/ 民事訴訟法

判決の効力|既判力・執行力・形成力の体系的理解

判決の効力を体系的に解説。既判力・執行力・形成力の意義、反射効・争点効の問題、判決の確定時期を整理します。

この記事のポイント

確定判決の効力は、既判力・執行力・形成力の3つに整理される。 このうち既判力が最も基本的かつ普遍的な効力であり、すべての本案確定判決に生じる。執行力は給付判決に、形成力は形成判決にのみ生じる、いわば判決の種類に対応した効力である。本記事では「判決効とは何か」という総論から、「既判力・執行力」の違い、さらに判例が認めていない反射効・争点効まで、民事訴訟法の判決の効力を体系的に整理する。


判決効とは|まず端的な定義

判決効(判決の効力)とは、裁判所が下した判決が、当事者や第三者・後訴裁判所に対して法的な拘束を及ぼす作用の総称をいう。 判決が単なる紙の上の判断にとどまらず、現実の権利関係や後の訴訟を規律する力を持つからこそ、紛争が終局的に解決される。

判決の効力は、大きく次の2つの観点から把握すると整理しやすい。

  1. 判決の種類を問わず生じる効力 — 自己拘束力(判決をした裁判所自身が原則として撤回・変更できない効力)、形式的確定力(上訴により取消し・変更できなくなる効力)、そして既判力
  2. 判決の種類に応じて生じる効力 — 給付判決の執行力、形成判決の形成力

このうち答案や試験で正面から問われるのは、後訴を拘束する既判力を中核とした「実体的・対外的効力」である。以下では、まず判決効全体を俯瞰したうえで、各効力を個別に定義していく。

判決効を学ぶうえで最初に意識すべきは、「すべての効力が一斉に発生するわけではない」という点である。自己拘束力は判決を言い渡した瞬間に、仮の執行力は仮執行宣言とともに、形式的確定力は上訴できなくなった時点で、そして既判力は判決が確定した時点で、それぞれ発生する。さらに、執行力と形成力は判決の種類(給付判決・形成判決)に応じて生じるかどうかが決まる。「いつ・どの判決に・どの効力が生じるか」をセットで整理しておくことが、判決効全体を見通すうえでの羅針盤になる。

また、判決効は「誰を縛るか(主観的範囲)」「どの判断を縛るか(客観的範囲)」「いつの時点の権利関係を縛るか(時的限界)」という3つの「範囲」の問題として展開していく。本記事もこの3つの範囲を軸に既判力を解説するので、この座標軸を念頭に読み進めてほしい。


判決の3つの効力|既判力・執行力・形成力

「判決の効力」と一言で言っても、その内容は次の3つに分かれる。それぞれ発生する場面と機能が異なる点をまず押さえたい。

効力 内容 発生場面 既判力 後訴で判断内容が当事者・裁判所を拘束する効力 すべての本案確定判決 執行力 給付義務を強制執行により実現しうる効力 給付判決 形成力 判決により法律関係を直接変動させる効力 形成判決

既判力とは

既判力とは、確定判決の判断内容(主文に包含された訴訟物についての判断)が、後訴において当事者および裁判所を拘束し、これに矛盾する主張・判断を許さない効力をいう。 紛争の蒸し返しを防ぎ、訴訟による解決を終局的なものにするための制度である。

既判力は、給付判決・確認判決・形成判決を問わず、本案について判断したすべての確定判決に生じる。この「すべての確定判決に生じる」という普遍性こそが、既判力を判決効の中核に位置づける理由である。

既判力が作用する局面は、講学上、次の3つに整理される。

  • 消極的作用(遮断効):前訴で判断された事項について、当事者は前訴の基準時前に存在した事由を後訴で主張できなくなる。
  • 積極的作用(拘束力):後訴裁判所は、前訴の確定判断を前提として判断しなければならない。
  • 一事不再理的機能:同一訴訟物について再び審判を求めることが許されない。

