契約不適合責任の全体像|追完請求・代金減額・解除・損害賠償
改正民法の契約不適合責任を体系的に解説。追完請求権・代金減額請求権・解除・損害賠償の4つの救済手段の要件と行使順序を整理します。
この記事のポイント
契約不適合責任とは、引き渡された目的物が種類・品質・数量に関して契約の内容に適合しない場合に、買主に認められる救済手段の総称である。 改正民法(2020年4月1日施行)は従来の「瑕疵担保責任」を廃止し、債務不履行責任の一般原則に統合する形で契約不適合責任を新設した。買主に認められる救済手段は、(1)追完請求権(562条)、(2)代金減額請求権(563条)、(3)解除(564条→541条・542条)、(4)損害賠償(564条→415条)の4つである。
この記事では、まず契約不適合責任の体系(4つの救済手段がどう並び、どういう順序で行使されるのか)を一望できるように整理し、そのうえで受験生がつまずきやすい民法566条の期間制限を正面から掘り下げる。566条は「なぜ消滅時効と別に1年の通知期間があるのか」「数量・権利の不適合にはなぜ適用されないのか」という点で頻出かつ誤解の多い条文なので、独立の章を設けて要件・趣旨・例外・あてはめまで丁寧に扱う。
契約不適合責任の体系(全体像)
契約不適合責任は、バラバラの規定の寄せ集めではなく、「不適合の特定 → 救済手段の選択 → 期間制限のクリア」という一本の流れとして体系的に理解するのが最も効率的である。まずこの体系の骨格を押さえてから、各論に入る。
体系を貫く3つの軸
契約不適合責任の条文(562条〜572条)は、次の3つの軸で整理できる。
- 不適合の種類による軸:①種類・品質の不適合(562条〜564条が中心)、②数量の不適合(565条が準用)、③権利の不適合(565条)の3類型。この種類の違いが、後述する566条の期間制限が及ぶか否かを決める決定的な分かれ目になる。
- 救済手段による軸:①追完請求、②代金減額請求、③解除、④損害賠償の4つ。前2者(追完・代金減額)は契約不適合責任に固有の救済手段であり、後2者(解除・損害賠償)は債務不履行の一般規定(541条・542条・415条)に乗り入れる形をとる。
- 時間軸:引渡し → 不適合の発見 → 売主への通知(566条)→ 各救済手段の行使 → 消滅時効(166条1項)という時系列。566条の通知と消滅時効は別個独立の制限であり、両方をクリアしないと権利が行使できない点が重要。
救済手段の体系マップ
契約不適合(種類・品質・数量・権利)
│
├─ 追完請求権(562条)……固有の救済。原則として買主が方法を選択
│ │
│ └─ 相当期間を定めて催告
│ │(追完なし)
│ ▼
├─ 代金減額請求権(563条)……催告後に行使(追完優先)。形成権
│
├─ 解除(564条→541条・542条)……債務不履行の一般規定に従う
│
└─ 損害賠償(564条→415条)……債務不履行の一般規定に従う。帰責事由が必要
この図のポイントは、追完請求が救済の出発点になっていること、そして代金減額が「追完の催告→不奏功」を経た二次的な救済として位置づけられていることである。一方、解除と損害賠償は債務不履行の一般規定に接続するため、要件・効果はそちらの体系に従う。この「固有の救済(追完・代金減額)」と「一般規定に乗り入れる救済(解除・損害賠償)」という二層構造が、契約不適合責任の体系を理解する鍵である。
条文の地図(562条〜572条)
条文 規律内容 位置づけ 562条 追完請求権 種類・品質・数量の不適合に対する第一次的救済 563条 代金減額請求権 追完催告を前置する二次的救済(形成権) 564条 損害賠償・解除の準用規定 415条・541条・542条への連結条文 565条 権利の不適合への準用 562条〜564条を権利の不適合に準用 566条 期間制限(通知期間) 種類・品質の不適合に固有の1年の通知期間 567条 危険の移転 引渡後の滅失・損傷の負担 568条 競売における担保責任 種類・品質の不適合は追及不可 569条 債権の売主の担保責任 債権の資力担保 572条 担保責任を負わない旨の特約 任意規定性(知って告げなかった事実等は免責不可)不適合の4類型を見分ける
救済手段や566条の適用可否は、どの類型の不適合かで結論が大きく変わる。そこで、まず4類型の見分け方を整理しておく。
種類の不適合
引き渡された物が、契約で約束された種類・種別と異なる場合。たとえば、A社製の部品を注文したのにB社製が引き渡された、特定の品種の苗木を頼んだのに別品種が届いた、といったケース。562条以下が適用され、566条の1年通知の対象となる。
品質の不適合
