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記事刑法大阪南港事件と危険の現実化|刑法の因果関係をわかりやすく

大阪南港事件と危険の現実化|刑法の因果関係をわかりやすく

刑法 読了 約35分

大阪南港事件(最決平2.11.20)を時系列表で整理し、危険の現実化説・条件説・相当因果関係説を比較表で対比。米兵ひき逃げ事件・高速道路侵入事件など介在事情の類型別に判例を整理します。

この判例のポイント

刑法上の因果関係は、行為と結果の間に条件関係があるだけでは足りず、行為の危険性が結果へと現実化したといえるかどうかが判断基準となる。判例は従来「相当因果関係説」に近い立場をとってきたが、近時は「危険の現実化」という枠組みで因果関係の有無を判断する傾向にある。

この枠組みを最もよく示すのが大阪南港事件(最決平2.11.20・刑集44巻8号837頁)であり、「危険の現実化」という文言を最高裁が明示的に用いたのが日航機ニアミス事件(最決平22.10.26・刑集64巻7号1019頁)である。

この記事を読めば、次の疑問にひととおり答えが出るように構成している。

  • 条件説とは何か、なぜそれだけでは足りないのか
  • 刑法の因果関係に関する判例は何をどう判断したのか(米兵轢き逃げ事件・大阪南港事件・高速道路侵入事件ほか)
  • 各事件の事案・判旨・射程を、条文番号や年月日を正確に押さえながら理解する
  • 論文・短答でどう使い分けて書けばよいか

まず結論:刑法の因果関係とは

刑法上の因果関係とは、ある実行行為と発生した結果(死亡・傷害など)との間に、その結果を行為者の所為として帰責できるだけの結びつきがあるかどうかを問う概念である。因果関係は、結果犯(殺人罪・傷害致死罪など、結果の発生を構成要件要素とする犯罪)において構成要件該当性の一要素として要求される。

因果関係が否定されると、結果について既遂責任を問えない。たとえば殺人の故意で人を撃ったが、被害者が無関係の事故で死亡した場合、因果関係がなければ殺人既遂は成立せず、殺人未遂にとどまる。傷害致死で因果関係が否定されれば、残るのは傷害罪だけである。因果関係は「未遂か既遂か」「致死か単なる傷害か」を分ける、罪責の重さに直結する論点なのである。

因果関係の判断は、講学上、次の2段階で考えるのがわかりやすい。

  1. 条件関係(事実的因果関係):「その行為がなければその結果は発生しなかった」という事実レベルの結びつきがあるか
  2. 法的因果関係:条件関係を前提に、なお結果を行為者に帰責してよいだけの法的・規範的な結びつきがあるか

この2段階目の判断基準をめぐって、条件説・相当因果関係説・危険の現実化論が対立してきた。以下、検索でよく問われる「条件説とは」から順に定義していく。


条件説とは(定義)

条件説とは、行為と結果との間に「あれなければこれなし」(ラテン語で conditio sine qua non)の関係、すなわち条件関係さえあれば、それだけで刑法上の因果関係を肯定してよいとする立場である。

「あれなければこれなし」とは、その行為を取り除いて仮定的に考えたとき、その結果が(その形・その時点で)発生しなかったといえるかを問う公式である。発生しなかったといえるなら条件関係あり、それでも結果が発生したといえるなら条件関係なし、と判断する。

条件説の特徴と批判

条件説の長所は、判断が明確で簡明な点にある。仮定的な除去によって結果の有無を問うだけなので、誰が判断しても結論がぶれにくい。

しかし、条件説に対しては「処罰範囲が広がりすぎる」という決定的な批判がある。条件関係をどこまでもさかのぼれば、「殺人犯を産んだ親の出産行為」にまで条件関係が及んでしまう。また、行為後に異常な介在事情(第三者の故意行為、被害者の異常行動など)が割り込んで結果が生じた場合でも、最初の行為に条件関係がある限り因果関係を認めることになり、行為者に酷な結論を導きかねない。

そこで通説・判例は、条件関係を因果関係の出発点・最低限の前提としつつ、さらに法的因果関係による限定を加える。つまり、現在の通説・判例は「純粋な条件説」を採らない。条件説は、あくまで因果関係論の土台として理解しておけばよい。

条件関係が問題となる特殊類型

  • 仮定的因果関係:その行為がなくても、別の原因によっていずれ同じ結果が生じたであろう場合。判例・通説は、現実に発生した結果を基準に具体的に判断し、仮定的な代替原因は条件関係を否定しないとする(処刑される直前の死刑囚を第三者が射殺しても殺人既遂)。
  • 択一的競合:複数の行為が単独でも結果を発生させえた場合(A・Bが致死量の毒を別々に投与した等)。各行為を個別に除いても結果が残るため、形式的な「あれなければこれなし」公式では条件関係が否定されかねず、修正が議論される。
  • 重畳的因果関係:単独では足りない行為が複数合わさって結果を生じた場合。

