要的共同訴訟と類似必要的共同訴訟に分類される。判例は、共有物に関する訴訟や入会権確認訴訟など具体的な場面で、いずれの類型に該当するかを判断してきた。 この類型の区別は、共同訴訟人間の審理・判決の統一の要否を左右する重要な問題である。
事案の概要
共有不動産についてXら共有者の一部が、第三者Yに対して所有権確認訴訟を提起した。Yは、共有者の全員が原告として訴えを提起していないことを理由に、当事者適格を欠くとして訴えの却下を求めた。
問題は、共有物に関する訴訟が固有必要的共同訴訟に該当するかであった。固有必要的共同訴訟であれば、共有者全員が共同して訴えを提起しなければ当事者適格を欠くことになるが、共有持分権に基づく請求であれば各共有者が単独で提起できるのではないかが争われた。
争点
- 共有物に関する訴訟は固有必要的共同訴訟か
- 共有者の一部が単独で所有権確認訴訟を提起できるか
- 共同訴訟の類型の判断基準
判旨
共有者の一人は、共有不動産について第三者が不実の登記を有するときは、単独で右登記の抹消を求めることができる
― 最高裁判所第二小法廷 昭和43年3月15日 昭和41年(オ)第494号
最高裁は、共有者の一部による訴訟提起を適法と認めた。その理由として、共有物の保存行為(民法252条ただし書)は各共有者が単独で行うことができること、不実の登記の抹消請求は保存行為に該当することを挙げた。
すなわち、共有物に関する訴訟であっても、その請求の性質が保存行為に該当する場合には、固有必要的共同訴訟とはならず、各共有者が単独で訴えを提起できるとした。
ポイント解説
共同訴訟の三類型
民事訴訟法における共同訴訟は、以下の三つに分類される。
- 通常共同訴訟(38条): 訴訟の目的である権利義務が共通であるか、同一の事実上・法律上の原因に基づく場合に認められる。共同訴訟人独立の原則(39条)が適用され、各共同訴訟人は独立して訴訟を追行でき、一人の訴訟行為は他の共同訴訟人に影響しない
- 類似必要的共同訴訟: 訴訟共同が強制されるわけではないが、共同訴訟として提起された場合には合一確定が必要となる(40条の適用がある)。株主総会決議取消訴訟(会社法831条)が典型例である
- 固有必要的共同訴訟: 権利関係の性質上、関係者全員が共同して訴え、または訴えられなければならない場合。共同訴訟人の一部だけでは当事者適格を欠く
固有必要的共同訴訟の判断基準
どのような訴訟が固有必要的共同訴訟に該当するかは、管理処分権の帰属と合一確定の必要性から判断される。
判断要素 内容 管理処分権 訴訟物たる権利について管理処分権が全員に帰属するか 合一確定の必要 矛盾した判決が生じることを防ぐ必要があるか 訴訟経済 全員を当事者とすることが合理的か判例は、実体法上の管理処分権の帰属を基準としつつ、訴訟経済や当事者の便宜も考慮して判断する傾向にある。
共有物に関する訴訟の類型
共有物に関する訴訟は、請求の内容に応じて類型が異なる。
- 保存行為に基づく請求: 各共有者が単独で提起可能(固有必要的共同訴訟ではない)。不実登記の抹消請求、不法占拠者への明渡請求が該当する
- 管理行為に基づく請求: 持分の価格の過半数で決定(民法252条本文)。訴訟の当事者適格も過半数の同意が必要とする見解がある
- 変更行為に基づく請求: 共有者全員の同意が必要(民法251条)。固有必要的共同訴訟となりうる
- 共有物分割請求: 判例は共有者全員を当事者とする固有必要的共同訴訟とする(最判昭46.6.18)
学説・議論
固有必要的共同訴訟の範囲をめぐる対立
固有必要的共同訴訟の範囲については、学説上大きな対立がある。
- 限定説(有力説): 固有必要的共同訴訟の範囲を厳格に限定し、可能な限り各権利者の単独提訴を認めるべきとする。この見解は、固有必要的共同訴訟とすると、一部の共有者が訴訟に非協力的な場合に権利保護が事実上不可能になるという弊害を重視する
- 広義説: 権利関係の合一確定の必要がある場合には広く固有必要的共同訴訟を認めるべきとする。矛盾判決の防止を重視する立場である
判例は、概ね限定説の方向に沿って、共有物に関する訴訟の多くの場面で単独提訴を認める傾向にある。
入会権確認訴訟に関する議論
入会権の確認訴訟は、判例上固有必要的共同訴訟とされている(最判昭41.11.25)。入会権は入会集団の構成員全体に総有的に帰属するものであり、個々の構成員が独立して行使できる権利ではないからである。
しかし、入会権確認訴訟を固有必要的共同訴訟とすると、構成員の一部でも原告になることを拒否すれば訴訟を提起できないという問題が生じる。この点について、判例は、訴訟に参加しない構成員を被告側に回すことで対応を認めている(最判平20.7.17)。
