不可罰的事後行為とは?「不可罰」の意味と横領後の横領
「不可罰」とは処罰されないという意味。不可罰的事後行為とは何か、共罰的事後行為との呼称の違い、横領後の横領(最大判平15.4.23)が後行行為にも横領罪の成立を認めた理由を表で整理します。
不可罰的事後行為とは
「不可罰」とは「処罰されない」という意味であり、不可罰的事後行為とは、先行する犯罪が既遂に達した後の行為が、その先行犯罪で評価し尽くされているため独立して処罰されない場合をいう。近時は同じ現象を「共罰的事後行為」と呼ぶ論者が多い。もっとも、後述する最大判平15.4.23は「横領後の横領」について後行行為にも横領罪の成立を認めており、この概念が及ぶ範囲は判例上限定されている点に注意が必要である。
不可罰的事後行為とは、ある犯罪が既遂に達した後に、同一の法益を侵害する事後の行為が行われても、先行する犯罪によってその違法・責任が評価し尽くされているため、改めて別罪を構成しない(または別罪として処罰されない)場合をいう。例えば、横領犯人が横領物をさらに処分する行為や、窃盗犯人が盗品を売却する行為がこれに当たる。「不可罰」とは、文字どおり「処罰されない」という意味であり、事後行為について独立した刑罰が科されないことを指す。
読み方は「ふかばつてきじごこうい」である。「事後行為」を「じごこうい」と読む点、「不可罰」を「ふかばつ」と読む点さえ押さえれば迷わない。
最初にこの記事のキーワードとなる用語を、最短で押さえられるよう一覧にしておく。
用語 ひとことの定義 不可罰とは 構成要件には該当しうるが、刑罰を科さない(独立して処罰しない)という意味。違法性・責任の評価が他の罪で尽くされている場合などに生じる 不可罰的事後行為とは 既遂に達した先行犯罪の後に、同一法益をさらに侵害する事後行為が行われても、先行犯罪に吸収されて別罪を構成しない場合 共罰的事後行為とは 上と同じ現象を別の角度から呼ぶ表現。事後行為も構成要件には該当するが、先行犯罪と「併せて一罪として処罰される」ことを強調する近時の呼び名 横領後の横領とは 横領罪が既遂に達した後、犯人が同じ物にさらに処分行為を加えること。最大判平15.4.23は、先行の抵当権設定横領があっても後行の売却行為について横領罪の成立を肯定し、これに反する従来の判例を変更した「不可罰」とは何か(用語の正確な意味)
受験生がまず混乱しやすいのが「不可罰」という言葉である。「不可罰」とは、犯罪が成立していても刑罰を科さない、あるいはそもそも独立した犯罪として取り上げないという法的評価を指す総称である。刑法には「不可罰」とされる場面がいくつかあり、文脈によって意味が微妙に異なる。
- 不可罰的事前行為:本罪に至る前段階の行為が、本罪に吸収されて独立処罰されない場合(例:殺人の予備が既遂に吸収される)。
- 不可罰的事後行為:本罪の既遂後の行為が、本罪に吸収されて独立処罰されない場合(本記事の主題)。
- そのほか、立法政策上あえて処罰しない「不可罰的共犯(必要的共犯のうち対向犯の一方)」など、まったく別系統の「不可罰」もある。
本記事で扱う「不可罰」は不可罰的事後行為の文脈であり、「後の行為を独立した別罪として重ねて処罰しない」という意味で用いる。後述するように、これは「事後行為が完全に適法になる」という意味ではなく、「先行犯罪の量刑の中で一括して評価される」という趣旨である点に注意したい。
不可罰的事後行為と共罰的事後行為の違い
「不可罰的事後行為」と「共罰的事後行為」は、同じ現象を指す用語であり、どちらを使っても誤りではない。ただしニュアンスに違いがある。
- 不可罰的事後行為:事後行為は「罰せられない」という結果に着目した伝統的な呼称。
- 共罰的事後行為:事後行為も構成要件には該当しているが、先行犯罪と「共に(包括して)一罪として処罰される」という構造に着目した呼称。近時の学説・教科書で増えている表現である。
この呼び名の違いは、後述する「構成要件該当性が否定されるのか、それとも該当はするが吸収されるのか」という理論的対立とリンクしている。答案では「不可罰的事後行為(共罰的事後行為)」と併記しておけば、どちらの立場の採点者にも対応できる。
不可罰的事後行為の要件・効果・典型例
ポイント 内容 要件① 先行行為が既遂(少なくとも法益侵害が確定する段階)に達していること 要件② 事後行為が、先行行為で侵害された法益と同一の法益の侵害にとどまること 要件③ 事後行為によって新たな法益侵害・新たな被害者が生じていないこと 効果 事後行為は新たな犯罪を構成しない(先行犯罪に吸収され、一括して処罰される) 典型例 窃盗犯人による盗品の売却・費消・隠匿、詐取物の処分。なお不動産の「横領後の横領」については、最大判平15.4.23が後行行為にも横領罪の成立を認めており、単純な典型例とはいえない 限界 新たな法益を侵害すれば別罪が成立する(例:横領物を売るために文書を偽造すれば文書偽造罪が別途成立) 注意点 不可罰性は先行犯罪に関与した者に固有の事情であり、事後行為のみに加担した第三者には及ばない以下、「横領後の横領」を正面から扱った最大判平15.4.23を素材に、この理論がどこまで通用し、どこから通用しないのかを具体的に確認する。