これらは短答で問われやすい。条件関係の公式を「結果の具体化(いつ・どこで・どのように発生した結果か)」に着目して当てはめる、という発想を押さえておきたい。


相当因果関係説とは(定義)

相当因果関係説とは、条件関係の存在を前提として、さらに行為から結果が生じることが社会生活上の経験に照らして相当(通常ありうること)といえる場合にのみ、法的因果関係を肯定する立場である。条件説の広すぎる処罰範囲を、「相当性」という枠で絞り込もうとするものである。

問題は、相当性を判断するにあたってどの事情を判断の基礎に置くか(判断基底)であり、ここで学説が三つに分かれる。

学説 判断基底 特徴・批判
主観説 行為者が認識・予見していた事情 行為者の主観を重視。故意論との区別が曖昧になるとの批判
客観説 行為時に客観的に存在したすべての事情+行為後の一般的に予見可能な事情 判断基底が広く、ほぼ条件説と結論が一致するとの批判
折衷説 一般人が認識しえた事情+行為者が特に認識していた事情 通説的見解。判例もこれに近い立場とされてきた

相当因果関係説は長く通説の地位を占めたが、行為後の異常な介在事情をどう扱うかで説明に窮する場面があり(後述の大阪南港事件がその典型)、近時は危険の現実化論に主役を譲りつつある。


危険の現実化論とは(定義)

危険の現実化論とは、条件関係を前提に、実行行為のもつ危険性が結果へと現実化したといえるかを基準に法的因果関係を判断する立場である。「相当か否か」ではなく、「行為の危険が結果という形で現れたか」を直接問う点に特色がある。

判断は、おおむね次の二つの型に整理される。

  • 直接実現型:行為の危険性が、介在事情をはさまず(あるいは介在事情の影響を受けつつも)直接に結果へ実現した場合。行為の危険が結果の主たる原因であれば、多少の介在事情があっても因果関係を肯定する(大阪南港事件型)。
  • 間接実現型:行為の危険性が介在事情を誘発し、その介在事情を通じて結果に実現した場合。介在事情が行為の危険性に起因するもの(行為が誘発したもの)といえるかが決め手になる(高速道路侵入事件型)。

具体的には、(1)行為自体の危険性の程度、(2)介在事情の異常性の程度、(3)介在事情の結果への寄与度の3点を総合して判断する。近時の最高裁は、後述する日航機ニアミス事件で「危険性が現実化した」という文言を明示的に用いており、判例上この枠組みが定着したと理解されている。


事案の概要(主要判例)

刑法の因果関係に関する判例は数多いが、検索でも頻出し、答案でも引用頻度が高いのが次の3件である。いずれも、行為と結果の間に何らかの介在事情が割り込んだ事案であり、「介在があっても因果関係を肯定できるか」を判断したものとして共通する。

米兵轢き逃げ事件とは(最決昭42.10.24)

米兵轢き逃げ事件とは、自動車で被害者をはねた被告人がそのまま走行を続けたところ、同乗者が走行中に被害者を屋根から引きずり降ろし、その転落を経て被害者が死亡した事案について、被告人の運転行為と死亡との因果関係を否定した最高裁決定(最決昭和42年10月24日・刑集21巻8号1116頁)をいう。

事案を具体的にみると、被告人は自動車を運転中に被害者をはねて自車の屋根に跳ね上げたが、そのまま走行を続けた。同乗者が、走行中に被害者を屋根から路上に引きずり降ろし、被害者は死亡した。死因となった頭部の傷害が、最初の衝突によるものか、引きずり降ろされた転落によるものかを確定できない点に難しさがあった。

注意すべきは結論である。最高裁は、同乗者が被害者を引きずり降ろすというような行為は「経験上、普通、予想しえられるところではな」いとして、因果関係を否定した。その結果、業務上過失致死ではなく業務上過失傷害にとどまるとされている。「介在事情があっても因果関係が肯定された判例」として大阪南港事件と並べて覚えてしまう誤りが多いので、この事件は否定例として整理しておきたい。

大阪南港事件とは(最決平2.11.20)

大阪南港事件とは、被告人の暴行によって死因となる傷害が形成された後、第三者が新たに暴行を加えて死期を早めた事案について、被告人の暴行と死亡との因果関係を肯定した最高裁決定(最決平成2年11月20日・刑集44巻8号837頁)をいう。傷害致死罪の成立が認められた。

事案の流れを、行為・介在事情・結果に分解して整理すると次のようになる。

段階 誰が 何をしたか 結果への影響
① 実行行為 被告人 飯場において、洗面器の底や皮バンドで被害者の頭部を多数回殴打した 内因性高血圧性橋脳出血(死因となる傷害)を発生させた
② 放置 被告人 意識を失った被害者を自動車で大阪南港の資材置場まで運び、放置した 救護がされず、脳出血が進行
③ 介在事情 第三者(犯人不明) 放置中の被害者の頭頂部を角材で数回殴打した 既に生じていた脳出血を拡大させ、死期をいくらか早めた
④ 結果 被害者が死亡 死因は①による内因性高血圧性橋脳出血
⑤ 判断 最高裁 ①と死亡との因果関係を肯定 傷害致死罪の成立を認めた原判断を是認

