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債権者代位権の要件と効果|改正民法の変更点を整理

民法423条の債権者代位権を解説。被保全債権の要件、無資力要件、代位行使の範囲、転用型の判例法理、改正民法の変更点を整理します。

この記事のポイント

債権者代位権とは、債権者が自己の債権を保全するため必要があるときに、債務者に属する権利(被代位権利)を債務者に代わって行使することができる権利をいう(民法423条1項本文)。 平成29年改正(令和2年4月1日施行)の民法は、それまで判例・学説が積み重ねてきたルールを条文に取り込み、債権者代位権を423条から423条の7までの一連の規定として整備した。本記事では「債権者代位権 要件 効果」「債権者代位権 改正民法」という検索意図に正面から答えるため、(1)要件、(2)効果(行使の範囲・直接の引渡し・債務者の処分権限)、(3)転用型、(4)改正による変更点、を判例の正確な引用とともに整理し、最後に答案での書き方とFAQをまとめる。


債権者代位権とは(定義)

一文での定義

債権者代位権とは、債権者が、自己の債権を保全するため必要があるときに、債務者に属する権利(被代位権利)を、債務者に代わって自己の名において行使することができる権利である(423条1項本文)。条文の文言上、(1)保全の必要性、(2)被代位権利が債務者に属すること、が中核であり、(3)一身専属権・差押禁止権利は対象から除かれる(同項ただし書・423条2項参照)。

ここで注意したいのは、債権者代位権は「自己の名において」行使する点である。代理(債務者の名で行う)ではなく、債権者自身が原告となって被代位権利を訴訟上・訴訟外で行使する。判決の名宛人は債権者だが、実体法上の権利はあくまで債務者の権利であるという二重構造が、後述する各論点(相手方の抗弁・債務者の処分権限など)の出発点になる。

用語の整理

混同しやすい三者を最初に固定しておく。

  • 代位債権者(債権者): 代位権を行使する者。被保全債権の債権者。
  • 債務者: 被代位権利を本来行使すべき者。代位権の主体である債権者から見た債務者。
  • 相手方(第三債務者): 被代位権利の相手方。被代位権利が金銭債権なら、その債務者にあたる。

そして二つの「債権」を区別する。

  • 被保全債権: 代位債権者が債務者に対して持っている債権。これを保全するために代位権を使う。
  • 被代位権利: 債務者が相手方に対して持っている権利。これを代位債権者が代わって行使する。

この「被保全債権 → 債務者 → 被代位権利 → 相手方」という連鎖を正確に押さえることが、要件・効果のすべての前提になる。


債権者代位権の趣旨

責任財産の保全

債権者代位権の本来的な機能は、債務者の責任財産(強制執行の引当てとなる一般財産)を保全することにある。債務者が権利を行使せず放置している間に、相手方に対する債権が時効消滅するなどして責任財産が目減りすれば、最終的に強制執行による満足を得られなくなるのは代位債権者である。そこで、債務者の不作為に対して、債権者が代わって権利を行使し、責任財産の維持・充実を図ることを認めたのが本制度である。

詐害行為取消権(424条以下)が債務者の「積極的な財産減少行為」を取り消すのに対し、債権者代位権は債務者の「権利不行使という消極的態度」に対処する点で対をなす。両者はともに責任財産保全のための制度であり、しばしば比較して問われる。

責任財産保全という観点をもう少し具体化しておくと、債権者にとって最終的な満足の手段は、債務者の財産に対する強制執行である。ところが、強制執行は債務者名義の財産に対してしか行えないのが原則であり、債務者が相手方に対して持つ債権を放置していれば、その債権はいつまでも「未回収のまま債務者の手元にある潜在的財産」にとどまる。これが時効で消えたり、相手方が無資力になったりすれば、債権者の引当ては失われる。債権者代位権は、こうした「債務者が動かないことによる責任財産の劣化」を、債権者の手で食い止めるための予防的・保全的な制度であると位置づけられる。

転用という第二の機能

もっとも、判例は責任財産保全という本来の目的を離れ、特定の債権を実現するための手段として代位権を用いることを古くから認めてきた。これが「転用型」であり、本来型とは要件論(特に無資力要件の要否)が異なる。改正民法は転用型の一部(登記・登録請求権)を423条の7として明文化した。趣旨を「責任財産保全(本来型)」と「特定債権の実現(転用型)」の二系統に分けて理解しておくと、後述の要件の振り分けが明快になる。