可罰か不可罰かを分ける判断手順
事後行為が独立して処罰されるかどうかは、感覚ではなく手順で決める。先行行為が既遂に達しているかを入口とし、法益・被害者・侵害の質の3点が「同じ」といえるかを順に潰していけば、答案でも短答でも判断がぶれない。以下の表は、その分岐をステップに分解したものである。
ステップ 確認する事項 不可罰(先行犯罪に吸収)へ傾く 可罰(別罪成立)へ傾く ① 先行行為の罪質・既遂 先行行為はどの罪で、既遂に達しているか 既遂に達しており、法益侵害が確定している 未遂・予備にとどまる(→事後行為自体を独立に検討する) ② 法益の同一性 事後行為が侵害する法益は先行行為と同じか 同一の財産的法益(同じ所有権・同じ占有) 別法益(文書の公共的信用、身体、別の財産) ③ 被害者の同一性 新たな被害者が現れていないか 被害者は先行行為と同一人 新たな被害者が生じている(買主を欺いた等) ④ 侵害の新規性 質的に新しい侵害が加わっていないか 既に生じた侵害の実現・確認にとどまる 質的に異なる侵害を加えている(損壊・偽造等) ⑤ 被害の拡大 被害が量的に拡大していないか 拡大がない、または既存侵害の範囲内 被害が実質的に拡大している(後述の横領後の横領) ⑥ 行為者の同一性 先行行為に関与していない者が加担していないか 関与者は先行行為の当事者のみ 未関与の第三者が加担(→第三者の共犯を別途検討)②〜⑤のすべてが左側にそろって初めて「不可罰的事後行為」と言い切れる。逆に一つでも右側に振れれば、事後行為について独立に犯罪の成否を検討しなければならない。そして⑤の「被害の拡大」を重く見たのが、次に見る最大判平15.4.23である。抵当権を設定しただけの段階と、所有権そのものを移転してしまった段階とでは、所有者に生じる被害の重さが違う——この点が、従来の判例を変更させる決め手になった。
この判例のポイント
最大判平15.4.23は、「横領後の横領」について後行行為にも横領罪が成立すると判断した大法廷判決である。委託を受けて他人の不動産を占有する者が無断で抵当権を設定・登記した後、さらにその不動産を売却して所有権移転登記を了した場合、先行の抵当権設定行為が存在することは後行の所有権移転行為について横領罪の成立を妨げる事情にはならない、とした。これに反する従来の判例(最判昭31.6.26)は変更された。
受験生が誤解しやすいのは、この判決を「横領後の横領は不可罰的事後行為である」と読んでしまう点である。結論は逆である。本判決は、後行の売却行為が独立して横領罪の構成要件に該当し、罪として成立することを正面から認めた。そのうえで、先行行為と後行行為をどう罪数評価するか(包括一罪とするか等)は判断せず、「罪数評価のいかんにかかわらず」検察官は後行行為をとらえて起訴できるとした点に、本判決のもう一つの核心がある。
この判決は、不可罰的事後行為という概念そのものを否定したわけではない。窃盗犯人が盗品を費消する場面など、②〜⑤がすべて満たされる典型例では、なお事後行為は独立して処罰されない。本判決が示したのは、「横領後の横領」はその典型例ではなかったという限界の画定である。
事案の概要
被告人は、委託を受けて他人の不動産を業務上占有していた者である。被告人はまず当該不動産に無断で抵当権を設定して登記を了し(先行行為)、その後さらに同じ不動産を第三者に売却して所有権移転登記を了した(後行行為)。検察官は、このうち後行の所有権移転行為のみを業務上横領として起訴した。
事案の構造を、行為の順序と法的評価に分けて整理すると次のようになる。
段階 誰が 何をしたか 法的評価 ① 前提 被告人 委託に基づき他人の不動産を業務上占有する地位に就く 「自己の占有する他人の物」(刑法252条・253条)の要件を充たす前提状況 ② 先行行為 被告人 当該不動産にほしいままに抵当権を設定し、その旨の登記を了する 不法領得の意思の発現。この時点で(業務上)横領罪が既遂に達する ③ 後行行為 被告人 同じ不動産を第三者に売却し、所有権移転登記を了する 本件で成否が争われた行為。従来は不可罰的事後行為とされてきた ④ 訴追 検察官 ③の所有権移転行為のみを業務上横領として起訴 ②は訴因に含まれていない(訴因の設定の問題) ⑤ 判断 最高裁大法廷 ③について横領罪の成立を肯定。②の存在は成立を妨げないとした 従来判例(最判昭31.6.26)を変更ここで見落としてはならないのが④である。訴因に含まれていない②を裁判所が持ち出して③の犯罪性を否定してよいのか、という訴訟法上の問題が、本件では実体法上の論点と表裏一体になっている。この二層構造が、本判決が大法廷で扱われた理由でもある。
争点
- 横領罪が既遂に達した後、同一物についてさらに処分行為(売却・所有権移転)を行った場合、後行行為について改めて横領罪が成立するか