ポイントは③の位置づけである。第三者の暴行は、新たな死因を作り出したのではなく、①によって既に形成されていた死因の進行を早めたにすぎない。ここが、介在事情が独立の死因を形成した場合との決定的な違いである。

高速道路侵入事件とは(最決平15.7.16)

高速道路侵入事件とは、被告人らの激しい暴行から逃れようとした被害者が高速道路に進入し、走行中の自動車にはねられて死亡した事案について、被告人らの暴行と死亡との因果関係を肯定した最高裁決定(最決平成15年7月16日)をいう。

被告人らは被害者に対し長時間にわたり激しく執拗な暴行を加え、被害者は極度の恐怖から逃走して高速道路に進入し、走行中の自動車に衝突されて死亡した。被害者自身の逃走行動および自動車運転者の行為が介在した場合に、被告人らの暴行と死亡との間に因果関係が認められるかが争点となった。


争点

以下の判例に共通する争点は、行為と結果の間に何らかの事情が割り込んだ場合に、なお結果を行為者に帰責してよいかである。判断基準として条件説・相当因果関係説・危険の現実化説のいずれを採るかによって、結論が分かれうる。

  • 行為と結果との間に介在事情が存在する場合、因果関係は認められるか
  • 因果関係の判断基準として、いかなる理論を採用すべきか

判旨

三つの判例のうち、大阪南港事件と高速道路侵入事件は因果関係を肯定し、米兵ひき逃げ事件は否定した。肯定した二件はさらに、行為の危険が直接実現した型(大阪南港)と、介在事情を誘発して実現した型(高速道路侵入)に分かれる。以下、それぞれの判示を確認する。

米兵ひき逃げ事件

同乗者が被害者を自動車の屋根から引きずり降ろし路上に転落させるというがごときことは、経験上、普通、予想しえられるところではなく……被告人の過失行為から被害者の死の結果の発生することが、われわれの経験則上当然予想しえられるところであるとは到底いえない

― 最高裁判所 昭和42年10月24日決定(刑集21巻8号1116頁)

本決定は、因果関係を否定した。理由は二つ重なっている。第一に、同乗者が走行中の車の屋根から被害者を引きずり降ろすという介在事情が、経験上予想しがたい異常なものであったこと。第二に、死因となった頭部の傷害が最初の衝突によるものか転落によるものかを確定できなかったことである。その結果、業務上過失致死ではなく業務上過失傷害が成立するにとどまった。

この判断は、条件関係があるだけでは足りないこと、そして介在事情の異常性が因果関係を切断しうることを示した点で、後の判例の出発点となっている。

大阪南港事件

犯人の暴行により被害者の死因となった傷害が形成された場合には、仮にその後第三者により加えられた暴行によって死期が早められたとしても、犯人の暴行と被害者の死亡との間の因果関係を肯定することができ、本件において傷害致死罪の成立を認めた原判断は、正当である

― 最高裁判所第三小法廷 平成2年11月20日決定(刑集44巻8号837頁)

本決定は、被告人の暴行が死因を形成していた以上、第三者の暴行によって死期が早められたとしても因果関係は否定されないとした。米兵ひき逃げ事件が重視した「介在事情の異常性」ではなく、死因を形成したのは誰の行為かという観点を前面に出した点が重要である。第三者による殴打はそれ自体きわめて異常な介在事情であるにもかかわらず、因果関係が肯定されている。ここに、判例の判断枠組みが相当因果関係説から「危険の現実化」へと移っていく転換点を読み取るのが一般的な理解である(相当因果関係説と危険の現実化説の違いも参照)。

高速道路侵入事件

被害者が逃走しようとして高速道路に進入したことは、それ自体極めて危険な行為であるというほかないが、被害者は、被告人らから長時間激しくかつ執ような暴行を受け、被告人らに対し極度の恐怖感を抱き、必死に逃走を図る過程で、とっさにそのような行動を選択したものと認められ、その行動が、被告人らの暴行から逃れる方法として、著しく不自然、不相当であったとはいえない

― 最高裁判所第二小法廷 平成15年7月16日決定(平成15年(あ)第35号・刑集57巻7号950頁)

本決定は、被害者自身の異常な行動が介在した事案について、その行動が暴行から逃れる方法として著しく不自然・不相当とはいえないことを理由に因果関係を肯定した。注目すべきは、判断の重点が「その行動が一般的に予想できたか」ではなく、「被告人らの暴行との関係で不自然・不相当といえるか」に置かれている点である。行為の危険性が介在事情を誘発したかを問う、間接実現型の典型的な判断構造である。


学説の比較と介在事情の類型

条件説・相当因果関係説・危険の現実化説は、いずれも「条件関係があることを前提に、なお結果を帰責してよいか」を判断する枠組みである。違いは、何を判断の対象とし、どの事情を判断の基礎に置くかにある。まずこの三者を一枚の表で対比し、続いて判例を介在事情の類型ごとに整理する。