債権者代位権の要件

要件は大きく(1)被保全債権に関する要件、(2)被代位権利に関する要件、(3)行使態様に関する要件に整理できる。

1. 被保全債権の存在

代位債権者が債務者に対して被保全債権を有していることが必要である。

  • 原則として金銭債権: 本来型(責任財産保全型)では、保全されるのは責任財産であるから、被保全債権は原則として金銭債権である。特定物債権であっても、それが履行不能となって損害賠償債権(金銭債権)に転化した場合には被保全債権となりうる。
  • 転用型は例外: 特定の登記請求権・賃借権などを保全する転用型では、被保全債権が金銭債権である必要はない。

また、被保全債権は代位行使の時点で有効に成立していることが必要であるが、必ずしも履行期にある必要はない(弁済期到来は次の(2)で別途問題となる)。被保全債権が条件付き・期限付きであっても、保存行為であれば期限到来前の行使が認められる余地がある。さらに、被保全債権の発生原因が被代位権利の発生時期より後であってもよく、両者の先後関係は要件に影響しないと一般に解されている。この点は、受益者・転得者との関係で行為時の先後が問題となりうる詐害行為取消権との相違点として押さえておくとよい。

2. 被保全債権が原則として弁済期にあること

423条2項本文は、債権者はその債権の期限が到来しない間は、被代位権利を行使することができないと定める。

  • ただし保存行為は例外: 同項ただし書により、保存行為については期限到来前でも行使できる。保存行為とは、債務者の財産の現状を維持する行為であり、典型例が消滅時効の完成猶予のための措置(被代位権利についての時効更新・完成猶予を生じさせる行為)や未登記の権利についての登記である。
  • 改正のポイント: 改正前は「裁判上の代位」(旧423条2項、非訟事件手続法の裁判上の代位手続)により裁判所の許可を得れば期限前でも行使できたが、利用実態がほとんどなかったため、改正でこの裁判上の代位の制度は廃止された。現行法では、期限前の行使は保存行為に限られる。

3. 被保全債権が強制執行により実現できること

改正で新設された423条3項は、被保全債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、被代位権利を行使することができないと定めた。責任財産保全という制度趣旨上、そもそも強制執行できない債権(例えば自然債務、不執行の合意がある債権)を保全のために代位権を使うことは認められない、という当然のルールを明文化したものである。

4. 債務者が無資力であること(本来型)

債務者が無資力(債務超過で、被保全債権の満足を得られないおそれがある状態)であることが必要とされる。これは条文に明示の文言はないが、「自己の債権を保全するため必要があるとき」(423条1項本文)の「保全の必要性」の内実として、判例・通説が要求してきた要件である。改正後もこの解釈は維持されている。

  • 本来型では必要: 責任財産保全が目的だから、債務者に十分な資力があれば保全の必要がなく、代位権は使えない。
  • 転用型では不要(または問題とならない): 特定債権の実現を目的とする転用型では、債務者の資力の有無は保全の必要性と無関係であり、無資力要件は不要とされる。

5. 被代位権利が一身専属権・差押禁止権利でないこと

423条1項ただし書は、債務者の一身に専属する権利(行使上の一身専属権)を、また同条2項は差押えを禁じられた権利を、それぞれ代位行使の対象から除外する。

  • 行使上の一身専属権: 行使するか否かが権利者本人の意思に委ねられるべき権利。具体例として、扶養請求権、夫婦間の協力扶助請求権、離婚に伴う財産分与請求権(協議・審判等で具体的内容が形成される前のもの)などが挙げられる。
  • 慰謝料請求権: 判例(最判昭和58年10月6日民集37巻8号1041号)は、慰謝料請求権は、被害者がこれを行使する意思を表示しただけでは足りず、具体的な金額の慰謝料請求権が当事者間で客観的に確定したとき(加害者が支払を承諾し、または支払を命ずる債務名義が成立したときなど)に、初めて一身専属性を失い、相続・代位行使の対象となる旨を判示している。試験では「行使の意思表明だけで一身専属性を失うか」が引っ掛けになりやすいので、「具体的に確定して初めて行使可能」と正確に押さえる。

