欠席判決と擬制自白の法的構造
欠席当事者の取扱いと擬制自白の要件・効果を158条・159条の条文に即して解説。裁判上の自白との違いも整理します。
この記事のポイント
- 一方当事者が欠席した場合の手続は158条(陳述擬制)と159条(擬制自白)で規律される
- 擬制自白は口頭弁論で相手方の主張事実を争わない場合に成立する
- 擬制自白と裁判上の自白は成立要件と効果において重要な違いがある
- 欠席判決の制度は被告の手続保障との関係で問題が生じうる
欠席当事者の取扱い
口頭弁論における出頭の意義
民事訴訟は口頭弁論を経て判決をするのが原則である(87条1項)。しかし、一方当事者が期日に出頭しない場合がある。この場合の取扱いについて、民事訴訟法は158条と159条の規定を置いている。
最初の口頭弁論期日における欠席(158条)
民事訴訟法158条は「原告又は被告が最初にすべき口頭弁論の期日に出頭せず、又は出頭したが本案の弁論をしないときは、裁判所は、その者が提出した訴状又は答弁書その他の準備書面に記載した事項を陳述したものとみなし、出頭した相手方に弁論をさせることができる」と定める。
158条の効果
対象者 効果 欠席した原告 訴状に記載した事項を陳述したものとみなされる 欠席した被告 答弁書に記載した事項を陳述したものとみなされるこの規定は陳述擬制と呼ばれ、最初の口頭弁論期日における欠席の場合に限り適用される。
被告が答弁書を提出していない場合
被告が答弁書を提出せず、かつ最初の口頭弁論期日に出頭しない場合、被告は何らの主張もしていないことになる。この場合、原告の主張事実について159条の擬制自白が成立する。
続行期日における欠席
最初の期日以外の続行期日(第2回以降の期日)において当事者が欠席した場合、158条の陳述擬制は適用されない。
- 準備書面の提出がある場合 — 161条3項により、準備書面に記載した事項のみ陳述擬制が認められる
- 準備書面の提出もない場合 — 159条により擬制自白が問題となる
擬制自白の制度(159条)
擬制自白の意義
擬制自白とは、当事者が口頭弁論において相手方の主張した事実を争うことを明らかにしない場合に、その事実を自白したものとみなす制度をいう(159条1項)。
擬制自白の要件
民事訴訟法159条に基づき、以下の要件を満たす場合に擬制自白が成立する。
要件 内容 口頭弁論における不争 相手方の主張した事実を争うことを明らかにしないこと 弁論の全趣旨による判断 ただし、弁論の全趣旨により争ったものと認められる場合は成立しない(159条1項ただし書) 欠席の場合 期日に出頭しない場合にも準用される(159条3項)159条各項の構造
条項 内容 1項本文 出頭した当事者が相手方の事実主張を争うことを明らかにしない場合、自白したものとみなす 1項ただし書 弁論の全趣旨により争ったものと認められるときは、この限りでない 2項 相手方の主張した事実を知らない旨の陳述は、争ったものと推定する 3項 1項の規定は、当事者が口頭弁論の期日に出頭しない場合について準用する擬制自白と裁判上の自白の比較
裁判上の自白の意義
裁判上の自白とは、口頭弁論又は弁論準備手続において、相手方の主張する自己に不利益な事実を認める旨の陳述をいう。
両者の比較
比較項目 裁判上の自白 擬制自白 成立の態様 積極的な認諾の陳述 争うことを明らかにしない消極的態度 対象 自己に不利益な事実 相手方が主張した事実 審判排除効 あり(裁判所を拘束) 争いあり(後述) 不可撤回効 あり(原則として撤回不可) なし(通説) 反真実の抗弁 撤回に反真実+錯誤が必要 不要(撤回自由)擬制自白の効力をめぐる議論
擬制自白に裁判上の自白と同様の審判排除効(裁判所拘束力)が認められるかについて、以下の議論がある。
- 肯定説 — 159条が「自白したものとみなす」と規定していることから、裁判上の自白と同一の効力を認める
- 否定説(通説) — 擬制自白は積極的な意思表示に基づくものではないため、裁判所は弁論の全趣旨等から事実認定を行うことができる
- 折衷説 — 原則として審判排除効を認めつつ、弁論の全趣旨に反する場合は例外を認める
擬制自白の不可撤回効については、通説は否定する。擬制自白は当事者の積極的意思に基づくものではないため、後の期日で争う旨を明らかにすれば撤回できる。
