【判例】役員報酬の決定と株主総会決議(最判平15.2.21)
役員報酬の決定と株主総会決議に関する最判平15.2.21を解説。お手盛り防止の趣旨、報酬減額の可否、無報酬合意の効力、退職慰労金の決定手続を詳しく分析します。
この判例のポイント
取締役の報酬額が株主総会の決議によって定められた場合、その後に株主総会の決議を経ないで一方的に減額することは、当該取締役の同意がない限り許されないとした判決。役員報酬決定制度の趣旨がお手盛り防止にあることを確認しつつ、いったん株主総会決議で定められた報酬には契約的拘束力があることを明らかにした。会社法361条の解釈における基本判例である。
事案の概要
X(原告・被上告人)は、Y株式会社(被告・上告人)の取締役であった。Y社の株主総会において、取締役の報酬総額の上限が決議され、具体的な各取締役への配分は取締役会に一任されていた。取締役会の決定により、Xの月額報酬は一定額に定められ、数年にわたりその額が支払われていた。
その後、Y社の経営状況の悪化等を理由として、Y社は取締役会決議により、Xの月額報酬を大幅に減額した。この減額はXの同意を得ずに行われたものであった。
Xは、株主総会決議及び取締役会決議に基づいて定められた自己の報酬額は、一方的に減額されるべきものではなく、減額前の報酬額との差額の支払いを求めて訴えを提起した。
Y社は、取締役の報酬は会社と取締役の委任関係に基づくものであるから、会社の経営状況に応じて取締役会が報酬額を変更することは許されるべきであると反論した。
争点
- 株主総会決議に基づいて定められた取締役の報酬は、当該取締役の同意なく一方的に減額することができるか
- 取締役の報酬請求権の法的性質は何か
- 経営状況の悪化は報酬減額の正当事由となるか
判旨
株式会社において、定款又は株主総会の決議によって取締役の報酬額が具体的に定められた場合には、その報酬額は、会社と取締役間の契約内容となり、双方を拘束するから、その後株主総会が当該取締役の報酬につきこれを無報酬とする旨の決議をしたとしても、当該取締役は、これに同意しない限り、右報酬の請求権を失うものではない
― 最高裁判所第二小法廷 平成15年2月21日 平成13年(受)第1562号
最高裁は、以下の法理を明示した。
第一に、株主総会の決議又はこれに基づく取締役会の決定により取締役の報酬額が具体的に定められた場合、その報酬額は会社と取締役間の契約内容となる。
第二に、契約内容となった報酬額は双方を拘束するのであるから、当該取締役の同意がない限り、これを一方的に減額(又は無報酬とすること)は許されない。たとえ株主総会が新たに減額の決議をしたとしても、当該取締役の同意がなければ、従前の報酬請求権は消滅しない。
第三に、この理は、経営状況の悪化等の事情があっても変わらない。
ポイント解説
役員報酬規制の趣旨(お手盛り防止)
会社法361条1項は、取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として会社から受ける財産上の利益(以下「報酬等」)について、定款に定めていないときは、株主総会の決議によって定めることを要求する。
この規定の趣旨は、お手盛りの防止にある。すなわち、取締役が自己の報酬を自ら決定することを認めると、会社の利益を犠牲にして不当に高額な報酬を得る危険がある。そこで、報酬の決定を会社の最高意思決定機関である株主総会の権限としたのである。
お手盛り防止の趣旨から、以下のことが導かれる。
- 株主総会決議なしに支払われた報酬は、法律上の原因を欠くものとして不当利得となりうる
- 報酬の「額」のみならず、報酬の「算定方法」も株主総会の決議事項に含まれる
- 退職慰労金も職務執行の対価としての性質を有する限り、報酬等に含まれる
報酬決定の方式
会社法361条1項は、報酬等の決定について以下の三つの方式を定めている。
確定額報酬(1号): 報酬等の額が確定しているものについては、その額を株主総会で定める。最も一般的な方式であり、実務上は取締役全員の報酬総額の上限を株主総会で決議し、具体的な個人別の配分を取締役会に一任するという方法がとられることが多い。