- 後行の所有権移転行為のみが起訴された場合、裁判所は訴因外の先行行為(抵当権設定)に立ち入って審理判断すべきか
判旨
最高裁大法廷は、次の二点を判示した(刑集57巻4号467頁)。
委託を受けて他人の不動産を占有する者が、これにほしいままに抵当権を設定してその旨の登記を了した後、これについてほしいままに売却等の所有権移転行為を行いその旨の登記を了したときは、後行の所有権移転行為について横領罪の成立を肯定することができ、先行の抵当権設定行為が存在することは同罪の成立自体を妨げる事情にはならない。
― 最高裁判所大法廷 平成15年4月23日 平成13年(あ)第746号(裁判要旨1)
委託を受けて他人の不動産を占有する者が、これにほしいままに抵当権を設定してその旨の登記を了した後、これについてほしいままに売却等の所有権移転行為を行いその旨の登記を了した場合において、後行の所有権移転行為のみが横領罪として起訴されたときは、裁判所は、所有権移転の点だけを審判の対象とすべきであり、犯罪の成否を決するに当たり、所有権移転行為に先立って横領罪を構成する抵当権設定行為があったかどうかといった訴因外の事情に立ち入って審理判断すべきではない。
― 同判決(裁判要旨2)
そして本判決は、これと異なる趣旨をいう最判昭和31年6月26日(刑集10巻6号874頁)を、上記見解に反する限度で変更した。
なお本判決は、先行の抵当権設定横領と後行の所有権移転横領との罪数関係については判断していない。「罪数評価のいかんにかかわらず」検察官は後行行為をとらえて公訴を提起できる、と述べるにとどまる。答案で罪数まで論じる場合は、判例が決めた事柄ではなく学説上の処理であることを明示すべきである。
最大判平15.4.23で何が変わったか
この判決は「横領後の横領は不可罰的事後行為である」という従来の理解を正面から覆したものである。変更前後で何が動き、何が動いていないのかを切り分けておくと、答案で判例を取り違えずに済む。
論点 変更前(最判昭31.6.26) 変更後(最大判平15.4.23) 後行の所有権移転行為の罪責 不可罰的事後行為となり、横領罪を構成しない 横領罪の成立を肯定できる 先行の抵当権設定行為の意味 後行行為の犯罪成立を否定する事情 後行行為の犯罪成立自体を妨げる事情ではない 後行行為のみの起訴 後行行為が犯罪でない以上、起訴の対象になりにくい 罪数評価のいかんにかかわらず起訴できる 訴因外の先行行為への立ち入り ― 立ち入って審理判断すべきではない 不可罰的事後行為概念そのもの ― 否定されたわけではない。適用範囲が画定されただけなぜ変更されたのか。実質的な理由は、抵当権設定と所有権移転とでは所有者に生じる被害の重さが違うという点にある。抵当権を設定された段階では所有者はなお所有権を保持しており、被担保債権を弁済すれば負担を除去できる。ところが所有権そのものを移転されてしまえば、所有権を確定的に失う。後行行為は先行行為による侵害を「実現しただけ」ではなく、侵害を質的・量的に拡大させている。前掲の判断手順でいえば、④侵害の新規性・⑤被害の拡大が左側にそろわない事案だったということである。
さらに、後行行為の犯罪性を認めることには実務上の意味もある。先行の抵当権設定を立証するより、登記の移転という明確な外形をもつ後行行為を立証する方が容易な場合がある。本判決の裁判要旨2は、こうした訴因選択の余地を検察官に認めたものと理解されている。
ポイント解説
横領罪は不法領得の意思の発現時に既遂となり、不動産では抵当権設定登記の完了がその時点にあたる。既遂に達しているからこそ、その後の処分が「事後行為」として問題になる。もっとも既遂後の処分が常に不処罰になるわけではなく、侵害が実質的に拡大していれば別罪が成立する。
横領罪の既遂時期
横領罪(刑法252条)は、他人の物を「横領した」時に既遂に達する。不動産の場合、横領行為の具体的態様として以下のものがある。
- 売却: 第三者への売却及び所有権移転登記
- 抵当権設定: 無断での抵当権設定及び登記
- 二重売買: 委託者以外の者への処分
- 不法領得の意思の発現: 委託の趣旨に反する処分行為
判例によれば、抵当権設定登記の完了により横領罪は既遂に達する。重要なのは、横領罪は不法領得の意思が外部に発現した時点で既遂となり、未遂を観念しにくい挙動犯的な性格を持つ点である。したがって、抵当権の設定登記が完了した瞬間に第一の横領は完成しており、その後の売却は「すでに横領が完成した物」に対する新たな処分という構造になる。この「先に既遂が成立している」という事実が、後の処分を不可罰的事後行為と評価する出発点となる。
横領罪が既遂に達したかどうかは、後の処分が「不可罰的事後行為になるか/別罪になるか」を分ける入口である。先行行為がまだ既遂に達していない(未遂・予備)段階で第二行為が行われた場合、その第二行為こそが法益侵害を確定させる本体行為になりうるため、不可罰的事後行為の問題ではなく、第二行為自体の犯罪成否を独立に検討することになる。
