持分会社の体系|合名会社・合資会社・合同会社の比較
持分会社(合名・合資・合同会社)を体系的に解説。社員の責任の違い、業務執行、持分の譲渡、退社・除名の手続を比較整理します。
この記事のポイント
持分会社とは、合名会社・合資会社・合同会社の3つの会社類型の総称であり、株式会社と異なり社員(出資者)の個性が重視される「人的会社」である。 3類型を分ける最大のメルクマールは、社員が会社債権者に対して負う責任の範囲(無限責任か有限責任か)であり、これに連動して業務執行・持分譲渡・退社のルールが定まる。
本記事では、まず「持分会社とは何か」「合名会社・合資会社・合同会社とは何か」を端的に定義したうえで、社員の責任、業務執行と代表、持分の譲渡、退社・除名、合同会社の特徴、そして司法試験・予備試験の答案でどう書くかまでを一気通貫で整理する。
持分会社とは
定義
持分会社とは、合名会社・合資会社・合同会社の3類型をまとめて指す会社法上の概念である(会社法575条1項)。 会社法は会社を「株式会社」と「持分会社」の2つに大別し、後者をさらに社員の責任態様によって3つに分けている。
「持分」とは、社員が会社に対して有する地位(社員権)および出資の割合を意味する語であり、株式会社における「株式」に対応する。ただし株式が均一な割合的単位に細分化されるのに対し、持分会社の持分は1社員につき1個(持分単一主義)であり、各社員の出資額に応じてその大きさが異なるのが特徴である。
人的会社としての性質
持分会社は人的会社と呼ばれる。これは、会社の運営が社員相互の人的信頼関係を基礎としていることを意味し、次のような特徴に現れる。
- 所有と経営の一致:社員が原則としてそのまま業務執行者となる(590条1項)。株式会社のように株主と取締役が制度上分離していない。
- 持分譲渡の制限:他の社員の承諾がなければ持分を譲渡できない(585条)。誰が社員になるかが重要だからである。
- 定款自治の広さ:内部関係(損益分配、業務執行、利益配当等)について、強行法規に反しない限り定款で自由に定められる。
これに対し株式会社は、株式の自由譲渡性・有限責任・機関の分化を特徴とする物的会社(資本会社)であり、出資者の個性は重視されない。
立法の沿革
持分会社という総称は、2006年(平成18年)施行の会社法で導入された。それ以前の商法では、合名会社・合資会社・株式会社・有限会社という分類がとられていた。会社法はこれを再編し、(1)有限会社制度を廃止して株式会社に統合し、(2)合名会社・合資会社に新類型の合同会社を加えた3つを「持分会社」としてまとめた。
合同会社が新設された背景には、知識・技術・人的資源を中核とする事業(ベンチャー、専門サービス、共同研究開発等)について、「出資者のリスクは限定しつつ(有限責任)、利益配分や経営の取り決めは当事者の合意で柔軟に決めたい(定款自治)」という実務上のニーズに応える狙いがあった。株式会社の硬直的な規律と、合名・合資会社の無限責任リスクのいずれをも回避できる「第三の選択肢」として位置づけられている。
なぜ3類型に分けるのか
3類型の差異は、突き詰めれば「会社債権者の引当て(責任財産)をどこに求めるか」という政策判断に帰着する。無限責任社員がいる類型(合名・合資)では、社員個人の財産まで引当てとできるため、会社財産の確保(出資の払込み時期、労務出資の可否、利益配当規制)は緩やかでよい。これに対し合同会社では会社財産のみが引当てとなるため、出資の全額払込みや財産出資の限定、過大な配当の制限(628条以下の利益配当規制)といった債権者保護のための規律が課される。この対比を理解しておくと、各類型の細かなルールが有機的につながって記憶できる。
持分会社と株式会社の対比
観点 持分会社 株式会社 性質 人的会社 物的会社 出資者の地位 社員(持分) 株主(株式) 所有と経営 一致が原則 分離が原則 出資者の責任 無限責任社員が存在しうる 全員が間接有限責任 持分・株式の譲渡 他の社員の承諾が必要 原則自由 内部規律 定款自治が広い 強行法規が多い 設立 定款認証不要 定款認証が必要(30条)合名会社とは
定義
合名会社とは、無限責任社員のみで構成される持分会社である(576条2項)。 全社員が会社債権者に対して直接・無限・連帯の責任を負う点が特徴であり、最もリスクの高い類型である。
社員全員が無限責任を負うため、社員相互の信頼関係が極めて強く要求される。歴史的には家族経営や少人数の共同事業に用いられてきた類型だが、リスクの大きさゆえ現在の利用例は多くない。
