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国家の私法上の行為と憲法の適用とは

こっかのしほうじょうのこういとけんぽうのてきよう

憲法 人権総論

国家の私法上の行為と憲法の適用とは、国が私人と対等の立場で結ぶ契約に憲法が直接適用されるかという問題です。判例は、契約が実質的にみて公権力の発動たる行為と何ら変わりがないといえる特段の事情がない限り、憲法の直接適用を受けず、私法の適用を受けるにすぎないとします。

国が自衛隊の基地を作るために、地主から土地を買うとします。売った側があとから、この売買は憲法9条に反して無効だと主張しても、そのままでは通りません。憲法は本来、権力をふるう国を縛る決まりで、国が一人の買主として市場に出てきた場面を直接には規律しないからです。ですから、土地の売買のような契約は、まず民法で判断されます。ただし、契約の形をとっていても実質が権力の行使と変わらないなら、憲法が直接に働く余地が残ります。この留保の有無が、肢の正誤を分けます。

自衛隊基地の予定地となる野原の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で中央。左に防衛庁の担当者の男性(札「国(防衛庁)」)と地主の男性(札「地主」)が「土地売買契約書」を挟んで向き合い、地主の吹き出し「基地のための売買は9条に反して無効ではな

特段の事情という留保を落とすと、誤りになります

最判平成元年6月20日(百里基地訴訟)は、国が行政の主体としてではなく私人と対等の立場に立って、私人との間で個々的に締結する私法上の契約は、当該契約が実質的にみて公権力の発動たる行為と何ら変わりがないといえるような特段の事情のない限り、憲法9条の直接適用を受けず、私人間の利害関係の公平な調整を目的とする私法の適用を受けるにすぎないとしました。行政活動上必要な物品を調達する契約、公共施設に必要な土地の取得、国有財産の売払いのための契約が、その例です。したがって、「国が行政の主体としてでなく私人と対等の立場から私人との間で個々的に締結する私法上の契約は、国の統治行動の場合と同一の基準や観念によってこれを律することはできないのであり、私人間の利害関係の公平な調整を目的とする私法の適用を受けるだけである」という肢は誤りです。判例は、実質的にみて公権力の発動たる行為と何ら変わりがないといえるような特段の事情がある場合を除外しているからです。形式が契約であっても、実質が公権力の行使と変わらなければ憲法の直接適用があり得ます。一方、「国が自衛隊の用地を取得するために私人と締結した土地売買契約は、当該契約が実質的にみて公権力の発動たる行為と何ら変わりがないといえるような特段の事情のない限り、9条の直接適用を受けず、私法の適用を受けるに過ぎない」という肢は、留保を含んでいるので正しいです。

国の調達窓口の場面。先生が国の契約担当役(札「国(契約担当)」)でカウンターに座り、業者の男性(札「業者」)が「物品納入契約」の書類を差し出している。カウンターの上に二つの札を並べ、左の札「対等の立場の契約:物品の調達・土地の取得・国有財産

9条は私法上の行為の効力を直接規律しません

「9条は国の基本的な法秩序を示した規定であるから、憲法より下位の法形式による全ての法規の解釈適用に当たって、その指導原理となり得るものであることはいうまでもないが、私法上の行為の効力を直接規律するものではない」という肢は正しいです。9条は人権規定と同様、その憲法規範としての性格上、私法上の行為の効力を直接規律することを目的とした規定ではないからです。下位法規の解釈の指導原理になることと、私法上の行為の効力を直接決めることとは別です。9条の趣旨は、民法90条の公序良俗の内容を判断する際に考慮されるにとどまります。もっとも、判例は、私法上の行為に対する9条の間接的な適用についても、9条が国家の統治活動を規律する規範であることから、慎重な態度をとっています。

私人間効力の議論と構造が同じです

この判断は、人権規定が私人相互の関係を直接規律するものではないとした最大判昭和48年12月12日(三菱樹脂事件)と同じ構造をとります。人権規定については、規律の相手方が私人だから直接適用されないという理由でした。国の私法上の行為については、国が権力の主体としてではなく取引の当事者として登場しているから直接適用されない、という理由です。どちらも、憲法が本来規律する場面と違うことを理由に、私法の一般条項を通じた調整に委ねる筋道です。詳しくは私人間効力を参照します。

教室の黒板の前の場面。先生が講師役(札「先生」)で黒板を指している。黒板を左右に分け、左に「三菱樹脂事件 最大判昭48.12.12:相手方が私人だから人権規定を直接適用しない」、右に「百里基地訴訟 最判平元.6.20:国が取引の当事者だから