不確定額報酬(2号): 報酬等の額が確定していないものについては、その具体的な算定方法を株主総会で定める。業績連動型報酬等がこれに該当する。
非金銭報酬(3号): 金銭でないものについては、その具体的な内容を株主総会で定める。ストックオプション(新株予約権)、社宅の提供等がこれに該当する。
報酬請求権の法的性質
本判決は、具体的に定められた取締役の報酬が契約内容となることを明確にした。この判断は、報酬請求権の法的性質に関する以下の理解に基づく。
取締役と会社の関係は委任関係(会社法330条、民法643条以下)である。取締役の報酬は、この委任契約における報酬約定に該当する。したがって、いったん具体的に定められた報酬額は、委任契約の内容として双方を拘束し、一方当事者の意思のみで変更することはできない。
もっとも、報酬の期待権にすぎない段階(まだ具体的な報酬額が定められていない段階)では、契約内容としての拘束力は生じない。株主総会で報酬総額の上限が定められただけで、個人別の配分がまだ決定されていない場合には、具体的な報酬請求権は発生していない。
報酬減額が許される場合
本判決は、当該取締役の同意がない限り報酬の一方的減額は許されないとしたが、逆に言えば、以下の場合には報酬の変更が可能である。
取締役の同意がある場合: 当該取締役が報酬の減額に同意すれば、減額は有効である。この同意は明示であることを要し、黙示の同意の認定は慎重に行われるべきである。
任期満了による再選の場合: 取締役の任期が満了し、再選された場合には、新たな任期における報酬は改めて定めることができる。再選時に従前より低い報酬を定めることは、お手盛り防止の趣旨に反しない。
正当事由に基づく解任の場合: 取締役を解任した場合には、報酬請求権の基礎となる委任関係が終了するため、将来の報酬請求権は消滅する。ただし、正当な理由なく解任された場合には、損害賠償請求権が発生しうる(会社法339条2項)。
退職慰労金と株主総会決議
退職慰労金は、退任した取締役に対して支給される金員であり、在職中の職務執行の対価としての性質と功労報償的な性質を併有する。判例は、退職慰労金も会社法361条1項の「報酬等」に含まれると解しており、支給にあたっては株主総会の決議が必要である。
実務上は、退職慰労金の具体的な算定を取締役会に一任する旨の株主総会決議がなされることが多い。この一任決議の有効性について、判例(最判昭和39年12月11日)は、退職慰労金の支給基準が存在し、株主がこれを知りうる状態にある場合には、具体的金額の算定を取締役会に一任することも許されるとしている。
もっとも、退職慰労金制度を廃止する企業が増加しており、現在では業績連動報酬やストックオプションが重視される傾向にある。
学説・議論
報酬減額の法的構成
報酬減額の可否については、以下の法的構成が議論されている。
契約説(判例の立場)は、具体的に定められた報酬は会社と取締役間の契約内容となるのであるから、契約の一方的変更は許されないとする。この見解によれば、報酬の減額には当該取締役の同意が必要であり、株主総会の多数決のみでは減額できない。
会社法上の権限説は、報酬の決定は会社法上株主総会の権限であるから、株主総会は報酬の増額のみならず減額についても権限を有するとする。この見解によれば、株主総会決議によって報酬を減額することは原則として可能であり、取締役の個別の同意は必要ない。
信義則説は、報酬減額の可否を信義則(民法1条2項)に基づいて判断する。経営状況の著しい悪化等の事情がある場合には、信義則上、取締役は報酬減額に応じるべき義務を負うとする見解である。
判例が採用する契約説が妥当であると解される。株主総会決議による報酬の決定は、お手盛り防止という趣旨のみならず、取締役の報酬請求権を基礎づける機能を有しており、いったん基礎づけられた権利を一方的に奪うことは、法的安定性の観点から許されない。
お手盛り防止と報酬の透明性
お手盛り防止の趣旨を徹底するためには、報酬決定の透明性が確保される必要がある。しかし、日本の伝統的な実務においては、取締役全員の報酬総額のみを株主総会で決議し、個人別の配分は取締役会(又は代表取締役)に一任するという慣行が広く行われてきた。
