所有者不明土地問題と民法改正
所有者不明土地問題に対応する2021年民法改正を解説。共有制度の見直し、相隣関係の改正、相続土地国庫帰属制度など、物権法の重要改正を体系的に整理します。
この記事のポイント
2021年民法改正は、所有者不明土地問題の解決を主要な目的として行われた。共有制度の見直し(管理行為の要件緩和・所在等不明共有者の持分取得制度の新設)、相隣関係の見直し(ライフライン設置権の明文化・越境した枝の切除権の見直し)、財産管理制度の創設など、物権法分野に大きな変更が加えられた。さらに不動産登記法の改正による相続登記の義務化、新法である相続土地国庫帰属法の制定とあわせて、所有者不明土地の「発生予防」と「利用円滑化」の両面から包括的な制度設計がなされている点が、本改正全体を理解する上での鍵となる。
所有者不明土地問題の背景
所有者不明土地とは何か
「所有者不明土地」とは、一般に、不動産登記簿等の公的記録を確認しても所有者が直ちに判明しない土地、又は所有者が判明してもその所在が不明で連絡がつかない土地をいう。法律上の確定した定義語ではなく、実務上の概念であるが、後述する所有者不明土地管理命令(民法264条の2)の対象は「所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地」とされており、これが法令上の中核的な定義に対応する。
ここで重要なのは、「所有者が物理的に存在しない」のではなく、「制度上、所有者を特定・把握できない」状態を指している点である。多くの場合、所有者本人は生存していたり、相続人が現に存在していたりするが、相続登記がされていなかったり、住所変更登記がされていなかったりするために、第三者の側から所有者にたどり着けない。つまり所有者不明土地問題の本質は、権利の主体が消滅した問題ではなく、権利の主体と公示制度との接続が切れている問題である。この理解は、改正法が「登記の促進」と「不明状態での権利処理」の二本立てになっている理由を説明する。
問題の規模
国土交通省の調査によると、所有者不明土地は日本の国土面積の約22%(約410万ヘクタール)に上るとされる。これは九州全体の面積を超える規模であり、放置すれば公共事業の用地取得、防災・減災のための整備、空き地・空き家対策、農地や森林の集約的利用などあらゆる土地利用の局面で障害となる。とりわけ、災害復旧やインフラ整備の現場では、用地買収の相手方が特定できないことが工事の長期停滞を招くという深刻な弊害が指摘されてきた。
問題の原因
原因 内容 相続未登記 相続が発生しても登記名義を変更しないまま放置 住所変更未登記 所有者の住所変更が登記に反映されない 土地の低利用 地方の土地の資産価値低下により管理の意欲が減退 多数の共有者 相続が重なり共有者が数十人〜数百人に及ぶケース相続未登記が最大の原因である。従来、相続登記には申請義務がなく、登記をしなくても罰則もなかった。登記には登録免許税や司法書士費用がかかる一方、登記をしないことの不利益が顕在化しにくいため、特に資産価値の低い地方の土地では「登記しないまま放置」が合理的な選択となってしまっていた。そして相続が重なる(数次相続)と、当初は一人だった所有者の権利が、子・孫・ひ孫の世代へと枝分かれし、共有者が爆発的に増加する。数十人、ときには数百人の共有者が全国に散らばり、その一部が所在不明・連絡不通になることで、土地全体の処分や利用が完全に膠着する。これが多数共有による所有者不明土地の典型的な発生メカニズムである。
改正の全体像
所有者不明土地問題に対応するため、以下の法律が制定・改正された。これらは2021年に一括して成立しており、相互に補完し合う関係にある。
- 民法改正(2021年法律第24号): 共有・相隣関係・財産管理制度の見直し(主に2023年4月1日施行)
- 不動産登記法改正: 相続登記の義務化(2024年4月1日施行)、住所変更登記の義務化(2026年4月施行予定)
- 相続土地国庫帰属法(新法): 不要な土地を国庫に帰属させる制度(2023年4月27日施行)
これらは目的の観点から「発生予防」と「利用円滑化」の二つに整理できる。相続登記の義務化と相続土地国庫帰属制度は、所有者不明土地が新たに生まれることを防ぐ発生予防策であり、共有制度・相隣関係・財産管理制度の見直しは、既に生じている不明状態の土地を有効活用するための利用円滑化策である。試験で改正趣旨を問われた際には、まずこの二分法を提示すると論述の軸が安定する。
共有制度の見直し
共有制度における従来の問題点