6. 債務者が自ら権利を行使していないこと

債務者が既に自ら被代位権利を行使している場合には、たとえその行使方法が拙劣であっても、もはや代位権を行使することはできない(判例)。これは「保全の必要性」がないことの一場面と理解される。なお、改正民法は、債権者が代位行使に着手した後であっても債務者の処分権限は失われないことを明文化した(423条の5。後述)。両者は局面が異なるので混同しないこと。すなわち、「代位行使に着手する前に債務者が自ら行使していれば、保全の必要性を欠き代位権は発生しない」という問題と、「代位行使に着手した後に債務者が処分・取立てをできるか」という問題は、時系列も条文上の根拠(前者は423条1項の解釈、後者は423条の5)も異なる。答案で混同しやすい典型ポイントなので、局面を切り分けて論じる。

要件のまとめ(本来型)

ここまでの要件を一覧にすると次のとおりである。

  • 被保全債権: 有効に存在すること。本来型では原則として金銭債権。弁済期が到来していること(保存行為は例外=423条2項)。強制執行により実現可能であること(423条3項)。
  • 保全の必要性: 債務者が無資力であること(423条1項本文の解釈)。
  • 被代位権利: 一身専属権でないこと(423条1項ただし書)、差押禁止権利でないこと(同条2項)、債務者が自ら行使していないこと。

債権者代位権の効果

行使の範囲は被保全債権の額が限度

423条の2は、被代位権利の目的が可分であるときは、債権者は自己の債権(被保全債権)の額の限度においてのみ、被代位権利を行使することができると定める。

  • 改正前: 被保全債権の額を超えて代位行使できるかについて議論があった。
  • 改正後: 例えば被保全債権が100万円、被代位権利(債務者の相手方に対する貸金債権)が300万円であれば、代位できるのは100万円の限度に明確化された。被代位権利が不可分である場合(特定物の引渡しなど)には、この限度の制約は及ばない。

相手方(第三債務者)の地位――抗弁の対抗

423条の4は、債権者が被代位権利を行使したときは、相手方は債務者に対して主張することができる抗弁をもって、債権者に対抗することができると定める。代位権の行使によって相手方が不利益を受ける理由はないから、相手方は債務者に対して持っていた同時履行の抗弁・相殺・弁済・消滅時効などをそのまま代位債権者に主張できる。判例法理の明文化である。

自己への直接の引渡請求と事実上の優先弁済

423条の3は、被代位権利が金銭の支払または動産の引渡しを目的とするものであるときは、債権者は相手方に対し、その支払または引渡しを自己に対してすることを求めることができると定める。相手方が代位債権者に対してその支払・引渡しをしたときは、被代位権利は消滅する。

これは、債務者が受領を拒むと代位権の実効性が失われてしまうため、判例が認めてきた直接請求を明文化したものである。実務上重要なのは、金銭の場合、代位債権者は受領した金銭の引渡債務(債務者への返還債務)と、自己の被保全債権とを相殺することで、事実上の優先弁済を受けられる点である。総債権者のための責任財産保全という建前と、事実上の優先弁済という実質との緊張関係は、論文でしばしば問われる論点である。

この緊張関係について補足すると、債権者代位権は本来「総債権者のための責任財産保全」を目的とするから、回収された金銭はいったん債務者の責任財産に組み込まれ、配当手続を通じて債権者平等の原則に従って分配されるのが筋であるとも言える。しかし、現実には、代位債権者が受領した金銭を自己の被保全債権と相殺することで他の債権者に先んじて満足を得てしまう。改正の議論ではこの優先弁済機能の当否が問題とされたが、最終的には、直接請求を認めつつ債務者の処分権限も維持する(423条の5)という形で、優先弁済機能を一定程度温存しながら他の債権者の手続的地位にも配慮する制度設計が採られた。答案でこの論点に触れるときは、「直接請求+相殺による事実上の優先弁済」というキーフレーズを正確に書けるようにしておく。

債務者の処分権限――取立てその他の処分は妨げられない

423条の5は、債権者が被代位権利を行使した場合であっても、債務者は被代位権利について、自ら取立てその他の処分をすることを妨げられず、相手方もまた、被代位権利について債務者に対して履行することを妨げられないと定める。

  • 改正前の判例は、債権者が代位行使に着手し、その旨を債務者に通知し、または債務者がこれを了知したときは、債務者は処分権限を失うとしていた。
  • 改正民法はこの立場を変更し、代位行使後も債務者は自由に取立て・処分でき、相手方も債務者に弁済できると定めた。これは改正の中でも実質を変えた重要点である。

