/ 民事訴訟法

【判例】確認の利益の判断基準(最判昭47.11.9)

確認の利益に関する最高裁判例を解説。確認訴訟の適法要件としての確認の利益の判断枠組み、対象選択の適否、即時確定の利益の意義を分析します。

この判例のポイント

確認訴訟が適法であるためには「確認の利益」が必要であり、その判断にあたっては、確認対象の選択の適否、確認を求める法律上の利益(即時確定の利益)、被告適格(方法選択の適否)の3点を考慮すべきである。 判例は確認の利益の有無を個別具体的な事案に即して判断しており、確認訴訟の適用範囲は拡大傾向にある。


事案の概要

Xは、Y所有の土地について通行地役権を有すると主張し、通行地役権の確認を求める訴えを提起した。Yは、Xには確認の利益がないとして訴えの却下を求めた。Yの主張は、Xの権利が侵害されているのであれば妨害排除請求訴訟(給付訴訟)を提起すべきであり、あえて確認訴訟を選択する必要はないというものであった。

問題は、給付訴訟を提起しうる場合にも確認訴訟を選択することが許されるか、すなわち確認訴訟の方法選択としての適否(確認の利益の有無)であった。


争点

  • 確認の利益の判断枠組み
  • 給付訴訟が可能な場合に確認訴訟を選択することの適否
  • 確認対象の選択の適否――権利関係の確認と事実の確認

判旨

確認の訴は、原告の権利又は法律的地位に現に不安、危険が存し、かつ、これを除去するために確認判決を得ることが必要かつ適切である場合に許される

― 最高裁判所第一小法廷 昭和47年11月9日 昭和45年(オ)第831号

最高裁は、確認の利益について上記の一般的判断基準を示したうえで、通行地役権の存否が争われている本件では確認の利益が認められると判断した。

その理由として、Xの通行地役権がYによって否認されている状態は、Xの法律上の地位に現実の不安・危険を生じさせていること、及びこの不安を除去するためには通行地役権の存在を確認する判決を得ることが有効適切な手段であることを挙げた。


ポイント解説

確認の利益の三要素

学説・判例は、確認の利益の判断にあたって以下の三つの要素を考慮すべきものとしている。

  • 確認対象の選択の適否: 確認を求める対象として適切なものが選択されているか
  • 即時確定の利益(確認を求める法律上の利益): 原告の権利または法律上の地位に現実の不安・危険が存在し、確認判決によってそれを除去する必要があるか
  • 方法選択の適否: 紛争解決の手段として確認訴訟を選択することが適切か(給付訴訟や形成訴訟で解決すべきではないか)

確認対象の選択の適否

確認訴訟の対象は、原則として現在の権利又は法律関係でなければならない。

  • 過去の権利関係の確認: 原則として確認の利益が認められない。過去の法律関係の確認は、現在の紛争の解決に直接つながらないためである。ただし、過去の法律関係の確認が現在の紛争を抜本的に解決する場合には例外的に確認の利益が認められることがある(遺言無効確認訴訟等)
  • 事実の確認: 事実の確認は原則として確認の利益がない。しかし、証書真否確認の訴え(民訴法134条)は例外的に事実の確認を認めたものである
  • 将来の法律関係の確認: 将来の法律関係についても原則として確認の利益がないが、現在の法律関係に密接に関連する場合には認められることがある

即時確定の利益

即時確定の利益が認められるためには、以下の要素が必要とされる。

要素 内容 権利・法的地位の不安 原告の権利または法律上の地位に現実の不安・危険が存在すること 被告による否認・争い 被告が原告の権利・法的地位を否認または争っていること 確認判決の有効性 確認判決を得ることで不安・危険が除去されること

方法選択の適否

確認訴訟と給付訴訟の関係について、従来の学説は給付訴訟が可能な場合には確認訴訟の利益は否定されると解する傾向にあった。給付訴訟の確定判決は執行力を有するため、紛争の終局的解決にはより有効だからである。

しかし、判例は給付訴訟が可能であっても確認訴訟の利益を直ちに否定しない立場をとっている。たとえば、継続的な法律関係の確認は、個々の給付請求よりも紛争の根本的解決に資する場合がある。


