/ 民法

相続法改正の全体像

2018年・2019年相続法改正の全体像を解説。配偶者居住権・自筆証書遺言の保管制度・遺留分の金銭債権化・特別寄与料制度・預貯金仮払い制度を体系的に整理します。

この記事のポイント

2018年(平成30年)及び2019年(令和元年)の相続法改正は、約40年ぶりの大規模改正である。配偶者居住権の新設による配偶者保護の強化、自筆証書遺言の方式緩和と法務局保管制度の創設、遺留分制度の金銭債権化、特別寄与料制度の新設、預貯金の仮払い制度の創設など、相続法の多岐にわたる分野で重要な変更が行われた。


改正の経緯と背景

改正の背景事情

社会的背景 内容 高齢化の進展 配偶者も高齢であり、居住確保と生活資金の両立が困難 相続紛争の増加 遺産分割事件の増加と長期化 遺言利用の低迷 自筆証書遺言の方式の厳格さが利用の障壁 最決平成28年12月19日 預貯金債権も遺産分割の対象となることが確認され、仮払いの必要性が認識

改正法の施行時期

改正事項 施行日 自筆証書遺言の方式緩和 2019年1月13日 配偶者居住権、遺留分改正、特別寄与料等 2020年7月1日 自筆証書遺言の法務局保管制度 2020年7月10日

配偶者の居住権の保護

配偶者居住権(1028条〜1036条)

遺産分割、遺贈又は家庭裁判所の審判により、配偶者が被相続人の建物に終身又は一定期間居住し続けることができる権利が新設された。

  • 登記による対抗力あり(1031条)
  • 譲渡不可(1032条2項)
  • 遺産分割における評価額の算定方法により、配偶者は居住確保と他の財産取得を両立可能

配偶者短期居住権(1037条〜1041条)

遺産分割が完了するまでの間等、配偶者が短期的に居住を継続できる権利が新設された。

  • 成立要件は配偶者居住権より緩和(無償居住で足りる)
  • 存続期間は原則として6か月程度
  • 登記は不可、第三者対抗力なし

遺言制度の見直し

自筆証書遺言の方式緩和(968条2項)

旧法では、自筆証書遺言は全文を自書する必要があった。改正により、財産目録については自書を要しないこととされた。

部分 旧法 改正法 遺言本文 全文自書 全文自書(変更なし) 財産目録 全文自書 自書不要(パソコン作成、不動産登記事項証明書添付等が可能)

ただし、自書によらない財産目録の毎葉に署名押印が必要である(968条2項後段)。

自筆証書遺言の法務局保管制度

法務局における遺言書の保管等に関する法律(遺言書保管法)により、自筆証書遺言を法務局に保管する制度が創設された。

メリット

  • 遺言書の紛失・改ざん・隠匿の防止
  • 家庭裁判所における検認が不要(遺言書保管法11条)
  • 遺言書の形式的な確認が保管時に行われる
  • 相続人への通知制度がある

遺留分制度の見直し

遺留分侵害額請求権への転換

旧法の遺留分減殺請求権は、物権的効力を有し、遺贈・贈与の目的物に対する共有状態を生じさせていた。改正法は、遺留分侵害額の支払いを求める金銭債権に転換した(1046条1項)。

項目 旧法(遺留分減殺請求) 改正法(遺留分侵害額請求) 法的性質 物権的効力(共有持分の回復) 金銭債権 効果 目的物の共有状態が生じる 金銭の支払請求 問題点 事業用財産の共有化により事業承継が困難 金銭支払いにより事業用財産の分散を防止

遺留分の算定方法(1043条・1044条)

改正法は、遺留分の算定方法を以下のように整理した。

  • 遺留分算定の基礎財産 = 相続開始時の積極財産 + 贈与の価額 − 債務の額
  • 相続人への贈与: 相続開始前10年間の特別受益にあたる贈与が算入対象(1044条3項)
  • 第三者への贈与: 相続開始前1年間の贈与が算入対象(1044条1項前段)

期限の許与(1047条5項)