不可罰的事後行為の理論
不可罰的事後行為(共罰的事後行為ともいう)とは、犯罪の既遂後に、同一法益を侵害する行為が行われた場合に、先行する犯罪により評価し尽くされており、改めて犯罪を構成しないとする理論である。
もっとも、この理論がどの範囲で通用するかは判例によって画されている。最大判平15.4.23は、第一行為(抵当権設定)により横領罪が既遂に達した後の第二行為(売却)についても、横領罪の成立自体は肯定できるとした。抵当権設定は所有権に負担を課すにとどまるのに対し、所有権移転は所有権そのものを確定的に失わせるものであって、後行行為は先行行為による侵害の単なる延長とはいえないからである。「同一物に対する処分だから当然に不可罰」という短絡は、判例に反する。
実質的な判断基準は、前掲の「可罰か不可罰かを分ける判断手順」で示した法益の同一性・被害者の同一性・侵害の新規性・被害の拡大の有無である。窃盗犯人が盗んだ財布の中の現金を費消する場面は、これらがすべて満たされる分かりやすい例といえる。
逆に、いずれかが崩れる場合、すなわち新たな法益・新たな被害者・質的に異なる侵害が生じる場合には、不可罰的事後行為とはならず別罪が成立する。例えば、横領物を売却するために権利証や売買契約書を偽造すれば、文書偽造罪は横領とは別の法益(文書に対する公共の信用)を侵害するため、不可罰的事後行為では処理できず別罪となる。
不可罰的事後行為の理論的根拠
不可罰的事後行為の理論的根拠については、以下の見解がある。
- 法益侵害の一体性: 事後行為は先行行為による法益侵害の実現にすぎず、新たな法益侵害が生じていない
- 法条競合(吸収関係): 先行する犯罪が事後行為をも評価し尽くしている
- 二重評価の禁止: 同一の法益侵害を二重に評価することは許されない
事後行為への第三者の加担と共犯
注意:最大判平15.4.23は共犯の成否を判断したものではない。以下は、同判決が「事後行為も罪として成立する」という前提を明らかにしたことから、学説上導かれる帰結として整理したものである。判例が述べた事柄と混同しないよう、答案でも書き分けたい。
事後行為が不可罰的事後行為となる典型場面(窃盗犯人による盗品の損壊など)を前提に、先行行為に関与していなかった第三者Yがその事後行為に加担した場合、Yに共犯が成立するかが問題となる。ここで、事後行為の不可罰性をどう説明するかによって結論が分かれる。
事後行為の不可罰性の説明 事後行為の構成要件該当性 第三者Yの共犯 法条競合(吸収関係)と解する 罰条がそもそも適用されず、罪は成立しない 正犯行為が犯罪でない以上、共犯は成立しにくい 包括一罪と解する(共罰的事後行為) 該当する。罪としては成立している 構成要件に該当し違法な行為への加功として、成立の余地がある制限従属性説(正犯行為が構成要件に該当し違法であれば共犯は成立しうる)を前提とすると、後者の理解の方が共犯論との接続がよい。事後行為の構成要件該当性・違法性を維持したまま、本犯者についてのみ処断上の吸収を認めるのだから、違法性は連帯し責任は個別化するという共犯論の基本構造と整合するからである。呼称論の詳細は共罰的事後行為とはで扱っている。
そして最大判平15.4.23は、「先行行為があるからといって後行行為の構成要件該当性が消えるわけではない」という発想を示した点で、後者(共罰的な理解)と親和的である。この点が、本判決が呼称論との関係でも参照される理由である。
この論理は、「不可罰的事後行為が正犯にとって不可罰となる理由」を構成要件該当性の欠如ではなく罪数・包括評価の問題として捉えると、すっきり理解できる。もし「売却はおよそ横領罪の構成要件に該当しない(適法)」と考えてしまうと、構成要件に該当しない行為に加担したYに共犯が成立する説明がつかなくなるからである。ここに、前述した「構成要件該当性が否定されるのか、吸収されるのか」という理論的対立が答案上で効いてくる。
学説・議論
不可罰的事後行為をどこまで認めるかについては、同種法益の侵害に限る狭義説、先行行為の当然の帰結まで含める広義説、概念自体を否定する見解が対立する。また不処罰の理由を法条競合と見るか包括一罪と見るかで、事後行為の構成要件該当性が残るかが変わる。この違いは第三者の共犯の成否に直結する。
不可罰的事後行為の射程に関する議論
不可罰的事後行為の射程について、以下の見解が対立する。
狭義説: 不可罰的事後行為は、先行行為と同種の法益を侵害する行為に限られる。例えば、横領後の処分は同一の財産的法益の侵害であるから不可罰的事後行為に該当する。
広義説: 先行行為の当然の帰結として行われる行為は、たとえ異なる法益を侵害するものであっても不可罰的事後行為に該当しうる。
否定説: 不可罰的事後行為の概念自体を否定し、個々の行為について別途犯罪の成否を検討すべきとする。
横領と背任の関係
