訴訟要件の総論的整理
訴訟要件の体系的整理として、裁判所・当事者・訴えに関する要件、職権調査事項と抗弁事項の区別、訴訟判決と本案判決の違いを解説します。
この記事のポイント
- 訴訟要件とは本案判決をするための前提条件であり、欠けると訴えは却下される
- 訴訟要件は裁判所に関する要件・当事者に関する要件・訴えに関する要件に体系化される
- 職権調査事項と抗弁事項の区別は訴訟要件の調査方法における重要な分類である
- 訴訟判決(訴え却下)と本案判決(請求認容・棄却)の区別を正確に理解する
訴訟要件の意義
訴訟要件とは
訴訟要件とは、裁判所が本案判決(請求の当否に関する判決)をするために具備すべき要件をいう。訴訟要件が充たされない場合、裁判所は訴えを不適法として却下判決(訴訟判決)を言い渡す。
訴訟要件の機能
訴訟要件には以下の機能がある。
- 不要な本案審理の回避 — 本案判決の前提を欠く場合に、訴訟経済上、早期に手続を終了させる
- 被告の応訴の煩を防ぐ — 不適法な訴えに対する本案での応訴を不要にする
- 裁判権の適正な行使 — 裁判所の管轄や権限の範囲を画定する
訴訟要件の体系
裁判所に関する要件
| 要件 | 内容 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 日本の裁判権 | 日本の裁判所に裁判権が認められること | 民事訴訟法3条の2〜3条の12 |
| 管轄 | 当該裁判所に事物管轄・土地管轄があること | 4条〜20条 |
| 裁判官の除斥・忌避事由がないこと | 公正な裁判の保障 | 23条〜27条 |
当事者に関する要件
| 要件 | 内容 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 当事者能力 | 民事訴訟の当事者となりうる一般的な資格 | 28条〜29条 |
| 訴訟能力 | 有効に訴訟行為をなしうる能力 | 31条〜35条 |
| 当事者適格 | 特定の訴訟について当事者となりうる資格 | (明文規定なし) |
| 訴訟代理権の存在 | 代理人による訴訟行為の場合 | 54条〜60条 |
訴えに関する要件
| 要件 | 内容 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 訴えの利益 | 訴えによる権利保護の必要性・実効性 | (明文規定なし) |
| 二重起訴の禁止 | 同一事件について重ねて訴えを提起しないこと | 142条 |
| 不起訴の合意がないこと | 当事者間の訴訟契約 | (明文規定なし) |
| 訴状の必要的記載事項の具備 | 適式な訴状の提出 | 133条 |
職権調査事項と抗弁事項
区別の意義
訴訟要件の調査方法に関して、職権調査事項と抗弁事項の区別がある。
| 区分 | 意義 | 調査の契機 |
|---|---|---|
| 職権調査事項 | 裁判所が当事者の申立てがなくても職権で調査すべき事項 | 裁判所が自ら調査 |
| 抗弁事項 | 相手方当事者の抗弁(援用)がなければ裁判所が考慮しない事項 | 被告の抗弁による |
各訴訟要件の分類
| 訴訟要件 | 職権調査/抗弁 | 職権探知/弁論主義 |
|---|---|---|
| 裁判権 | 職権調査事項 | 職権探知 |
| 管轄(専属管轄) | 職権調査事項 | 職権探知 |
| 管轄(任意管轄) | 抗弁事項 | 弁論主義 |
| 当事者能力 | 職権調査事項 | 職権探知 |
| 訴訟能力 | 職権調査事項 | 職権探知 |
| 当事者適格 | 職権調査事項 | 弁論主義(通説) |
| 訴えの利益 | 職権調査事項 | 弁論主義(通説) |
| 二重起訴の禁止 | 職権調査事項 | 職権探知 |
| 仲裁合意の存在 | 抗弁事項 | 弁論主義 |
| 不起訴の合意 | 抗弁事項 | 弁論主義 |
職権調査事項と職権探知の関係
職権調査事項であっても、資料の収集について弁論主義が適用される場合と職権探知が認められる場合がある。
- 職権調査+職権探知 — 裁判所が調査の契機も資料収集も自ら行う(例:裁判権、当事者能力)
- 職権調査+弁論主義 — 裁判所が調査の契機は自ら判断するが、資料収集は当事者に委ねる(例:当事者適格、訴えの利益)
訴訟判決と本案判決
訴訟判決
訴訟判決とは、訴訟要件の欠缺を理由に訴えを不適法として却下する判決をいう。本案(請求の当否)については判断しない。
- 主文 — 「原告の訴えを却下する」
- 既判力 — 訴訟判決には既判力は生じないとするのが通説(訴えの適否は訴訟法上の問題であり、実体法上の権利関係の確定ではないため)
- 再訴の可否 — 訴訟要件の欠缺が補正されれば再訴が可能
本案判決