執行力とは

執行力とは、判決により命じられた給付義務を、債務者が任意に履行しない場合に、強制執行によって実現しうる効力をいう。 典型は「被告は原告に対し金100万円を支払え」という金銭給付判決である。

執行力が生じるのは給付判決のみであり、確認判決や形成判決には執行力は生じない(確認判決は権利の存在を確認するだけ、形成判決は判決自体で法律関係が変動するため、別途強制執行を要しない)。

ここが「既判力 執行力」という比較で混同されやすいポイントである。両者の違いを端的にまとめると次のとおり。

  • 既判力は「後訴での主張・判断を縛る効力」=紛争の蒸し返し防止のための観念的な拘束。
  • 執行力は「現実に給付を実現する効力」=強制執行手続を基礎づける実力。

なお、仮執行宣言が付された判決には、確定前であっても「仮の執行力」が認められる(民訴法259条)。確定前であるため既判力はまだ生じていない点と対比すると、執行力と既判力が必ずしも同時に発生するわけではないことが分かる。

形成力とは

形成力とは、形成判決の確定により、判決の内容に従って法律関係が直接に発生・変更・消滅する効力をいう。 離婚判決(婚姻関係の解消)、株主総会決議取消判決、認知の訴えの認容判決などが典型である。

形成判決は、判決の確定そのものによって権利関係が変動するため、執行を要しない。また、その変動の効果は当事者間にとどまらず、対世的に(第三者に対しても)効力を生じる点に特徴がある(人事訴訟法24条、会社法838条など個別の規定による対世効)。

形成判決には形成力のほかに既判力も生じる点に注意したい。たとえば離婚判決には、婚姻関係を解消する形成力と、「離婚請求権が存在した(離婚原因があった)」という主文の判断についての既判力が併存する。形成判決=形成力だけ、と短絡しないことが大切である。

なお、形成の訴えは法律に明文の根拠がある場合に限って認められるのが原則である(形成の訴えの法定主義)。これは、判決によって対世的に法律関係を変動させる以上、その要件・効果を法律で明確にしておく必要があるためである。


判決の効力が生じる「確定」とは

判決の効力、特に既判力が問題となる前提として、判決の確定が必要である。

形式的確定力とは、判決が通常の上訴(控訴・上告)によって取消し・変更できなくなった状態をいう。具体的には、上訴期間(判決送達の日から2週間)の経過、上訴権の放棄、上告審判決の言渡しなどによって判決は確定する。

この形式的確定を基礎として、内容面の拘束力である既判力(内容的確定力)が生じる。したがって、未確定の判決には原則として既判力は生じない(仮執行宣言付判決に既判力がないのはこのためである)。

自己拘束力(判決の覊束力)との区別

形式的確定力としばしば混同されるのが自己拘束力(覊束力)である。これは、判決をいったん言い渡した裁判所自身が、その判決を自由に撤回・変更できなくなる効力をいう。判決の言渡しと同時に生じ、確定を待たない点で形式的確定力とは時期が異なる。例外的に、判決の更正(計算違いや明白な誤記の訂正、民訴法257条)や変更判決(民訴法256条)が認められるにすぎない。

効力の段階的整理

判決の効力は、発生時期に着目すると次の段階で重なり合っていく。

効力 発生時期 内容 自己拘束力 判決言渡し時 裁判所自身が撤回・変更できない 仮の執行力 仮執行宣言付与時 確定前でも強制執行できる 形式的確定力 上訴期間経過等 上訴で取消し・変更できない 既判力 確定時 後訴を拘束する内容的効力

この段階構造を理解しておくと、「仮執行宣言付判決には執行力があるのに既判力がない」という一見不思議な現象も、効力ごとに発生時期が異なるだけだと整理できる。


既判力の客観的範囲|どこまで拘束するか

主文に包含するものに限る(114条1項)

既判力は、原則として判決主文に包含するもの、すなわち訴訟物についての判断にのみ生じる(民訴法114条1項)。 判決理由中で示された個々の事実認定や先決的法律関係の判断には、原則として既判力は生じない。