共有とは、複数人が一個の物の所有権を持分という割合的形態で共同して有する関係である。共有物の利用・処分には、行為の性質に応じて他の共有者の同意が必要となるが、共有者の一部が所在不明の場合、必要な同意を集めることができず、共有物が塩漬けになるという問題があった。とりわけ、相続を契機に多数の共有者が生じた土地では、一人でも連絡のつかない者がいると、管理行為すら停滞してしまう。改正法は、この同意調達の困難を緩和するため、共有物の管理・変更のルールを再構成し、所在不明共有者を手続的に「外す」ための制度を整備した。
管理行為・変更行為・保存行為の区別
共有物に対する行為は、伝統的に次の三類型に区別される。試験では、まずこの区別を正確に示せることが前提となる。
- 保存行為: 共有物の現状を維持する行為(修繕、不法占拠者への明渡請求等)。各共有者が単独でできる(252条5項)。
- 管理行為: 共有物を利用・改良する行為(短期賃貸借、共有物の使用方法の決定等)。持分の価格の過半数で決する。
- 変更行為: 共有物の性質・形状を変える行為(建物の建築、土地の造成等)。原則として共有者全員の同意が必要(251条1項)。
この三類型の区別は、各行為が共有者の利害に与える影響の大きさに対応している。保存行為は他の共有者にとって基本的に利益にこそなれ不利益とはならないため、各自が単独で行えるのが合理的である。管理行為は共有物の利用方法に関わり共有者間で利害が対立しうるため、多数決原理として持分の過半数による決定にかからしめられる。変更行為は共有物そのものの姿を変え、各共有者の持分の価値に重大な影響を及ぼしうるため、最も慎重に全員同意が要求される。改正法による「軽微変更」概念の導入は、この影響度のグラデーションをより精緻に反映させ、影響の小さい変更を管理行為の枠で迅速に処理できるようにしたものと理解できる。なお、共有物の処分(売却・抵当権設定等)や共有物全体に対する所有権の行使は、変更行為を超える行為として共有者全員の同意を要するのが原則であり、各共有者が処分できるのは自己の持分に限られる点も押さえておきたい。
管理行為の要件緩和
旧法では、共有物の管理行為には共有者の持分の過半数の同意が必要であった(旧252条)。しかし、共有者の一部が所在不明の場合、過半数の同意を得ることが事実上困難であった。改正法は、所在等不明共有者を意思決定から手続的に除外する仕組みを導入した。
所在等不明共有者がいる場合の管理行為(252条2項2号)
共有者は、裁判所の決定を得て、所在等不明共有者以外の共有者の持分の価格の過半数により、管理に関する事項を決することができる。すなわち、所在不明者の持分を分母から除外して過半数を計算できるため、現に把握できる共有者だけで管理の意思決定が可能になる。
同様に、賛否を明らかにしない共有者がいる場合についても、裁判所の決定を得て、その者を除いた残りの共有者の持分の過半数で管理事項を決することができる(252条2項1号)。これにより、所在は判明しているが意思表明をしない非協力的な共有者によって管理が停滞する事態にも対応できるようになった。
共有物を使用する共有者がいる場合の管理
改正法は、共有物を使用する共有者がいる場合でも、持分の過半数によって管理に関する事項を決することができることを明文化した(252条1項後段)。ただし、その決定により共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない(252条3項)。「特別の影響」とは、対象となる共有者に生ずる不利益が、共有物の使用に関する従前の合意等に照らして受忍すべき程度を超えると認められる場合をいう。
共有物の使用と償金
共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負うことが明文化された(249条2項)。また、共有物を使用する共有者は善良な管理者の注意をもって共有物を保存しなければならない(249条3項)。これは、共有者の一部が共有物を独占的に使用している場合の費用負担関係を明確化したものである。
変更行為の要件緩和(軽微変更の新設)
行為の種類 旧法 改正法 変更行為(重大) 共有者全員の同意 共有者全員の同意(維持) 軽微変更 (区別なし・全員同意) 持分の過半数で可能 管理行為 持分の過半数 持分の過半数(所在不明者を除外可能) 保存行為 各共有者が単独で可能 変更なし改正法は、変更行為のうち「形状又は効用の著しい変更を伴わないもの」を軽微変更として切り出し、これを管理行為と同様に持分の過半数で決することができるものとした(251条1項括弧書、252条1項)。例えば、砂利道のアスファルト舗装や、建物の外壁・屋上防水の修繕工事などが軽微変更の例として挙げられる。これにより、従来は「変更」として全員同意を要すると解されかねなかった行為の一部が、過半数で迅速に決定できるようになった。