本案判決とは、請求の当否について実体的判断を示す判決をいう。
| 判決の種類 | 主文 | 意味 |
|---|---|---|
| 請求認容判決 | 「被告は原告に対し〇〇を支払え」等 | 原告の請求に理由がある |
| 請求棄却判決 | 「原告の請求を棄却する」 | 原告の請求に理由がない |
| 一部認容判決 | 一部認容・一部棄却 | 請求の一部について理由がある |
訴訟要件の調査時期
訴え提起時と口頭弁論終結時
訴訟要件は、原則として口頭弁論終結時を基準として判断される。
- 訴え提起時に訴訟要件が欠けていても、口頭弁論終結時までに補正されればよい(例:訴え提起後に原告が成年に達した場合)
- 逆に、訴え提起時に具備していた訴訟要件が口頭弁論終結時に欠けていれば訴えは不適法となる
訴訟要件の審理順序
訴訟要件の審理と本案の審理の順序について、以下の議論がある。
- 訴訟要件先行審理説 — 訴訟要件を先に審理し、具備を確認してから本案審理に入るべきとする
- 本案審理並行説(通説・実務) — 訴訟要件と本案の審理は並行して行うことが可能であり、いずれか先に心証が得られた方から判断すればよい
各訴訟要件の概要
当事者能力(28条)
当事者能力とは、民事訴訟の当事者となりうる一般的な資格をいう。
- 自然人 — すべて当事者能力を有する(権利能力に準ずる:28条)
- 法人 — 法人格を有する団体は当事者能力を有する
- 権利能力なき社団 — 代表者の定めがあれば当事者能力が認められる(29条)
訴訟能力(31条)
訴訟能力とは、自ら有効に訴訟行為をなしうる能力をいう。
- 民法上の行為能力に準じて判断される(31条本文)
- 未成年者・成年被後見人は訴訟能力を欠き、法定代理人によって訴訟行為をする(31条)
- 被保佐人・被補助人は原則として訴訟能力を有する(32条1項参照)
当事者適格
当事者適格とは、特定の訴訟について原告又は被告として訴訟を追行し、本案判決を受けるのに適した地位をいう。
- 原則 — 訴訟物である権利又は法律関係の主体が当事者適格を有する(給付訴訟の場合)
- 例外 — 第三者の訴訟担当(法定訴訟担当・任意的訴訟担当)
訴えの利益
訴えの利益とは、本案判決をすることが紛争解決のために必要かつ適切であることをいう。
訴えの類型ごとに以下のように整理される。
| 訴えの類型 | 訴えの利益の内容 |
|---|---|
| 給付の訴え | 原則として肯定される(現在の給付の訴え) |
| 確認の訴え | 確認の利益(対象選択の適否・方法選択の適否・即時確定の利益) |
| 形成の訴え | 法律の定めがある場合に限り認められる |
二重起訴の禁止(142条)
趣旨
民事訴訟法142条は「裁判所に係属する事件については、当事者は、更に訴えを提起することができない」と定める。
二重起訴の判断基準
二重起訴に該当するか否かは、当事者の同一性と訴訟物の同一性によって判断される。
- 当事者が同一 — 原告と被告が入れ替わった場合も含む
- 訴訟物が同一 — 請求の趣旨及び原因(訴訟物)の同一性で判断
相殺の抗弁と二重起訴
相殺の抗弁と二重起訴の禁止の関係は重要論点である。
- 最大判平成3年12月17日 — 相殺の抗弁に供された自働債権について別訴で請求することは、二重起訴の禁止に反しないが、判決の矛盾抵触を避けるため別訴を許さないとした
試験対策での位置づけ
訴訟要件は、民事訴訟法の体系的理解の出発点であり、以下の点が試験で頻出である。
- 訴訟要件の体系 — 各要件の分類と根拠条文の正確な記憶
- 職権調査事項と抗弁事項の区別 — 短答式で頻出の出題パターン
- 訴えの利益 — 確認の利益の3要件は論文でも頻出
- 二重起訴の禁止 — 相殺の抗弁との関係は最重要論点の一つ
- 訴訟判決と本案判決の区別 — 既判力の有無との関連
関連判例
- 最大判平成3年12月17日 — 相殺の抗弁と二重起訴の禁止
- 最判昭和45年12月15日 — 確認の利益の判断基準
- 最判平成11年1月21日 — 権利能力なき社団の当事者能力
- 最判昭和40年6月24日 — 訴えの利益の消滅
まとめ
訴訟要件は、本案判決の前提条件として民事訴訟の入口に位置する制度である。裁判所に関する要件(裁判権・管轄)、当事者に関する要件(当事者能力・訴訟能力・当事者適格)、訴えに関する要件(訴えの利益・二重起訴の禁止等)の三分類を軸に体系的に整理することが重要である。また、各訴訟要件について職権調査事項か抗弁事項か、さらに職権探知が及ぶか弁論主義の適用があるかを正確に分類できるようにしておくことが、試験対策上不可欠である。
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