たとえば、貸金返還請求が認容された場合、既判力が生じるのは「当該貸金債権が存在する(または請求権がある)」という主文の判断であって、その前提として理由中で判断された「契約が有効に成立した」「弁済はなかった」といった点には既判力は及ばない。

例外:相殺の抗弁(114条2項)

唯一の明文上の例外が相殺の抗弁である。被告が相殺の抗弁を提出し、その判断がされた場合、相殺をもって対抗した額について反対債権の存否の判断に既判力が生じる(民訴法114条2項)。これは、相殺に供された反対債権が後訴で蒸し返されることを防ぐための規定である。


反射効|第三者への事実上の影響

意義

反射効とは、確定判決の既判力が直接及ばない第三者に対して、当事者間の実体法上の従属関係を介して、判決の効力が反射的に影響を及ぼすことをいう。

典型例として議論されるのが保証債務である。主たる債務者が債権者に勝訴し「主債務は存在しない」と確定した場合、保証債務の付従性(民法448条等)から、保証人もその勝訴判決を援用して保証債務の不存在を主張できないか、という問題である。

判例・通説の立場

判例は反射効を一般的な制度として認めることに消極的である。既判力の主観的範囲は115条に列挙された者に限定されており、これを実体法上の従属関係だけで第三者に拡張することは、手続保障を受けていない者の地位を不当に左右しかねないからである。学説上は反射効を肯定する見解も有力だが、答案では「明文の根拠を欠き手続保障の観点から限定的に解すべき」という否定的・慎重な立場を基調に論じるのが穏当である。


争点効|判例が認めていない法理

意義

争点効とは、前訴で当事者が主要な争点として争い、裁判所が実質的に審理・判断した争点について、後訴で同一争点が主要な先決問題となった場合に、前訴の判断と矛盾する主張・判断を許さない拘束力をいう。 既判力が及ばない判決理由中の判断に、一定の通用力を認めようとする学説上の法理である。

判例の立場

最判昭和44年6月24日は、争点効という独自の効力を認めていない。既判力は114条1項により主文に包含するもの(訴訟物についての判断)に限られ、理由中の判断には拘束力を認めないのが判例の立場である。

もっとも判例は、理由中の判断の蒸し返しを一切放置するわけではなく、後訴での主張が前訴での態度と矛盾し信義に反する場合には、信義則(民訴法2条)を根拠に後訴での主張を遮断する余地を認めている(前訴で実質的に争われ敗訴した者が、後訴で同一の権利関係を蒸し返すことを信義則違反とする判例の流れ)。

学説の整理

学説 内容 肯定説(争点効説) 紛争の一回的解決の要請から、理由中の判断にも一定の拘束力(争点効)を認めるべき 否定説(判例) 手続保障と既判力制度の枠組みを重視し、理由中の判断に拘束力は認めない 信義則説 争点効という新たな効力ではなく、信義則(2条)により個別具体的に矛盾挙動を遮断する

実務・答案上は、「判例は争点効を否定するが、信義則による解決の余地を認める」という二段構えの理解が要点である。

なぜ理由中の判断に既判力を認めないのか

114条1項が既判力を主文に包含するものに限定した趣旨は、主に次の2点にある。

  1. 当事者の予測可能性・自由な攻撃防御の確保:理由中のあらゆる判断に既判力が及ぶとすると、当事者は前訴で先決問題のすべてを徹底的に争わなければならなくなり、訴訟が肥大化する。主文の判断にのみ既判力を限定することで、当事者は争点を絞って効率的に訴訟を追行できる。
  2. 裁判所の審理の合理化:理由中の判断に拘束力が生じないからこそ、裁判所は結論を導くのに必要な範囲で理由を述べれば足りる。

争点効肯定説は「紛争の一回的・抜本的解決」を重視するが、判例・否定説は、上記の手続保障と既判力制度の枠組みを優先させ、個別事案での蒸し返しは信義則で柔軟に処理すれば足りると考える。この対立構造を押さえておけば、争点効の論述は安定する。


