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不可罰的事後行為とは|横領後の横領と共犯(最判平15.4.23)

不可罰的事後行為とは何かをわかりやすく解説。横領後の横領(最判平15.4.23)を素材に、横領罪の既遂時期、共罰的事後行為の理論的根拠、窃盗・詐欺後の処分との対比、第三者の共犯の成否を整理します。

不可罰的事後行為とは

不可罰的事後行為とは、ある犯罪が既遂に達した後に、同一の法益を侵害する事後の行為が行われても、先行する犯罪によってその違法・責任が評価し尽くされているため、改めて別罪を構成しない(または別罪として処罰されない)場合をいう。例えば、横領犯人が横領物をさらに処分する行為や、窃盗犯人が盗品を売却する行為がこれに当たる。「不可罰」とは、文字どおり「処罰されない」という意味であり、事後行為について独立した刑罰が科されないことを指す。

最初にこの記事のキーワードとなる用語を、最短で押さえられるよう一覧にしておく。

用語 ひとことの定義 不可罰とは 構成要件には該当しうるが、刑罰を科さない(独立して処罰しない)という意味。違法性・責任の評価が他の罪で尽くされている場合などに生じる 不可罰的事後行為とは 既遂に達した先行犯罪の後に、同一法益をさらに侵害する事後行為が行われても、先行犯罪に吸収されて別罪を構成しない場合 共罰的事後行為とは 上と同じ現象を別の角度から呼ぶ表現。事後行為も構成要件には該当するが、先行犯罪と「併せて一罪として処罰される」ことを強調する近時の呼び名 横領後の横領とは 横領罪が既遂に達した後、犯人が同じ物にさらに処分行為を加えること。判例上、後の処分は原則として別罪を構成しない(最判平15.4.23)

「不可罰」とは何か(用語の正確な意味)

受験生がまず混乱しやすいのが「不可罰」という言葉である。「不可罰」とは、犯罪が成立していても刑罰を科さない、あるいはそもそも独立した犯罪として取り上げないという法的評価を指す総称である。刑法には「不可罰」とされる場面がいくつかあり、文脈によって意味が微妙に異なる。

  • 不可罰的事前行為:本罪に至る前段階の行為が、本罪に吸収されて独立処罰されない場合(例:殺人の予備が既遂に吸収される)。
  • 不可罰的事後行為:本罪の既遂後の行為が、本罪に吸収されて独立処罰されない場合(本記事の主題)。
  • そのほか、立法政策上あえて処罰しない「不可罰的共犯(必要的共犯のうち対向犯の一方)」など、まったく別系統の「不可罰」もある。

本記事で扱う「不可罰」は不可罰的事後行為の文脈であり、「後の行為を独立した別罪として重ねて処罰しない」という意味で用いる。後述するように、これは「事後行為が完全に適法になる」という意味ではなく、「先行犯罪の量刑の中で一括して評価される」という趣旨である点に注意したい。

不可罰的事後行為と共罰的事後行為の違い

「不可罰的事後行為」と「共罰的事後行為」は、同じ現象を指す用語であり、どちらを使っても誤りではない。ただしニュアンスに違いがある。

  • 不可罰的事後行為:事後行為は「罰せられない」という結果に着目した伝統的な呼称。
  • 共罰的事後行為:事後行為も構成要件には該当しているが、先行犯罪と「共に(包括して)一罪として処罰される」という構造に着目した呼称。近時の学説・教科書で増えている表現である。

この呼び名の違いは、後述する「構成要件該当性が否定されるのか、それとも該当はするが吸収されるのか」という理論的対立とリンクしている。答案では「不可罰的事後行為(共罰的事後行為)」と併記しておけば、どちらの立場の採点者にも対応できる。

不可罰的事後行為の要件・効果・典型例

ポイント 内容 要件① 先行行為が既遂(少なくとも法益侵害が確定する段階)に達していること 要件② 事後行為が、先行行為で侵害された法益と同一の法益の侵害にとどまること 要件③ 事後行為によって新たな法益侵害・新たな被害者が生じていないこと 効果 事後行為は新たな犯罪を構成しない(先行犯罪に吸収され、一括して処罰される) 典型例 横領後の処分、窃盗犯人による盗品の売却・隠匿、詐取物の処分 限界 新たな法益を侵害すれば別罪が成立する(例:横領物を売るために文書を偽造すれば文書偽造罪が別途成立) 注意点 不可罰性は先行犯罪に関与した者に固有の事情であり、事後行為のみに加担した第三者には及ばない