この慣行のもとでは、個々の取締役の報酬額は株主に開示されず、お手盛り防止の趣旨が十分に貫徹されないとの批判がある。そこで、令和元年(2019年)の会社法改正により、上場会社等の取締役の個人別の報酬等の内容についての決定方針を取締役会が定めなければならないとする規定が新設された(会社法361条7項)。
報酬ガバナンスの強化
近年、コーポレートガバナンス・コードの改訂等を通じて、役員報酬のガバナンスが強化される傾向にある。
報酬委員会の設置が推奨されており、指名委員会等設置会社では報酬委員会が必置機関とされている(会社法404条3項)。監査等委員会設置会社及び監査役設置会社においても、任意の報酬諮問委員会の設置が推奨されている。
個別開示の拡充も進んでおり、有価証券報告書において、1億円以上の報酬を受ける役員の個別報酬の開示が義務づけられている(企業内容等の開示に関する内閣府令)。
これらの改革は、お手盛り防止という伝統的な規制趣旨を前提としつつ、報酬決定の透明性・合理性をより一層確保しようとするものである。
判例の射程
本判決の射程は以下のとおりである。
直接的な射程として、株主総会決議(及びこれに基づく取締役会決議)によって具体的に定められた取締役の報酬は、当該取締役の同意なく一方的に減額することができないことを判示したものである。
拡張可能な射程として、監査役の報酬(会社法387条)についても、同様の法理が妥当すると解される。監査役の報酬は、各監査役の協議によって定められるところ(会社法387条2項)、一度定められた報酬を監査役の同意なく減額することは許されないと解すべきである。
会計参与の報酬(会社法379条)についても同様である。
射程の限界として、本判決は具体的に定められた報酬額の減額が問題となった事案であり、報酬総額の上限が定められたにとどまる場合(個人別の配分がまだ決定されていない場合)には直接的に妥当しない。また、指名委員会等設置会社における執行役・取締役の報酬は報酬委員会が決定するため(会社法404条3項)、株主総会決議による報酬決定を前提とする本判決の射程外である。
反対意見・補足意見
本判決には反対意見・補足意見は付されていない。
もっとも、学説においては、経営状況が著しく悪化した場合にまで取締役の同意なしに報酬を減額できないとすることに対しては批判がある。会社が倒産の危機に瀕している場合に、取締役が高額報酬を受け続けることは株主・債権者の利益を害するとの指摘である。
これに対し、判例の立場は、報酬減額が必要な場合には解任(会社法339条)や再選拒否(任期満了時に再選しない)という手段によって対処可能であり、報酬の一方的減額を認める必要はないとの考えに立つものと理解される。解任の場合には正当な理由がなければ損害賠償義務が生じうるが(同条2項)、経営状況の著しい悪化は正当な理由に該当しうるとの解釈も可能である。
試験対策での位置づけ
役員報酬の決定は、会社法の機関分野において重要なテーマであり、司法試験・予備試験においても頻出である。特に以下の論点が問われる。
- 報酬決定における株主総会決議の要否(お手盛り防止の趣旨)
- 報酬総額の一任決議の有効性
- 具体的に定められた報酬の減額の可否
- 退職慰労金の法的性質と決定手続
- ストックオプションの報酬該当性
論文試験では、取締役の報酬に関する紛争事案(減額、不支給、退職慰労金の不支給等)が出題されることが多い。お手盛り防止の趣旨を説明したうえで、報酬請求権の法的性質(契約内容としての拘束力)を論じることが求められる。
答案での使い方
役員報酬の減額が問題となる事案では、以下の論証パターンが有用である。
問題の所在の提示: 「取締役Xの報酬が株主総会決議に基づき具体的に定められた後、会社が一方的にこれを減額した。Xは減額前の報酬額を請求できるか。」
規範の定立: 「会社法361条1項は、取締役の報酬等を定款又は株主総会の決議で定めることを要求する。その趣旨はお手盛りの防止にある。もっとも、株主総会決議等により具体的に定められた報酬額は、会社と取締役間の契約内容となり、双方を拘束する(最判平15.2.21)。したがって、当該取締役の同意がない限り、報酬を一方的に減額することは許されない。」
