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新株発行・株式無償割当ての手続と瑕疵|差止め(210条)・無効の訴え(828条)

新株発行と株式無償割当ての手続・瑕疵を体系的に解説。有利発行の特別決議、不公正発行の差止め(210条)、新株発行無効の訴え(828条1項2号)、株式無償割当て(185〜187条)の瑕疵を争う方法と論点を整理します。

この記事のポイント

新株発行は会社の資金調達の中核であるが、既存株主の利益を害する可能性があるため、有利発行規制と不公正発行の差止めが重要な論点となる。また、対価の払込みを伴わない株式無償割当て(185条〜187条)は募集株式の発行とは別個の制度であり、その手続の瑕疵を差止め(210条)・新株発行無効の訴え(828条1項2号)で争えるかが論点となる。

この記事では、特に検索でつまずきやすい次の3点を正面から整理する。

  • 株式無償割当ての手続に瑕疵があったとき、どの手段(210条・828条)で争うのか
  • 新株発行無効の訴え(828条1項2号)の無効原因はどこまで認められるのか
  • 210条(差止め)と828条1項2号(無効の訴え)の役割分担と学説の対立

先に結論の骨格を示すと、次のとおりである。

場面 発行前 発行後 手段 差止め(210条・247条)の本訴+仮処分 無効の訴え(828条1項2号)/不存在確認(829条) 趣旨 違法・不公正な発行を事前に止める 取引安全と法的安定のため、無効主張を訴えに集約 無効原因 (差止事由=法令定款違反・著しく不公正) 取引安全のため制限的に解する(重大な瑕疵に限定)

株式無償割当ては募集株式の発行ではないため、これらの規定が当然には適用されない。「新株を発行してする無償割当て」について類推適用できるかが核心の論点である(後述)。


新株発行(募集株式の発行)の全体像

「募集株式の発行等」とは

会社法は、株式会社が新たに株式を引き受ける者を募集して株式を発行する手続を「募集株式の発行等」(199条以下)として一括して規律している。「等」とあるのは、新たに発行する株式だけでなく、保有する自己株式の処分も同じ手続に服するからである。いずれも、株式を取得する者から対価(払込み・現物出資)を受ける点に特徴がある。

これに対し、後述する株式無償割当て(185条)は対価の払込みを伴わない。この「対価の有無」が、本記事のテーマである瑕疵の争い方の分岐点になる。まずはこの対比を押さえておきたい。

既存株主が受ける2つの不利益

募集株式の発行が既存株主を害しうるのは、次の2つの局面である。論点はこの2つの不利益にそれぞれ対応している。

不利益の種類 内容 対応する規制 経済的損失(持分価値の希釈化) 時価より低い価額で新株を発行すると、既存株式1株あたりの価値が下がる 有利発行規制(199条3項・201条1項、特別決議) 持株比率の低下(支配的利益) 第三者割当てにより、既存株主の議決権割合が低下する 不公正発行の差止め(210条2号、主要目的ルール)

株主割当て(既存株主に持株比率どおり割り当てる方法)であれば、原則としてこのいずれの不利益も生じない。株式無償割当ても全株主へ按分平等に行われるため、同様に不利益が生じにくい。ここが瑕疵論で効いてくる出発点である。


新株発行の方法

方法 内容 手続 株主割当て 既存株主に持分に応じて割当て 取締役会決議 第三者割当て 特定の第三者に割当て 取締役会決議(有利発行は特別決議) 公募 不特定多数から募集 取締役会決議

なお、この「決定機関」は公開会社の場合を念頭に置いている。非公開会社(株式譲渡制限会社)では、募集事項の決定は原則として株主総会の特別決議による(199条2項、309条2項5号)。非公開会社では持株比率の維持に対する株主の利益が強く保護されるべきだからである。この公開会社と非公開会社の差は、後述の無効原因の範囲にも直結する重要な区別である。


有利発行(199条3項)