以下、横領後の横領に関する最判平15.4.23を素材に、この理論を具体的に解説する。


この判例のポイント

委託を受けて他人の不動産を占有する者が、これにほしいままに抵当権を設定してその旨の登記を了した後、さらに第三者に売却してその旨の所有権移転登記を了した場合、売却行為は横領罪を構成しない(不可罰的事後行為にとどまる)。ただし、横領行為に関与していない第三者が横領後の処分行為に加担した場合、当該第三者については横領罪の共犯が成立しうるとした判例。横領罪の既遂後の処分行為の評価と共犯の成否について重要な判断を示した判例である。


事案の概要

被告人Xは、Aから不動産の管理を委託されてこれを占有していた。Xは、まずこの不動産に無断で抵当権を設定し、その旨の登記を完了した(第一行為)。

その後、Xは同じ不動産をYに売却し、Yへの所有権移転登記を了した(第二行為)。Yは、Xが当該不動産の権限なき処分をしていることを認識していた。

検察官は、Xの第二行為(売却)についても横領罪で起訴した。

問題は、Xが既に抵当権設定により横領罪を犯した後の売却行為が、改めて横領罪を構成するかであった。


争点

  • 横領罪の既遂後に、同一物についてさらに処分行為を行った場合、改めて横領罪が成立するか
  • 横領行為に関与していない第三者が、横領後の処分行為に加担した場合、横領罪の共犯は成立するか

判旨

最高裁は、以下のように判示した。

委託を受けて他人の不動産を占有する者が、これにほしいままに抵当権を設定してその旨の登記を了した場合においては、その後、右不動産を第三者に売却しても、横領罪は成立しない

― 最高裁判所第三小法廷 平成15年4月23日 平成14年(あ)第793号

すなわち、第一行為(抵当権設定)で横領罪が既遂に達した後の第二行為(売却)は、不可罰的事後行為として新たな横領罪を構成しない。

もっとも、本判決のもう一つの核心は、この理由づけから「横領後の売却もまた横領罪の構成要件に該当する行為である」という前提が導かれる点にある。最高裁は、先行する抵当権設定がすでに横領罪を構成する以上、後行の売却はそれと包括的に評価されるから「重ねて」横領罪を構成しないと述べているのであって、売却行為がおよそ横領罪に当たらない(適法である)と述べているわけではない。この前提は、共犯の成否を考えるうえで決定的な意味を持つ(後述)。

なお、共犯の成否については本判決の射程をめぐって学説に議論があり、本文では一般的な理解として整理する。


「横領後の横領」とは

「横領後の横領」とは、横領罪がすでに既遂に達した後に、犯人が同じ目的物にさらに第二、第三の処分行為(売却・贈与・再度の抵当権設定など)を加える場面を指す、講学上・受験上の通称である。本判例(最判平15.4.23)はまさにこの「横領後の横領」を正面から扱ったものとして、刑法各論で繰り返し参照される。

ここでの中心的な問いは、次の2点に集約される。

  1. 横領犯人本人について、後の処分行為は改めて横領罪を構成するか(→原則として構成しない=不可罰的事後行為)。
  2. 先行する横領に関与していなかった第三者が、後の処分行為に加担した場合、その第三者に横領罪の共犯が成立するか(→成立しうる)。

「横領後の横領」が論点として面白いのは、伝統的には「後の処分は不可罰的事後行為だから何も問題は起きない」と単純に処理されがちであったところ、本判決が「後の処分行為自体は横領罪の構成要件に該当する」という前提を明確にした結果、第三者の共犯が成立しうるという帰結が導かれた点にある。つまり「本人にとっては不可罰でも、加担した第三者にとっては別」という非対称が生じる。この非対称こそが本判例の学習価値である。


ポイント解説

横領罪の既遂時期

横領罪(刑法252条)は、他人の物を「横領した」時に既遂に達する。不動産の場合、横領行為の具体的態様として以下のものがある。

  • 売却: 第三者への売却及び所有権移転登記
  • 抵当権設定: 無断での抵当権設定及び登記
  • 二重売買: 委託者以外の者への処分
  • 不法領得の意思の発現: 委託の趣旨に反する処分行為