所在等不明共有者がいる場合の変更
共有物に変更を加える行為についても、所在等不明共有者がいるときは、裁判所の決定を得て、その所在等不明共有者以外の共有者全員の同意により変更を加えることができる(251条2項)。管理行為とは異なり、変更については「残りの共有者全員」の同意が必要である点に注意が必要である。
所在等不明共有者の持分取得(262条の2)
共有者は、裁判所の決定を得て、所在等不明共有者の持分を取得することができる。これは、不明者を共有関係から離脱させて共有を整理・解消するための制度である。
- 不動産が対象(動産は対象外)
- 持分を取得する共有者は、所在等不明共有者の持分の時価に相当する額を供託する必要がある(所在不明者は供託金の還付請求権を取得する)
- 相続財産に属する共有持分については、相続開始の時から10年を経過した後でなければ、この制度を利用できない
- 取得を希望する共有者が複数いるときは、各自の持分の割合に応じて按分して取得する
所在等不明共有者の持分譲渡(262条の3)
共有者は、裁判所の決定を得て、所在等不明共有者の持分を第三者に譲渡する権限を与えられる制度を利用できる。これは、共有者全員が持分を特定の第三者に譲渡することを前提に、所在不明者の持分も含めて一括して譲渡できるようにするものである。
- 不動産の共有持分が対象
- 譲渡権限を得た共有者は、自己の持分も含めて全部を譲渡することが条件となる(不明者の持分だけを譲渡することはできない)
- 所在等不明共有者は、譲渡に伴いその持分の時価相当額の支払請求権を取得する
- 相続財産については、ここでも相続開始から10年の経過が要件となる
262条の2(持分取得)と262条の3(持分譲渡)の違いは、前者が他の共有者が自ら持分を取得して共有関係内部で処理するのに対し、後者は第三者への売却を実現するための権限付与である点にある。土地全体を売却したい場面では262条の3が、共有者間で持分を集約したい場面では262条の2が用いられる。
共有物の管理者制度(252条の2)
制度趣旨
改正法は、共有物の管理者を選任する制度を新設した。共有者間で管理者を定めておくことで、日常的な管理行為を逐一全員で決定する負担を軽減し、機動的な管理を可能にする趣旨である。管理者の選任・解任自体が、持分の価格の過半数によって決せられる管理事項とされている(252条1項括弧書)。
管理者の権限
- 共有物の管理に関する行為(保存行為・利用改良行為)を行うことができる(252条の2第1項)
- ただし、共有者全員の同意を得なければ、共有物に変更(軽微変更を除く)を加えることはできない(252条の2第1項ただし書)
- 管理者が所在等不明共有者の存在により全員同意を得られない場合には、裁判所の決定を得て、所在等不明共有者以外の共有者全員の同意により変更を加えることができる(252条の2第2項)
- 管理者は、共有者が共有物の管理に関する事項を決した場合には、これに従ってその職務を行わなければならない(252条の2第3項)。これに違反した管理者の行為は共有者に対して効力を生じないが、善意の第三者には対抗できない(同条4項)
相隣関係の見直し
相隣関係とは
相隣関係とは、隣接する土地の所有者相互間で、土地の利用を調整するために認められる権利義務関係をいう。所有者不明土地が増加すると、隣地の所有者が不明であるためにライフラインの引込みや越境物の処理ができないという不便が生じる。改正法は、こうした場面に対応するため、従来は規定が不十分であった相隣関係のルールを整備・明文化した。
隣地使用権の見直し(209条)
旧法では、隣地所有者の「承諾」がなければ隣地に立ち入れない構造であったが、改正法は、境界やその付近における障壁・建物等の築造・修繕、境界標の調査等の一定の目的のために、必要な範囲内で隣地を使用できることを明文化した(209条1項)。隣地使用にあたっては、原則として、あらかじめ目的・日時・場所・方法を隣地所有者及び隣地使用者に通知しなければならない(209条3項)。これにより、隣地所有者が不明な場合でも、所定の手続を踏めば適法に隣地を使用できるようになった。
ライフライン設置権の明文化(213条の2)
旧法には、電気・ガス・水道等のライフラインを他人の土地に設置する権利について明文規定がなく、解釈に委ねられていた。改正法は、土地の所有者が、他の土地等を使用しなければ電気・ガス・水道等の継続的給付を受けられないときに、必要な範囲で次の権利を有することを明文化した。
- 他の土地にライフライン(電気、ガス、水道等)の設備を設置する権利
- 他人が所有するライフライン設備に接続する権利