既判力の時的限界|基準時と遮断効

基準時は事実審の口頭弁論終結時

既判力の標準時(基準時)は、事実審の口頭弁論終結時である。 裁判所はこの時点までに提出された資料に基づいて判断するため、既判力が確定するのもこの時点の権利関係についてである。

基準時後の事由は遮断されない

既判力の遮断効は、基準時より前に存在していた事由に及ぶ。逆に、基準時後に新たに生じた事由は既判力によって遮断されず、後訴で主張することができる。

事由 主張の可否 理由 基準時前の弁済(主張し忘れ) 不可(遮断される) 基準時前に存在した事由 基準時後の弁済 可能 基準時後に生じた事由 基準時後に取得した反対債権による相殺 可能 基準時後の新事由 基準時後に完成した時効 可能 基準時後の新事由

論点:基準時前の取消権・建物買取請求権

基準時前に発生していたが行使していなかった形成権を、基準時後(後訴)に行使できるかは古典的論点である。

  • 取消権・解除権:判例・通説は、基準時前に行使可能であった以上、後訴での行使は既判力により遮断されるとする。
  • 建物買取請求権:これに対し判例は、建物収去土地明渡請求を認容した確定判決の事実審口頭弁論終結後に借地人が建物買取請求権を行使することを認め、基準時後の主張として遮断されないとした。建物買取請求権が前訴の訴訟物(土地明渡請求)とは別個の権利であり、前訴で必ず行使すべきものとは言えないことなどが理由とされる。

これらは「形成権だから一律に遮断される/されない」と機械的に処理せず、当該権利の性質・前訴での行使可能性・期待可能性から個別に検討する姿勢が求められる。


既判力の作用を3局面で理解する

既判力が後訴でどのように働くかは、抽象的に「拘束する」と言うだけでは答案で使えない。実際の局面に即して、消極的作用・積極的作用・一事不再理の3つを具体的に区別しておきたい。

消極的作用(遮断効)

前訴で確定した判断について、当事者は基準時前に存在した事由をもって、後訴でこれを争うことができなくなる。たとえば、貸金返還請求を認容する前訴判決が確定した後、被告が後訴で「実は基準時前に弁済していた」「契約は錯誤で取り消せた」などと主張しても、これらは基準時前の事由であるから既判力によって遮断され、主張すること自体が許されない。提出し忘れた攻撃防御方法も含めて遮断される点(失権効)が、紛争の蒸し返し防止という既判力の趣旨を支えている。

積極的作用(拘束力)

後訴の裁判所は、前訴の確定判断を前提として判断しなければならず、これと矛盾する判断を下すことが許されない。たとえば前訴で「土地の所有権はXにある」と確定した場合、後訴である賃料相当損害金請求において、後訴裁判所は「所有権はXにある」ことを前提に審理しなければならない。

既判力が問題となる3つの典型場面

既判力が後訴で具体的に作用する場面は、訴訟物の関係によって次の3類型に整理されることが多い。

場面 前訴と後訴の関係 既判力の働き 同一関係 訴訟物が同一 後訴で前訴と矛盾する主張・判断ができない 先決関係 前訴の訴訟物が後訴の先決問題 後訴は前訴の判断を前提とする 矛盾関係 前訴と後訴の訴訟物が両立しない 後訴で前訴と矛盾する権利主張ができない

たとえば、所有権確認の前訴で原告が勝訴した後、被告が同一物について自己の所有権確認を求める後訴(矛盾関係)を提起しても、前訴の既判力により被告の所有権主張は排斥される。


既判力の主観的範囲|誰に及ぶか(115条)

既判力は、原則として訴訟の当事者にのみ及ぶ(相対効の原則)。 ただし、民訴法115条1項は次の者に既判力を拡張している。

  1. 当事者(1号)
  2. 当事者が他人のために原告・被告となった場合のその他人(訴訟担当の被担当者、2号)
  3. 口頭弁論終結後の承継人(3号)
  4. 請求の目的物を所持する者(4号)