訴訟告知の義務

423条の6は、債権者が被代位権利の行使にかかる訴えを提起したときは、遅滞なく、債務者に対し訴訟告知をしなければならないと定める。前条で債務者の処分権限を維持した結果、債務者の手続保障を図る必要が生じたために設けられた規定である。423条の5と423条の6はセットで理解する。


債権者代位権の転用

意義

金銭債権の保全(責任財産保全)以外の目的で債権者代位権を用いる場合を転用型という。判例は明文の根拠がない時代から、特定債権の実現のために代位権の転用を認めてきた。

主要判例(正確な引用)

登記請求権の代位行使

不動産が前主A→売主B→買主Cと順次譲渡されたが登記がAに残っている場合、CはBに対する登記請求権(被保全債権)を保全するため、Bが持つAに対する登記請求権(被代位権利)を代位行使できる。判例として最判昭和43年7月11日(中間省略登記をめぐる事案で、最終譲受人が中間者の登記請求権を代位行使しうることを認めたもの)などがあり、不動産の物権変動・登記の連続性を確保する典型的な転用例である。改正民法はこの類型を423条の7として明文化した。

賃借人による妨害排除請求権の代位行使

賃借人が不法占拠者に明渡しを求めるため、賃貸人(所有者)の所有権に基づく妨害排除請求権を代位行使できるとした古典的判例として、大判昭和4年12月16日がある。賃借権という債権を保全するために物権的請求権を代位行使する例で、無資力要件が不要とされる転用型の代表例である。

なお、現在では、不動産の賃借人について賃借権そのものに基づく妨害排除(妨害停止・返還)請求権が改正民法605条の4で明文化されたため、対抗要件を備えた賃借人は代位構成によらず直接請求できる場面が増えた。代位構成は対抗要件を備えていない場合などに依然意義を持つが、605条の4との関係は近時の出題ポイントである。具体的には、605条の4は「不動産の賃借人が同法605条の2第1項に規定する対抗要件を備えた場合」に妨害停止請求・返還請求を認めるものであり、対抗要件を備えていない賃借人は同条による直接請求ができないため、従来どおり賃貸人の物権的請求権を代位行使する構成を採る実益が残る。答案では、まず605条の4による直接請求の可否を検討し、対抗要件を欠く場合に代位構成へ移る、という順序で論じると整理が明快になる。

423条の7(登記・登録請求権の保全のための代位)

423条の7は、登記または登録をしなければ権利の得喪・変更を第三者に対抗できない財産を譲り受けた者は、その譲渡人が第三者に対して有する登記・登録手続請求権を行使しないときは、その権利を行使することができる旨を定める。これは前述の登記請求権の代位行使を明文化したものであり、同条後段は、相手方の抗弁(423条の4)等の規定を準用する。なお、423条の7は転用型の一般規定ではなく、登記・登録請求権に限った個別規定である点に注意。それ以外の転用型(賃借権保全のための妨害排除など)は、引き続き解釈(423条1項の類推など)に委ねられている。


改正民法の主要な変更点(一覧)

事項 改正前(判例・旧規定) 改正後(現行条文) 要件の整備 423条のみ。多くは解釈 423条〜423条の7に明文整備 強制執行不能債権 解釈 保全のための行使不可を明文化(423条3項) 期限前の行使 裁判上の代位(旧423条2項)あり 裁判上の代位を廃止、保存行為のみ可(423条2項) 行使の範囲 争いあり 被保全債権の額の限度(423条の2) 直接の引渡請求 判例法理 明文化(423条の3) 相手方の抗弁 判例法理 明文化(423条の4) 債務者の処分権限 通知・了知で処分権喪失(判例) 行使後も処分・取立て・弁済受領可(423条の5)※実質変更 訴訟告知 規定なし 訴え提起時に告知義務(423条の6) 登記・登録請求権の転用 判例法理 明文化(423条の7)

特に423条の5(債務者の処分権限の維持)は、判例の結論を変えた点で改正の目玉であり、頻出。「改正で何が変わったか」を問われたら、まずここを書けるようにしておく。


具体例・あてはめ

設例

AはBに対して100万円の貸金債権(弁済期到来済み)を有している。Bは無資力で、ほかにめぼしい財産がない。BはCに対して200万円の売掛代金債権を有しているが、これを取り立てようとしない。