三説の比較表

比較項目 条件説 相当因果関係説 危険の現実化説
判断の対象 条件関係の有無のみ 行為から結果が生じることの「相当性」 行為の危険性が結果に現実化したか
判断基底(何を基礎に置くか) 事実として存在した一切の事情 主観説=行為者が認識・予見した事情/客観説=行為時に客観的に存在した全事情+行為後の予見可能な事情/折衷説=一般人が認識しえた事情+行為者が特に認識していた事情 行為自体の危険性の程度・介在事情の異常性・介在事情の結果への寄与度
介在事情の扱い 条件関係が切れない限り因果関係を肯定 介在事情の予見可能性・異常性で切断を判断 介在事情が行為の危険から誘発されたか、行為の危険が直接実現したかで判断
結論の傾向 処罰範囲が最も広い 異常な介在事情があると因果関係が切れやすい 介在事情が異常でも、行為が死因を形成していれば肯定される
主な批判 処罰範囲が広がりすぎ、際限なくさかのぼる 「相当性」の内容が曖昧で、判断基底の選択により結論が動く 「危険」「現実化」の内容がなお不明確で、結論の言い換えにすぎないとの指摘
判例との関係 初期の判例に近い 判例をこの立場に分類する従来の理解があった 日航機ニアミス事件が「危険性が現実化した」と明示

この表で最も重要なのは結論の傾向の行である。大阪南港事件は、第三者による殴打というきわめて異常な介在事情がありながら因果関係を肯定した。折衷的相当因果関係説からはこの結論を説明しにくく、これが相当因果関係説の危機と呼ばれ、危険の現実化説が有力化する契機となった(条件説とは危険の現実化説とはも参照)。

介在事情の類型別・判例整理表

介在事情は「誰の行為が割り込んだか」で三つに分けると整理しやすい。類型ごとに、判例が何を決め手にしたかが違う。

介在事情の類型 判例 介在した事情 結論 決め手
被害者の行為の介在 高速道路侵入事件(最決平15.7.16・刑集57巻7号950頁) 被害者が逃走して高速道路に進入し、自動車に衝突された 肯定 逃走という行動が、暴行から逃れる方法として著しく不自然・不相当とはいえない
第三者の行為の介在(故意行為) 大阪南港事件(最決平2.11.20・刑集44巻8号837頁) 犯人不明の第三者が角材で頭部を殴打 肯定 死因となる傷害は被告人の暴行により既に形成されていた
第三者の行為の介在(過失行為) トランク監禁事件(最決平18.3.27・刑集60巻3号382頁) 停車中の車に第三者の車が追突 肯定 トランク内への監禁行為自体が類型的に死傷の危険を有する
第三者の行為の介在(異常な行為) 米兵ひき逃げ事件(最決昭42.10.24・刑集21巻8号1116頁) 同乗者が走行中の車の屋根から被害者を引きずり降ろした 否定 経験上普通に予想しえない介在事情であり、死因の由来も確定できなかった
行為者自身の後行行為の介在 最初の暴行の後、行為者自身が遺棄・移動等を行った 事案による 各行為の危険性が結果にどう寄与したかを個別に判断

この表の使い方は単純である。問題文で介在事情を見つけたら、まず誰の行為かを確定し、次に行為者の当初行為が死因(結果の直接原因)を作っているかを確認する。作っていれば大阪南港事件型(直接実現型)、作っておらず介在事情が直接原因なら、その介在事情が当初行為から誘発されたといえるかを問う高速道路侵入事件型(間接実現型)になる。誘発関係も認めがたい異常な介在なら、米兵ひき逃げ事件型として否定に傾く。

危険の現実化の判断枠組み

危険の現実化説による判断は、次の4段階で行うと具体的な事実に落とし込みやすい。

判断段階 検討内容 大阪南港事件での現れ方
第1段階 行為自体の危険性の有無・程度 頭部を多数回殴打する行為は、生命に対する高度の危険を有する
第2段階 介在事情の有無・性質 犯人不明の第三者による角材での殴打
第3段階 介在事情の異常性の程度 通常予想しがたい異常な介在事情である
第4段階 結果に対する寄与度の比較 死因は被告人の暴行により形成済み。介在事情は死期を早めたにすぎない

第3段階だけを見れば因果関係は否定されそうだが、第4段階で覆るのが大阪南港事件の構造である。介在事情の異常性を単独で決め手にしないところに、相当因果関係説との違いが表れている。


学説・議論

相当因果関係説には「相当性」の曖昧さと判例の結論を説明しきれない点への批判があり、危険の現実化説にも「危険」「現実化」の内容が不明確との批判がある。ドイツの客観的帰属論との関係もあわせて論じられる。以下、主要な議論を整理する。

