一部請求と既判力|残部請求の可否と訴訟物の範囲
一部請求と既判力の関係を解説。明示的一部請求・黙示的一部請求の区別、残部請求の可否、一部請求と過失相殺の問題を判例とともに整理します。
この記事のポイント
一部請求とは、数量的に可分な債権の一部のみを訴求する場合であり、残部について後訴を提起できるかが既判力との関係で問題となる。 判例は明示的一部請求の場合に残部請求を認めている。
一部請求の意義
明示的一部請求と黙示的一部請求
類型 内容 明示的一部請求 全体の一部であることを明示して請求 黙示的一部請求 一部であることを明示せずに請求(全部請求と区別できない)明示的一部請求の残部請求
判例の立場
最判昭37.8.10:明示的一部請求の場合、訴訟物は一部のみであり、残部について既判力は及ばない。したがって残部の後訴は許される。
批判
批判 内容 紛争の蒸し返し 同一の事実関係について再度争われる 訴訟経済 一回の訴訟で解決すべき一部請求棄却の場合
問題の所在
明示的一部請求が棄却された場合、残部の請求は許されるか。
最判平10.6.12
一部請求を全部棄却する判決が確定した場合、残部請求は信義則に反し許されない。
場面 残部請求の可否 一部請求認容 残部請求は許される 一部請求棄却 残部請求は信義則上許されない一部請求と過失相殺
問題の所在
1000万円の損害賠償債権のうち500万円を一部請求し、被告が過失相殺を主張した場合の処理。
外側説(判例)
最判平6.11.22:過失相殺は債権全体に適用した上で、残った額から一部請求の範囲で認容する。
例:損害1000万円、過失相殺3割
全体の認容額:700万円
一部請求500万円 → 500万円認容
内側説
過失相殺は一部請求の範囲内でのみ適用する。
例:損害1000万円のうち500万円を請求、過失相殺3割
一部請求500万円 × 0.7 = 350万円認容
一部請求と時効完成猶予
問題の所在
一部請求の訴え提起により、残部について時効完成猶予の効力が生じるか。
判例
最判平25.6.6:明示的一部請求の場合、残部については訴え提起による時効完成猶予の効力は及ばない。
まとめ
- 明示的一部請求の残部は既判力が及ばず後訴可能
- 一部請求棄却の場合の残部は信義則上不可
- 過失相殺は外側説(債権全体に適用)が判例
- 時効完成猶予は一部請求の範囲にのみ生じる
- 黙示的一部請求は全部請求と区別できず残部請求は不可
FAQ
Q1. なぜ一部請求が認められているのですか?
訴額に応じた手数料の負担を軽減し、当事者の訴訟追行の便宜を図るためです。また、処分権主義の下で当事者が請求の範囲を自由に決定できます。
Q2. 一部請求と訴えの変更の関係は?
一部請求を全部請求に拡張する場合は訴えの変更(143条)の手続が必要です。請求の基礎の同一性の要件は充たされるのが通常です。