反射効・争点効が判例で限定的に扱われる背景には、この115条が定める者以外には既判力を及ぼさないという相対効の原則がある。手続に関与し攻撃防御の機会を保障された者だけが、その結果に拘束されるという手続保障の理念に基づく。

口頭弁論終結後の承継人(3号)

実務でしばしば問題となるのが3号の「口頭弁論終結後の承継人」である。前訴の基準時後に、当事者から係争物や請求権の地位を譲り受けた者には、既判力が及ぶ。たとえば、Xが「土地はXの所有」と確認する判決を得て確定した後、敗訴したYがその土地を第三者Zに譲渡した場合、Zは「口頭弁論終結後の承継人」として前訴判決の既判力を受け、Xに対して所有権を争うことができない。これにより、敗訴当事者が係争物を第三者に移転して既判力を潜脱することを防いでいる。

なお、承継人が前主の地位とは独立した固有の防御方法(たとえば即時取得や対抗要件具備による所有権取得など)を有する場合に、なお既判力が及ぶかは「固有の抗弁」の問題として議論があり、形式説・実質説の対立がある。答案では、既判力の拡張の趣旨(紛争解決の実効性)と承継人自身の手続保障の調和という視点から論じる。

請求の目的物を所持する者(4号)

当事者や訴訟担当の被担当者のために、もっぱらその者の利益のために係争物を所持する者(例:受寄者、管理人など)にも既判力が及ぶ。固有の利益を有しない単なる所持者を対象とする点で、自己の利益のために占有する者は含まれない。


具体例で確認する|貸金返還請求のあてはめ

XがYに対し「貸金100万円を支払え」と請求し、認容判決が確定したとする。

  • 既判力:「XのYに対する貸金返還請求権(100万円)が存在する」という主文の判断に既判力が生じる。Yは後訴で「実は契約は無効だった」と基準時前の事由を主張できない(遮断効)。
  • 執行力:Yが任意に支払わなければ、Xはこの判決を債務名義として、Yの財産に強制執行できる。
  • 基準時後の弁済:基準時後にYが100万円を弁済したのに、Xが再度強制執行をかけてきた場合、Yは請求異議の訴え(民事執行法35条)により、基準時後の弁済を主張して執行を排除できる。これは基準時後の新事由だから既判力に遮断されないからである。

このように、1つの判決をめぐって既判力・執行力・基準時の遮断効が立体的に機能することを、具体例で確認しておきたい。

一部請求と残部請求

判決効の理解を試す典型論点が一部請求である。XがYに対する1000万円の債権のうち、まず400万円だけを「一部であることを明示して」請求し、認容判決を得たとする。この場合、既判力は請求された一部(400万円)についてのみ生じ、残部(600万円)の請求は遮断されないというのが判例の立場である(明示の一部請求の場合、訴訟物は当該一部に限定される)。

これに対し、一部であることを明示せずに400万円を請求して敗訴した場合に残部請求ができるかは別問題で、判例は、後の残部請求は実質的な蒸し返しにあたり信義則に反して許されないとしている。ここでも、既判力の客観的範囲(訴訟物の捉え方)と信義則による補完という、本記事を貫く2つの道具立てが顔を出す。

確認判決と執行力の関係

たとえば「XがYに対して100万円の貸金債権を有することを確認する」という確認判決が確定しても、Xはこの判決を債務名義としてYの財産に強制執行することはできない。確認判決には既判力はあるが執行力はないからである。Xが強制執行を望むなら、改めて給付判決(「Yは100万円を支払え」)を得る必要がある。確認判決の既判力は、後にXが給付の訴えを起こした際、債権の存在を前提とする形で機能する。この対比は「既判力と執行力は別物である」という本質を端的に示している。


確定判決の効力を覆す手段

既判力は紛争の終局的解決のための効力であるから、確定判決の判断は原則として動かせない。しかし、判決の基礎に看過しがたい瑕疵がある場合には、例外的に確定判決の効力を覆す手段が用意されている。