引き渡された物の性能・性状・品質が契約に適合しない場合。建物の雨漏り・シロアリ被害、機械の性能不足、食品の腐敗などがこれにあたる。実務上最も多く争われる類型で、566条の1年通知の対象となる。
数量の不適合
引き渡された物の数量が契約より不足している場合。土地の実測面積が契約面積より少ない、注文した個数に満たない、といったケース。566条は適用されず、消滅時効のみで処理される。なお、数量超過の場合の処理は条文上整理されておらず、不当利得や合意解釈の問題として扱われる。
権利の不適合
移転した権利自体に欠陥がある場合。目的物の一部が他人の物だった(一部他人物売買)、地上権・抵当権などの他人の権利が付着していた、移転すべき権利の数量が不足していた、といったケース。565条により562条〜564条が準用されるが、566条は適用されない。
見分けのコツ
論文では「物の状態の問題か(種類・品質・数量)/権利関係の問題か(権利)」をまず区別し、次に「物の状態の問題のうち、性質・性能の話か(種類・品質=566条適用)/数量の話か(数量=566条不適用)」を区別すると、期間制限の結論を間違えにくい。
改正の趣旨
瑕疵担保責任から契約不適合責任へ
改正前(瑕疵担保責任) 改正後(契約不適合責任) 適用対象 「隠れた瑕疵」 契約内容への「不適合」 法的性質 法定責任説vs契約責任説の対立 契約責任(債務不履行責任の特則) 特定物への適用 争いあり 特定物・不特定物を問わず適用 救済手段 解除・損害賠償のみ 追完・代金減額・解除・損害賠償 「隠れた」要件 必要(善意無過失) 不要(契約適合性で判断) 期間制限 知った時から1年以内に権利行使 知った時から1年以内に通知なぜ「瑕疵」から「不適合」へ変えたのか
改正前の「瑕疵」概念は、客観的に物が通常有すべき品質を欠くことを指すと理解されてきたが、その判断基準が不明確で、当事者がどのような品質を合意したのかという観点が法文上明示されていなかった。改正法は判断の基準を「契約の内容」に適合するか否かへ明確化した。すなわち、目的物の品質は当事者が契約でどう合意したかによって決まり、その合意内容に照らして不足があれば「不適合」となる。これにより、たとえ世間一般の標準的品質を備えていても、契約で約束された特別な品質を欠けば不適合となりうるし、逆に通常より劣る品質でもそれを前提に合意していれば不適合とはならない。
また、改正前は「隠れた」(買主が善意無過失であること)が要件とされていたが、改正法はこの要件を削除した。買主が不適合を知っていたか否かは、契約の内容に何が含まれていたか(合意の解釈)の問題として処理されることになる。
法的性質が「契約責任」に統一された意味
改正前は、特定物売買において瑕疵担保責任の法的性質を「法定責任」と捉える法定責任説と、「債務不履行責任の特則」と捉える契約責任説が激しく対立していた。改正法は契約責任説を採用し、契約不適合責任を債務不履行責任の一類型(特則)として位置づけた。この帰結は実務上きわめて大きい。
- 売主は契約に適合した目的物を引き渡す債務を負う(特定物であっても、その物を「契約に適合した状態で」引き渡す義務がある)。
- したがって追完請求(修補・代替物引渡し・不足分引渡し)が当然に認められる。
- 損害賠償の範囲も債務不履行の一般原則(416条)に従い、信頼利益に限定されず履行利益にも及ぶ。
4つの救済手段
追完請求権(562条)
買主は、目的物が契約不適合である場合に、売主に対して修補、代替物の引渡し、または不足分の引渡しを請求できる。これは契約不適合責任に固有の救済であり、4つの救済手段の出発点となる。
要件
- 引き渡された目的物が種類・品質・数量に関して契約の内容に適合しないこと
- 不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものでないこと(562条2項)
追完方法の選択
- 追完の方法(修補・代替物・不足分の引渡し)は、原則として買主が選択できる。
- ただし、買主に不相当な負担を課すものでないときは、売主は買主が請求した方法と異なる方法で追完できる(562条1項ただし書)。たとえば買主が代替物の引渡しを請求しても、わずかな修補で足りる場合には、売主は修補による追完を選べる。
免責
- 不適合が買主の責めに帰すべき事由による場合は、買主は追完請求できない(562条2項)。
- なお、追完請求は履行請求の一種なので、損害賠償と異なり売主の帰責事由は要件とならない。物理的に追完が不能でない限り、売主の落ち度がなくても追完を請求できる点に注意。
代金減額請求権(563条)
買主が相当の期間を定めて追完の催告をし、その期間内に追完がない場合に、不適合の程度に応じた代金の減額を請求できる。これは追完が得られないときに、対価的均衡を回復するための救済である。
要件(原則:催告型)