特徴
- 社員の責任:直接・無限・連帯責任(580条1項)。会社財産で債務を完済できないとき、社員が個人財産をもって弁済する義務を負う。
- 業務執行:各社員が業務を執行する権利を有し、義務を負う(590条1項)。
- 最低社員数:1名でも設立できる(解散事由から社員ゼロが排除されるにとどまる)。
- 出資の目的:金銭・財産のほか、労務や信用の出資も認められる。有限責任社員と異なり責任が無限だからである。
合資会社とは
定義
合資会社とは、無限責任社員と有限責任社員の双方で構成される持分会社である(576条3項)。 経営を担う無限責任社員と、出資のみを行い責任が限定される有限責任社員とが組み合わさる点で、合名会社と合同会社の中間的な性格を持つ。
特徴
- 社員構成:無限責任社員・有限責任社員がそれぞれ1名以上必要。いずれか一方が欠けると合資会社の要件を満たさなくなる。
- 業務執行:原則として各社員が業務執行権を有するが、実務上は無限責任社員が経営を主導することが多い。
- 有限責任社員の出資:金銭等の財産出資に限られ、労務・信用の出資は認められない。
- 社員の退社による類型変化:有限責任社員が全員退社すると合名会社へ、無限責任社員が全員退社すると合同会社へと、定款変更により会社の種類が変わる(639条参照)。
合同会社(LLC)とは
定義
合同会社とは、有限責任社員のみで構成される持分会社であり、2006年(平成18年)施行の会社法によって新設された類型である(576条4項)。 英米のLLC(Limited Liability Company)をモデルとし、「出資者は間接有限責任(株式会社並みのリスク限定)でありながら、内部規律は定款で柔軟に設計できる」という、人的会社と物的会社の長所を組み合わせた制度として導入された。
特徴
- 社員の責任:全社員が間接・有限責任を負う(580条2項)。会社債権者に対して直接の弁済義務はなく、出資の価額を限度とする。
- 設立の簡易さ:定款の作成・出資の全額履行・設立登記で成立し、公証人による定款認証が不要。設立費用が株式会社より安い。
- 柔軟な損益分配:出資比率と異なる利益配当・損益分配を定款で自由に定められる。知的・人的貢献の大きい社員に手厚く配分する設計が可能。
- 機関設計の自由:取締役会・監査役等の機関が不要で、運営コストが低い。
- 出資の全額払込み:有限責任社員は設立登記までに出資の全額を払い込まなければならない(578条)。会社財産が債権者の唯一の引当てとなるため、資本の確保が要求される。
実務では、外資系企業の日本法人(Apple Japan、Google合同会社等が有名)、共同研究開発のビークル、不動産の保有・運用主体(SPC的利用)などで広く用いられている。
合同会社と株式会社の選択
起業の場面で「株式会社にするか合同会社にするか」はしばしば検討される論点である。両者の主な違いを整理すると次のとおりである。
観点 合同会社 株式会社 出資者の責任 間接有限責任 間接有限責任 設立時の定款認証 不要 必要 設立費用 安い(登録免許税も低額) 相対的に高い 機関設計 取締役会等不要 株主総会・取締役が必要 利益分配 定款で自由に設計可 原則として株式(持株)に比例 決算公告 不要 必要(440条) 役員任期 なし 原則あり(再任手続が必要) 社会的信用・資金調達 やや劣る/株式発行による調達不可 株式発行で広く調達可・上場可能責任が限定される点は両者共通であるため、「コストを抑え柔軟に運営したい」なら合同会社、「対外的信用や将来の上場・大規模な資金調達を見据える」なら株式会社、という使い分けがされる。
出資者の呼称
合同会社の出資者は「社員」と呼ばれる。日常用語の「従業員」を意味する社員ではなく、会社法上の出資者(社員権者)を指す点に注意したい。株式会社の「株主」に対応する概念である。代表者は「代表社員」、業務を担う者は「業務執行社員」と呼ばれ、株式会社の「代表取締役」「取締役」に相当する役割を担う。
3種類の持分会社の比較
項目 合名会社 合資会社 合同会社 社員の種類 無限責任社員のみ 無限+有限責任社員 有限責任社員のみ 社員の責任 直接・無限・連帯責任 無限/有限が併存 間接・有限責任 最低社員数 1名 各1名以上(計2名以上) 1名 出資の目的 財産・労務・信用 無限:労務等可/有限:財産のみ 財産のみ 出資の履行時期 設立後でも可 有限責任社員は要払込み 設立登記までに全額 業務執行 各社員(原則) 各社員(原則) 各社員(原則) 定款変更 総社員の同意(637条) 総社員の同意 総社員の同意 定款認証 不要 不要 不要 代表的利用 少人数の共同事業 中間的な共同事業 外資日本法人・投資ビークルいずれの類型も「定款認証が不要」「総社員の同意で定款変更」「各社員が業務執行する」という点は共通であり、差異の本質は社員の責任態様にあることを押さえておくとよい。