  • 再審の訴え(民訴法338条以下):判決の証拠が偽造であった、判断の基礎となった行政処分が変更された、不変期間を守れなかったことに当事者に責任がない、など法定の再審事由がある場合に、確定判決の取消しと再審理を求める非常の不服申立手段。既判力を覆す最も典型的な制度である。
  • 請求異議の訴え(民事執行法35条):すでに述べたとおり、基準時後の事由(弁済・相殺・免除など)を理由に、確定判決の執行力を排除する手段。これは既判力そのものを覆すものではなく、基準時後の事由は遮断されないという既判力の時的限界を前提とした制度である点に注意したい。

両者は「既判力を覆す(再審)」のか「既判力の枠内で執行力を排除する(請求異議)」のかという点で性質が異なる。判決効を論じる際には、効力を覆す例外的場面まで視野に入れておくと理解が立体的になる。


比較整理|既判力・執行力・形成力

観点 既判力 執行力 形成力 生じる判決 すべての本案確定判決 給付判決 形成判決 機能 後訴での蒸し返し防止 強制執行の基礎 法律関係の直接変動 確定が必要か 必要 仮執行宣言で確定前も可 確定により発生 第三者への効力 原則当事者間(115条で拡張) 原則当事者間 対世効を生じうる 典型例 確認判決の権利存在の確認 「金を支払え」 離婚判決・決議取消判決

判決の種類と効力の対応

判決の種類ごとに、どの効力が生じるかを最後に確認しておこう。

  • 給付判決:既判力+執行力。「Yは100万円を支払え」のように、給付義務を命じる判決。任意に履行されなければ強制執行の基礎となる。
  • 確認判決:既判力のみ。権利・法律関係の存否を確認する判決で、執行力・形成力は生じない。
  • 形成判決:既判力+形成力。離婚判決や株主総会決議取消判決のように、判決の確定で法律関係が変動する。
  • 訴訟判決(却下判決):本案について判断していないため、本案の訴訟物に既判力は生じず、却下の理由となった訴訟要件の不存在についてのみ既判力が生じると解されている。

このように、判決の種類と効力は一対一で対応するわけではなく、既判力を共通の土台としつつ、執行力・形成力が判決の性質に応じて上乗せされる構造になっている。


答案での書き方

判決の効力が問われたときの典型的な論述の流れを示す。

  1. 効力の特定:問題文がどの効力(既判力か、執行力か、形成力か)を問うているかを最初に特定する。多くは既判力の事案である。
  2. 既判力の意義・趣旨:「既判力とは、確定判決の主文に包含された訴訟物についての判断が後訴を拘束する効力をいい(114条1項)、紛争の蒸し返し防止と手続保障の調和を趣旨とする」と定義から書き起こす。
  3. 範囲の検討:客観的範囲(主文に包含するもの=114条1項)、主観的範囲(当事者=115条)、時的限界(基準時=事実審口頭弁論終結時)の3つの「範囲」を、問題に応じて検討する。
  4. 論点処理:理由中の判断の蒸し返しなら「争点効→判例は否定→信義則(2条)で処理」。基準時後の形成権なら「遮断されるか→権利の性質から検討」。
  5. あてはめ:具体的事実を範囲・基準時に丁寧に当てはめ、結論を導く。

特に「既判力は主文に包含するものに限る(114条1項)」「基準時は事実審口頭弁論終結時」という2つの基本フレーズは、無条件で正確に書けるようにしておきたい。

よくある失点ポイント

  • 執行力と既判力の混同:確認判決に執行力があると書いてしまう答案が散見される。確認判決にあるのは既判力であって執行力ではない。
  • 基準時の取り違え:基準時を「判決確定時」と書いてしまうミス。正しくは「事実審の口頭弁論終結時」である。控訴審で弁論が行われた場合は控訴審の口頭弁論終結時が基準時となる。
  • 争点効を肯定してしまう:判例の立場を問われているのに争点効を当然の前提として論じると失点する。判例は争点効を否定し、信義則で処理する点を正確に。
  • 相殺の例外を落とす:114条1項の原則だけ書いて、114条2項の相殺の抗弁の例外に触れ忘れるパターン。相殺が論点になる事案では必須。