この法理に対しては、実質的には原告となるべき者を形式的に被告とする点で技巧的にすぎるという批判がある一方、権利保護の必要性と合一確定の要請の調和を図った実践的な解決として評価する見解もある。
共同訴訟人独立の原則と合一確定
通常共同訴訟では共同訴訟人独立の原則(39条)が適用され、一人の訴訟行為は他の共同訴訟人に影響しない。これに対し、必要的共同訴訟では合一確定の要請から、一人の有利な訴訟行為は全員に効力が及び、不利な訴訟行為は全員が行わなければ効力を生じないとされる(40条)。
この合一確定の規律の具体的内容については、40条1項ないし4項の解釈をめぐって議論がある。特に、一人の上訴が全員に効力を及ぼすか(40条3項)、一人に対する相手方の訴訟行為が全員に効力を生じるか(40条2項)など、具体的場面での適用関係が問題となる。
判例の射程
共有物以外の共同所有形態
本判決は共有物に関する判断であるが、合有や総有に関する訴訟への射程が問題となる。
- 組合財産(合有): 組合の財産に関する訴訟は、原則として組合員全員が当事者となるべきとされるが、業務執行組合員が訴訟を追行できるかが論点となる
- 権利能力なき社団の財産(総有): 判例は、権利能力なき社団が当事者能力を有することを認めており(最判昭39.10.15)、社団自身が訴訟の当事者となることで固有必要的共同訴訟の問題を回避できる
遺産確認訴訟
遺産確認の訴えについて、判例は共同相続人全員が当事者となるべき固有必要的共同訴訟としている(最判昭61.3.13)。遺産の範囲は相続人全員に合一的に確定される必要があるからである。
もっとも、この判例に対しても、相続人の一部が非協力的な場合の権利保護の問題が指摘されており、入会権確認訴訟と同様に、非協力的な相続人を被告とする手法が実務上用いられている。
反対意見・補足意見
本判決には特段の反対意見・補足意見は付されていない。ただし、共同訴訟の類型論は、その後の最高裁判例においてもしばしば問題となり、固有必要的共同訴訟の範囲を拡大する方向と限定する方向の間で判例の展開が見られる。
試験対策での位置づけ
共同訴訟の類型論は、司法試験・予備試験の民事訴訟法においてA級の重要論点であり、通常共同訴訟・類似必要的共同訴訟・固有必要的共同訴訟の区別が繰り返し出題されている。
出題実績としては、新司法試験では平成21年、平成27年、令和元年、令和3年など複数回にわたり出題されている。予備試験でも頻繁に関連する出題がなされている。
主な出題パターンは、(1)共有物に関する訴訟が固有必要的共同訴訟に当たるか、(2)入会権確認訴訟における非協力者の処理、(3)共同訴訟人独立の原則と合一確定の関係、(4)必要的共同訴訟における上訴の効力(40条の適用)、の四つが主な類型である。答案では、訴訟類型の判断基準を示したうえで、具体的事案へのあてはめを丁寧に行うことが重要である。
答案での使い方
論証パターン
共同訴訟の類型を答案で展開する際の基本的な論証の流れは以下のとおりである。
まず、問題提起として「本件訴訟が固有必要的共同訴訟に該当するか。該当する場合、共有者の一部による訴え提起は当事者適格を欠き不適法となる」と記述する。
次に、固有必要的共同訴訟の判断基準を提示する。
「固有必要的共同訴訟に該当するかは、訴訟物たる権利について管理処分権が全員に帰属するか、及び合一確定の必要性があるかにより判断される。」
保存行為に基づく請求の場合は以下のように論じる。
「もっとも、共有物の保存行為は各共有者が単独で行うことができ(民法252条ただし書)、不実登記の抹消請求は保存行為に該当するから、各共有者が単独で訴えを提起できる(最判昭43.3.15)。したがって、固有必要的共同訴訟には当たらない。」
答案記述例
「X1・X2・X3が甲土地を共有しているところ、X1及びX2のみがYに対して所有権確認訴訟を提起した。本件が固有必要的共同訴訟に当たるとすれば、X3を欠く本訴は当事者適格を欠き不適法となる。この点、共有不動産に対する不実登記の抹消請求は保存行為(民法252条ただし書)に該当するから、各共有者が単独で提起できる。しかし、共有物分割請求は共有者全員が当事者となるべき固有必要的共同訴訟である(最判昭46.6.18)。本件は所有権確認訴訟であるところ、共有物の保存行為に準じて各共有者の単独提訴を認めるべきであり、固有必要的共同訴訟には当たらない。」
重要概念の整理
共同訴訟の三類型の比較
比較項目 通常共同訴訟 類似必要的共同訴訟 固有必要的共同訴訟 訴訟共同の要否 任意 任意(共同訴訟にした場合に合一確定) 必要(全員が当事者でなければ不適法) 合一確定 不要(39条・独立の原則) 必要(40条適用) 必要(40条適用) 典型例 交通事故の被害者複数名の損害賠償請求 株主総会決議取消訴訟 共有物分割請求、入会権確認訴訟 一人の上訴 他の共同訴訟人に効力なし 全員に効力あり 全員に効力あり 条文 38条 40条 40条共有物に関する訴訟の類型別整理