判例によれば、抵当権設定登記の完了により横領罪は既遂に達する。重要なのは、横領罪は不法領得の意思が外部に発現した時点で既遂となり、未遂を観念しにくい挙動犯的な性格を持つ点である。したがって、抵当権の設定登記が完了した瞬間に第一の横領は完成しており、その後の売却は「すでに横領が完成した物」に対する新たな処分という構造になる。この「先に既遂が成立している」という事実が、後の処分を不可罰的事後行為と評価する出発点となる。

横領罪が既遂に達したかどうかは、後の処分が「不可罰的事後行為になるか/別罪になるか」を分ける入口である。先行行為がまだ既遂に達していない(未遂・予備)段階で第二行為が行われた場合、その第二行為こそが法益侵害を確定させる本体行為になりうるため、不可罰的事後行為の問題ではなく、第二行為自体の犯罪成否を独立に検討することになる。

不可罰的事後行為の理論

不可罰的事後行為(共罰的事後行為ともいう)とは、犯罪の既遂後に、同一法益を侵害する行為が行われた場合に、先行する犯罪により評価し尽くされており、改めて犯罪を構成しないとする理論である。

概念 内容 効果 不可罰的事後行為 既遂犯の法益侵害に含まれる事後の行為 新たな犯罪を構成しない(先行犯罪に吸収) 不可罰的事前行為 本罪に至る前段階の行為(予備等) 本罪の既遂に吸収され独立処罰されない 別罪が成立する場合 事後行為が新たな法益・新たな被害者を生む 別個の犯罪が成立し併合罪等で処理

本件では、第一行為(抵当権設定)により横領罪が既遂に達した後の第二行為(売却)は、同一の不動産に対する侵害の延長であり、既に横領罪により法的評価が完了しているため、不可罰的事後行為にとどまる。

ここで押さえておきたいのは、不可罰的事後行為が成立するための実質的な判断基準である。判例・通説は、概ね次の3つの視点から「先行犯罪で評価し尽くされているか」を判断する。

  • 法益の同一性:事後行為が侵害する法益が、先行行為で侵害された法益と同一か。横領後の売却は、いずれも委託者の所有権という同一の財産的法益を侵害している。
  • 被害者の同一性:新たな被害者が生じていないか。横領物を元の所有者から見れば、抵当権設定で既に侵害された所有権が売却で重ねて侵害されるにすぎず、新たな被害者は出現しない。
  • 侵害の量的拡大にとどまるか:事後行為が、先行行為による侵害の「現実化・拡大」にとどまり、質的に新たな侵害を加えていないか。

逆に言えば、これらのいずれかが崩れる場合、すなわち新たな法益・新たな被害者・質的に異なる侵害が生じる場合には、不可罰的事後行為とはならず別罪が成立する。例えば、横領物を売却するために権利証や売買契約書を偽造すれば、文書偽造罪は横領とは別の法益(文書に対する公共の信用)を侵害するため、不可罰的事後行為では処理できず別罪となる。

不可罰的事後行為の理論的根拠

不可罰的事後行為の理論的根拠については、以下の見解がある。

  • 法益侵害の一体性: 事後行為は先行行為による法益侵害の実現にすぎず、新たな法益侵害が生じていない
  • 法条競合(吸収関係): 先行する犯罪が事後行為をも評価し尽くしている
  • 二重評価の禁止: 同一の法益侵害を二重に評価することは許されない

共犯との関係

本判決の重要なポイントは、横領行為に関与していない第三者の共犯の成否である。

横領行為者X自身にとっては第二行為は不可罰的事後行為にとどまるが、第一行為に関与していなかった第三者Yにとっては事情が異なる。Yが第二行為に加担した場合、Yについて横領罪の共犯(共同正犯又は幇助犯)が成立するかが問題となる。

本判決は、正犯者にとっては不可罰的事後行為であっても、事後行為に加担した第三者については独自に横領罪の共犯が成立しうるとの理解を導く前提を示している。これは、不可罰的事後行為の不可罰性はあくまで先行犯罪に関与した者に固有の事情であり、後の処分行為だけに加担した第三者には及ばないとする考え方に基づく。