社員の責任
無限責任と有限責任
社員の責任は、(1)直接責任か間接責任か、(2)無限責任か有限責任か、の2軸で整理される。
無限責任 有限責任 直接責任 合名会社・合資会社の無限責任社員 合資会社の有限責任社員(未履行出資の限度) 間接責任 (観念しにくい) 合同会社の社員・株式会社の株主- 直接責任:会社債権者が社員に対して直接に履行を請求できる責任。
- 間接責任:社員は会社に対して出資義務を負うにとどまり、債権者は社員に直接請求できない責任。
無限責任社員の責任(580条1項)
無限責任社員は、次の場合に会社債権者に対して連帯して弁済する責任を負う。
- 会社財産をもって会社の債務を完済できないとき
- 会社財産に対する強制執行が功を奏しなかったとき
会社が第一次的責任を負い、それで足りない部分について社員が補充的に責任を負うという構造(補充性)である点に注意する。
有限責任社員の責任(580条2項)
有限責任社員は、その出資の価額(既に履行した部分を除く)を限度として会社債権者に対し責任を負う。すなわち未だ出資を履行していない部分についてのみ、債権者に対して直接責任を負う。出資を全額履行済みであれば、追加的な責任は生じない。
合同会社では設立時に出資全額の払込みが要求されるため、社員は通常、出資後に債権者へ何らの責任も負わない(実質的に間接有限責任となる)。
加入・退社と責任の関係
- 加入した社員の責任:社員が新たに加入した場合、加入前に生じた会社債務についても責任を負う(605条)。
- 退社した社員の責任:退社した社員は、退社登記前に生じた会社債務について、登記後2年以内は従前の責任を負う(612条)。退社によって直ちに責任を免れるわけではない点が出題されやすい。
新たに社員が加入するには、定款変更が必要であり、社員の加入は定款にその者を社員として記載し、合同会社では出資の払込みが完了した時に効力を生じる(604条)。加入と退社のいずれにおいても、会社債権者の信頼を保護するために責任の遡及・存続が手当てされている点が、人的会社の特徴的なルールである。
業務執行と代表
業務執行(590条)
持分会社では、定款に別段の定めがない限り、各社員が業務を執行する(590条1項)。これが所有と経営の一致の現れである。社員が2名以上いる場合、業務は社員の過半数で決定する(590条2項)。ただし常務(日常的な業務)は各社員が単独で行える(590条3項)。
定款で業務執行社員を定めることもできる(591条)。この場合、業務執行社員以外の社員は業務執行権を失うが、監視権(業務・財産状況の調査権、592条)は残る。
代表(599条)
業務を執行する社員は、原則として持分会社を代表する(599条1項本文)。業務執行社員が複数いる場合は各自が代表するのが原則だが(599条2項)、定款または定款の定めに基づく社員の互選によって代表社員を定めることができる(599条3項)。代表社員は、会社の業務に関する一切の裁判上・裁判外の行為をする包括的代理権を有する(599条4項)。
利益相反・競業の制限
業務執行社員には、株式会社の取締役と同様の規律が課される。
- 競業避止義務:他の社員全員の承諾を得なければ、自己または第三者のために会社の事業の部類に属する取引をしてはならない(594条)。
- 利益相反取引の制限:会社との取引には、当該社員以外の社員の過半数の承認を要する(595条)。
これらは所有と経営が一致する人的会社においても、業務を担う社員が会社の利益を犠牲に自己の利益を図ることを防ぐための規律であり、株式会社の取締役に課される義務(356条等)と趣旨を共通にする。
設立の手続
持分会社の設立は、株式会社に比べて簡素である。
- 定款の作成:社員になろうとする者全員が定款を作成し、これに署名・記名押印する(575条)。記載事項として、目的、商号、本店所在地、社員の氏名・住所、社員が無限責任社員か有限責任社員かの別、社員の出資の目的・価額等が必要である(576条)。
- 出資の履行:合同会社の社員は設立登記までに出資の全額を払い込む(578条)。合名・合資会社の無限責任社員は設立後の履行も許される。
