経営判断原則|取締役の裁量と善管注意義務の判断基準
経営判断原則を体系的に解説。判断の過程と内容の合理性、アパマンショップ事件の判例法理、MBO・買収防衛策における経営判断を整理します。
この記事のポイント
経営判断原則(Business Judgment Rule)は、取締役の経営判断について、判断の過程と内容に著しく不合理な点がない限り善管注意義務違反を問わないとする法理である。 最判平22.7.15(アパマンショップ事件)がリーディングケース。
経営判断原則の意義
趣旨
根拠 内容 経営の専門性 経営判断には専門的知識と経験が必要 不確実性 経営判断は不確実な状況下でなされる 萎縮防止 事後的な結果責任を問うと取締役が萎縮する 裁判所の限界 裁判所は経営判断の当否を判断する適格を持たない判例の判断枠組み
アパマンショップ事件(最判平22.7.15)
取締役の経営判断について、その判断の前提となった事実の認識に重要かつ不注意な誤りがなく、意思決定の過程・内容が企業経営者として特に不合理・不適切なものでない限り、取締役としての善管注意義務に違反するものではない。
2段階の審査
段階 審査内容 具体的検討事項 判断の過程 情報収集・分析が適切であったか 必要な調査・検討を行ったか、専門家の意見を聴取したか 判断の内容 意思決定の内容が不合理でないか 経営者として通常の判断の範囲内か経営判断原則が問題となる場面
MBO(マネジメント・バイアウト)
問題点 内容 構造的利益相反 経営者が買収者側に立つ 判断基準 独立した第三者委員会の設置、公正な価格の算定 判例 レックス事件、MBOに関する指針買収防衛策
判例 判断基準 ブルドックソース事件(最決平19.8.7) 相当性の要件を充足するか 日本技術開発事件 主要目的ルール融資判断
- 不良融資、回収見込みのない追加融資
- 情報収集義務の懈怠が問題となる
監視義務と内部統制
取締役の監視義務
取締役は他の取締役の業務執行を監視する義務を負う(取締役会の構成員として)。
内部統制システム構築義務
大会社は内部統制システムの基本方針を取締役会で決定する義務がある(362条4項6号・5項)。
判例 内容 大和銀行事件(大阪地判平12.9.20) 内部統制システム構築義務を肯定 日本システム技術事件(最判平21.7.9) 通常想定される不正に対応する体制で足りるまとめ
- 経営判断原則は判断の過程と内容の2段階で審査
- 事実認識に重要な誤りがなく、判断が不合理でなければ善管注意義務違反とならない
- MBO・買収防衛策では構造的利益相反への対応が重要
- 取締役には監視義務と内部統制システム構築義務がある
- 判例はリスクの高い判断にも一定の裁量を認めている
FAQ
Q1. 経営判断が結果的に失敗した場合は?
結果の失敗のみをもって善管注意義務違反とはなりません。判断の時点での情報収集・分析と判断内容の合理性が問われます。
Q2. どの程度の情報収集が必要ですか?
取引の規模・性質に応じて合理的に必要な範囲で足ります。全ての情報を収集する必要はありませんが、重要な情報を看過した場合は注意義務違反となりえます。
Q3. 社外取締役に経営判断原則は適用されますか?
適用されます。ただし、社外取締役は社内取締役と比べて入手できる情報に限りがあるため、監督者としての注意義務の内容が異なりうると解されています。