設置・接続にあたっては、以下の義務が課される。
- 設備の設置・接続をする者は、あらかじめその目的・場所・方法を、他の土地等の所有者・使用者に事前通知しなければならない(213条の2第3項)
- 設置場所・方法は、他の土地・設備のために損害が最も少ないものを選ばなければならない(213条の2第2項)
- 他の土地に設備を設置した者は、その土地の損害に対して償金を支払わなければならない(213条の2第4項以下、213条の3)
越境した枝の切除(233条の改正)
旧法では、隣地の竹木の根は土地所有者が自ら切り取ることができたが、枝については竹木の所有者に切除を請求するしかなく(旧233条)、所有者が不明・不協力の場合に対応できなかった。改正法は、土地所有者が竹木の所有者に枝の切除を請求できることを原則としつつ(233条1項)、次の場合には土地所有者が自ら枝を切り取ることができるものとした(233条3項)。
- 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したが、相当の期間内に切除しないとき(1号)
- 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき(2号)
- 急迫の事情があるとき(3号)
また、竹木が数人の共有に属する場合には、各共有者が単独でその枝を切り取ることができることも明文化された(233条2項)。根については従来どおり、土地所有者が自ら切り取ることができる(233条4項)。
財産管理制度の創設
従来の不在者財産管理人・相続財産管理人の限界
従来も、不在者財産管理人(25条)や相続財産管理人(旧952条)の制度は存在したが、これらは「人」を単位とする管理制度であり、特定の土地のみを管理対象とすることができなかった。所在不明者が多数の財産を持つ場合や、相続人不存在のケースでは、問題となっている一筆の土地のためだけに広範な財産全体を管理させることになり、非効率かつ高コストであった。改正法は、これに対し「物」を単位とする新たな財産管理制度を創設した。
所有者不明土地・建物管理命令(264条の2〜264条の8)
利害関係人の申立てにより、裁判所が特定の所有者不明土地・建物について管理人を選任し、その土地・建物に特化した管理を行わせる制度である。
- 対象: 所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地・建物
- 管理人の権限: 保存行為、対象財産の性質を変えない範囲での利用・改良行為。これを超える処分行為(売却等)には裁判所の許可が必要(264条の3第2項)
- 管理人が選任されると、対象不動産の管理処分権は管理人に専属する
- 効果: 当該不動産のほか、その上にある動産(所有者が所有するもの)や、管理に伴って管理人が得た金銭等にも及ぶ
- 管理に要した費用や管理人の報酬は、原則として所有者不明土地等の所有者の負担となる
管理不全土地・建物管理命令(264条の9〜264条の14)
所有者による管理が不適当であることによって他人の権利・利益が侵害され、又はそのおそれがある場合に、利害関係人の申立てにより裁判所が管理人を選任する制度である。所有者が判明していても、その者が適切な管理をしないために隣地等に被害が及ぶケース(崩落のおそれのある擁壁、ごみ屋敷化した土地等)に対応する。
項目 所有者不明土地管理命令 管理不全土地管理命令 主たる場面 所有者の所在不明 管理不全による権利侵害のおそれ 所有者の判明 不明であることが前提 判明していてもよい 申立権者 利害関係人 利害関係人 管理人の権限 保存・利用改良+許可で処分も可能 保存・利用改良が中心 処分の可否 裁判所の許可で可能 所有者の同意がなければ不可両制度の決定的な違いは、所有者の所在が不明か否か、そして処分(売却)まで踏み込めるか否かである。所有者不明土地管理命令は所有者と連絡がつかないことを前提に、裁判所の許可があれば売却まで可能とするのに対し、管理不全土地管理命令は所有者が現に存在することを前提とするため、処分には所有者本人の同意を要し、あくまで現状の危険を除去する管理にとどまる。
相続土地国庫帰属制度
制度概要
相続又は遺贈(相続人に対する遺贈に限る)により土地を取得した者が、法務大臣の承認を受けて、当該土地の所有権を国庫に帰属させることができる制度である(相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律=相続土地国庫帰属法)。「相続したものの利用予定がなく、管理の負担だけが残る土地」を手放す受け皿を設けることで、土地が放置されて将来の所有者不明土地となることを防ぐ、発生予防策としての位置づけを持つ。
