会社設立の瑕疵と責任――発起人責任・見せ金・設立無効の訴え
会社設立の手続(発起設立・募集設立)、設立無効の訴え、発起人の責任、見せ金の判例、預合いの禁止を体系的に解説します。
この記事のポイント
会社の設立手続には発起設立と募集設立の2類型があり、手続に瑕疵があった場合には設立無効の訴え(828条1項1号)によってのみ争うことができる。発起人は設立に関して広範な責任を負い(52条・53条)、払込みの仮装(見せ金・預合い)は厳しく規制されている。設立の瑕疵と責任の体系を正確に理解することが、会社法の基礎を固める第一歩である。
設立手続の2類型
会社法は、株式会社の設立方法として発起設立と募集設立の2つを定めている。
発起設立(25条1項1号)
- 発起人が設立時発行株式の全部を引き受ける方法
- 手続が簡便であり、実務上最も多く用いられる
- 発起人以外の者による株式引受けがないため、創立総会は不要
募集設立(25条1項2号)
- 発起人が設立時発行株式の一部を引き受け、残部について株主を募集する方法
- 創立総会(65条)の開催が必要
- 払込金保管証明(64条)が求められる
発起設立と募集設立の比較
項目 発起設立 募集設立 株式引受け 発起人が全部 発起人+募集引受人 創立総会 不要 必要(65条) 払込金保管証明 不要 必要(64条) 設立時取締役の選任 発起人の議決権の過半数(40条) 創立総会の決議(88条) 変態設立事項の調査 設立時取締役が調査(46条) 設立時取締役+検査役(93条)定款の作成と変態設立事項
定款の絶対的記載事項(27条)
定款には以下の事項を必ず記載しなければならない。
- 目的
- 商号
- 本店の所在地
- 設立に際して出資される財産の価額又はその最低額
- 発起人の氏名又は名称及び住所
変態設立事項(28条)
以下の事項は定款に記載がなければ効力を生じない(相対的記載事項)。
- 現物出資(28条1号):発起人が金銭以外の財産で出資すること
- 財産引受け(28条2号):会社成立後に特定の財産を譲り受ける契約
- 発起人の報酬その他の特別の利益(28条3号)
- 設立費用(28条4号)
変態設立事項については、原則として検査役の調査(33条)が必要であるが、以下の場合には不要とされる。
- 現物出資・財産引受けの価額が500万円以下の場合(33条10項1号)
- 現物出資・財産引受けの目的が市場価格のある有価証券であり、定款記載額が市場価格を超えない場合(33条10項2号)
- 弁護士等の専門家の証明を受けた場合(33条10項3号)
出資の履行と払込みの仮装
出資の履行
発起人は、設立時発行株式の引受け後、遅滞なく、引き受けた株式について全額の払込みをしなければならない(34条1項)。払込みは、発起人が定めた払込取扱機関(銀行等)で行う。
預合いの禁止(965条)
預合いとは、発起人が払込取扱銀行との間で、払い込まれた金銭を会社成立後も引き出さないことを約束して払込みの外形を作出する行為をいう。
- 965条は預合いについて5年以下の懲役又は500万円以下の罰金という刑事罰を定めている
- 払込取扱銀行の側も同様に処罰される
- 払込みとしての効力は否定される
見せ金
見せ金とは、発起人が他から借り入れた金銭を払込みに充て、会社成立後直ちにこれを引き出して借入先に返済する行為をいう。
最判昭38.12.6は、見せ金について以下のとおり判示した。
発起人が払込取扱銀行以外の者から借り入れた金銭をもって株式の払込みに充て、会社成立後直ちにこれを引き出して借入先に返済した場合には、右払込みは、会社の資金を確保するための払込みとしての実質を欠き、単に払込みの外形を整えたにすぎないものであるから、払込みとしての効力を有しない
見せ金か否かの判断基準として、判例は以下の要素を総合考慮するとしている。
- 払込みと返済の間隔の長短
- 借入金の返済原資(会社資金か否か)
- 会社の資金繰りへの影響
- 借入先と発起人の関係
発起人の責任
財産価額填補責任(52条)
- 現物出資・財産引受けの目的財産について、会社成立時の実価が定款記載の価額に著しく不足する場合
- 発起人及び設立時取締役は、会社に対し、連帯して不足額を支払う義務を負う
- 無過失責任が原則(ただし、検査役の調査を経た場合等には免除される:52条2項)
任務懈怠責任(53条)
責任の種類 対象者 要件 責任の性質 会社に対する責任(53条1項) 発起人・設立時取締役等 任務懈怠 過失責任 第三者に対する責任(53条2項) 発起人・設立時取締役等 悪意又は重過失 過失責任会社不成立の場合の責任(56条)
会社が成立しなかった場合、発起人は連帯して以下の責任を負う。
- 設立に関して支出した費用を負担する
- 株式引受人に払込金を返還する
設立無効の訴え
訴えの概要
会社の設立に瑕疵がある場合であっても、設立登記がなされた以上、多数の利害関係人が生じるため、一般原則に基づく無効主張は許されない。設立の瑕疵は、もっぱら設立無効の訴え(828条1項1号)によって争う。
要件
項目 内容 原告適格 株主等、取締役、監査役、清算人(828条2項1号) 被告 会社(834条1号) 出訴期間 設立の日から2年以内(828条1項1号) 管轄 本店所在地を管轄する地方裁判所(835条1項)無効事由
会社法は無効事由を明文で列挙していないが、解釈上、以下のものが無効事由に当たるとされる。
- 定款の絶対的記載事項の欠缺
- 公証人による定款認証の欠缺(30条1項違反)
- 設立時発行株式が一株も引き受けられていない場合
- 出資の全部が履行されていない場合
一方、以下の事由は無効事由に当たらないとされることが多い。
- 変態設立事項の調査の瑕疵(取消事由にとどまる)
- 設立手続の軽微な瑕疵
判決の効力
- 対世効(838条):判決は第三者に対しても効力を有する
- 将来効(839条):設立を無効とする判決が確定しても、判決確定前に生じた会社と第三者間の法律関係には影響しない
- 判決確定後は清算手続が行われる
試験対策での位置づけ
設立は会社法の冒頭に位置する分野であり、短答式試験では頻出である。特に以下のポイントが繰り返し問われる。
- 発起設立と募集設立の手続の相違点(特に創立総会の要否)
- 変態設立事項と検査役調査の例外
- 見せ金の効力と預合いとの区別
- 発起人の責任の種類(財産価額填補責任は無過失責任)
- 設立無効の訴えの出訴期間・原告適格
論文式試験では、見せ金の事案が出題された場合に、払込みの効力と発起人の責任を組み合わせて論じることが求められる。52条の無過失責任と53条の過失責任の区別を正確に押さえておきたい。
関連判例
- 最判昭38.12.6(見せ金判例):払込みの外形を整えたにすぎない場合、払込みとしての効力を有しない
- 最判昭42.9.26:設立費用は定款に記載がなければ会社に帰属しない
- 最判昭33.10.24:発起人の権限の範囲に関する判例
- 最判平9.1.28:預合いに該当するか否かの判断基準
まとめ
会社の設立は、定款作成に始まり設立登記に至るまで多くの手続を要し、各段階で固有の法的問題が生じる。発起設立と募集設立の手続の違いを正確に区別し、変態設立事項・出資の仮装・発起人の責任という3つの柱を体系的に理解することが重要である。設立無効の訴えは形成訴訟であり、対世効・将来効という特殊な効力を有する点も、他の会社の訴えとの比較で確認しておくべきである。