論述のひな型

判決効が論点の答案では、次のひな型を骨格にすると安定する。「①既判力の意義・趣旨(114条1項)→②本問で問題となる範囲(客観的範囲か、主観的範囲か、時的限界か)の特定→③該当する条文・論点の規範定立→④事実のあてはめ→⑤結論」。この型に、争点効や基準時後の形成権といった個別論点を組み込んでいけば、論理の飛躍を防げる。


まとめ

  • 判決効とは、判決が当事者・第三者・後訴裁判所を拘束する作用の総称。
  • 判決の効力は既判力・執行力・形成力の3つに整理される。
  • 既判力はすべての本案確定判決に生じる中核的効力で、主文に包含するものに限る(114条1項)。例外は相殺の抗弁(114条2項)。
  • 執行力は給付判決に生じ、強制執行を基礎づける。仮執行宣言により確定前でも仮の執行力が生じる。
  • 形成力は形成判決の確定により法律関係を直接変動させ、対世効を生じうる。
  • 既判力の基準時は事実審の口頭弁論終結時で、基準時後の新事由は遮断されない。
  • 反射効は判例上限定的、争点効は最判昭44.6.24が認めていない。理由中の判断の蒸し返しは信義則(2条)で処理する余地がある。
  • 既判力は原則当事者間に及び、115条所定の者に拡張される。

FAQ

Q1. 既判力と執行力の違いは何ですか?

既判力は「後訴での主張・判断を拘束する観念的な効力」で、すべての本案確定判決に生じます。執行力は「給付義務を強制執行で実現する実力的な効力」で、給付判決にのみ生じます。確認判決には既判力はありますが執行力はない、という点で両者は区別されます。

Q2. 仮執行宣言付判決に既判力はありますか?

仮執行宣言付判決は確定前の判決であるため、既判力はありません。ただし、執行力(仮の執行力)は認められます(民訴法259条)。既判力と執行力が常に同時に発生するわけではない好例です。

Q3. 判決理由中の判断に既判力は及びますか?

原則として及びません。既判力は主文に包含するもの(訴訟物についての判断)に限られます(114条1項)。唯一の例外が相殺の抗弁の判断です(114条2項)。理由中の判断の蒸し返しは、争点効ではなく信義則(2条)による遮断で処理するのが判例の立場です。

Q4. 訴え却下判決に既判力はありますか?

訴訟判決(却下判決)の既判力については争いがありますが、通説は、判決の対象となった訴訟要件の不存在についてのみ既判力が生じ、本案たる訴訟物については既判力は生じないと解しています。

Q5. 基準時後に弁済したのに強制執行されたらどうすればよいですか?

基準時(事実審口頭弁論終結時)後の弁済は既判力に遮断されないため、債務者は請求異議の訴え(民事執行法35条)により、その弁済を主張して執行力の排除を求めることができます。

Q6. 形成判決には既判力もあるのですか?

あります。形成判決には法律関係を変動させる形成力のほか、形成原因(離婚原因など)の存在を確認した主文の判断について既判力も生じます。形成力と既判力は両立します。

Q7. 反射効と争点効はどう違うのですか?

反射効は「既判力が及ばない第三者」に判決の効力が事実上及ぶかという主観的範囲(人の広がり)の問題です。争点効は「同一当事者間で、理由中の判断」に拘束力が及ぶかという客観的範囲(判断事項の広がり)の問題です。いずれも判例は一般的な効力としては認めず、限定的・慎重に扱っています。

Q8. 明示的一部請求で勝訴した場合、残部は請求できますか?

できます。明示の一部請求では訴訟物が当該一部に限定されるため、残部に既判力は及びません。ただし、一部であることを明示せずに敗訴した後の残部請求は、実質的な蒸し返しとして信義則上許されないとするのが判例です。


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