相当因果関係説に対する批判

相当因果関係説は長らく通説的地位を占めてきたが、以下の批判が向けられている。

  • 判例の結論を説明できない場面がある。大阪南港事件では、第三者による殴打という異常な介在事情がありながら因果関係が肯定された。折衷説の判断基底(一般人が認識しえた事情)からはこの結論を導きにくく、この点が「相当因果関係説の危機」と呼ばれた
  • 判例が「相当因果関係」という文言を用いていない。判例が学説上の相当因果関係説を明示的に採用したことはなく、判例の立場をこの説に分類すること自体に疑問が向けられている
  • 「一般人」の知識水準が不明確である。どこに設定するかによって結論が左右される

危険の現実化論に対する評価

学説の近時の動向として、危険の現実化論を支持する見解が有力化している。

  • 肯定的評価: 介在事情の異常性ではなく行為の危険性と結果との結びつきに着目することで、大阪南港事件を含む判例の具体的結論を統一的に説明できる
  • 批判的評価: 「危険」の内容や「現実化」の意味がなお明確でなく、結論の言い換えにすぎないとの批判がある

客観的帰属論の影響

ドイツで展開された客観的帰属論(objektive Zurechnung)も、日本の因果関係論に影響を与えている。客観的帰属論は、行為が法的に許されない危険を創出し、その危険が構成要件的結果として実現した場合に結果を行為者に帰属させるという理論であり、危険の現実化論との親和性が指摘される一方、日本法における受容の程度については議論がある。


判例の射程

大阪南港事件の法理は、被告人の行為が死因を形成していることを前提とする。高速道路侵入事件の法理は、被害者の異常行動が暴行によって誘発されたことを前提とする。前提事実を欠く事案に規範だけを引用すると、射程を誤ることになる。

大阪南港事件の射程

大阪南港事件の「死因を形成した暴行の因果関係は、死期を早めた第三者の行為によっては否定されない」という法理は、死因の形成が被告人の行為によるものである限り適用される。ただし、第三者の行為が単に「死期を早めた」にとどまらず、独立の死因を形成した場合には、被告人の行為との因果関係は否定される可能性がある。

高速道路侵入事件の射程

高速道路侵入事件の法理は、被告人の暴行が被害者に逃走行動をとらせるほど激しいものであったことが前提となっている。被告人の行為と被害者の異常行動との間に合理的な関連性がない場合には、本判例の射程は及ばない。

因果関係論の展開と今後

判例は、個別事案における具体的判断を積み重ねる形で因果関係の法理を形成してきた。条件説から相当因果関係説へ、そして危険の現実化論へという展開は、因果関係の判断基準をより実質化させる方向にある。もっとも、判例が特定の学説を明示的に採用したことはなく、今後も個別事案の判断を通じて法理が精緻化されていくものと考えられる。


試験対策での位置づけ

刑法上の因果関係は、司法試験・予備試験の刑法科目において最頻出論点の一つである。刑法総論の「構成要件該当性」の中核をなす論点であり、短答式・論文式のいずれにおいても繰り返し出題されている。

短答式試験では、条件説・相当因果関係説(主観説・客観説・折衷説)・危険の現実化説の各学説の内容と相互関係を問う出題が定番である。具体的には、各学説の判断基底の違いや、各判例がどの学説と親和的であるかを問う正誤問題が頻出する。とりわけ、判例の結論(肯定か否定か)を取り違えていないかを試す形式に注意したい。大阪南港事件は肯定例、米兵ひき逃げ事件は否定例である。

論文式試験では、因果関係は事例問題の中で必ずといってよいほど検討が求められる。単に学説の名称を挙げるだけでは足りず、判例の規範を正確に摘示したうえで、事実を当てはめる能力が試される。特に、介在事情の存在する事案において、行為の危険性が結果へと現実化したかどうかを具体的事実に即して論じることが求められる。

予備試験・法科大学院入試においても因果関係は基本論点であり、大阪南港事件・高速道路侵入事件・トランク監禁事件(最決平18.3.27)・米兵ひき逃げ事件(最決昭42.10.24)は必ず押さえておきたい。


答案での使い方

答案は、条件関係の確認 → 法的因果関係(危険の現実化)の規範定立 → 介在事情の検討という三段階で構成する。介在事情がある場合は、行為自体の危険性・介在事情の異常性・介在事情の結果への寄与度の三点を、具体的事実に即して論じる。

基本的な論証パターン

論文試験において因果関係を論じる際は、以下の手順で答案を構成する。

第1段階: 条件関係の確認

まず、行為と結果との間に条件関係(「あれなければこれなし」の関係)が存在することを簡潔に確認する。条件関係が否定される場合はそもそも因果関係が問題とならないため、ここは簡潔に処理してよい。

第2段階: 法的因果関係(危険の現実化)の検討

条件関係が認められることを前提に、法的因果関係の有無を検討する。現在の判例の立場に即して論じる場合は、以下のような記述が基本形となる。

「本件では、甲の行為と被害者Aの死亡結果との間の因果関係が問題となる。この点、因果関係の有無は、行為の危険性が結果へと現実化したといえるかにより判断すべきである(危険の現実化)。」