学説・議論

確認訴訟の補充性をめぐる対立

確認訴訟が給付訴訟・形成訴訟に対して補充的な地位にあるかについては、学説上の対立がある。

  • 補充性肯定説(伝統的見解): 給付訴訟や形成訴訟が可能な場合には、確認訴訟は原則として許されない。確認判決には既判力しかなく執行力がないため、紛争の終局的解決には給付訴訟の方が適している
  • 補充性否定説(有力説): 確認訴訟と給付訴訟の関係は補充性の問題ではなく、紛争解決の実効性の観点から判断すべきである。確認訴訟が紛争の根本的解決に資する場合には、給付訴訟が可能であっても確認の利益が認められるべきである

判例は、概ね補充性否定説に近い立場をとっており、確認訴訟の適用範囲を柔軟に認める傾向にある。

遺言無効確認訴訟と確認の利益

遺言無効確認訴訟は、確認の利益に関する重要な論点を提起している。遺言は遺言者の死亡によって初めて効力が生じるものであるところ、遺言の無効確認は過去の法律行為の有効性の確認という側面を有する。

最高裁は、遺言無効確認訴訟の確認の利益について、遺言が無効であるとすればそれから生ずべき現在の法律関係が存在しないことの確認を求めるものと理解することにより、確認の利益を肯定している(最判昭47.2.15)。この法理は、過去の法律関係の確認であっても、現在の法律関係の不安を解消する実効性が認められる場合には確認の利益を認めるものとして注目される。

確認訴訟の拡大と行政訴訟

確認訴訟の適用範囲の拡大は、行政訴訟の分野においても重要な意味を持っている。2004年の行政事件訴訟法改正で公法上の法律関係に関する確認の訴え(実質的当事者訴訟)が明文化されたことにより、行政処分の取消訴訟では争えない行政活動についても、確認訴訟による権利救済の道が開かれた。

この文脈において、確認の利益の判断基準は行政訴訟においても民事訴訟の判例法理が基礎となるものであり、本判決の示した枠組みの射程は民事訴訟にとどまらない。


判例の射程

消極的確認訴訟

確認訴訟には、権利の存在の確認を求める積極的確認訴訟と、権利の不存在の確認を求める消極的確認訴訟がある。

消極的確認訴訟(たとえば、債務不存在確認訴訟)についても確認の利益の判断枠組みは同じであるが、被告が原告に対して権利を主張している場合に確認の利益が特に認められやすい。もっとも、被告が別途給付訴訟を提起した場合には、消極的確認訴訟の確認の利益が失われるかという問題がある。

確認の利益の消滅

確認の利益は訴え提起時に存在していれば足りるのが原則であるが、訴訟係属中に紛争状況が変化した場合には確認の利益が消滅することがある。

  • 被告が原告の権利を認めた場合: 権利の不安が解消されるため、確認の利益が消滅しうる
  • 別訴で給付判決が確定した場合: 確認判決の必要性が消滅しうる
  • 法律関係が消滅した場合: 確認対象の法律関係自体が消滅した場合

将来の法律関係の確認

将来の法律関係の確認については、原則として確認の利益が認められないが、現在の法律関係に密接に関連し、紛争の予防的解決に資する場合には例外的に認められることがある。


反対意見・補足意見

本判決には特段の反対意見・補足意見は付されていない。ただし、確認の利益の判断基準については、個別的・具体的判断を要するため、下級審の判断にばらつきが見られ、最高裁においてもその射程が継続的に問題となっている。


試験対策での位置づけ

確認の利益は、司法試験・予備試験の民事訴訟法においてA級の最重要論点の一つであり、確認訴訟の適法要件として繰り返し出題されている。出題実績としては、新司法試験では平成19年、平成24年、平成28年、令和2年など多数回出題されている。主な出題パターンは、(1)確認の利益の三要素(確認対象の選択・即時確定の利益・方法選択の適否)の判断、(2)給付訴訟が可能な場合の確認訴訟の適否(補充性の問題)、(3)過去の法律関係の確認の可否(遺言無効確認等)、(4)行政訴訟における確認訴訟の活用、の四つである。答案では、三要素を順次検討する構成が基本であり、特に方法選択の適否の論証が合否を分けるポイントとなる。