- 設立登記:本店所在地で設立登記をすることにより、持分会社は成立する(579条)。
株式会社と異なり、公証人による定款認証の手続が不要である点が最大の特徴であり、設立コストの低さに直結している。
損益分配と利益配当
持分会社では、各社員に対する損益分配の割合を定款で自由に定めることができる。定款に定めがないときは、各社員の出資の価額に応じて分配される(622条)。出資比率と異なる分配(例:資金は少ないが技術貢献の大きい社員に手厚く配分する設計)が許される点は、株式(持株)に比例した配当を原則とする株式会社にはない柔軟性である。
ただし合同会社では、債権者保護の観点から、利益額を超える配当が制限され(628条以下)、これに違反した配当については業務執行社員が填補責任を負うなどの規律が置かれている。無限責任社員のいる合名・合資会社にはこうした厳格な配当規制はなく、ここでも責任態様の違いが配当規制の有無に反映されている。
持分の譲渡
原則(585条1項)
社員は、他の社員全員の承諾がなければ、その持分の全部または一部を他人に譲渡できない。 持分会社が人的信頼関係を基礎とする以上、誰が社員となるかについて既存社員の同意を要するのが当然だからである。
業務を執行しない有限責任社員の例外(585条2項)
業務を執行しない有限責任社員は、業務執行社員全員の承諾があれば持分を譲渡できる。業務に関与せず、責任も限定されている社員の交替は、会社運営への影響が小さいため要件が緩和されている。
場面 必要な承諾 原則(業務執行社員・無限責任社員等) 他の社員全員の承諾(585条1項) 業務を執行しない有限責任社員 業務執行社員全員の承諾(585条2項)なお、これらの規定は任意規定であり、定款で別段の定めをすることができる(585条4項)。
退社・除名
「退社」とは、会社の存続中に特定の社員がその社員資格を失うことをいう。株式会社における株式の譲渡・買取りに代わり、人的会社では退社による持分の払戻し(611条)が出資回収の主たる手段となる。
任意退社(606条)
存続期間を定款で定めなかった場合または特定社員の終身間と定めた場合、各社員は事業年度終了時に退社できるが、6か月前までに退社の予告をしなければならない(606条1項)。また、やむを得ない事由があるときは、いつでも退社できる(606条3項)。
法定退社(607条)
次の事由により社員は当然に退社する(607条1項)。
- 定款で定めた事由の発生
- 総社員の同意
- 死亡/合併(法人社員の場合)
- 破産手続開始の決定
- 解散(法人社員の場合)
- 後見開始の審判
- 除名
除名(859条)
社員に重大な義務違反等の正当な事由があるとき、会社は他の社員の過半数の決議に基づき、訴えをもってその社員を除名することができる(859条)。除名は当該社員の地位を一方的に奪う重大な措置であるため、訴えによる裁判所の判断を要する点が特徴である。
退社に伴う持分の払戻し(611条)
退社した社員は、その出資の種類を問わず、持分の払戻しを金銭で受けることができる(611条3項)。払戻額は退社時の会社財産の状況に従って算定される(611条2項)。無限責任社員が労務・信用を出資していた場合でも、払戻しは金銭で行われる。
持分の払戻しは、株式会社における自己株式取得や剰余金配当と同様、会社財産が社外に流出する局面である。そのため合同会社では、払戻しによって債権者を害さないよう、払戻額が剰余金額を超える場合の債権者保護手続(635条)や、払戻しに関与した業務執行社員の責任(出資価額を超える払戻しがされたときの填補責任、636条等)が定められている。会社財産のみが引当てとなる合同会社特有の規律であり、ここでも「債権者保護」という横串が通っていることを確認できる。
退社による会社の継続・解散
社員の退社は会社の存続にも影響する。合資会社で有限責任社員が全員退社すれば残るのは無限責任社員のみとなり、定款変更により合名会社となったものとみなされる。逆に無限責任社員が全員退社すれば合同会社となったものとみなされる(639条)。
また、社員が1名となっても直ちに解散するわけではないが、社員が欠けた(ゼロになった)ことは解散事由となる(641条4号)。退社をめぐる問題は、責任・払戻し・会社類型の変動が連動するため、事案を丁寧に追う必要がある。
答案での書き方・論証例
出題のされ方