横領罪と背任罪(刑法247条)の関係も問題となる。委託者の利益を侵害する行為が横領に該当する場合は横領罪が成立し、横領に至らない程度の背信行為は背任罪が成立する。両罪は法条競合(補充関係)にあるとされる。
罪数論との関係
「事後行為が独立して処罰されない」という結論に至る道筋は、罪数論上二つありうる。法条競合(吸収関係)と捉えれば、事後行為に対応する罰条はそもそも適用されず、罪は一個しか成立しない。包括一罪と捉えれば、事後行為の罪も成立してはいるが、先行犯罪と包括して一罪として処断される。本犯者の処罰という結論は同じでも、事後行為の構成要件該当性が残るか否かが違うため、第三者の共犯の成否では差が出る。詳しくは罪数処理とは?包括一罪・科刑上一罪・併合罪の違いを参照されたい。
なお最大判平15.4.23は、先行の抵当権設定横領と後行の所有権移転横領との罪数関係については判断を示していない。判例が決めていない事柄を「判例は包括一罪とする」と書かないよう注意したい。
判例の射程
最大判平15.4.23は不動産の「横領後の横領」についての判断であり、業務上横領罪にも直接妥当する。動産や、窃盗・詐欺の事後行為にそのまま及ぶかは、後行行為が侵害を実質的に拡大させているかを個別に検討する必要がある。射程を広げすぎないことが答案では重要である。
動産の横領後の処分
本判決は不動産の横領に関する事案である。動産についても、質入れの後にさらに売却した場合など、同種の構造が生じうる。もっとも本判決の理由づけは「抵当権設定と所有権移転とで所有者に生じる侵害の質・程度が異なる」という点に支えられているため、動産の事案にそのまま及ぶかは、後行行為が所有権侵害を実質的に拡大させているといえるかを個別に検討する必要がある。「不動産の判例だから動産にも当然妥当する」と書くのは早い。
業務上横領罪への適用
本判決自体が業務上横領被告事件であり、参照法条にも刑法253条が挙げられている。したがって本判決の法理は、業務上の地位に基づき委託された物についての「横領後の横領」に直接妥当する。単純横領罪(252条)と業務上横領罪(253条)とで、後行行為の犯罪成立に関する扱いを分ける理由はない。
窃盗後の処分との対比
窃盗犯人が盗品を処分する行為も、不可罰的事後行為の一例として挙げられる。窃盗犯人自身による盗品の処分は盗品等関与罪(刑法256条)を構成しない(不可罰的事後行為)が、窃盗に関与していない第三者が盗品を譲り受ける行為は盗品等関与罪を構成する。
詐欺後の処分との対比
詐欺により取得した財物を処分する行為も、詐欺犯人にとっては不可罰的事後行為にとどまる。ただし、詐取した財物を「別の被害者」に対する新たな詐欺の手段に用いた場合などは、新たな法益侵害が生じるため別個の詐欺罪が成立しうる。あくまで「同一被害者・同一法益の侵害の延長」にとどまる限りで不可罰的事後行為になる、という基準は共通である。
具体例で理解する
同じ「既遂後の処分」でも、不処罰になる場面と別罪が成立する場面がある。分かれ目は、侵害される法益と被害者が先行行為と同一で、かつ侵害が量的な延長にとどまるかどうかである。以下、両方の類型を具体例で確認したうえで、あてはめの思考手順を示す。
抽象論だけでは判断がぶれやすいので、典型的な事例を「不可罰的事後行為になる場合」と「別罪になる場合」に分けて確認する。
不可罰的事後行為になる場合
- 二重の抵当権設定:預かった不動産に第一抵当権を設定(既遂)→ さらに第二抵当権を設定。後の設定も同種・同程度の負担を重ねるにとどまる限り、侵害の延長として評価される余地がある。
- 窃盗犯人による盗品の費消・売却:他人の財布を盗んだ(窃盗既遂)→ 中の現金を使う・カードを売る。費消・売却は窃盗犯人にとって不可罰的事後行為(盗品等関与罪は成立しない)。
- 横領した金銭の消費:預かった金を着服した(横領既遂)→ 着服した金を遊興に費消。費消は不可罰的事後行為。
別罪が成立する場合(不可罰的事後行為にならない)
- 横領後の売却(最大判平15.4.23の事案):Aから預かった不動産にXが無断で抵当権を設定(第一の横領=既遂)→ さらに第三者に売却して所有権移転登記。判例は後行の売却についても横領罪の成立を肯定する。
- 新たな文書偽造を伴う処分:横領物を売るために売買契約書や登記関係書類を偽造 → 文書偽造罪・同行使罪が別途成立(文書に対する公共の信用という別法益)。
- 新たな被害者を欺く処分:横領物を、それと知らない第三者に「自分の所有物だ」と偽って高値で売りつけ、代金をだまし取った → その第三者に対する詐欺罪が別途成立しうる(新たな被害者・新たな法益)。
- 盗品を運搬・有償処分する「第三者」の行為:窃盗に関与していない者が、盗品と知りながら運搬・買受け → 盗品等関与罪(刑法256条)が成立。本犯ではないので不可罰的事後行為の理屈は使えない。
- 横領物の損壊:横領後に、嫌がらせ等で目的物を損壊した場合、所有権侵害の延長を超えて物の効用そのものを失わせる新たな侵害と見る余地があり、器物損壊罪の成否が別途問題となりうる(評価は事案による)。
あてはめの思考手順