答案での使い方

論証パターン

確認の訴えは、原告の権利又は法律的地位に現に不安・危険が存し、かつ、これを除去するために確認判決を得ることが必要かつ適切である場合に許される(最判昭47.11.9)。確認の利益の判断にあたっては、(1)確認対象の選択の適否、(2)即時確定の利益(確認を求める法律上の利益)、(3)方法選択の適否の三要素を考慮すべきである。」

答案記述例

「Xの通行地役権の確認訴訟について確認の利益を検討する。(1)確認対象は現在の権利関係(通行地役権の存否)であり、確認対象の選択は適切である。(2)YがXの通行地役権を否認している状況はXの法律上の地位に現実の不安を生じさせており、即時確定の利益が認められる。(3)Xは妨害排除請求訴訟(給付訴訟)を提起しうるが、通行地役権の存否を確認する判決を得ることが紛争の根本的解決に資する以上、確認訴訟の選択も適切である。よって確認の利益が認められる。」


重要概念の整理

三要素 内容 判断基準 確認対象の選択 確認を求める対象が適切か 原則として現在の権利又は法律関係。過去の法律関係・事実は原則不可 即時確定の利益 確認判決を得る必要性があるか 権利の不安の存在+確認判決による除去の有効性 方法選択の適否 確認訴訟を選択することが適切か 給付訴訟・形成訴訟との比較。補充性は否定傾向

発展的考察

確認訴訟の活用は、2004年行訴法改正で実質的当事者訴訟(行訴法4条後段)が明文化されたことにより、行政法の分野で大きく拡大した。在外邦人選挙権訴訟(最大判平17.9.14)は、公法上の法律関係の確認訴訟として確認の利益を認めた画期的判例である。さらに、近年ではジェンダーやプライバシーに関する法律関係の確認訴訟が新たに登場しており、確認訴訟の射程はますます広がっている。確認の利益の三要素は、このような新類型の訴訟においても基本的な判断枠組みとして機能している。


よくある質問

Q1: 過去の法律関係の確認は絶対に認められませんか。

原則として認められないが、過去の法律関係の確認が現在の紛争を抜本的に解決する場合には例外的に確認の利益が認められる。遺言無効確認訴訟(最判昭47.2.15)がその代表例であり、遺言が無効であるとすればそこから生ずべき現在の法律関係が存在しないことの確認と理解することで確認の利益が肯定される。

Q2: 給付訴訟が提起できる場合に確認訴訟は認められますか。

判例は、給付訴訟が可能であっても確認訴訟の利益を直ちに否定しない立場をとっている。確認訴訟が紛争の根本的解決に資する場合(例えば、継続的法律関係の確認)には、給付訴訟の提起が可能であっても確認の利益が認められる。確認訴訟の補充性は近年否定傾向にある。

Q3: 消極的確認訴訟(債務不存在確認)の確認の利益はどう判断しますか。

消極的確認訴訟も確認の利益の三要素で判断される。被告が原告に対して債権を主張している場合には、即時確定の利益が認められやすい。ただし、被告が別途給付訴訟を提起した場合、消極的確認訴訟の確認の利益が消滅するかが問題となる。

Q4: 証書真否確認の訴えとは何ですか。

民訴法134条は、法律関係を証する書面の成立の真否を確認するための訴えを認めている。これは事実の確認を例外的に認める規定であり、確認の利益の一般原則(権利・法律関係の確認に限定)の例外である。


関連条文

確認の訴えは、法律関係を証する書面の成立の真否を確定するためにも提起することができる。

― 民事訴訟法 第134条


関連判例


まとめ

確認の利益に関する本判決は、確認訴訟の適法要件として、確認対象の選択の適否・即時確定の利益・方法選択の適否の三要素を総合的に判断する枠組みを示した重要判例である。判例は給付訴訟が可能な場合にも確認の利益を柔軟に認める傾向にあり、確認訴訟の補充性については否定説が有力化している。確認訴訟の適用範囲は行政訴訟における実質的当事者訴訟の活用にも展開しており、確認の利益の判断基準は民事訴訟法にとどまらない広がりを有する重要論点である。

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