あてはめ

  1. 被保全債権: AのBに対する100万円の貸金債権。金銭債権であり、弁済期も到来している(423条2項本文クリア)。強制執行可能な債権でもある(423条3項クリア)。
  2. 無資力要件: Bは無資力であり、責任財産保全の必要がある(保全の必要性あり)。
  3. 被代位権利: BのCに対する200万円の売掛代金債権。一身専属権でも差押禁止債権でもない(423条1項ただし書・2項クリア)。Bは自ら行使していない。
  4. 行使の範囲: 売掛代金債権は可分なので、Aが代位できるのは被保全債権100万円の限度(423条の2)。
  5. 直接の引渡し: 金銭債権だから、AはCに対し「Aに直接100万円を支払え」と請求できる(423条の3)。
  6. 回収後: AはCから受領した100万円の返還債務とAの貸金債権とを相殺し、事実上優先弁済を受けられる。
  7. 相手方の抗弁: もしCがBに対して同時履行の抗弁や相殺の抗弁を持っていれば、CはこれをAに対しても主張できる(423条の4)。
  8. 債務者の処分: Aが代位行使した後も、B自身がCから取り立てることは妨げられず、CがBに弁済することも妨げられない(423条の5)。Aが訴えを提起したときはBに訴訟告知を要する(423条の6)。

設例の変形――転用型のあてはめ

上記設例を変形し、「AがBから甲土地を買い受けたが、登記は前主CのもとにありBが移転登記手続を取ろうとしない」という事案を考える。この場合、AのBに対する所有権移転登記請求権(被保全債権)は金銭債権ではないが、これを保全するため、AはBがCに対して有する移転登記手続請求権(被代位権利)を代位行使できる(転用型)。ここでは責任財産保全が目的ではないから、Bの無資力は要件とならない。Bの資力がいかに潤沢でも、Bが登記手続を放置している以上、Aは登記という特定の利益を実現するために代位権を使える。現行法では、この登記請求権の代位は423条の7に明文の根拠を持つ。あてはめでは、(1)被保全債権=登記請求権の存在、(2)転用型であり無資力不要であること、(3)被代位権利=Bの対C登記請求権をBが行使していないこと、を順に認定すればよい。


代位権の本来型と転用型の比較

観点 本来型(責任財産保全型) 転用型(特定債権保全型) 目的 責任財産(一般財産)の保全 特定の債権(登記・賃借権等)の実現 被保全債権 原則として金銭債権 金銭債権でなくてよい 無資力要件 必要 不要 直接請求 423条の3により可(金銭・動産) 類型による(登記なら相手方→債務者へ) 明文の根拠 423条1項本文 登記・登録は423条の7、その他は解釈

答案での書き方

検討手順(論証の型)

  1. 被保全債権の特定と性質: 金銭債権か特定債権か → 本来型/転用型のいずれで論じるかを決める。
  2. 弁済期の到来(423条2項本文): 期限到来前なら保存行為(同項ただし書)にあたるかを検討。
  3. 強制執行可能性(423条3項): 本来型では一応触れる。
  4. 保全の必要性=無資力: 本来型では無資力を認定。転用型では「特定債権の実現に必要であり、無資力は要件とならない」と書く。
  5. 被代位権利の適格性: 一身専属権・差押禁止権利でないこと(423条1項ただし書・2項)、債務者が自ら行使していないこと。
  6. 効果: 行使の範囲(423条の2)、直接の引渡し(423条の3)、相手方の抗弁(423条の4)、債務者の処分権限・訴訟告知(423条の5・6)を、設問の問いに応じて拾う。

答案作成上の注意

  • 無資力要件は条文にないので、「423条1項の『保全するため必要があるとき』の解釈として、本来型では債務者の無資力が必要と解する」と趣旨から導く一文を入れると印象が良い。
  • 転用型を論じるときは、必ず冒頭で「本来型と異なり責任財産保全を目的としないため、無資力要件は不要」と要件の振り分けを明示する。
  • 改正点を問う問題(特に423条の5)では、「改正前は通知・了知により債務者は処分権限を失うとされていたが、改正民法は債務者の処分権限を維持することとした」と、改正前後の対比を一文で示すと加点されやすい。
  • 慰謝料請求権の一身専属性は「行使の意思表明では足りず、具体的金額が確定して初めて行使・代位の対象となる」と正確に書く(最判昭和58年10月6日)。