第3段階: 介在事情の検討

介在事情が存在する場合は、その介在事情の性質に応じて検討を進める。

直接実現型(大阪南港事件型)の場合: 「本件では、甲の暴行により被害者の死因となる傷害が既に形成されており、その後の第三者の行為は死期を若干早めたにすぎない。したがって、甲の行為の危険性が死亡結果へと直接実現したといえ、因果関係が認められる。」

間接実現型(高速道路侵入事件型)の場合: 「本件では、被害者の行動は通常予測しがたいものであるが、甲の暴行が極めて激しく執拗であったことに照らせば、被害者がかかる行動をとることも甲の暴行の危険性の範囲内にあるといえる。したがって、甲の行為の危険性が被害者の行動を介して結果へと現実化したといえ、因果関係が認められる。」

答案作成上の注意点

  • 相当因果関係説で書くか、危険の現実化論で書くかを明示すること。現在の出題趣旨・採点実感では、危険の現実化論による論述が高く評価される傾向にある
  • 規範と事実の対応関係を明確にすること。抽象的な規範だけを述べて「よって因果関係が認められる」とするのは、あてはめが不十分と評価される
  • 介在事情がある場合は、(1)行為自体の危険性の程度、(2)介在事情の異常性の程度、(3)介在事情の結果への寄与度の3点を具体的に検討すること
  • 大阪南港事件の規範を引用する場合は、「死因となった傷害が形成されていた」という事実の存在が前提であることに注意する。死因が第三者の行為によって形成された場合には、同判例の射程は及ばない

重要概念の整理

因果関係論の理解においては、各学説の対比と判例の位置づけを正確に把握することが不可欠である。以下の表で主要な学説を整理する。

三説の対比は前掲の「学説の比較と介在事情の類型」にまとめた。ここでは判例の側から、介在事情と結論の対応関係を整理する。

主要判例における介在事情と因果関係の判断

判例 介在事情 介在事情の性質 因果関係 判断の要点
米兵ひき逃げ事件 同乗者が被害者を引きずり降ろした 第三者の異常な行為 否定 経験上普通に予想しえず、死因の由来も確定できない
大阪南港事件 第三者が被害者の頭部を殴打 第三者の故意行為 肯定 死因は被告人の暴行により既に形成
高速道路侵入事件 被害者が高速道路に進入 被害者自身の行動 肯定 暴行の激しさが逃走行動を誘発
トランク監禁事件 第三者の追突事故 第三者の過失行為 肯定 トランク監禁自体に死傷の危険あり
日航機ニアミス事件 機長の操縦判断 第三者の行為 肯定 管制官の降下指示の危険性が現実化

発展的考察

日航機ニアミス事件が「危険性が現実化した」の文言を明示したこと、トランク監禁事件が第三者の重大な過失が介在しても因果関係を肯定したこと、過失犯や疫学的因果関係への広がりなど、発展的な論点を確認する。いずれも答案に一言添えると理解の深さが伝わる。

日航機ニアミス事件と危険の現実化の明示

最決平成22年10月26日(日航機ニアミス事件)は、「本件ニアミスは、言い間違いによる本件降下指示の危険性が現実化したものであり、同指示と本件ニアミスとの間には因果関係があるというべきである」と判示した。この判決は、最高裁として初めて「危険性が現実化した」という文言を判決文中で明示的に用いた点で画期的であり、因果関係の判断基準として危険の現実化論が判例上確立したことを示すものと評価されている。

トランク監禁事件と介在事情の判断

最決平成18年3月27日(トランク監禁事件)は、被害者を自動車のトランクに監禁したところ、停車中に第三者の運転する自動車が追突し、被害者が死亡した事案について、第三者の甚だしい過失行為が直接の死因であっても、トランク内に被害者を監禁した行為と死亡との間の因果関係を肯定した。本判例は、監禁行為自体が有する類型的な危険性に着目した判断であり、介在事情が第三者の重大な過失によるものであっても因果関係を肯定しうることを示した点で重要である。

過失犯における因果関係

因果関係の議論は故意犯を中心に展開されてきたが、過失犯においても同様の問題が生じる。日航機ニアミス事件は過失犯(業務上過失傷害罪)の事案であり、危険の現実化論が過失犯にも適用されることを明確にした。もっとも、過失犯においては注意義務違反と結果との間の因果関係のほか、結果回避可能性が別途問題となるため、故意犯とは異なる考慮が必要となる場合がある。

疫学的因果関係と刑法上の因果関係

近時、公害犯罪や薬害事件において、疫学的因果関係が刑法上の因果関係の認定に用いられるかが議論されている。疫学的因果関係とは、統計的手法により特定の因子と結果との間の関連性を証明するものであるが、刑法上の因果関係は個別的・具体的な行為と結果との結びつきを問題とするものであり、疫学的証明のみで刑法上の因果関係を肯定できるかについては見解が分かれている。判例は、熊本水俣病事件において疫学的因果関係を一つの証拠として用いつつも、他の証拠と総合して因果関係を認定する立場をとっている。