請求の類型 実体法上の性質 訴訟類型 単独提訴の可否 不実登記の抹消請求 保存行為(252条ただし書) 通常訴訟 可能 不法占拠者への明渡請求 保存行為 通常訴訟 可能 共有物の使用方法の決定 管理行為(252条本文) 争いあり 過半数の同意が必要との見解あり 共有物分割請求 変更行為に準じる 固有必要的共同訴訟 不可能(全員が当事者)発展的考察
共同訴訟類型論の現代的展開
共同訴訟の類型論は、近年の民事訴訟実務の発展に伴い、新たな課題に直面している。
第一に、令和3年民法改正による共有制度の見直しとの関係である。改正民法では共有物の管理に関する規律が整備され(民法252条の改正)、所在等不明共有者がいる場合の共有物の変更・管理に関する裁判制度が新設された。これらの改正は、共有物に関する訴訟の固有必要的共同訴訟該当性の判断にも影響を与える可能性がある。
第二に、遺産分割と共同訴訟の問題がある。遺産確認の訴えが固有必要的共同訴訟とされる(最判昭61.3.13)ことは確立しているが、遺産分割前の個々の遺産の処分をめぐる訴訟の類型については、なお議論がある。
第三に、権利能力なき社団の訴訟上の取扱いの進展がある。判例は権利能力なき社団に当事者能力を認めることで(29条)、構成員全員を当事者とすべき固有必要的共同訴訟の問題を回避する道を開いた。近年のマンション管理組合をめぐる訴訟など、団体訴訟の需要が高まる中で、固有必要的共同訴訟の範囲の限定は実務的にも重要な課題である。
よくある質問
Q1: 入会権確認訴訟で非協力者がいる場合はどうしますか。
判例は、入会権確認訴訟は固有必要的共同訴訟であるとしつつ、訴訟に参加しない構成員を被告側に回すことで対応を認めている(最判平20.7.17)。この手法は技巧的であるとの批判もあるが、権利保護の必要性と合一確定の要請の調和を図った実践的な解決として評価されている。
Q2: 類似必要的共同訴訟と固有必要的共同訴訟はどう区別しますか。
決定的な区別基準は、訴訟共同が強制されるかどうかである。固有必要的共同訴訟では、全員が共同して訴え又は訴えられなければ当事者適格を欠くが、類似必要的共同訴訟では個別に訴えを提起することは可能であり、共同訴訟として提起された場合にのみ合一確定が要求される。
Q3: 40条の合一確定の規律の具体的内容は何ですか。
必要的共同訴訟において、(1)一人の訴訟行為は全員の利益においてのみ効力を生じ(40条1項)、(2)相手方の訴訟行為は全員に対してのみ効力を生じ(40条2項)、(3)一人について訴訟手続の中断・中止があれば全員に効力が及ぶ(40条3項)。特に重要なのは、一人の有利な訴訟行為(上訴等)は全員に効力が及ぶが、不利な訴訟行為(請求の放棄等)は全員が行わなければ効力を生じないという点である。
Q4: 株主総会決議取消訴訟はなぜ類似必要的共同訴訟なのですか。
株主総会決議取消訴訟(会社法831条)は、各株主が個別に提起できるが、判決の効力が対世効を有する(838条)ため、複数の株主が訴えを提起した場合に結論が矛盾することは許されない。よって、共同訴訟として審理される場合には合一確定が必要となり、類似必要的共同訴訟に該当する。
ポイント解説の補足: 固有必要的共同訴訟の範囲の限定傾向
判例は近年、固有必要的共同訴訟の範囲を限定する方向に展開している。その背景には、固有必要的共同訴訟とすると、一部の共有者が訴訟に非協力的な場合に権利保護が事実上不可能になるという深刻な問題がある。
この問題に対処するため、(1)保存行為に基づく請求の拡大、(2)非協力者を被告とする手法の承認、(3)権利能力なき社団の当事者能力の承認、等の方法が判例上発展してきた。答案では、固有必要的共同訴訟の判断に際して、合一確定の要請と個別の権利保護の必要性のバランスを意識した記述が求められる。
関連条文
訴訟の目的が共同訴訟人の全員について合一にのみ確定すべき場合には、その一人の訴訟行為は、全員の利益においてのみその効力を生ずる。
― 民事訴訟法 第40条第1項
関連判例
- 既判力の主観的範囲に関する判例 - 共同訴訟と既判力の関係
- 確認の利益に関する判例 - 所有権確認訴訟の訴えの利益
まとめ
共同訴訟の類型に関する本判決は、共有物に関する訴訟の固有必要的共同訴訟該当性の判断基準を示した重要判例である。判例は、保存行為に該当する請求については各共有者の単独提訴を認め、固有必要的共同訴訟の範囲を限定する方向で展開してきた。学説上は、固有必要的共同訴訟の範囲について限定説と広義説の対立があり、入会権確認訴訟や遺産確認訴訟など具体的な場面で議論が続いている。共同訴訟の類型の判断は、合一確定の要請と個別の権利保護の必要性の調和という民事訴訟法の基本的な課題に関わるものである。