まとめ

  • 債権者代位権とは、債権者が自己の債権を保全するため必要があるときに、債務者に属する権利を自己の名で代位行使する権利である(423条1項本文)。
  • 本来型の要件は、(1)被保全債権の存在(原則金銭債権・弁済期到来=423条2項本文、強制執行可能=同条3項)、(2)債務者の無資力(保全の必要性)、(3)被代位権利が一身専属権・差押禁止権利でないこと(同条1項ただし書・2項)、(4)債務者が自ら行使していないこと、である。
  • 効果として、行使の範囲は被保全債権の額の限度(423条の2)、金銭・動産は自己への直接引渡請求が可能(423条の3)、相手方は債務者への抗弁を対抗できる(423条の4)。
  • 改正の目玉は、債務者の処分権限を行使後も維持した423条の5(判例の結論を変更)と、それに伴う訴訟告知義務(423条の6)である。
  • 転用型は無資力要件が不要であり、登記・登録請求権の保全は423条の7で明文化された。賃借人の妨害排除は605条の4との関係に注意する。

債権者代位権と詐害行為取消権の比較

両制度は責任財産保全の両輪であり、相違点を表で押さえておくと横断的な出題に対応しやすい。

観点 債権者代位権(423条以下) 詐害行為取消権(424条以下) 対象 債務者が権利を行使しないこと(不作為) 債務者が責任財産を減少させる行為をしたこと(作為) 行使方法 裁判外でも行使可能 原則として裁判上の行使(訴えによる) 相手方の主観 不要 受益者・転得者の悪意(詐害の認識)が必要 被保全債権 原則金銭債権(転用型は例外) 原則金銭債権で、詐害行為前の原因に基づくこと 効果 被代位権利の行使(債務者の権利の代位) 詐害行為の取消しと逸出財産の取戻し

債権者代位権は「動かない債務者」に、詐害行為取消権は「財産を抜く債務者」に対応する、という対比で理解すると記憶に残りやすい。両者はいずれも責任財産保全のための制度であるが、代位権が予防的・保全的に働くのに対し、取消権はすでに行われた行為を事後的に覆す点で性質が異なる。


FAQ

Q1. 債権者代位権と詐害行為取消権の違いは?

債権者代位権(423条以下)は、債務者が「権利を行使しない」という消極的態度に対し、その権利を代わって行使する制度です。詐害行為取消権(424条以下)は、債務者が「責任財産を減少させる行為をした」という積極的行為を取り消す制度です。両者とも責任財産保全のための制度ですが、代位権は裁判外でも行使でき相手方の悪意を要しないのに対し、取消権は原則として裁判上の行使が必要で受益者・転得者の悪意(詐害の認識)が要件となる点で異なります。

Q2. 無資力要件はどこから出てくるのですか?転用型でも必要ですか?

無資力要件は条文に明示されておらず、423条1項本文の「自己の債権を保全するため必要があるとき」という保全の必要性の解釈として、判例・通説が本来型(責任財産保全型)について要求するものです。これに対し、登記請求権の代位行使や賃借権保全のための妨害排除など、特定債権の実現を目的とする転用型では、債務者の資力は保全の必要性と無関係なので無資力要件は不要とされます。

Q3. 代位債権者は回収した金銭を自分のものにできますか?

被代位権利が金銭債権の場合、代位債権者は相手方に自己への直接の支払を請求できます(423条の3)。受領した金銭は本来債務者に引き渡すべきものですが、代位債権者はその引渡債務(返還債務)と自己の被保全債権とを相殺することができるため、結果として事実上の優先弁済を受けられます。制度の建前(総債権者のための責任財産保全)と実質(事実上の優先弁済)の緊張関係として、論文でよく問われます。

Q4. 代位行使した後、債務者は自分でその権利を行使できますか?

できます。改正民法423条の5により、代位行使後も債務者は被代位権利について自ら取立てその他の処分をすることを妨げられず、相手方も債務者に対して弁済できます。改正前の判例は、債権者が代位行使に着手し債務者に通知・了知させると債務者は処分権限を失うとしていましたが、改正でこの結論は変更されました。なお、債権者が訴えを提起したときは債務者への訴訟告知が必要です(423条の6)。

Q5. 慰謝料請求権は代位行使できますか?

慰謝料請求権は、被害者の意思に委ねられるべき行使上の一身専属権としての性質を持つため、原則として代位行使できません。判例(最判昭和58年10月6日)は、被害者が請求の意思を表示しただけでは足りず、具体的な金額の慰謝料請求権が当事者間で客観的に確定したとき(加害者の承諾や債務名義の成立など)に初めて一身専属性を失い、相続・代位行使の対象になるとしています。


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