意義

有利発行とは、株式を引き受ける者に「特に有利な金額」で募集株式を発行することをいう(199条3項)。 時価より大幅に安い価額で新株が発行されると、既存株主の保有する1株あたりの価値が薄まる(希釈化)。そこで、既存株主の経済的利益を保護するため、有利発行を行うには取締役は株主総会でその理由を説明したうえ、株主総会の特別決議を得なければならない(199条3項、201条1項、309条2項5号)。

「特に有利な金額」の判断基準

「特に有利な金額」とは、公正な発行価額と比べて特に低い価額をいう。公正な発行価額とは、新株発行により企図する資金調達の目的を達成しうる限度で旧株主にとって最も有利な価額、すなわち発行による株価下落も織り込んだうえでなお市場が評価するであろう価額を意味すると解されている。

基準 内容 上場会社 直近の市場価格を基準に、おおむね10%程度以上のディスカウント 非上場会社 客観的な企業価値評価(純資産方式・DCF法等)に基づく公正な評価額を下回る価格

判断の基準時は、原則として払込金額を決定する取締役会決議の時点である。上場会社では、決議直前の一定期間の市場価格の平均値が参考にされることが多い(FAQ Q3も参照)。

有利発行を特別決議なく行った場合(瑕疵の論点)

有利発行に必要な特別決議を経ずに発行が行われた場合、これが新株発行無効の訴え(828条1項2号)の無効原因となるかが争われる。ここで公開会社と非公開会社で結論が分かれる点が重要である。

  • 非公開会社:株主総会特別決議を欠く募集株式の発行は無効原因となる(最判平24.4.24)。非公開会社では持株比率維持の利益が強く保護され、決議要件は株主保護の中核だからである。
  • 公開会社:特別決議を欠いても無効原因とはならないとする見解が有力である。公開会社では取引の安全(株式を取得した第三者の保護)の要請が強く、また取締役の対会社責任(212条等)による事後的な金銭調整で株主の経済的損失を回復できると考えられるためである。

学説の整理:公開会社における有利発行の決議欠缺をめぐっては、(1) 無効原因とはならず取締役の責任追及で処理すべきとする見解(有力説)、(2) 重大な瑕疵として無効原因となるとする見解が対立する。判例(最判昭46.7.16等)は、公開会社では新株発行が会社の業務執行に準じて扱われ、いったん発行された以上は取引安全を重視して無効原因を限定する立場に親和的である。


新株発行の差止め(210条)

差止めとは

新株発行の差止め(210条)とは、募集株式の発行等が法令・定款に違反する場合、または著しく不公正な方法で行われる場合に、これにより不利益を受けるおそれのある株主が、会社に対して発行をやめることを請求できる制度である。 発行が完了する前の事前の救済手段である点に最大の特徴がある。発行が完了して株式が流通し始めると、取引の安全のため無効主張が制限される(後述)。したがって、株主にとっては発行前に差し止めることが最も実効的な防御となる。

差止事由

210条が定める差止事由は次の2つである。

  1. 法令・定款に違反する場合(210条1号)
    • 例:有利発行に必要な株主総会特別決議を欠く、非公開会社で必要な決議を欠く、募集事項の通知・公告(201条3項4項)を欠く、発行可能株式総数を超える発行 など。
  2. 著しく不公正な方法による場合(210条2号)
    • 主に支配権の維持・移動を目的とした第三者割当てが問題となる。

「著しく不公正な方法」の判断基準――主要目的ルール

主要目的ルールとは、新株発行に資金調達等の正当な目的と、支配権維持・特定株主の持株比率低下といった不当な目的が併存する場合に、いずれが主要な目的かによって不公正発行の該当性を判断する枠組みである。資金調達目的が主要であれば適法、支配権維持目的が主要であれば「著しく不公正な方法」に当たる。