- 契約不適合があること
- 買主が相当の期間を定めて追完の催告をしたこと
- その期間内に追完がないこと
催告が不要な場合(563条2項:無催告型)
次の場合は、追完の催告なしに直ちに代金減額を請求できる。
- 追完が不能であるとき(1号)
- 売主が追完を拒絶する意思を明確に表示したとき(2号)
- 契約の性質または当事者の意思表示により、特定の日時・期間内に履行しなければ目的を達せられない場合(定期行為)に、その時期を経過したとき(3号)
- 催告をしても追完を受ける見込みがないことが明らかなとき(4号)
法的性質
- 代金減額請求権は形成権であり、買主の一方的な意思表示によって代金が減額される。相手方の承諾は不要。
- 減額の算定は「不適合の程度に応じ」て行う。一般に、引渡し時を基準として、適合状態の価値と現状の価値の差額割合を代金に乗じて算定すると説明される。
免責
- 不適合が買主の責めに帰すべき事由による場合は請求不可(563条3項による562条2項の準用)。
解除(564条→541条・542条)
契約不適合が債務不履行に該当する場合、買主は564条を介して一般の解除の規定に従い契約を解除できる。契約不適合責任に固有の解除規定があるのではなく、債務不履行解除の体系に乗り入れる点が重要。
- 催告解除(541条):相当の期間を定めて追完を催告し、その期間内に追完がないときに解除できる。ただし、不適合が軽微であるときは解除できない(541条ただし書)。
- 無催告解除(542条):追完が不能である場合、売主が追完を拒絶する意思を明確に表示した場合、契約をした目的を達することができない場合等は、催告なしに解除できる。
- 帰責事由:改正法の解除は債務者(売主)の帰責事由を要件としない。解除は「契約の拘束力からの離脱」であり、債務者への制裁ではないという理解に基づく。
- 買主の帰責事由による不適合:その不適合が買主の責めに帰すべき事由によるときは、買主は解除できない(543条)。
損害賠償(564条→415条)
契約不適合が債務不履行に該当する場合、買主は564条を介して一般の損害賠償の規定(415条)に従い損害賠償を請求できる。
- 帰責事由の要否:4つの救済手段のうち、損害賠償だけは売主の帰責事由(より正確には「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして売主の責めに帰することができない事由によるものでないこと」=免責事由がないこと)が必要(415条1項ただし書)。
- 損害の範囲:契約責任説の帰結として、信頼利益に限られず、履行利益(目的物が契約に適合していれば買主が得られたはずの利益)も賠償範囲に含まれうる。範囲の確定は416条(通常損害・特別損害)による。
- 他の救済との併存:損害賠償は、追完請求・代金減額・解除のいずれとも併存しうる(後述)。
救済手段の行使順序
追完請求と代金減額の関係
代金減額請求は、原則として追完の催告をした後でなければ行使できない(追完請求が優先)。ただし、追完不能等の場合は催告なしに代金減額を請求できる。
各救済手段の併存
組み合わせ 併存の可否 注意点 追完請求 + 損害賠償 併存可 追完までに生じた遅延損害等を別途請求できる 代金減額 + 損害賠償 部分的に併存 減額された範囲では損害が填補されるので、その範囲では重ねて賠償請求できない 解除 + 損害賠償 併存可(545条4項) 解除しても損害賠償請求は妨げられない 追完請求 + 代金減額 順次関係 まず追完催告、不奏功なら代金減額(同時には成立しない)ポイントは、代金減額は「対価の調整」、損害賠償は「損害の填補」という機能の違いである。代金減額で価値の不足分が回復された範囲では、もはや同じ損害について重ねて賠償を求める必要はない。一方、代金減額ではカバーされない損害(たとえば不適合により買主の他の財産が損傷した拡大損害や、転売利益の喪失など)があれば、なお損害賠償を請求できる。
民法566条とは|契約不適合責任の期間制限
民法566条とは、種類または品質に関する契約不適合について、買主が不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないと、追完請求・代金減額請求・損害賠償・解除のいずれの救済手段も行使できなくなるという、買主に課される失権の期間制限である。 契約不適合責任の体系の中でも誤解が多く、また論文・短答の双方で頻出するため、ここで条文の文言・趣旨・要件・例外・適用範囲を正面から整理する。
566条の条文構造
566条は本文とただし書から成る。
- 本文:売主が種類または品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。