裁判員裁判への影響

裁判員制度の導入により、因果関係の判断を市民にも理解しやすい形で提示する必要性が高まっている。「危険の現実化」という枠組みは、「行為の危険が結果に現れたか」という直感的に理解しやすい判断構造を持つ点で、裁判員裁判との親和性が高いと指摘されている。


よくある質問

条件関係と法的因果関係の違い、答案でどの説を採るべきか、大阪南港事件の射程、被害者の素因の扱い、不作為犯での因果関係など、学習者がつまずきやすい点に短く答える。判例の結論を取り違えやすい箇所には注意書きを付した。

Q1: 条件関係と因果関係は同じものですか。

条件関係と法的因果関係は異なる概念である。条件関係は「その行為がなければ結果が発生しなかった」という事実的関係であり、因果関係の判断の前提となるものにすぎない。法的因果関係は、条件関係の存在を前提として、その行為と結果との間に刑法上の帰責を基礎づける関連性があるかを判断するものである。条件関係だけで因果関係を肯定すると処罰範囲が広がりすぎるため、法的因果関係による限定が必要とされる。

Q2: 答案では相当因果関係説と危険の現実化論のどちらで書くべきですか。

現在の司法試験では、危険の現実化論で書くことが推奨される。最決平成22年10月26日(日航機ニアミス事件)以降、判例が「危険の現実化」を明示的に採用したと理解されており、採点実感においても危険の現実化論に立った論述が高く評価される傾向にある。もっとも、相当因果関係説で論じても直ちに減点されるわけではなく、論理的に一貫した論述がなされていれば評価される。

Q3: 大阪南港事件で、第三者の暴行が独立の死因を形成していた場合はどうなりますか。

大阪南港事件の法理は、被告人の暴行が死因を形成し、第三者の暴行は死期を早めたにすぎない場合に適用される。仮に第三者の暴行が被告人の暴行とは独立した新たな死因を形成し、その死因によって被害者が死亡した場合には、被告人の暴行と死亡結果との間の因果関係は否定される可能性が高い。この場合、被告人には傷害罪が成立するにとどまり、傷害致死罪は成立しないことになる。

Q4: 被害者の特殊事情(持病など)が結果に寄与した場合、因果関係はどう判断されますか。

被害者に特殊な体質や持病がある場合であっても、行為の危険性が結果に現実化したと評価できる限り、因果関係は肯定されるというのが判例の一般的な傾向である。被害者の素因は、行為者がそれを認識していなかったとしても、それだけで因果関係を否定する事情にはならない。折衷的相当因果関係説からは、行為者も一般人も認識しえなかった素因は判断基底から外れるため因果関係を否定しやすくなるが、危険の現実化説からは、行為の危険が素因を介して結果に実現したと評価できるかを問うことになる。ここは学説によって結論が動きうる場面なので、答案では立場を明示して論じたい。

Q5: 不作為犯でも因果関係は問題になりますか。

不作為犯においても因果関係は問題となる。不作為の場合、「期待された作為を行っていれば結果が回避できたか」という形で条件関係が判断される(仮定的条件関係)。もっとも、不作為の場合は「作為をしていれば確実に結果を回避できた」といえる場合は多くないため、合理的な疑いを超えた程度の蓋然性をもって結果回避可能性が認められればよいとする見解が有力である。

Q6: 条件説と相当因果関係説は何が違うのですか。

条件説は「あれなければこれなし」の条件関係さえあれば因果関係を肯定する立場であり、判断は明確だが処罰範囲が広がりすぎる。相当因果関係説は、条件関係を前提に、さらに「社会生活上の経験に照らして相当か」という規範的な絞り込みを加える立場である。両者は、条件関係の先に法的因果関係という限定を置くか否かで決定的に異なる。現在の通説・判例は純粋な条件説を採らず、相当因果関係説を経て危険の現実化論へと判断枠組みを実質化させてきた。


関連条文

法改正に注意:懲役・禁錮を一本化する「拘禁刑」は令和4年法律第67号により創設され、令和7年(2025年)6月1日に施行された。以下は現行法の文言であり、括弧内に改正前の文言を示す。刑期の上限・下限は変わっていないため、因果関係の議論そのものに影響はないが、答案で条文を引用する際は現行の文言を使いたい。

人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の拘禁刑に処する。(改正前は「五年以上の懲役」)

― 刑法 第199条

人の身体を傷害した者は、十五年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。(改正前は「十五年以下の懲役」)

― 刑法 第204条

身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、三年以上の有期拘禁刑に処する。(改正前は「三年以上の有期懲役」)

― 刑法 第205条


関連判例


覚えるべき要点

試験直前に確認すべき事項を、判示のキーフレーズ・判例の年月日と結論・直接実現型と間接実現型の対比表の三つにまとめた。特に各判例が肯定例か否定例かを取り違えないことが最優先である。