この帰結を支える論理の流れは次のとおりである。

  1. 横領後の売却行為も、それ自体は横領罪の構成要件に該当する違法な行為である(本判決はこれを前提とする)。
  2. 正犯者にとって売却が「不可罰」とされるのは、あくまで先行する抵当権設定による横領罪と一括して評価され、二重に処罰されないからにすぎない。
  3. ところが、第一行為(抵当権設定)に関与していなかった第三者Yは、その「一括評価」の恩恵を受ける立場にない。Yにとって売却は、自らが初めて関与した横領罪の実行行為である。
  4. したがって、Yには横領罪の共犯(共同正犯または幇助)が成立しうる。

この論理は、「不可罰的事後行為が正犯にとって不可罰となる理由」を構成要件該当性の欠如ではなく罪数・包括評価の問題として捉えると、すっきり理解できる。もし「売却はおよそ横領罪の構成要件に該当しない(適法)」と考えてしまうと、構成要件に該当しない行為に加担したYに共犯が成立する説明がつかなくなるからである。ここに、前述した「構成要件該当性が否定されるのか、吸収されるのか」という理論的対立が答案上で効いてくる。


学説・議論

不可罰的事後行為の射程に関する議論

不可罰的事後行為の射程について、以下の見解が対立する。

狭義説: 不可罰的事後行為は、先行行為と同種の法益を侵害する行為に限られる。例えば、横領後の処分は同一の財産的法益の侵害であるから不可罰的事後行為に該当する。

広義説: 先行行為の当然の帰結として行われる行為は、たとえ異なる法益を侵害するものであっても不可罰的事後行為に該当しうる。

否定説: 不可罰的事後行為の概念自体を否定し、個々の行為について別途犯罪の成否を検討すべきとする。

横領と背任の関係

横領罪と背任罪(刑法247条)の関係も問題となる。委託者の利益を侵害する行為が横領に該当する場合は横領罪が成立し、横領に至らない程度の背信行為は背任罪が成立する。両罪は法条競合(補充関係)にあるとされる。

共犯の承継

不可罰的事後行為と共犯の関係は、承継的共犯の問題とも関連する。先行する横領行為の後に加担した者が、先行行為の責任を承継するかという問題である。判例は、承継的共犯を限定的に認める立場をとりつつ、本件のような場面では共犯の成立を肯定している。

罪数論との関係

横領後の横領の問題は、罪数論(一罪・数罪の区別)とも密接に関連する。先行する横領行為と事後の処分行為が一罪として評価されるか(包括一罪)、それとも不可罰的事後行為として処理されるかは、理論的には異なるが、実際上の結論は同じである。


判例の射程

動産の横領後の処分

本判決は不動産の横領に関する事案であるが、動産の横領についても同様の法理が適用される。例えば、委託を受けた動産を質入れした後、さらに売却した場合、売却行為は不可罰的事後行為にとどまる。

業務上横領罪への適用

業務上横領罪(刑法253条)についても同様の法理が適用される。業務上の地位に基づき委託された物を横領した後の処分行為は、不可罰的事後行為にとどまる。

窃盗後の処分との対比

窃盗犯人が盗品を処分する行為も、不可罰的事後行為の一例として挙げられる。窃盗犯人自身による盗品の処分は盗品等関与罪(刑法256条)を構成しない(不可罰的事後行為)が、窃盗に関与していない第三者が盗品を譲り受ける行為は盗品等関与罪を構成する。

詐欺後の処分との対比

詐欺により取得した財物を処分する行為も、詐欺犯人にとっては不可罰的事後行為にとどまる。ただし、詐取した財物を「別の被害者」に対する新たな詐欺の手段に用いた場合などは、新たな法益侵害が生じるため別個の詐欺罪が成立しうる。あくまで「同一被害者・同一法益の侵害の延長」にとどまる限りで不可罰的事後行為になる、という基準は共通である。