- ただし書:売主が引渡しの時にその不適合を知り、または重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない(=1年の通知期間の制限を受けない)。
566条の趣旨
なぜこのような短期の期間制限が設けられているのか。趣旨は主に次の2点で説明される。
- 法律関係の早期安定:種類・品質の不適合は、時間が経つほど目的物の状態が変化し、不適合が引渡し時に存在したのか、それとも引渡し後の事情によるものなのかの判断が困難になる。早期に通知させることで、売主に証拠保全や対応の機会を与え、紛争を早期に確定させる。
- 売主の信頼保護:いったん目的物を引き渡した売主は、特段の指摘がなければ「履行は完了した」という期待を抱く。長期間が経ってから不適合を主張されると、売主の地位が著しく不安定になるため、買主に早期の通知を義務づける。
「権利行使」ではなく「通知」で足りる(改正の最大ポイント)
改正前(旧570条・566条3項)は、買主は瑕疵を知った時から1年以内に権利を行使(損害賠償請求・解除)しなければならないと解されており、判例上、損害額の算定根拠を示して具体的に請求する必要があるとされ、買主に重い負担を課していた。
改正法はこれを緩和し、1年以内には「不適合の事実を通知」すれば足りることとした。
- 通知の内容は、不適合の存在を知らせ、おおまかにその種類・範囲を伝える程度で足りると解されている。損害額の算定根拠まで示す必要はない。
- 通知さえ期間内にしておけば、具体的な追完請求・代金減額・損害賠償・解除は通知後に行えばよい(その後の行使は消滅時効の範囲内であればよい)。
この「権利行使」から「通知」への転換は、改正点として短答でも問われやすい最重要ポイントである。
566条と消滅時効の関係(二重の制限)
566条の1年の通知期間とは別に、買主の権利は消滅時効にもかかる。両者は別個独立の制限であり、買主は両方をクリアしなければ権利を行使できない。
- 566条:不適合を知った時から1年以内に通知(しないと失権)。
- 消滅時効(166条1項):権利を行使できることを知った時から5年、または権利を行使できる時から10年。
たとえば、引渡しから半年後に不適合を知り、その2か月後に通知をしたケースでは、566条の通知要件はクリアされる。しかしその後、具体的な請求をしないまま漫然と時を過ごせば、消滅時効によって権利が消滅しうる。「1年の通知さえすれば永久に請求できる」わけではない点に注意。判例上も、566条の通知をした後の権利行使は別途消滅時効の規律に服すると理解されている。
566条ただし書(適用除外)
売主が引渡しの時に不適合を知り(悪意)、または重大な過失によって知らなかった(重過失)場合には、566条の1年の通知期間は適用されない。不適合を認識し(あるいは容易に認識できたのに)これを引き渡した売主は、買主からの早期通知による保護に値しないからである。この場合、買主は消滅時効が完成するまでは救済手段を行使できる。
566条が「適用されない」不適合に注意
ここが566条で最も間違えやすいポイントである。566条の通知期間は、条文上「種類または品質」に関する不適合にのみ適用される。これに対し、
- 数量に関する不適合
- 権利に関する不適合(移転した権利が契約内容に適合しない、他人の権利が付着している等)
には、566条は適用されない。565条は権利・数量の不適合について562条〜564条を準用するが、566条は準用していないからである。したがって、数量不適合・権利不適合については、1年の通知期間という制限はなく、一般の消滅時効(166条1項)のみによって処理される。
なぜ数量・権利の不適合を除外したのか。数量不足や権利の欠缺は、種類・品質の不適合と異なり、時間の経過によって判断が困難になる度合いが小さく(数量は数えれば客観的に確定でき、権利関係は登記等で確認できる)、買主に早期通知を義務づける必要性が乏しいためと説明される。
不適合の種類 566条の1年通知 適用される期間制限 種類の不適合 適用あり 1年通知 + 消滅時効 品質の不適合 適用あり 1年通知 + 消滅時効 数量の不適合 適用なし 消滅時効のみ 権利の不適合 適用なし 消滅時効のみ566条のあてはめ例
設例:BはAから建物を購入し、2024年4月1日に引渡しを受けた。Bは2025年1月10日に雨漏り(品質の不適合)を発見した。Aは引渡し時、この雨漏りの事実を知らなかった(重過失もない)。
- Bは品質の不適合を知った2025年1月10日から1年、すなわち2026年1月10日までに、Aに対し「雨漏りという不適合がある」旨を通知しなければ、追完請求・代金減額・損害賠償・解除のいずれもできなくなる(566条本文)。