実務では、敵対的買収局面で会社が大量の新株(または新株予約権)を友好的な第三者に割り当てる場面で問題となる。買収防衛目的が主要と認められれば差し止められる。

裁判例・事件 判断 忠実屋・いなげや事件 資金調達目的か支配権維持目的かで主要目的を判定するルールを採用 ベルシステム24事件 支配権維持を主要目的とする新株予約権発行は著しく不公正に当たるとした

近時は、買収防衛策としての新株予約権無償割当てについて、株主の地位に重大な影響を及ぼすこと等から株主総会の判断(株主意思)を尊重すべきとする方向性も示されており(ブルドックソース事件決定の流れ)、主要目的ルールを補う形で株主平等原則違反・著しく不公正の有無が検討される。論証では、まず主要目的ルールを立て、買収防衛策の場合には株主意思・必要性・相当性の視点を加えて論じるのが安全である。

差止めの方法と仮処分

  • 差止請求は会社に対する請求権であり、これを被保全権利として差止めの仮処分(民事保全法23条2項)を申し立てるのが通常である。本訴の確定を待っていては発行が完了してしまうためである。
  • 発行前でなければ差止めの実効性がない。 効力発生日(払込期日)を過ぎて株式が発行されると、もはや差止めの対象がなくなり、争いは後述の無効の訴えの土俵に移る。
  • なお、新株予約権の発行については別途247条に差止規定が置かれている。

新株発行の瑕疵を事後に争う――無効の訴え(828条1項2号)

新株発行無効の訴え(828条1項2号)とは

新株発行無効の訴えとは、いったん効力を生じた募集株式の発行について、その無効を主張する者が訴えをもってのみ無効を主張できるとする制度である(828条1項2号)。 発行された株式は流通し、多数の利害関係人が生じるため、無効主張を訴えに集約し、かつ画一的に処理する必要がある。そこで会社法は、(1)無効主張の方法を訴えに限定し、(2)提訴期間を限定し、(3)無効判決に対世効(838条)と将来効(839条)を与えることで、法律関係の安定と取引の安全を図っている。

項目 公開会社 非公開会社 提訴期間(828条1項2号) 効力発生日から6か月以内 効力発生日から1年以内 提訴権者(828条2項2号) 株主、取締役、監査役、執行役、清算人 同左 効力 将来に向かって無効(839条、遡及効なし)・対世効(838条) 同左

非公開会社の提訴期間が長いのは、発行の事実が株主に分かりにくく、株主の持株比率維持の利益が強く保護されるべきだからである。

無効原因――取引安全のため制限的に解する

828条は無効原因を定めていない。そこで何が無効原因かは解釈に委ねられるが、判例・通説は取引の安全を重視し、無効原因を重大な瑕疵に限定する。手続上の瑕疵があっても、それが直ちに無効原因となるわけではないのがポイントである。

瑕疵の類型 公開会社 非公開会社 取締役会決議を欠く 無効原因でない(有力説。代表取締役の対外的行為として有効) 無効原因となりうる 募集事項の通知・公告(201条3項4項)を欠く 無効原因(差止めの機会を奪う重大な瑕疵。最判平9.1.28) 無効原因 差止仮処分に違反した発行 無効原因(最判平5.12.16) 無効原因 有利発行の特別決議を欠く 争いあり(無効原因でないとする見解が有力) 無効原因(最判平24.4.24) 株主総会の募集決議を欠く(非公開会社) ― 無効原因(最判平24.4.24)

公開会社で無効原因を限定する理由

公開会社では、新株発行は会社の業務執行に準じる行為として代表取締役の権限に委ねられている。発行された株式は速やかに流通するため、内部的な手続の瑕疵を理由に無効を認めると、善意で株式を取得した第三者を害し、取引の安全を著しく損なう。そこで、(1)差止めの機会を株主から奪うような重大な瑕疵(通知・公告の欠缺、差止仮処分違反)に限って無効原因とし、(2)決議の瑕疵など内部的瑕疵は原則として無効原因とせず、取締役の責任追及(212条・429条等)で処理する、というのが判例の基本的な立場である。