なお、本制度を利用できるのは相続・遺贈で土地を取得した者に限られ、売買等で取得した土地は対象外である。共有地の場合は、共有者全員が共同して申請する必要がある(共有者の中に相続・遺贈以外で持分を取得した者が含まれていてもよい)。
引き取ることができない土地(要件)
国は無条件で土地を引き取るわけではなく、管理コストや紛争を国に転嫁することを防ぐため、引き取れない土地の類型が定められている。以下のような土地は承認を受けられない(申請段階で却下されるもの・審査で不承認となるものを含む)。
- 建物が存在する土地
- 担保権又は使用収益を目的とする権利が設定されている土地
- 通路その他の他人による使用が予定される土地が含まれる土地
- 土壌汚染対策法上の特定有害物質により汚染されている土地
- 境界が明らかでない土地、所有権の存否・帰属・範囲に争いがある土地
- 崖(勾配・高さが一定以上のもの)がある土地で、その管理に過分の費用・労力を要するもの
- 工作物・車両・樹木等が地上に存在し、管理・処分を阻害するもの
- 除去しなければ利用できない地下埋設物がある土地
- 隣接土地所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地
- その他、通常の管理・処分に過分の費用・労力を要する土地
費用
- 審査手数料(土地1筆当たり1万4000円)
- 承認された場合の負担金: 原則として20万円。ただし、宅地・田畑・森林等の一部については、面積に応じて算定される(おおむね10年分の標準的な管理費用相当額を一括して納付する趣旨)
審査手数料は申請の段階で必要であり、不承認となっても返還されない。負担金は承認後に通知され、所定の期間内に納付することで、その納付の時に土地が国庫に帰属する。
答案・論述での書き方
所有者不明土地関連の改正は、共有や相隣関係の事例問題の中で、改正後のルールの適用として問われることが多い。論述の型を整理しておく。
共有の事例での書き方
共有物に関する行為が問題となったら、次の順序で検討する。
- 行為の性質決定: 問題の行為が保存行為・管理行為(軽微変更を含む)・変更行為のいずれに当たるかを、条文(251条・252条)の文言に当てはめて確定する。とりわけ「形状又は効用の著しい変更を伴うか」が軽微変更と重大変更の分水嶺であることを明示する。
- 要件の充足判定: 性質に応じて、単独/過半数/全員同意のいずれが必要かを述べ、本件で要件を満たすかを検討する。
- 所在不明共有者の処理: 共有者の一部が所在不明・賛否不明であれば、252条2項・251条2項の裁判所の決定により、不明者を除外して意思決定できる旨を指摘する。
- 持分の整理が必要な場面: 共有関係そのものを解消・処理したいのであれば、262条の2(持分取得)・262条の3(持分譲渡)の活用可能性と要件(不動産であること、供託・支払請求権、相続財産の10年要件)を検討する。
相隣関係の事例での書き方
ライフラインや越境枝の事例では、まず該当条文(213条の2、233条3項)を特定し、各条が定める要件(事前通知、損害最少の選択、償金、催告・所在不明・急迫)を一つずつ当てはめる。特に233条3項は1号〜3号の三類型を取りこぼさずに挙げることが評価につながる。
財産管理・国庫帰属の書き方
事案が「誰も管理していない土地」型なら所有者不明土地管理命令、「管理が放置されて危険」型なら管理不全土地管理命令、「相続したが手放したい」型なら相続土地国庫帰属制度、というように、事案の性質に応じて制度を選び分ける視点を示すと、制度横断的な理解をアピールできる。
関連判例
改正法は従来の判例法理を踏まえて立法されているため、改正前後の判例の位置づけを理解しておくと論述に厚みが出る。なお、判例を引用する際は、事件名・年月日・趣旨を正確に把握しているもののみを用い、不確実な事件番号の創作は避けるべきである。
- 共有物を使用する共有者に対し、他の共有者は当然には明渡しを請求できないとした判例法理(共有者の一人が共有物を単独占有していても、他の共有者は持分の過半数をもって直ちに明渡しを求めうるわけではないとする考え方)は、改正後の252条1項・3項の解釈にも影響する。
- 共有物の変更行為と管理行為の区別、過半数による管理の決定の限界に関する従来の判例の蓄積は、改正後の「軽微変更」概念の理解の前提となる。