具体例で理解する

抽象論だけでは判断がぶれやすいので、典型的な事例を「不可罰的事後行為になる場合」と「別罪になる場合」に分けて確認する。

不可罰的事後行為になる場合

  • 横領後の売却(本判例の事案):Aから預かった不動産にXが無断で抵当権を設定(第一の横領=既遂)→ さらにYに売却。売却はXにとって不可罰的事後行為。
  • 二重の抵当権設定:預かった不動産に第一抵当権を設定(既遂)→ さらに第二抵当権を設定。後の設定も同一所有権の侵害の延長で、Xにとっては不可罰的事後行為と評価されうる。
  • 窃盗犯人による盗品の費消・売却:他人の財布を盗んだ(窃盗既遂)→ 中の現金を使う・カードを売る。費消・売却は窃盗犯人にとって不可罰的事後行為(盗品等関与罪は成立しない)。
  • 横領した金銭の消費:預かった金を着服した(横領既遂)→ 着服した金を遊興に費消。費消は不可罰的事後行為。

別罪が成立する場合(不可罰的事後行為にならない)

  • 新たな文書偽造を伴う処分:横領物を売るために売買契約書や登記関係書類を偽造 → 文書偽造罪・同行使罪が別途成立(文書に対する公共の信用という別法益)。
  • 新たな被害者を欺く処分:横領物を、それと知らない第三者に「自分の所有物だ」と偽って高値で売りつけ、代金をだまし取った → その第三者に対する詐欺罪が別途成立しうる(新たな被害者・新たな法益)。
  • 盗品を運搬・有償処分する「第三者」の行為:窃盗に関与していない者が、盗品と知りながら運搬・買受け → 盗品等関与罪(刑法256条)が成立。本犯ではないので不可罰的事後行為の理屈は使えない。
  • 横領物の損壊:横領後に、嫌がらせ等で目的物を損壊した場合、所有権侵害の延長を超えて物の効用そのものを失わせる新たな侵害と見る余地があり、器物損壊罪の成否が別途問題となりうる(評価は事案による)。

あてはめの思考手順

事例問題で「後の行為に罪が成立するか」を問われたら、次の順序で検討すると安定する。

  1. 先行行為は既遂に達しているかを確定する(未遂なら不可罰的事後行為の土俵に乗らない)。
  2. 後の行為が同一法益・同一被害者の侵害の延長にとどまるかを検討する。
  3. とどまるなら、行為者本人については不可罰的事後行為と結論づける。
  4. 後の行為に先行行為に関与していない第三者が加担していないかをチェックし、いればその第三者の共犯の成否を別途論じる。
  5. 後の行為が新たな法益・被害者を生んでいないか(偽造・新たな欺罔・損壊など)を最後に確認し、あれば別罪を立てる。

反対意見・補足意見

本判決には特段の反対意見は付されていない。横領後の処分行為を不可罰的事後行為とする法理は、判例上確立しており、学説上も広く支持されている。


試験対策での位置づけ

出題可能性

本判決は、横領罪と不可罰的事後行為の関係について頻出のテーマである。

  • 横領後の処分行為の法的評価を問う事例問題
  • 不可罰的事後行為の理論を論じさせる問題
  • 共犯の成否との絡みでの出題
  • 罪数論との関連での出題

短答式試験での出題ポイント

  • 横領後に同一物を売却しても新たに横領罪は成立しない(○)
  • 横領行為に関与していない第三者が横領後の処分行為に加担した場合、横領罪の共犯は成立しうる(○)
  • 不可罰的事後行為は犯罪の成立自体が否定されるものである(○・正犯者について)
  • 窃盗犯人が盗品を売却する行為は盗品等関与罪を構成する(×・不可罰的事後行為)

答案での使い方(論証パターン)

基本論証

甲が不動産に抵当権を設定した後にさらに売却した行為について、改めて横領罪が成立するか。

この点、判例(最判平15.4.23)は、委託を受けて他人の不動産を占有する者が、これにほしいままに抵当権を設定してその旨の登記を了した場合においては、その後同不動産を第三者に売却しても横領罪は成立しないとする。

その理由は、第一行為(抵当権設定)により横領罪は既遂に達しており、第二行為(売却)は既に侵害された法益の処分にすぎず、新たな法益侵害を生じないこと(不可罰的事後行為)にある。

共犯の論証

もっとも、第一行為に関与していなかった第三者乙が、第二行為(売却)に加担した場合、乙について横領罪の共犯が成立するか。

不可罰的事後行為の不可罰性は正犯者甲に固有の事情であり、甲にとって不可罰であっても、乙にとっては新たに法益侵害に関与したものと評価される。したがって、乙については横領罪の共犯(共同正犯又は幇助犯)が成立しうる。