非公開会社で無効原因を広く認める理由

非公開会社では株式の流通が予定されておらず、取引安全への配慮の必要性が低い。他方で、株主の持株比率維持の利益は強く保護されるべきである。そこで最判平24.4.24は、非公開会社において株主総会の特別決議を経ずにされた募集株式の発行は、無効原因となると判示した。決議要件が株主の利益保護の中核をなすからである。

新株発行不存在確認の訴え(829条1号)

  • 新株発行の実体が存在しない場合(払込みも実体もなく、登記だけがある等)に、その不存在の確認を求める訴えである。
  • 無効の訴えと異なり、提訴期間の制限がなく、提訴権者も限定されない(確認の利益があれば足りる)。
  • 「無効」(瑕疵はあるが発行の外形・実体は存在する)と「不存在」(発行の実体自体がない)の区別を意識すること。両者は手段選択を分ける。

株式無償割当て(185条〜187条)

意義と募集株式発行との違い

株式無償割当てとは、株主に対して新たに払込みをさせないで当該会社の株式を割り当てることをいう(185条)。対価の払込みを伴う募集株式の発行(199条以下)とは別個の制度である点が出発点となる。

比較項目 募集株式の発行 株式無償割当て 根拠条文 199条以下 185条〜187条 対価の払込み 必要 不要(無償) 割当ての相手方 株主・第三者・公募 株主のみ(自己株式を除く全株主に平等) 持株比率への影響 第三者割当て・公募で変動 原則変動しない(按分平等)

手続

項目 内容 決定機関 株主総会の決議(取締役会設置会社では取締役会決議)。定款で別段の定め可(186条3項) 決定事項 割り当てる株式の数(種類・種類ごとの数)・算定方法、効力発生日等(186条1項) 平等原則 株主(会社自身を除く)の有する株式数に応じて割り当てる(186条2項。自己株式には割り当てられない) 効力発生 効力発生日に、株主は割当てを受けた株式の株主となる(187条1項)

株式無償割当ての瑕疵を争う方法――210条・828条との関係(最重要論点)

検索でも頻出の論点が、株式無償割当ての手続に瑕疵があった場合に、どの手段で争うかである。ここでの大前提は、株式無償割当ては「募集株式の発行(199条以下)」ではないため、差止め(210条)・新株発行無効の訴え(828条1項2号)が当然に適用されるわけではないという点である。210条も828条1項2号も、その文言上は「募集株式の発行等」を対象としているからである。

そこで、株式無償割当ての瑕疵を争えるかは、これらの規定を類推適用できるかという解釈問題になる。以下、結論から論点を整理する。

1. そもそも瑕疵で争う実益が乏しい類型がある

株式無償割当ては、会社自身を除く全株主に対し、その有する株式数に応じて按分平等に行われる(186条2項)。したがって:

  • 持株比率は原則として変動しない。第三者割当てのように特定株主の議決権割合が低下することがない。
  • そのため、第三者割当てで問題となる不公正発行(支配権維持目的)の問題は類型的に生じにくい
  • 対価の払込みがないため、有利発行(経済的損失)の問題も生じない

この点で、株式無償割当ては募集株式の発行とは利益状況が大きく異なる。瑕疵を争う必要性自体が、募集株式の発行に比べて小さいのである。これが議論の出発点になる。

2. 「新株を発行してする無償割当て」と「自己株式を交付してする無償割当て」を区別する

株式無償割当てには、(a) 新株を発行してする場合と、(b) 自己株式を交付してする場合の2類型がある(185条が「割当て」とのみ規定し、新株発行・自己株式交付の双方を含む)。瑕疵の争い方はこの区別で変わりうる。

類型 発行済株式総数 募集株式発行との類似性 828条1項2号類推の可否 (a) 新株を発行してする無償割当て 増加する 高い(新株が生まれる点で共通) 類推適用を認める見解が有力 (b) 自己株式を交付してする無償割当て 増加しない 低い(既存株式の移転に近い) 「新株発行」無効の訴えにはなじみにくい