事例問題では、前掲の判断手順(①先行行為の既遂 → ②法益の同一性 → ③被害者の同一性 → ④侵害の新規性 → ⑤被害の拡大 → ⑥行為者の同一性)を上から順に潰していけばよい。②〜⑤がすべて「同一・拡大なし」に振れたときだけ不可罰的事後行為と結論づけ、⑥で未関与の第三者が加担していれば、その者の共犯の成否を別途論じる。
反対意見・補足意見
本判決は大法廷判決であり、従来の判例(最判昭31.6.26)を変更したものである。判例変更を伴う大法廷判決では裁判官の意見が付されることが多いが、本記事では個別意見の内容には立ち入らない。答案で個別意見に言及する必要はなく、法廷意見の示した二つの裁判要旨を正確に押さえれば足りる。
試験対策での位置づけ
この論点は、判例の結論を逆に覚えていないかを試す形で出題されやすい。短答では最大判平15.4.23の二つの裁判要旨がそのまま正誤問題になり、論文では横領罪の既遂時期・罪数処理・第三者の共犯と組み合わせて問われる。用語の呼称問題(不可罰的/共罰的)も頻出である。
出題可能性
本判決は、横領罪と不可罰的事後行為の関係について頻出のテーマである。とりわけ「判例の結論を逆に覚えていないか」を試す出題がされやすい。
- 横領後の処分行為の法的評価を問う事例問題
- 不可罰的事後行為の理論を論じさせる問題
- 共犯の成否との絡みでの出題
- 罪数論との関連での出題
短答式試験での出題ポイント
- 委託を受けて占有する不動産に無断で抵当権を設定して登記した後、これを第三者に売却して所有権移転登記を了しても、後行の売却について横領罪は成立しない(×・最大判平15.4.23は成立を肯定した)
- 先行の抵当権設定行為が存在することは、後行の所有権移転行為について横領罪の成立自体を妨げる事情にはならない(○・裁判要旨1)
- 後行の所有権移転行為のみが起訴された場合、裁判所は訴因外の先行行為があったかどうかに立ち入って審理判断すべきではない(○・裁判要旨2)
- 窃盗犯人が自ら盗品を売却する行為は盗品等関与罪を構成する(×・同罪は本犯者以外を主体とする)
- 不可罰的事後行為という概念は最大判平15.4.23によって否定された(×・適用範囲が画定されただけで、概念自体は維持されている)
答案での使い方(論証パターン)
答案では、判例の結論(後行行為にも横領罪が成立する)を正確に摘示することが最優先である。そのうえで、不処罰となる典型場面を論じる際は「誰にとって不可罰なのか」を主語で明示し、罪数評価が判例の判断事項でないことにも触れられると安定する。
基本論証
甲が、委託を受けて占有する不動産に無断で抵当権を設定して登記を了した後、さらにこれを第三者に売却して所有権移転登記を了した行為について、横領罪が成立するか。
この点、判例(最大判平15.4.23)は、先行の抵当権設定行為が存在することは、後行の所有権移転行為について横領罪の成立自体を妨げる事情にはならないとして、後行行為についても横領罪の成立を肯定する。
その理由は、抵当権の設定は所有権に負担を課すにとどまるのに対し、所有権移転は所有者から所有権そのものを確定的に失わせるものであって、後行行為は先行行為による法益侵害の単なる実現にとどまらず、これを実質的に拡大させる点にある。
なお、先行行為と後行行為の罪数関係について判例は判断を留保している。答案では、両者を包括一罪と評価する見解に立つのであれば、それが判例ではなく学説上の処理であることを明示したい。
共犯の論証
事後行為が不可罰的事後行為にとどまる場面(たとえば窃盗犯人甲が盗品を損壊した場合)において、先行行為に関与していなかった乙がその事後行為に加担したとき、乙に共犯が成立するか。
事後行為が不処罰とされるのは、罰条自体が適用されないからではなく、事後行為も構成要件に該当し違法ではあるが、先行犯罪の刑によって評価が尽くされるという甲個人に固有の事情によると解すべきである(共罰的事後行為)。そうであれば、その刑を受けるわけではない乙については、構成要件に該当し違法な行為への加功として共犯の成立を認める余地がある。
論証の前提を一文で示すコツ
共犯を論じる前提として、答案では「後の売却行為も横領罪の構成要件には該当するが、甲については先行する横領と包括して一罪と評価されるため独立して処罰されないにすぎない」という一文を必ず置いておきたい。この前提を示しておかないと、「構成要件に該当しない適法行為に加担した乙になぜ共犯が成立するのか」という矛盾を突かれる。逆に、この一文さえあれば共犯肯定の結論が論理的に一貫する。
用語選択の注意
答案では「不可罰的事後行為(共罰的事後行為)」と併記するのが無難である。「不可罰」という言葉を使う際は、「甲については新たに横領罪を構成しない」と主語を明示すること。主語を省くと「誰にとっても適法」と読まれかねず、共犯論との整合性を失う。
重要概念の整理