持分会社は会社法の中で出題頻度がそれほど高い分野ではないが、(1)社員の責任の範囲、(2)業務執行・代表の所在、(3)持分譲渡の要件、(4)退社・除名の手続、という4論点が組み合わさって問われやすい。短答(択一)では3類型の比較知識が、論文では事案へのあてはめが問われる。
論証例:無限責任社員への責任追及
本問において、債権者Xは合名会社Yに対する債権を有するところ、Yの財産では完済できない。この場合、Xは無限責任社員Aに対して直接弁済を請求できるか。
合名会社の社員は会社債権者に対し直接・無限・連帯の責任を負う(会社法580条1項)。もっとも、社員の責任は会社財産で完済できない場合等に生じる補充的なものである(同項各号)。本問では会社財産で完済できないため、要件を満たす。よって、XはAに対し直接弁済を請求できる。
論証例:持分譲渡の効力
Bが業務を執行しない有限責任社員である場合、その持分譲渡には他の社員全員の承諾が必要か。
持分譲渡は原則として他の社員全員の承諾を要する(585条1項)。もっとも、業務を執行しない有限責任社員は会社運営への影響が小さいため、業務執行社員全員の承諾で足りる(585条2項)。したがって本問では、業務執行社員全員の承諾があれば譲渡は有効である。
あてはめのコツ
- まず会社の類型(合名・合資・合同)と社員の地位(無限/有限、業務執行の有無)を特定する。ここを誤ると全ての結論がずれる。
- 次に、責任なら「補充性(580条1項各号)」、譲渡なら「585条1項か2項か」、退社なら「任意(606条)か法定(607条)か」と、条文の枝分かれを丁寧に拾う。
- 定款自治が広い分野なので、「定款に別段の定めがあれば結論が変わる」旨を一言添えると説得力が増す。
短答(択一)で狙われる論点
論文だけでなく短答でも、3類型の対比を素材にした正誤問題が出題されやすい。特に次の点は「ひっかけ」になりやすいので正確に押さえておきたい。
- 持分会社の設立に定款認証は不要(株式会社との対比)。
- 合名会社・合資会社の無限責任社員は労務・信用の出資が可能だが、有限責任社員(合資・合同)は財産出資に限られる。
- 合同会社の社員は設立登記までに出資の全額を払い込む必要がある(578条)。
- 持分譲渡は原則他の社員全員の承諾だが、業務を執行しない有限責任社員は業務執行社員全員の承諾で足りる(585条1項・2項)。
- 退社した社員は登記後2年間は従前の責任を負う(612条)。「退社すれば即免責」は誤り。
- 除名は訴えをもって行う(859条)。社員総会決議だけで完結するのではない。
- 持分会社に決算公告義務はない(株式会社の440条との対比)。
- 持分会社の業務執行は社員の過半数で決定し、常務は各社員が単独でできる(590条)。
具体例で理解する
ケース1:合名会社の債務
A・Bが無限責任社員となる合名会社が1,000万円の債務を負い、会社財産は400万円しかない。
→ 不足分600万円について、A・Bは連帯して直接弁済する責任を負う(580条1項)。債権者は資力のあるAに600万円全額を請求してもよく、AはBに対して負担部分を求償する。
ケース2:合資会社の有限責任社員
合資会社の有限責任社員Cが出資約束額300万円のうち200万円を履行済みである。
→ Cは未履行の100万円を限度として会社債権者に直接責任を負う(580条2項)。300万円全額を履行していれば、追加責任は生じない。
ケース3:合同会社の社員
合同会社の社員Dが出資500万円を全額払い込んでいる。会社が倒産した。
→ Dは出資の限度(実質的に既履行分)で責任を負うにとどまり、会社債権者からの直接請求を受けない。株主と同様の間接有限責任である。
ケース4:退社後の責任
合名会社の無限責任社員Eが退社し、その退社登記がされた。その6か月後、登記前にすでに発生していた会社債務について債権者Fが弁済を求めてきた。
→ 退社の登記後2年を経過していないため、Eは退社前に生じた当該債務について従前の無限責任を負う(612条)。退社しても直ちに責任を免れるわけではない。仮に退社登記から2年を経過していれば、Eは責任を免れる。
ケース5:持分譲渡の場面分け
合資会社において、(a)無限責任社員Gが持分を譲渡する場合と、(b)業務を執行しない有限責任社員Hが持分を譲渡する場合。
→ (a)Gの譲渡には他の社員全員の承諾が必要(585条1項)。(b)Hの譲渡は業務執行社員全員の承諾で足りる(585条2項)。会社運営への影響の大小で要件が異なることを、地位の特定から導く。
よくある誤解・FAQ
Q1. 合同会社から株式会社への変更は可能ですか?