3. 議論の状況(学説)

  • (a) 新株を発行してする無償割当ての瑕疵:新株が発行され発行済株式総数が増加する点で募集株式の発行と類似する。そこで、効力発生前であれば210条の類推適用による差止め、効力発生後であれば828条1項2号の類推適用による無効の訴えで争いうるとする見解が有力である。手続(186条の決定・通知等)に法令・定款違反があり、それが重大な瑕疵にあたる場合がこれにあたる。
  • (b) 自己株式を交付してする無償割当ての瑕疵:新株が生じないため「新株発行」無効の訴えの枠組みにはなじみにくい。一般原則(決議の取消し・無効、不当利得等)による処理を検討することになる。
  • 理論的根拠の留保:いずれも明文がない以上、類推の根拠(利益状況の同質性)、提訴期間の起算点をどう考えるか、誰が原告適格を持つかといった点に議論が残る。

答案での書き方(論証の流れ)

株式無償割当ての瑕疵が問われたら、次の順序で論じると安定する。

  1. 出発点:本件は株式無償割当て(185条)であり、募集株式の発行(199条以下)ではない。したがって210条・828条1項2号は直接適用されない
  2. 利益状況の検討:株式無償割当ては全株主に按分平等(186条2項)であり、持株比率は変動しない。不公正発行・有利発行の問題は類型的に生じにくい。
  3. 類型の区別:本件が「新株を発行してする無償割当て」か「自己株式を交付してする無償割当て」かを認定する。
  4. 類推の可否:新株を発行してする場合は、発行済株式総数が増加する点で募集株式の発行と利益状況が同質といえるか。同質と評価できれば210条・828条1項2号を類推適用して争う。
  5. あてはめ:問題文の瑕疵(決議の欠缺、通知の欠缺等)が重大な瑕疵にあたるかを、無効原因を制限的に解する趣旨に照らして検討する。

株式会社は、株主(当該株式会社を除く。)に対して新たに払込みをさせないで当該株式会社の株式の割当て(以下この節において「株式無償割当て」という。)をすることができる。

― 会社法 第185条

株式無償割当ては、株主(当該株式会社を除く。)の有する株式(種類株式発行会社にあっては、同一の種類の株式)の数に応じて……割り当てることを内容とするものでなければならない。

― 会社法 第186条2項(趣旨:按分平等の原則)

新株予約権の無償割当てとの違い(買収防衛策との関係)

混同しやすいのが、新株予約権無償割当て(277条)である。これは新株予約権を全株主に無償で割り当てる制度で、買収防衛策(ライツプラン)の手段として用いられる。差止めは247条の類推適用、株主平等原則(109条1項)違反や著しく不公正な発行の有無が争点となる(ブルドックソース事件等の文脈)。本記事の「株式無償割当て(185条)」とは別の制度なので、条文と制度をセットで区別して覚えること。

制度 根拠条文 割り当てるもの 主な論点・手段 株式無償割当て 185条〜187条 株式 新株発行型は210条・828条1項2号の類推 新株予約権無償割当て 277条〜279条 新株予約権 買収防衛策、247条類推・株主平等原則

新株予約権

意義

新株予約権とは、会社に対してこれを行使することにより、あらかじめ定められた価額(行使価額)でその会社の株式の交付を受けることができる権利をいう(2条21号)。 新株発行と同様に既存株主の利益に影響を与えうるため、募集株式の発行と並行する規律が置かれている。

新株予約権の発行手続

  • 募集事項の決定は、原則として公開会社では取締役会決議、非公開会社では株主総会特別決議による(238条・240条)。
  • 有利発行(特に有利な条件・金額での発行)の場合は、募集株式の発行と同様に株主総会の特別決議が必要である(238条3項、240条1項)。
  • 報酬としてのストックオプションや、買収防衛策としての新株予約権無償割当てに利用される。