あてはめのポイント: (1)報酬額が具体的に定められているか(総額の上限の決議にとどまるか、個人別配分まで決定されているか)、(2)取締役の同意の有無(明示の同意か、黙示の同意が認定できるか)、(3)減額に至った経緯(経営状況の悪化等の事情があるか)を検討する。
効果の記述: 「報酬減額に同意していないXは、減額前の報酬額と減額後の報酬額との差額について、会社に対する報酬請求権を有する。」
重要概念の整理
報酬決定の手続比較
機関設計 報酬の決定権者 根拠条文 監査役設置会社 株主総会(取締役会に配分の一任可) 会社法361条1項 監査等委員会設置会社 株主総会(監査等委員とそれ以外を区別) 会社法361条1項・2項 指名委員会等設置会社 報酬委員会 会社法404条3項 監査役の報酬 株主総会(監査役間の協議で配分) 会社法387条報酬等の種類と株主総会決議事項
報酬の種類 決議事項 条文 確定額報酬 その額 会社法361条1項1号 不確定額報酬 具体的な算定方法 会社法361条1項2号 非金銭報酬 具体的な内容 会社法361条1項3号 退職慰労金 支給額又は算定方法(一任決議も可) 会社法361条1項(判例)報酬減額の可否
場面 減額の可否 理由 取締役の同意がある場合 可能 契約の合意変更 取締役の同意がない場合 不可 契約内容の一方的変更は許されない 任期満了・再選時 新報酬の設定可能 新たな委任契約の締結 解任の場合 将来の報酬は消滅 委任関係の終了(ただし損害賠償の余地) 指名委員会等設置会社 報酬委員会の決定による 株主総会決議を経ない発展的考察
報酬クローバック制度
近年、欧米ではクローバック条項(clawback provision)が注目されている。クローバック条項とは、いったん支払われた報酬を、一定の事由(会計不正の発覚等)が生じた場合に返還を請求することを可能にする契約条項である。
アメリカでは、2010年のドッド・フランク法により上場会社にクローバック・ポリシーの採用が義務づけられた。日本法においては、クローバック条項に関する明文の規定は存在しないが、報酬契約にクローバック条項を設けることは契約自由の原則のもとで可能と解される。
本判決の法理との関係では、クローバック条項はあらかじめ合意された報酬返還の特約として構成されるため、取締役の同意に基づく報酬の調整として、本判決の射程内で正当化しうる。
インセンティブ報酬と規制の変容
伝統的な日本の報酬慣行では、固定額の月額報酬と退職慰労金が中心であった。しかし、コーポレートガバナンス改革の進展に伴い、業績連動報酬や株式報酬(リストリクテッド・ストック、パフォーマンス・シェア等)の導入が進んでいる。
令和元年会社法改正は、株式報酬及びストックオプションについて、報酬等としての規律を整備した(会社法361条1項3号・4号・5号の新設等)。これにより、取締役の報酬が固定額のみで構成される時代から、多様なインセンティブ報酬を組み合わせた報酬設計が普及しつつある。
報酬の多様化に伴い、お手盛り防止の規律も複雑化している。固定額報酬であれば「額」を定めれば足りるが、業績連動報酬であれば「算定方法」を、株式報酬であれば「具体的な内容」を定める必要があり、株主総会決議の対象が多岐にわたるようになっている。
社外取締役の報酬と独立性
社外取締役の報酬は、社外取締役の独立性との関係で重要な問題を提起する。社外取締役の報酬が高額になりすぎると、会社経営陣に対する監督機能が損なわれる恐れがある。他方、報酬が低すぎると、有能な人材を社外取締役として確保することが困難になる。
コーポレートガバナンス・コードは、社外取締役の報酬について、業績連動報酬の割合を抑制することを推奨している。これは、社外取締役が短期的な業績向上に過度に動機づけられることを防ぎ、中長期的な企業価値の向上に資する監督機能を確保する趣旨である。
よくある質問
Q1: 株主総会で報酬総額の上限だけを決議し、個人別の配分を取締役会に一任することは有効ですか?