可能です。組織変更(743条以下)の手続により、持分会社から株式会社へ変更できます。組織変更計画の作成、総社員の同意、債権者保護手続(公告・催告)を経て効力が生じます。逆に株式会社から持分会社への変更も可能です。
Q2. 合同会社にも決算公告は必要ですか?
不要です。株式会社は計算書類の公告義務を負いますが(440条)、持分会社にはこの義務がありません。これも合同会社が運営コストの低い類型とされる理由の一つです。
Q3. LLCとLLPの違いは?
LLC(合同会社)は法人格を有する「会社」であるのに対し、LLP(有限責任事業組合)は法人格のない「組合」です。LLPは有限責任事業組合契約に関する法律に基づき、構成員課税(パススルー課税)が適用される点が税務上のメリットですが、法人格がないため契約や登記の主体になる場面で制約があります。合同会社は法人課税で、パススルー課税は適用されません。
Q4. 合名会社・合資会社の社員は労務出資ができるのに、なぜ合同会社はできないのですか?
無限責任社員は会社財産が不足しても個人財産で責任を負うため、出資が金銭でなくとも債権者は無限責任社員の個人資力を引当てにできます。これに対し合同会社は全社員が有限責任で、会社財産だけが債権者の引当てとなるため、確実に金銭的価値のある財産出資(しかも全額払込み)が要求されるのです。
Q5. 「持分」は株式のように細かく分割できますか?
できません。持分会社では1社員につき持分は1個とする持分単一主義がとられ、出資額に応じて持分の大きさが異なります。均一な割合的単位に細分化される株式とはこの点で本質的に異なります。
Q6. 業務執行社員を定めると、他の社員は会社の状況を一切知ることができなくなりますか?
いいえ。業務執行社員以外の社員も、業務・財産の状況を調査する監視権を有します(592条)。経営から外れても所有者としての監督権限は失いません。
Q7. 合資会社で無限責任社員が全員いなくなったらどうなりますか?
無限責任社員が全員退社すると、残るのは有限責任社員のみとなり、定款変更により合同会社となったものとみなされます(639条)。逆に有限責任社員が全員退社すれば合名会社となります。社員構成の変動が会社の種類そのものを変える点が、持分会社の柔軟性であり注意点でもあります。
Q8. 持分会社の社員が1人になっても会社は存続しますか?
存続します。合名会社・合同会社は社員1名でも成立し、存続できます。ただし社員がゼロになった(欠けた)ときは解散事由となります(641条4号)。「1名では足りない」と誤解しやすいので注意してください。
Q9. 合同会社には「資本金」の概念がありますか?
あります。合同会社にも資本金・資本剰余金等の概念があり、出資に応じて計上されます。もっとも、株式会社のような最低資本金規制はなく(現行法では株式会社にもありません)、また利益配当規制(628条以下)を通じて債権者保護が図られる点に特徴があります。
Q10. 業務執行社員が法人であることはできますか?
できます。社員(出資者)には自然人だけでなく法人もなれます。法人が業務執行社員となる場合は、その職務を行うべき自然人(職務執行者)を選任し、その氏名・住所を他の社員に通知する必要があります(598条)。外資系企業の日本法人が合同会社形態をとる際にしばしば用いられる仕組みです。
まとめ
- 持分会社とは合名会社・合資会社・合同会社の総称であり、社員の個性が重視される人的会社である。
- 3類型を分けるメルクマールは社員の責任態様である。合名会社=無限責任社員のみ、合資会社=無限+有限、合同会社=有限責任社員のみ。
- 無限責任社員は直接・無限・連帯責任(580条1項)、有限責任社員は出資の限度での責任(580条2項)を負う。
- 業務執行は各社員が行うのが原則(590条)で、所有と経営が一致する。
- 持分の譲渡には他の社員全員の承諾が原則として必要(585条1項)。
- 合同会社は定款認証不要・柔軟な損益分配・間接有限責任を兼ね備え、外資系日本法人や投資ビークルで広く利用されている。
- 答案では「会社類型と社員の地位の特定 → 条文の枝分かれの整理 → 定款自治への言及」の順で書くと安定する。