新株予約権の差止め・無効

新株予約権についても、募集株式の発行とパラレルな救済手段が用意されている。条文番号が新株発行と異なるので、対応関係で覚えるとよい。

救済 新株(募集株式)発行 新株予約権発行 差止め 210条 247条 無効の訴え 828条1項2号 828条1項4号 不存在確認の訴え 829条1号 829条3号

答案での書き方・論証例

設例

Y社(公開会社・取締役会設置会社)の代表取締役Aは、自己に友好的なBに対し、株主総会の特別決議を経ずに、時価を大きく下回る価額で第三者割当てにより新株を発行した。これによりAの持株比率は維持される一方、Aと対立する大株主Xの持株比率は大きく低下した。Xはどのような手段をとりうるか。

発行前(差止め)の論証例

まず、発行の効力発生前であれば、Xは新株発行の差止め(210条)を本案として、差止仮処分(民事保全法23条2項)を申し立てることが考えられる。
本件発行は時価を大きく下回る価額でされており、特に有利な金額による発行(199条3項)にあたる。にもかかわらず必要な株主総会特別決議を欠くから、「法令……に違反する場合」(210条1号)にあたり差止事由がある。
また、本件発行はAの持株比率維持を主要な目的とするものといえる。主要目的ルールによれば、支配権維持を主要目的とする発行は「著しく不公正な方法」(210条2号)にあたる。
よって、Xは210条に基づき差止めを請求しうる。

発行後(無効の訴え)の論証例

発行の効力が生じた後は、もはや差止めはできず、Xは新株発行無効の訴え(828条1項2号)によることになる。提訴期間は公開会社につき効力発生日から6か月である(同号)。
もっとも、いったん発行された株式は流通し、取引の安全を害するおそれがあるから、無効原因は重大な瑕疵に限定して解すべきである。
公開会社における有利発行の特別決議の欠缺は、株主の経済的損失を取締役の責任追及(212条等)により回復しうることから、無効原因とはならないと解する(有力説)。
したがって、本件では無効の訴えによっても新株発行の効力を覆すことは困難であり、Xとしては発行前の差止めが最も実効的であった。

論証のポイントは、(1) 時系列で「発行前=差止め/発行後=無効の訴え」を切り分けること(2) 無効原因は公開会社か非公開会社かで結論が変わること、の2点である。


よくある誤解・つまずきポイント

  • 「株式無償割当て=株式分割」ではない。 株式分割(183条)は1株を細分化するだけで新たな株式の発行ではない。株式無償割当て(185条)は新株発行または自己株式交付による割当てである(詳細はFAQ Q5)。
  • 「無償割当てだから瑕疵があっても210条・828条で当然に争える」ではない。 株式無償割当ては募集株式の発行ではないため、これらは直接適用されない。新株を発行してする場合に類推適用できるかという解釈問題である。
  • 「株式無償割当て(185条)=新株予約権無償割当て(277条)」ではない。 前者は株式、後者は新株予約権を割り当てる別制度。買収防衛策で問題になるのは主に後者である。
  • 有利発行の決議欠缺の効果を「公開・非公開」で区別せず一律に論じてしまうのは典型的な失点。非公開会社は無効原因(最判平24.4.24)、公開会社は無効原因とならないとする見解が有力、と書き分ける。
  • 差止めと無効の訴えを混同する。 差止めは発行の事前救済(210条)、無効の訴えは発行の事後救済(828条1項2号)であり、時的場面が異なる。