ここまでの内容を、後行行為の評価・事後行為の類型・似た罪数概念との区別・横領罪の体系という4つの表にまとめる。答案直前の見直しはこの節だけを読めば足りるように構成した。法定刑は令和7年6月1日施行の拘禁刑への一本化を反映している。
横領後の処分行為の評価
場面 後行行為の評価 根拠 不動産の横領後の所有権移転(最大判平15.4.23の事案) 横領罪が成立する 所有権そのものを失わせ、侵害を実質的に拡大させる 窃盗犯人による盗品の費消・損壊 不可罰的(共罰的)事後行為 同一法益・同一被害者の侵害の延長にとどまる 不可罰的事後行為に加担した未関与の第三者 共犯成立の余地あり(学説上の帰結) 不処罰は本犯者固有の事情にすぎない不可罰的事後行為の類型
先行行為 事後行為 評価 理由 横領(抵当権設定) 同一物の売却・所有権移転 別罪成立(横領罪) 所有権を確定的に失わせ侵害を拡大(最大判平15.4.23) 窃盗 盗品の売却・費消 不可罰的事後行為 既に侵害した占有・所有の処分にすぎない 詐欺 詐取物の処分 不可罰的事後行為 同一被害者・同一法益の侵害の延長 横領 売却のための文書偽造 別罪成立(偽造罪) 文書の公共の信用という別法益 横領 第三者を欺いての売却 別罪成立(詐欺罪) 新たな被害者・新たな法益 文書偽造 偽造文書の行使 別罪成立(行使罪) 行使は偽造とは別個の保護法益・実害段階似て非なる概念との区別
不可罰的事後行為は、罪数論の他概念と混同されやすい。違いを整理しておく。
概念 行為の時間関係 処理 不可罰的(共罰的)事後行為 既遂後の同一法益侵害行為 先行犯罪に吸収され独立処罰されない 不可罰的(共罰的)事前行為 本罪に至る前段階(予備・準備) 本罪の既遂に吸収され独立処罰されない 包括一罪 同種行為の反復等 全体を一個の罪として評価 牽連犯 手段と結果の関係 科刑上一罪として重い刑で処断 法条競合(吸収関係) 一個の行為に複数構成要件が形式上該当 一方の構成要件のみ適用横領罪の体系
犯罪類型 条文 主体 法定刑 単純横領罪 252条 占有者 5年以下の拘禁刑 業務上横領罪 253条 業務上の占有者 10年以下の拘禁刑 遺失物等横領罪 254条 占有者以外 1年以下の拘禁刑等法改正に注意:懲役・禁錮を一本化する「拘禁刑」は、令和4年法律第67号により創設され、令和7年(2025年)6月1日に施行された。したがって条文の文言は、改正前が「五年以下の懲役」、現行法が「五年以下の拘禁刑」となる。古い基本書・過去問集は改正前の文言のままなので、条文を引用するときは版を確認したい。なお、法定刑の上限・下限の数値そのものは変わっていないため、要件・効果の理解に影響はない。
発展的考察
不可罰的事後行為という概念自体への批判、横領罪と背任罪の限界、会社法との交錯、デジタル資産への応用など、発展的な論点を概観する。いずれも司法試験の中心論点ではないが、答案に一言添えると理解の深さが伝わる領域である。
不可罰的事後行為概念の批判
近年の学説では、不可罰的事後行為の概念自体に対する批判がある。個々の行為について独立に犯罪の成否を検討すべきであり、先行行為によって「評価し尽くされる」という考え方は理論的に不明確であるとの指摘がある。
横領罪と背任罪の区別
横領罪と背任罪の区別は実務上重要であるが、理論的に困難な問題を含む。横領は「他人の物の不法領得」であり、背任は「他人の事務の処理における任務違背」である。
デジタル資産と「物」該当性
暗号資産やデジタルデータについて横領罪を論じられるかは、そもそもこれらが刑法252条の「物」にあたるかという入口の問題に帰着する。事後行為の処理を論じる前に、先行行為が横領罪を構成するかを確定させる必要がある。
よくある質問
「不可罰」と「無罪」の違い、不可罰的事後行為と共罰的事後行為の関係、横領後の横領の帰結など、検索でよく問われる疑問に短く答える。判例の結論を取り違えやすい箇所は、あわせて注意点を示した。
Q1: 横領後の売却が不可罰的事後行為なら、横領犯人は自由に売却できるのですか?
A1: 横領犯人が新たに横領罪に問われないという意味では不可罰ですが、最初の横領行為についての刑事責任は存続します。また、民事上の責任(損害賠償、不当利得返還等)は別途生じます。さらに、売却先が善意取得等の保護を受けない限り、所有者は所有権に基づく返還請求ができます。
Q2: 第一行為が未遂にとどまっていた場合にも、第二行為は不可罰的事後行為になりますか?
A2: いいえ。不可罰的事後行為は、先行行為が既遂に達していることを前提とします。第一行為が未遂にとどまっていた場合(例えば抵当権設定登記が完了しなかった場合)には、第二行為(売却)について改めて横領罪の成否を検討することになります。
Q3: 横領犯人が盗品等関与罪に問われることはありますか?
A3: いいえ。横領犯人自身が横領物を処分する行為は不可罰的事後行為であり、盗品等関与罪(刑法256条)も成立しません。盗品等関与罪は「本犯以外の者」を主体とする犯罪であるため、本犯(横領犯人)は同罪の主体にはなりません。
Q4: 「横領後の横領」は不可罰的事後行為ではないのですか?