- Bが期間内に通知をすれば、その後の具体的な修補請求や損害賠償請求は、消滅時効が完成するまでの間に行えばよい。
- 仮にAが引渡し時に雨漏りを知っていた(悪意)なら、566条ただし書により1年の通知期間は適用されず、Bは消滅時効内であれば救済を求められる。
- もしこの不適合が「品質」ではなく「数量」(たとえば契約面積に対する実測面積の不足)であれば、そもそも566条は適用されず、消滅時効のみで処理される。
売主の担保責任の特則
権利の不適合(565条)
売主が買主に移転した権利が契約内容に適合しない場合(他人の権利が付着している場合、移転すべき権利の一部が他人に属する場合等)にも、562条〜564条(追完請求・代金減額・解除・損害賠償)が準用される。前述のとおり、566条は準用されないため、権利の不適合には1年の通知期間の制限はかからず、消滅時効のみで処理される。
危険の移転(567条)
売主が目的物を買主に引き渡した後に、当事者双方の責めに帰することができない事由でその目的物が滅失・損傷したときは、買主は、その滅失・損傷を理由として追完請求・代金減額・損害賠償・解除をすることができず、かつ代金の支払いを拒むこともできない(567条1項)。すなわち引渡しによって危険(リスク)が売主から買主へ移転する。契約不適合の有無は引渡し時を基準に判断され、引渡し後に生じた事情は原則として買主が負担する、という危険負担のルールである。
競売における担保責任(568条)
競売における買受人は、目的物の種類・品質に関する不適合については担保責任を追及できない(568条4項)。競売は強制的な換価手続であり、目的物の品質を保証する性質になじまないからである。ただし、権利の不適合と数量の不適合については、買受人は債務者等に対して代金減額・解除を追及できる。
担保責任を負わない旨の特約(572条)
契約不適合責任の規定は任意規定なので、当事者は特約で売主の担保責任を減免・排除できる。ただし、売主が知りながら告げなかった事実および自ら第三者のために設定し、または第三者に譲り渡した権利については、特約があっても責任を免れることができない(572条)。信義則上、悪意の売主を免責特約で保護するのは相当でないからである。
答案での書き方・論証例
論文式試験で契約不適合責任を論じるときは、「①不適合の特定 → ②救済手段ごとの要件あてはめ → ③566条等の期間制限」の順で書くと体系が崩れない。
論文式試験での検討手順
- 不適合の特定:種類・品質・数量・権利のいずれの不適合か。契約の内容(合意された品質・数量等)に照らして適合性を判断する。
- 追完請求の検討(562条):修補・代替物引渡し・不足分引渡しの可否。買主の選択権と売主の方法変更権(1項ただし書)、買主の帰責事由による免責(2項)。
- 代金減額の検討(563条):催告の要否(無催告型に該当するか)、減額の算定。形成権であること。
- 解除の検討(564条→541条・542条):催告解除か無催告解除か。軽微性(541条ただし書)、買主の帰責事由(543条)。
- 損害賠償の検討(564条→415条):売主の帰責事由(免責事由)の有無。損害の範囲(416条)。
- 期間制限:種類・品質の不適合なら566条の1年通知を検討。加えて消滅時効(166条1項)も検討。数量・権利の不適合なら566条不適用で消滅時効のみ。
論証例(追完→代金減額の流れ)
本件目的物には〔不適合の内容〕という品質に関する契約不適合が認められる(562条1項本文)。買主Bは、まず売主Aに対し修補による追完を請求でき、これに対しAは買主に不相当な負担を課さない限り他の方法による追完を選択しうる(同項ただし書)。
もっとも、Aが相当期間内に追完をしない場合、Bは不適合の程度に応じて代金の減額を請求できる(563条1項)。代金減額請求権は形成権であり、Bの一方的意思表示によって代金は減額される。
ただし、本件不適合は「品質」に関するものであるから、BはこれをXを知った時から1年以内にAへ通知しなければ、上記各救済手段を行使できなくなる(566条本文)。本件では〔通知の有無〕……。
論証例(566条の期間制限を落とさない)
本件不適合は品質に関するものであるから、買主は不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知する必要がある(566条本文)。もっとも、改正法のもとでは具体的な権利行使までは要求されず、不適合の事実を通知すれば足りる。本件では買主は〔日付〕に不適合を知り、〔日付〕に通知しているから、期間制限はクリアされる。なお、この通知とは別に、買主の各権利は消滅時効(166条1項)にも服する点に留意を要する。
よくある誤解・FAQ
Q1. 瑕疵担保責任と契約不適合責任の最大の違いは?