論証の前提を一文で示すコツ

共犯を論じる前提として、答案では「後の売却行為も横領罪の構成要件には該当するが、甲については先行する横領と包括して一罪と評価されるため独立して処罰されないにすぎない」という一文を必ず置いておきたい。この前提を示しておかないと、「構成要件に該当しない適法行為に加担した乙になぜ共犯が成立するのか」という矛盾を突かれる。逆に、この一文さえあれば共犯肯定の結論が論理的に一貫する。

用語選択の注意

答案では「不可罰的事後行為(共罰的事後行為)」と併記するのが無難である。「不可罰」という言葉を使う際は、「甲については新たに横領罪を構成しない」と主語を明示すること。主語を省くと「誰にとっても適法」と読まれかねず、共犯論との整合性を失う。


重要概念の整理

横領後の処分行為の評価

行為者 第二行為の評価 根拠 横領行為者(正犯者) 不可罰的事後行為 法益侵害の一体性 第一行為に未関与の第三者 横領罪の共犯成立しうる 新たな法益侵害への関与

不可罰的事後行為の類型

先行行為 事後行為 評価 理由 横領(抵当権設定) 同一物の売却 不可罰的事後行為 同一所有権侵害の延長 窃盗 盗品の売却・費消 不可罰的事後行為 既に侵害した占有・所有の処分にすぎない 詐欺 詐取物の処分 不可罰的事後行為 同一被害者・同一法益の侵害の延長 横領 売却のための文書偽造 別罪成立(偽造罪) 文書の公共の信用という別法益 横領 第三者を欺いての売却 別罪成立(詐欺罪) 新たな被害者・新たな法益 文書偽造 偽造文書の行使 別罪成立(行使罪) 行使は偽造とは別個の保護法益・実害段階

似て非なる概念との区別

不可罰的事後行為は、罪数論の他概念と混同されやすい。違いを整理しておく。

概念 行為の時間関係 処理 不可罰的(共罰的)事後行為 既遂後の同一法益侵害行為 先行犯罪に吸収され独立処罰されない 不可罰的(共罰的)事前行為 本罪に至る前段階(予備・準備) 本罪の既遂に吸収され独立処罰されない 包括一罪 同種行為の反復等 全体を一個の罪として評価 牽連犯 手段と結果の関係 科刑上一罪として重い刑で処断 法条競合(吸収関係) 一個の行為に複数構成要件が形式上該当 一方の構成要件のみ適用

横領罪の体系

犯罪類型 条文 主体 法定刑 単純横領罪 252条 占有者 5年以下の懲役 業務上横領罪 253条 業務上の占有者 10年以下の懲役 遺失物等横領罪 254条 占有者以外 1年以下の懲役等

発展的考察

不可罰的事後行為概念の批判

近年の学説では、不可罰的事後行為の概念自体に対する批判がある。個々の行為について独立に犯罪の成否を検討すべきであり、先行行為によって「評価し尽くされる」という考え方は理論的に不明確であるとの指摘がある。

横領罪と背任罪の区別

横領罪と背任罪の区別は実務上重要であるが理論的に困難な問題を含む。横領は「他人の物の不法領得」であり、背任は「他人の事務の処理における任務違背」である。両者の限界事例についての判断基準は、なお議論の余地がある。

会社法との交錯

取締役が会社財産を横領した後、さらにこれを処分した場合の評価は、会社法上の忠実義務違反と刑法上の横領罪の交錯領域として重要である。

デジタル資産の横領

暗号資産やデジタルデータの横領について、横領後の処分行為を不可罰的事後行為として処理できるかは、デジタル資産の法的性質(「物」に該当するか)の問題とも関連する。


よくある質問

Q1: 横領後の売却が不可罰的事後行為なら、横領犯人は自由に売却できるのですか?

A1: 横領犯人が新たに横領罪に問われないという意味では不可罰ですが、最初の横領行為についての刑事責任は存続します。また、民事上の責任(損害賠償、不当利得返還等)は別途生じます。さらに、売却先が善意取得等の保護を受けない限り、所有者は所有権に基づく返還請求ができます。

Q2: 第一行為が未遂にとどまっていた場合にも、第二行為は不可罰的事後行為になりますか?