欠席判決の手続
一回的欠席判決
被告が最初の口頭弁論期日に出頭せず、答弁書も提出しない場合、以下の流れで欠席判決がなされる。
- 原告の訴状記載事項が陳述擬制される(158条)
- 被告は何らの主張もしていないため、原告の主張事実について擬制自白が成立する(159条3項)
- 裁判所は原告の主張事実を基礎として判決を言い渡す
- 原告勝訴の判決が言い渡されることが多い(いわゆる欠席判決)
欠席判決と手続保障
欠席判決については、被告の手続保障の観点から以下の問題が指摘される。
- 送達の瑕疵 — 訴状の送達が適切になされていない場合、被告に訴訟の存在を知る機会がなく、手続保障が害される
- 控訴による救済 — 欠席判決に対しては控訴が可能であり(285条)、控訴審で本案の審理が行われる
- 再審 — 送達に瑕疵がある場合、338条1項3号(代理権の欠缺等)による再審事由となりうる
当事者双方の欠席
双方欠席の場合の取扱い
当事者双方が口頭弁論期日に出頭しない場合の取扱いは以下のとおりである。
場面 効果 根拠 最初の期日で双方欠席 裁判所は新たな期日を指定する 実務上の取扱い 続行期日で双方欠席 1か月以内に期日指定の申立てがなければ訴えの取下げとみなされる 263条 連続して2回の期日に双方欠席 訴えの取下げとみなされる 263条後段263条の趣旨
263条は「当事者双方が、口頭弁論若しくは弁論準備手続の期日に出頭せず、又は弁論若しくは申述をしないで退廷若しくは退席をした場合において、一月以内に期日指定の申立てをしないときは、訴えの取下げがあったものとみなす」と定める。訴訟の放置を防止する趣旨である。
陳述擬制と擬制自白の関係
両制度の関係
158条の陳述擬制と159条の擬制自白は、以下のように関連する。
- 158条 — 欠席当事者の準備書面の記載内容を「陳述」したものとみなす
- 159条 — 陳述擬制の結果、なお争っていない事実について「自白」したものとみなす
つまり、被告が答弁書で請求原因事実を否認している場合、158条により当該否認が陳述されたものとみなされるため、159条の擬制自白は成立しない。
具体例
ケース 158条の効果 159条の適用 被告が答弁書で全面否認し欠席 否認の陳述が擬制される 擬制自白は不成立 被告が答弁書を提出せず欠席 陳述擬制すべき内容がない 擬制自白が成立 被告が答弁書で一部のみ認否し欠席 認否した部分の陳述が擬制される 認否のない部分について擬制自白が成立擬制自白が成立しない場合
弁論の全趣旨による例外(159条1項ただし書)
159条1項ただし書は「弁論の全趣旨により、その事実を争ったものと認めるべきときは、この限りでない」と定める。
以下の場合に、弁論の全趣旨から争ったものと認められる。
- 当事者が他の事実の主張において、間接的にその事実を争っていると認められる場合
- 訴訟の経過全体から、当事者がその事実を争う意思であることが明白な場合
職権調査事項に関する事実
訴訟要件に関する事実(管轄、当事者能力等の職権調査事項)については、擬制自白は成立しないとされる。裁判所は職権でこれらの事実を調査する義務を負うからである。
試験対策での位置づけ
欠席判決と擬制自白は、以下の点が試験で出題されやすい。
- 158条と159条の適用関係 — 陳述擬制と擬制自白の区別と連関
- 擬制自白と裁判上の自白の比較 — 審判排除効・不可撤回効の有無
- 双方欠席の場合の取扱い(263条) — 訴えの取下げ擬制
- 短答式試験 — 159条1項ただし書の適用場面、159条2項の「不知の陳述」の効果
関連判例
- 最判昭和30年9月30日 — 擬制自白の成否と弁論の全趣旨
- 最判昭和42年7月18日 — 欠席判決と送達の瑕疵
- 最判昭和52年12月22日 — 陳述擬制の範囲
- 最判平成9年3月14日 — 擬制自白の撤回の可否
まとめ
欠席判決と擬制自白の制度は、一方当事者の不出頭という訴訟上の問題に対処するための仕組みである。158条の陳述擬制によって準備書面の内容が口頭弁論で陳述されたものとみなされ、その上でなお争われていない事実について159条の擬制自白が成立するという二段階の構造を正確に理解することが重要である。また、擬制自白と裁判上の自白の効力の違い(特に不可撤回効の有無)は頻出論点であり、理論的な理解が求められる。