無権代理と相続|本人死亡・代理人死亡のパターン整理
無権代理と相続の法律関係を解説。無権代理人が本人を相続した場合、本人が無権代理人を相続した場合など主要パターンを判例とともに整理します。
この記事のポイント
無権代理と相続が交錯する場面は、無権代理人が本人を相続した場合(当然有効)、本人が無権代理人を相続した場合(追認拒絶可能)、共同相続の場合など複数のパターンがある。各パターンにおける判例の立場を正確に整理することが試験対策上不可欠である。
無権代理人が本人を相続した場合
単独相続 ― 当然有効(最判昭40.6.18)
無権代理人Bが本人Aの唯一の相続人として相続した場合、無権代理行為は当然に有効となる。
根拠は以下のとおりである。
- 無権代理人は本人の地位を包括承継するため、追認拒絶をすることは信義則に反する
- 無権代理人自身が117条の責任を負う立場にあり、追認を拒絶して相手方の利益を害することは許されない
共同相続(最判平5.1.21)
無権代理人Bと他の相続人CがAを共同相続した場合、Bの相続分についてのみ当然有効となるか。
判例は、無権代理行為の追認は共同相続人全員が共同してしなければその効力を生じないとし、他の共同相続人Cが追認しない限り、無権代理行為は有効とならないとした。
ただし、その後Bが他の共同相続人の持分を相続した場合には当然有効となる(最判平5.1.21)。
本人が無権代理人を相続した場合
単独相続 ― 追認拒絶可能(最判昭37.4.20)
本人Aが無権代理人Bの唯一の相続人として相続した場合、Aは追認を拒絶できる。
本人が無権代理人を相続した場合においても、本人が被相続人の無権代理行為の追認を拒絶しても何ら信義則に反しない
根拠として、本人は自らの意思に基づかない法律行為の効果を受け入れる義務はないことが挙げられる。
ただし、相手方は本人に対して117条の無権代理人の責任(相続により承継)を追及できる。
信義則による制限
追認拒絶が認められる場合でも、本人が無権代理行為を利用したり、相手方の信頼を高めるような行為をした場合には、信義則上追認拒絶が制限される可能性がある。
その他のパターン
第三者が本人と無権代理人の双方を相続した場合
第三者Dが本人Aと無権代理人Bの双方を相続した場合(例えば、A死亡→B相続→B死亡→D相続)、Dは本人の地位に基づいて追認拒絶できるか。
この場合、BがAを相続した時点で当然有効となるため、Dが相続した時点ではすでに有効な法律行為が存在する。
無権代理人が本人を相続した後に追認拒絶できるか
無権代理人が本人を単独相続した場合は当然有効となるため、追認拒絶の余地はない。
パターン一覧
パターン 結論 判例 無権代理人→本人を単独相続 当然有効 最判昭40.6.18 無権代理人→本人を共同相続 全員の追認が必要、当然有効とはならない 最判平5.1.21 本人→無権代理人を単独相続 追認拒絶可能(117条の責任は承継) 最判昭37.4.20 本人→無権代理人を共同相続 117条の責任は相続分に応じて承継 ―よくある質問
Q1: 無権代理人が本人を相続した場合に「当然有効」となる理由は何ですか
無権代理人は117条により相手方に対して履行または損害賠償の責任を負う立場にあります。そのような者が本人を相続して追認拒絶をすることは、自らの義務に矛盾する行為であり信義則に反するためです。
Q2: 本人が無権代理人を相続して追認を拒絶した場合、相手方はどうなりますか
相手方は、本人が相続により承継した117条の無権代理人の責任を追及できます。具体的には、相手方の選択に従い、履行または損害賠償を請求できます。
Q3: 表見代理が成立する場合との関係はどうなりますか
表見代理が成立する場合は、そもそも本人に効果が帰属するため、相続との交錯は問題となりません。表見代理が成立しない場合に初めて無権代理と相続の問題が顕在化します。
関連条文
代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。
― 民法 第113条第1項
まとめ
無権代理と相続の交錯は、無権代理人が本人を相続する場合(当然有効)と本人が無権代理人を相続する場合(追認拒絶可能)で結論が異なる。共同相続の場合は追認の不可分性により全員の共同追認が必要となる。各パターンの結論と根拠を正確に把握し、信義則による調整の可能性も含めて理解することが重要である。