まとめ

  • 新株発行は株主割当て・第三者割当て・公募の3方法
  • 既存株主の不利益は経済的損失(→有利発行規制)持株比率低下(→不公正発行の差止め)の2類型
  • 有利発行には株主総会の特別決議が必要(199条3項・201条・309条2項5号)
  • 不公正発行は主要目的ルールで判断される(210条2号)
  • 発行は差止め(210条・247条)、発行は無効の訴え(828条1項2号)で争う
  • 無効原因は取引安全のため制限的に解する。公開会社と非公開会社で範囲が異なる(非公開会社は決議欠缺が無効原因=最判平24.4.24、公開会社は無効原因とならないとする見解が有力)
  • 株式無償割当て(185〜187条)は募集株式の発行とは別制度。全株主へ按分平等(186条2項)のため不公正発行・有利発行の問題は生じにくい
  • 株式無償割当ての瑕疵は210条・828条1項2号が直接適用されない新株を発行してする場合に限り、利益状況の同質性を理由に類推適用の可否が論点となる

FAQ

Q1. 新株発行の差止めが間に合わなかった場合は?

新株発行無効の訴えによって争うことになります。ただし、取引の安全の観点から無効原因は制限的に解されます。

Q2. ストックオプションとして新株予約権を発行する場合の手続は?

取締役等に対する報酬として新株予約権を付与する場合、361条に基づく報酬の決定(株主総会決議)が必要です。

Q3. 第三者割当増資における「払込金額が特に有利な金額」かの判断はいつの時点でしますか?

取締役会決議の時点での公正な価額を基準に判断します。上場会社の場合は決議前の一定期間の市場価格の平均値が参考にされます。

Q4. 株式無償割当て(185条)の手続に瑕疵がある場合、どう争いますか?

株式無償割当ては募集株式の発行(199条以下)ではないため、差止め(210条)・新株発行無効の訴え(828条1項2号)が当然に適用されるわけではありません。もっとも、新株を発行してする無償割当ては発行済株式総数が増加する点で募集株式の発行と類似するため、これらの規定の類推適用により争いうるとする見解が有力です。明文がない以上、答案では「募集株式の発行ではないこと」を出発点に類推の可否を論じる必要があります。

Q5. 株式無償割当てと株式分割はどう違いますか?

いずれも株主に無償で株式が増える点で似ていますが、株式分割(183条)は既存の1株を細分化するもので発行可能株式総数との関係で扱いが異なり、株式無償割当て(185条)は新株の発行または自己株式の交付によって株式を割り当てるものです。また、株式無償割当てでは異なる種類の株式を割り当てることもできます。

Q6. 株式無償割当ての瑕疵について、なぜ210条・828条の「類推適用」という言い方になるのですか?

210条(差止め)も828条1項2号(無効の訴え)も、その文言上の対象は「募集株式の発行等」(199条以下)だからです。株式無償割当て(185条)はこれに含まれないため、規定を直接適用することはできません。そこで、新株を発行してする無償割当ては発行済株式総数が増加する点で募集株式の発行と利益状況が同質といえることを理由に、これらの規定を類推適用できないかという解釈論になります。明文がない以上「類推」という構成をとる必要があるわけです。

Q7. 株式無償割当ての瑕疵について、学説はどう対立していますか?

大きくは、(1)新株を発行してする無償割当てについては828条1項2号(および発行前は210条)の類推適用を認め、無効の訴え等で争いうるとする見解(有力)と、(2)株式無償割当ては全株主に按分平等で持株比率も変動せず、争う実益が乏しいことを重視して類推に慎重な見解とが対立します。さらに類推を認める立場でも、提訴期間の起算点や原告適格をどう考えるかに議論が残ります。答案では「募集株式の発行ではないこと」を出発点に、新株発行型かどうかを区別し、利益状況の同質性から類推の可否を論じるのが王道です。

Q8. 発行が完了してしまった後でも、瑕疵を理由に新株発行を無効にできますか?

発行後は差止めができず、新株発行無効の訴え(828条1項2号)によることになります。ただし、いったん発行された株式は流通し取引の安全を害するため、無効原因は重大な瑕疵に限定して解されます。公開会社では、差止めの機会を奪う通知・公告の欠缺(最判平9.1.28)や差止仮処分違反(最判平5.12.16)は無効原因となりますが、取締役会決議の欠缺など内部的瑕疵は原則として無効原因とならず、取締役の責任追及で処理されます。


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