A: 有効です。判例(最判昭和60年3月26日)は、株主総会が取締役全員の報酬総額の上限を定め、個人別の配分を取締役会に一任する旨の決議をすることを適法と認めています。お手盛り防止の趣旨は、報酬総額の上限が株主総会で定められることで一応充足されるとの理解に基づきます。ただし、近年は個人別報酬の決定方針の策定が義務づけられる傾向にあります。
Q2: 取締役が無報酬で就任することは可能ですか?
A: 可能です。会社法361条は報酬を「定める」ことを要求していますが、報酬を支給しないという定め(無報酬)もこれに含まれます。取締役が無報酬での就任に同意している場合には、報酬請求権は発生しません。ただし、いったん具体的な報酬額が定められた後に無報酬とする場合には、本判決の法理により当該取締役の同意が必要です。
Q3: 退職慰労金の支給を取締役会に一任する株主総会決議は有効ですか?
A: 判例(最判昭和39年12月11日)は、退職慰労金の支給基準が定められており、株主がこれを知りうる状態にある場合には、具体的な金額の算定を取締役会に一任することも有効であるとしています。ただし、支給基準が存在しない場合や、株主がこれを知りえない場合には、一任決議の有効性に疑問が生じます。
Q4: 経営状況が悪化した場合でも報酬減額には取締役の同意が必要ですか?
A: 本判決の法理によれば、経営状況の悪化は報酬の一方的減額を正当化する理由とはなりません。報酬減額には取締役の同意が必要です。もっとも、経営状況が著しく悪化した場合には、取締役の解任(会社法339条)や再選拒否(任期満了時に再選しない)という手段により対処することが可能です。
Q5: 指名委員会等設置会社では報酬の決定手続はどうなりますか?
A: 指名委員会等設置会社では、取締役及び執行役の報酬は報酬委員会が決定します(会社法404条3項)。株主総会の決議は不要です。報酬委員会は、社外取締役が過半数を占める必要があり(会社法400条3項)、報酬決定の独立性・透明性が制度的に確保されています。報酬委員会が個人別の報酬を直接決定するため、取締役会への一任という問題は生じません。
関連条文
- 会社法330条: 取締役と会社の関係(委任)
- 会社法339条: 取締役の解任
- 会社法361条: 取締役の報酬等
- 会社法379条: 会計参与の報酬等
- 会社法387条: 監査役の報酬等
- 会社法404条3項: 報酬委員会の権限
- 民法643条: 委任の意義
- 民法648条: 受任者の報酬
関連判例
- 最判昭和39年12月11日: 退職慰労金の支給を取締役会に一任する株主総会決議の有効性
- 最判昭和60年3月26日: 取締役全員の報酬総額の上限を株主総会で決議し、配分を取締役会に一任する決議の有効性
- 最判昭和56年5月11日: 使用人兼務取締役の使用人としての給与と取締役としての報酬の区別
- 最大判昭和45年6月24日: 取締役の忠実義務と善管注意義務の関係(同質説)
- 最判平成22年3月16日: 退職慰労金不支給の株主総会決議と取締役の損害賠償請求
まとめ
本判決は、株主総会決議等により具体的に定められた取締役の報酬は会社と取締役間の契約内容となり、当該取締役の同意なく一方的に減額することは許されないことを明確にした重要判例である。
役員報酬規制の趣旨はお手盛りの防止にあるが、いったん定められた報酬には契約的拘束力が生じ、株主総会の多数決によっても、取締役の同意なしに減額することはできない。この判断は、報酬請求権が会社と取締役間の委任契約の内容として保護されることを示したものである。
近年の会社法改正やコーポレートガバナンス改革により、役員報酬の透明性・合理性が強化される傾向にあるが、本判決が示した報酬請求権の法的保護の法理は、現在の報酬ガバナンスの基盤として重要な意義を有し続けている。