A2: いいえ。不可罰的事後行為は、先行行為が既遂に達していることを前提とします。第一行為が未遂にとどまっていた場合(例えば抵当権設定登記が完了しなかった場合)には、第二行為(売却)について改めて横領罪の成否を検討することになります。

Q3: 横領犯人が盗品等関与罪に問われることはありますか?

A3: いいえ。横領犯人自身が横領物を処分する行為は不可罰的事後行為であり、盗品等関与罪(刑法256条)も成立しません。盗品等関与罪は「本犯以外の者」を主体とする犯罪であるため、本犯(横領犯人)は同罪の主体にはなりません。

Q4: 横領の共犯者にとっても第二行為は不可罰的事後行為ですか?

A4: 第一行為(横領)に関与していた共犯者にとっては、第二行為も不可罰的事後行為にとどまります。不可罰的事後行為の効力は、先行行為に関与した全ての者に及びます。これに対し、第一行為に関与していなかった第三者が第二行為に加担した場合は、その第三者について横領罪の共犯が成立しうるとされています。

Q5: 不可罰的事後行為は構成要件に該当しないのですか、それとも違法性が阻却されるのですか?

A5: 理論的な説明は学説により異なります。法益侵害の一体性を根拠とする見解は、事後行為に新たな法益侵害がないため構成要件該当性が否定されると解します。法条競合を根拠とする見解は、先行する犯罪により評価し尽くされているため、事後行為の構成要件該当性は観念上認められるが、先行犯罪に吸収されると解します。なお、共犯の成立を肯定する本判例の帰結とは、後者(構成要件該当性は認める)の理解の方が整合しやすいとされます。

Q6: 「不可罰」とはそもそもどういう意味ですか?「無罪」と同じですか?

A6: 違います。「不可罰」とは、犯罪が成立していても刑罰を科さない、あるいは独立した犯罪として取り上げないという評価を指します。不可罰的事後行為の場合、後の処分行為は犯罪としての性質(構成要件該当性)を完全には失っておらず、先行犯罪と一括して処罰されることで「重ねては罰せられない」だけです。これに対し「無罪」は、そもそも犯罪が成立しない(証拠不十分・正当防衛等)場合の判決上の概念であり、レベルの異なる用語です。

Q7: 不可罰的事後行為と共罰的事後行為は別の概念ですか?

A7: 同じ現象を指す呼び名で、別概念ではありません。「不可罰的」は「罰せられない」という結果に着目した古典的な呼称、「共罰的」は「先行犯罪と共に一罪として処罰される」という構造に着目した近時の呼称です。実質的な意味内容は同じなので、答案では併記しておけば十分です。

Q8: 横領後にさらに別の人に二重に売った場合(二重売買)はどうなりますか?

A8: 横領犯人が既遂後に同一物を別の第三者へさらに売却しても、犯人本人については同一所有権の侵害の延長として不可罰的事後行為にとどまるのが原則です。もっとも、後の買主を「自分に処分権がある」と欺いて代金をだまし取ったような場合には、その買主に対する新たな詐欺罪が問題となりえます。不可罰的事後行為で処理できるのは、あくまで「同一法益・同一被害者の侵害の延長」にとどまる範囲です。


関連条文

  • 刑法252条(横領):自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の懲役に処する。
  • 刑法253条(業務上横領):業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の懲役に処する。
  • 刑法256条(盗品譲受け等)
  • 刑法65条(身分犯の共犯)

関連判例

  • 最判昭31.6.26:横領罪の既遂時期に関する判例
  • 最決平21.3.26:不動産の二重売買と横領罪に関する判例
  • 最判昭24.3.8:横領と背任の区別に関する判例
  • 最判昭33.9.19:盗品等関与罪の主体に関する判例

まとめ

最判平15.4.23は、横領罪の既遂後に同一物についてさらに処分行為を行った場合、第二の処分行為は不可罰的事後行為として新たに横領罪を構成しないとする判例法理を確認した重要判例である。ただし、横領行為に関与していない第三者が横領後の処分行為に加担した場合には、当該第三者について横領罪の共犯が成立しうるとされた。不可罰的事後行為の理論は、法益侵害の一体性に基づくものであり、先行行為により法的評価が完了した後の行為を改めて犯罪として評価することは二重評価の禁止に反するとの考えに立つ。試験対策としては、不可罰的事後行為の概念と理論的根拠、共犯との関係を正確に理解しておくことが重要である。

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