判例の細部(具体的な年月日・事件番号)が記憶として確実でない場合は、答案では「判例は…と解している」と趣旨を正確に述べる形にとどめ、誤った年月日を記載しないことが安全である。改正法は、こうした判例・学説の蓄積を整理し、明文の規定として再構成した側面が強い。したがって、改正後の条文を解釈する際にも、それぞれの規定がどのような従来の議論を背景に置いているかを意識すると、要件・効果の趣旨が理解しやすくなる。例えば、所在等不明共有者を意思決定から除外する制度は、従来「全員の同意」を厳格に要求していたために生じていた膠着状態を、裁判所の関与という手続的担保のもとで解きほぐすものであり、不明者の手続保障(公告・異議申述の機会の確保等)と共有物の利用円滑化との調和を図った立法的解決と位置づけられる。
よくある質問(FAQ)
Q1. 所有者不明土地と空き家問題は同じものですか。
A. 重なる部分はありますが、別概念です。所有者不明土地は「所有者・所在が把握できない土地」の問題であり、空き家問題は「建物が使われずに放置されている」問題です。所有者が判明していても放置される空き家はありますし、空き家がなくとも所有者不明の更地は存在します。もっとも、相続未登記が両者の共通原因となっていることが多く、対策には連続性があります。
Q2. 相続登記の義務化はいつから始まりましたか。違反するとどうなりますか。
A. 不動産登記法の改正により、2024年4月1日から相続登記が義務化されました。相続により不動産を取得した相続人は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ当該不動産の所有権を取得したことを知った日から原則3年以内に登記を申請しなければなりません。正当な理由なく申請を怠ると、過料の対象となり得ます。施行日前に発生した相続も対象となる経過措置がある点に注意が必要です。
Q3. 所在等不明共有者の持分取得(262条の2)は、相続のケースだとすぐに使えますか。
A. すぐには使えない場合があります。相続財産に属する共有持分については、相続の開始の時から10年を経過した後でなければ持分取得・持分譲渡の制度を利用できません。これは、遺産分割の機会を一定期間確保する趣旨です。
Q4. 隣の家の木の枝が越境してきたら、すぐ自分で切ってよいのですか。
A. 原則は、まず竹木の所有者に切除を請求することになります(233条1項)。自ら切れるのは、①催告したのに相当期間内に切除されないとき、②所有者が不明・所在不明のとき、③急迫の事情があるとき、のいずれかに当たる場合です(233条3項)。なお、根については従来どおり自ら切り取ることができます(233条4項)。
Q5. 相続土地国庫帰属制度を使えば、どんな土地でも国に引き取ってもらえますか。
A. いいえ。建物がある土地、担保権等が設定された土地、土壌汚染や境界不明の土地、管理に過分の費用・労力を要する崖地など、引き取れない類型が法定されています。また、審査手数料に加え、承認時には原則20万円(一部は面積に応じた額)の負担金の納付が必要です。「不要な土地を無償・無条件で処分できる制度」ではない点に注意してください。
Q6. 所有者不明土地管理命令と従来の不在者財産管理人は何が違いますか。
A. 不在者財産管理人は不在者の財産「全体」を管理する人単位の制度であるのに対し、所有者不明土地管理命令は問題となっている特定の土地・建物のみを対象とする物単位の制度です。後者は対象が限定されるため、効率的・低コストで、特定の土地の処理に適しています。
まとめ
2021年民法改正は、所有者不明土地問題という現代的課題に対応するため、共有制度・相隣関係・財産管理制度に大幅な改正を加えたものである。共有制度では、軽微変更概念の導入による変更要件の柔軟化、所在等不明共有者を意思決定から除外する裁判所の決定制度、持分取得・持分譲渡制度の新設により、膠着していた共有関係の処理が可能になった。相隣関係では、隣地使用権・ライフライン設置権・越境枝の切除権が整備・明文化され、隣地所有者が不明な場合でも所定の手続により対応できるようになった。財産管理制度では、物単位の所有者不明土地管理命令・管理不全土地管理命令が創設され、問題の土地に的を絞った機動的な管理が実現した。
さらに、不動産登記法改正による相続登記の義務化(発生予防)と、相続土地国庫帰属法による不要土地の受け皿の創設(発生予防)とあわせて、所有者不明土地の「発生予防」と「利用円滑化」の両輪による包括的な対策が講じられている。試験対策としては、第一に各制度を「発生予防」と「利用円滑化」のいずれに分類されるかという全体構造の中で位置づけ、第二に旧法との比較を意識して改正の趣旨を説明できるようにし、第三に各制度の要件・効果(過半数か全員同意か、裁判所の決定の要否、供託・償金・負担金といった金銭処理、相続財産の10年要件など)を正確に整理しておくことが重要である。