受遺者又は受贈者が金銭を直ちに支払うことが困難な場合、裁判所は支払いについて相当の期限を許与することができる。


特別寄与料制度(1050条)

制度趣旨

旧法の寄与分制度(904条の2)は相続人に限り適用されるため、例えば長男の妻が被相続人の介護を行っていた場合、直接的な報酬を受けることができないという問題があった。

制度内容

被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人を除く)は、相続人に対し、特別寄与料の支払いを請求できる(1050条1項)。

項目 内容 請求権者 被相続人の親族(相続人を除く) 要件 無償の療養看護等の労務提供により財産の維持・増加に特別の寄与 請求の相手方 相続人 協議不調の場合 家庭裁判所が定める 行使期間 相続開始及び相続人を知った時から6か月又は相続開始から1年

預貯金の仮払い制度

最決平成28年12月19日との関係

最高裁大法廷決定(平成28年12月19日)により、預貯金債権は遺産分割の対象となることが判示された。これにより、遺産分割前に相続人が単独で預貯金を払い戻すことができなくなり、相続人の生活資金や葬儀費用の確保が困難となった。

仮払い制度の内容

1. 家庭裁判所の保全処分(家事事件手続法200条3項)

遺産分割の審判又は調停の申立てがあった場合、家庭裁判所は仮処分により預貯金の仮払いを認めることができる。

2. 家裁の判断を経ない仮払い(909条の2)

各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち、以下の額まで単独で払戻しを受けることができる。

相続開始時の債権額 × 1/3 × 当該相続人の法定相続分

ただし、1金融機関につき150万円が上限とされている(法務省令)。


その他の改正事項

遺産分割前の処分(906条の2)

遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合、共同相続人全員の同意により、当該財産を遺産分割の対象に含めることができる。処分をした共同相続人の同意は不要である(906条の2第2項)。

相続の効力に関する見直し(899条の2)

法定相続分を超える権利の取得については、登記等の対抗要件を備えなければ第三者に対抗できないこととされた(899条の2第1項)。

旧法下では、遺産分割は遡及効を有し、法定相続分を超える部分も対抗要件なしに第三者に対抗できるとする見解もあったが、改正法は取引安全を重視する立場を明確にした。


改正事項の一覧表

改正事項 条文 主な内容 配偶者居住権 1028条〜1036条 配偶者の終身居住権 配偶者短期居住権 1037条〜1041条 短期的居住保護 自筆証書遺言の方式緩和 968条2項 財産目録の自書不要 遺言書保管制度 遺言書保管法 法務局での保管 遺留分の金銭債権化 1046条 物権的効力から金銭債権へ 特別寄与料 1050条 相続人以外の親族の寄与 預貯金仮払い 909条の2 遺産分割前の払戻し 遺産分割前の処分 906条の2 処分財産の遺産への組戻し 相続の対抗要件 899条の2 法定相続分超過は対抗要件必要

試験対策での位置づけ

相続法改正は、試験での出題可能性が極めて高いテーマである。

特に押さえるべきポイントは以下の通りである。

  • 配偶者居住権の成立要件と効果(特に共有建物の除外)
  • 遺留分の金銭債権化の趣旨と遺留分算定方法の変更
  • 自筆証書遺言の方式緩和(財産目録の自書不要)の要件
  • 預貯金仮払いの計算方法(1/3 × 法定相続分、上限150万円)
  • 特別寄与料制度の請求権者・要件・行使期間
  • 899条の2による対抗要件主義の導入

関連判例

  • 最決平成28年12月19日: 預貯金債権の遺産分割対象性(改正のきっかけ)
  • 最判平成8年12月17日: 配偶者の居住利益に関する判例(改正前)
  • 最判昭和54年3月22日: 遺留分減殺請求権の行使方法

まとめ

2018年・2019年の相続法改正は、高齢化社会における配偶者保護の強化、遺言利用の促進、遺留分制度の合理化、相続人以外の者の貢献への対応など、多角的な改正を行ったものである。各改正事項は相互に関連しており、全体像を把握した上で個別制度の要件・効果を正確に理解することが重要である。試験対策としては、改正の趣旨と旧法との比較を意識した学習が効果的である。

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