A4: 不動産について、無断の抵当権設定・登記の後にさらに売却して所有権移転登記を了した場合には、後行の売却についても横領罪が成立するというのが判例です(最大判平15.4.23)。これと異なる従来の判例(最判昭31.6.26)は変更されました。「横領後の横領=不可罰的事後行為」という古い記述が残る教材もあるので、答案で使う前に必ず確認してください。なお、不可罰的事後行為という概念そのものが否定されたわけではなく、窃盗犯人による盗品の費消などでは今なお機能します。
Q5: 不可罰的事後行為は構成要件に該当しないのですか、それとも違法性が阻却されるのですか?
A5: 理論的な説明は学説により異なります。法条競合(吸収関係)と解する見解は、事後行為に対応する罰条がそもそも適用されず、罪自体が成立しないと考えます。包括一罪と解する見解(共罰的事後行為)は、事後行為も構成要件に該当して罪としては成立しているが、先行犯罪と包括して一罪として処断されるにすぎないと考えます。事後行為に加担した第三者の共犯を認める余地を残すのは後者であり、また「先行行為があっても後行行為の構成要件該当性は消えない」という最大判平15.4.23の発想とも親和的です。
Q6: 「不可罰」とはそもそもどういう意味ですか?「無罪」と同じですか?
A6: 違います。「不可罰」とは、犯罪が成立していても刑罰を科さない、あるいは独立した犯罪として取り上げないという評価を指します。不可罰的事後行為の場合、後の処分行為は犯罪としての性質(構成要件該当性)を完全には失っておらず、先行犯罪と一括して処罰されることで「重ねては罰せられない」だけです。これに対し「無罪」は、そもそも犯罪が成立しない(証拠不十分・正当防衛等)場合の判決上の概念であり、レベルの異なる用語です。
Q7: 不可罰的事後行為と共罰的事後行為は別の概念ですか?
A7: 同じ現象を指す呼び名で、別概念ではありません。「不可罰的」は「罰せられない」という結果に着目した古典的な呼称、「共罰的」は「先行犯罪と共に一罪として処罰される」という構造に着目した近時の呼称です。実質的な意味内容は同じなので、答案では併記しておけば十分です。
Q8: 横領後にさらに別の人に二重に売った場合(二重売買)はどうなりますか?
A8: 委託を受けて占有する不動産について、抵当権設定の後にさらに売却して所有権を移転した場合、後行の売却にも横領罪が成立するというのが判例です(最大判平15.4.23)。所有権そのものを失わせる点で、侵害が実質的に拡大しているからです。さらに、後の買主を「自分に処分権がある」と欺いて代金をだまし取ったような場合には、その買主に対する詐欺罪が別途問題となりえます。
関連条文
- 刑法252条1項(横領):自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の拘禁刑に処する。(改正前は「五年以下の懲役」。令和7年6月1日施行の改正により拘禁刑に一本化された)
- 刑法253条(業務上横領):業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の拘禁刑に処する。(改正前は「十年以下の懲役」)
- 刑法256条(盗品譲受け等):本犯者以外の者を主体とする。
- 刑事訴訟法256条(起訴状・訴因):最大判平15.4.23の参照法条。後行行為のみを訴因とする起訴の可否に関わる。
関連判例
- 最判昭31.6.26(刑集10巻6号874頁):横領後の所有権移転行為を横領罪にあたらないとしていた判例。最大判平15.4.23により、その見解に反する限度で変更された。
- 最決平21.3.26(刑集63巻3号291頁):不実の抵当権設定仮登記と横領罪の成否が争われた事案。
- 関連論点は背任罪とは?横領罪との区別基準、罪数処理とは?包括一罪・科刑上一罪・併合罪の違いもあわせて参照されたい。
まとめ
要点は次の3つに尽きる。
- 「不可罰」とは「処罰されない」という意味であり、「無罪」とは別の概念である。不可罰的事後行為とは、先行犯罪が既遂に達した後の行為が、同一法益・同一被害者への侵害の延長にとどまるため、独立して処罰されない場合をいう。同じ現象を「共罰的事後行為」とも呼ぶ。
- 「横領後の横領」は、その典型例ではない。最大判平15.4.23(大法廷)は、委託を受けて占有する不動産に無断で抵当権を設定して登記した後、さらに売却して所有権移転登記を了した事案について、後行の所有権移転行為にも横領罪が成立するとし、先行の抵当権設定の存在は成立を妨げないとして、最判昭31.6.26を変更した。あわせて、後行行為のみが起訴された場合、裁判所は訴因外の先行行為に立ち入って審理判断すべきでないとした。
- 可罰か不可罰かは手順で判断する。先行行為の既遂を入口に、法益の同一性・被害者の同一性・侵害の新規性・被害の拡大の有無を順に確認する。すべてが「同一・拡大なし」に振れて初めて不可罰的事後行為と言い切れる。横領後の横領はこの④⑤で振り落とされた、と整理すると記憶に残りやすい。
試験対策としては、判例の結論を逆に覚えていないかを最優先で確認したうえで、不可罰性の理論的説明(法条競合か包括一罪か)と、それが第三者の共犯の成否にどう跳ね返るかを押さえておきたい。
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