統治行為論や平和的生存権の問題とは切り分けます

高度の政治性を有する国家行為について裁判所が審査を控えるのが統治行為論であり、審査権の限界の問題です。これに対し、国の私法上の行為の問題は、憲法の規定が適用される場面かどうかという適用の問題であって、裁判所が判断を避けるわけではありません。実際、百里基地訴訟では、裁判所は契約の効力について民法90条の解釈として判断を示しています。争点が審査をするかしないかなのか、どの法規範を当てはめるのかなのかを、まず見分けます。平和的生存権の裁判規範性も別の問題です。「前文が定める平和的生存権は、9条及び第3章の規定によって具体化され、裁判規範として現実的・個別的内容を持つものであるから、森林法上の保安林指定の解除処分が自衛隊の基地の建設を目的とするものである場合、周辺の住民は、同処分の取消訴訟において、平和的生存権の侵害のおそれを根拠として原告適格を有する」という肢は誤りです。判例は平和的生存権に具体的な権利性を認めていません。百里基地訴訟も、当事者が平和主義ないし平和的生存権として主張する平和は理念ないし目的としての抽象的概念であって、それ自体が独立して司法上の行為の効力の判断基準になるものではないとしました。最判昭和57年9月9日(長沼事件)も、保安林指定解除処分の取消訴訟の原告適格を、洪水や渇水の危険の防止という直接の利害関係を持つ者に限り、周辺住民が平和的生存権を根拠に原告適格を持つとは認めていません。国の私法上の行為の問題と、平和的生存権を訴訟で主張できるかという問題は、いずれも9条をめぐる論点ですが、前者は私法上の効力、後者は訴訟要件の問題です。

憲法が直接適用される場合には、98条1項により効力が否定されます

98条1項にいう国務に関するその他の行為とは、同項に列挙された法律、命令、詔勅と同一の性質を有する国の行為、言い換えれば公権力を行使して法規範を定立する国の行為を意味し、私人と対等の立場で行う国の行為はこれに当たりません。特段の事情が認められ、実質的にみて公権力の発動たる行為と変わらないと評価される場合には、その行為は98条1項にいう国務に関するその他の行為に当たり、憲法に反する限度で効力を有しません。逆に、特段の事情がない場合には、契約の効力は民法90条の判断に委ねられ、9条の趣旨は公序の内容を判断する一要素として考慮されるにとどまります。どちらの筋道をとるかで、無効の根拠条文が98条1項になるのか民法90条になるのかが変わります。肢では、この根拠条文を入れ替えて誤りを作ることがあります。

裁判所の法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で中央に立ち、両手に一枚ずつ札を持つ。左手の札「特段の事情あり→98条1項の国務に関するその他の行為→憲法に反する限度で無効」、右手の札「特段の事情なし→民法90条の公序良俗で判断(9条の趣

行政契約一般にも、同じ視点が使えます

国や地方公共団体が結ぶ契約には、物品の購入や土地の売買のように純粋に取引として行われるものと、給水契約の締結拒否のように、実質的に規制の手段として使われるものがあります。後者では、契約という形式をとっていても、相手方に義務を課し権利を制限する効果が生じますから、憲法や行政法の規律が及ぶかどうかが問題になります。百里基地訴訟の特段の事情という留保は、この見極めの入口です。形式ではなく実質で判断するという考え方を、そのまま使うことができます。

最判平成元年6月20日(百里基地訴訟)

国が行政の主体としてではなく私人と対等の立場に立つて、私人との間で個々的に締結する私法上の契約は、当該契約が実質的にみて公権力の発動たる行為となんら変わりがないといえるような特段の事情のない限り、憲法九条の直接適用を受けず、私人間の利害関係の公平な調整を目的とする私法の適用を受けるにすぎない。

論文ではこう使う

論文では、国の行為に憲法を当てはめる前に、その行為が権力的な作用かどうかを確かめます。権力的でなければ、憲法の直接適用を否定し、民法90条の公序良俗の判断の中で憲法の趣旨を考慮すると書きます。そのうえで、特段の事情の有無を事実で拾います。契約の目的が公共の事業であること、相手方に事実上選択の余地がないこと、契約が行政目的の達成手段になっていることなどが、実質的な公権力性を基礎付ける事実です。

試験ではこう問われる

「国家の私法上の行為と憲法の適用」が短答式でどう出題されてきたか、ひっかけの型9件と関係する過去問の肢4本は、無料のアカウントでログインすると読めます。

読んだあとに、憲法の肢別演習を

この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。

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