キーフレーズ

  • 「犯人の暴行により被害者の死因となった傷害が形成された場合には、仮にその後第三者により加えられた暴行によって死期が早められたとしても、犯人の暴行と被害者の死亡との間の因果関係を肯定することができ」る(大阪南港事件)
  • 「その行動が、被告人らの暴行から逃れる方法として、著しく不自然、不相当であったとはいえない」(高速道路侵入事件)
  • 「同乗者が被害者を自動車の屋根から引きずり降ろし路上に転落させるというがごときことは、経験上、普通、予想しえられるところではなく」(米兵ひき逃げ事件・因果関係を否定)
  • 「本件ニアミスは、言い間違いによる本件降下指示の危険性が現実化したものである」(日航機ニアミス事件)

数字・日付

  • 大阪南港事件: 最決平成2年11月20日 第三小法廷(刑集44巻8号837頁)・傷害致死・肯定
  • 高速道路侵入事件: 最決平成15年7月16日 第二小法廷(平成15年(あ)第35号・刑集57巻7号950頁)・傷害致死・肯定
  • 米兵ひき逃げ事件: 最決昭和42年10月24日(刑集21巻8号1116頁)・業務上過失傷害・否定
  • トランク監禁事件: 最決平成18年3月27日(刑集60巻3号382頁)・肯定
  • 日航機ニアミス事件: 最決平成22年10月26日(刑集64巻7号1019頁)・「危険性が現実化した」の文言を明示
  • 関連条文: 刑法199条(殺人)、204条(傷害)、205条(傷害致死)

対比表

比較項目 大阪南港事件(直接実現型) 高速道路侵入事件(間接実現型)
介在事情の性質 第三者の故意行為 被害者自身の行動
行為の危険性 死因を形成する高度な危険 逃走行動を誘発する激しい暴行
因果関係の根拠 死因が被告人の暴行で既に形成 暴行の危険性が被害者の行動を介して現実化
介在事情の結果への寄与 死期を早めたにすぎない 直接の死因だが暴行が誘発
判断の重点 死因形成の有無 行為と介在事情の関連性

論証への活かし方

規範を正確に立て、事案の型(直接実現型か間接実現型か)に応じた判示を援用し、行為の危険性・介在事情の異常性・寄与度を具体的事実で埋める。この三点がそろって初めて、あてはめとして評価される。

規範の明示

答案で立てる規範は「因果関係の有無は、行為の危険性が結果へと現実化したといえるかにより判断する」である。事案の型に応じて、大阪南港事件(直接実現型)または高速道路侵入事件(間接実現型)の判示を援用する。文言は正確に引用したい。とりわけ高速道路侵入事件を「暴行が激しく執拗であったから」とだけ要約すると、判例が実際に用いた「著しく不自然、不相当であったとはいえない」という規範を落とすことになる。

論文での引用例

「甲の暴行と被害者Aの死亡結果との間の因果関係が問題となる。この点、因果関係の有無は、行為の危険性が結果へと現実化したといえるかにより判断すべきである(危険の現実化)。本件では、甲の暴行はAの頭部を鈍器で多数回殴打するという、生命に対する高度の危険性を有する行為であり、これによりAの死因となる脳出血が既に形成されている。その後、第三者がAの頭部をさらに殴打し死期を若干早めたとしても、甲の暴行の危険性がAの死亡結果へと直接実現したといえる。よって、甲の暴行とAの死亡との間に因果関係が認められる(大阪南港事件・最決平2.11.20参照)。」

あてはめのコツ

  • 行為自体の危険性の程度を具体的に認定する: 「角材で頭部を多数回殴打」「刃物で腹部を刺突」等、行為の態様・部位・回数を問題文から丁寧に拾い、生命に対する危険の程度を評価する
  • 介在事情の異常性を行為との関連で評価する: 「被告人の暴行が激しく執拗であったからこそ、被害者はかかる行動をとったのであり、介在事情は行為の危険性の範囲内にある」等、行為と介在事情の関連性を明示する
  • 結果に対する寄与度を比較考量する: 「死因は被告人の暴行による脳出血であり、第三者の暴行は死期を早めたにすぎない」等、行為と介在事情のいずれが結果をもたらしたかを具体的に示す
  • 直接実現型と間接実現型の判断枠組みを区別して使う: 問題文の事案が「行為の危険が直接結果に現れた」型か「行為の危険が介在事情を誘発して結果に至った」型かを見極め、対応する判例の規範を引用する

まとめ

刑法上の因果関係をめぐる判例は、条件説と相当因果関係説の対立を経て、近時は「危険の現実化」論による判断が主流となりつつある。大阪南港事件は死因の形成に着目した判断を、高速道路侵入事件は行為の危険性の結果への現実化に着目した判断を示し、因果関係論の到達点を画している。もっとも、判例は特定の学説を明示的に採用しておらず、個別事案の具体的判断の蓄積によって法理が形成されている点に特徴がある。

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