最大の違いは法的性質です。瑕疵担保責任は法定責任説と契約責任説の対立がありましたが、契約不適合責任は明確に契約責任(債務不履行責任の特則)と位置づけられ、特定物にも適用されます。これに伴い、追完請求が認められ、損害賠償の範囲も履行利益に及びうるようになりました。
Q2. 買主はいきなり代金減額を請求できますか?
原則としてできません。まず追完の催告をし、期間内に追完がない場合に代金減額を請求します(563条1項)。ただし、追完不能・売主の追完拒絶・定期行為・追完の見込みがないことが明らかな場合は、催告なしに直ちに請求できます(563条2項)。
Q3. 民法566条の1年は、何をすれば足りますか?
改正民法では、不適合がある旨を売主に通知すれば足ります。具体的な請求(追完請求や損害賠償請求)までは不要で、不適合の事実とおおまかな種類・範囲を知らせれば通知期間は遵守されます。改正前のように損害額の算定根拠を示して権利行使する必要はありません。
Q4. 566条の1年を過ぎたら、もう何もできないのですか?
種類・品質の不適合について、通知をしないまま1年を過ぎると、その不適合を理由とする追完・代金減額・損害賠償・解除はすべてできなくなります(失権)。ただし、売主が引渡し時に不適合を知っていた、または重過失で知らなかった場合は、566条ただし書により1年の制限は適用されません。
Q5. 数量不足や他人物が混ざっていた場合も、1年以内に通知が必要ですか?
不要です。566条は「種類または品質」の不適合にのみ適用され、数量の不適合・権利の不適合には適用されません(565条は566条を準用していません)。これらは一般の消滅時効(166条1項)によって処理されます。「不適合だから何でも1年」と覚えてしまうのが典型的な誤解です。
Q6. 566条の1年と消滅時効の5年・10年は、どちらが優先しますか?
優先関係ではなく、両方を独立にクリアする必要があります。1年以内に通知をしても、その後に消滅時効が完成すれば権利は消滅します。逆に消滅時効が残っていても、種類・品質の不適合で1年以内に通知しなければ失権します。
Q7. 損害賠償だけ「帰責事由」が必要なのはなぜですか?
損害賠償は債務不履行の一般規定(415条)に乗り入れるからです。415条1項ただし書により、債務者(売主)の責めに帰することができない事由による不履行であれば免責されます。追完請求は履行請求の一種なので帰責事由を要さず、解除は契約からの離脱なので帰責事由を要さない、という点と対比して整理してください。
まとめ
- 改正民法(2020年4月施行)は瑕疵担保責任を廃止し、契約不適合責任として債務不履行責任に統合した(契約責任説の採用)。
- 救済手段は追完(562条)・代金減額(563条)・解除(564条→541・542条)・損害賠償(564条→415条)の4つ。追完・代金減額は固有の救済、解除・損害賠償は一般規定への乗り入れ。
- 代金減額は原則として追完の催告後に行使する(追完優先)。形成権であり一方的意思表示で減額できる。
- 民法566条:種類・品質の不適合は、知った時から1年以内の通知で足りる(改正前の「権利行使」から緩和)。売主が悪意・重過失の場合は適用除外(ただし書)。
- 566条は数量・権利の不適合には適用されない(565条が566条を準用していない)。これらは消滅時効のみで処理される。
- 566条の1年と消滅時効(166条1項:知った時から5年/行使できる時から10年)は別個独立の制限で、両方をクリアする必要がある。
- 損害賠償のみ売主の帰責事由(免責事由がないこと)が必要である。