会社分割の詳細――吸収分割・新設分割の手続と債権者保護
吸収分割と新設分割の手続比較、対価の柔軟化、債権者保護手続、分割無効の訴え、詐害的会社分割について体系的に解説します。
この記事のポイント
会社分割は、会社の事業に関する権利義務の全部又は一部を他の会社に承継させる組織再編行為であり、吸収分割(757条〜)と新設分割(762条〜)の2類型がある。手続の中核は分割契約・分割計画の作成と株主総会の特別決議による承認であり、債権者保護手続(789条・810条)も必要となる。近時は詐害的会社分割への対応が重要な実務的・理論的課題となっている。
会社分割の意義と類型
会社分割とは
会社分割とは、株式会社又は合同会社が、その事業に関して有する権利義務の全部又は一部を、分割後他の会社に承継させることをいう。合併が複数の会社を1つに統合する行為であるのに対し、会社分割は1つの会社を複数に分ける行為である。
2つの類型
類型 定義 条文 吸収分割 会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割後既存の会社に承継させること 2条29号・757条〜 新設分割 会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割により新たに設立する会社に承継させること 2条30号・762条〜会社分割と事業譲渡の比較
項目 会社分割 事業譲渡 法的性質 組織法上の行為(包括承継) 取引法上の行為(特定承継) 権利義務の移転 包括的に承継(個別の移転手続不要) 個別に移転手続が必要 債務の承継 分割契約・分割計画による 免責的債務引受には債権者の同意が必要 対価 株式・金銭等 金銭等 労働者の扱い 労働契約承継法が適用 個別の同意が必要(民法625条1項)吸収分割の手続(757条〜)
手続の流れ
1. 吸収分割契約の締結(757条〜)
吸収分割契約には、以下の事項を定める必要がある(758条)。
- 分割会社及び承継会社の商号・住所
- 承継する権利義務に関する事項
- 承継会社が分割会社に交付する対価に関する事項
- 効力発生日
2. 事前開示書類の備置き(782条・794条)
- 分割会社・承継会社ともに、所定の事項を記載した書面を本店に備え置く
- 備置期間:効力発生日の6か月前から効力発生後6か月を経過するまで
3. 株主総会の特別決議による承認(783条・795条)
- 原則として、分割会社・承継会社の双方で株主総会の特別決議が必要
- 簡易分割・略式分割の場合には株主総会決議が不要となる(下記参照)
4. 債権者保護手続(789条・799条)
- 所定の債権者に対して異議を述べる機会を保障する手続(後述)
5. 反対株主の株式買取請求(785条・797条)
- 吸収分割に反対する株主は、公正な価格で株式を買い取ることを請求できる
6. 効力発生(759条)
- 効力発生日に権利義務が承継会社に承継される
- 登記は効力発生要件ではない(対抗要件にとどまる)
新設分割の手続(762条〜)
手続の流れ
段階 内容 条文 新設分割計画の作成 設立する会社の定款事項等を定める 763条 事前開示書類の備置き 分割会社の本店に備え置く 803条 株主総会の特別決議 分割計画の承認 804条 債権者保護手続 異議申述の機会を保障 810条 反対株主の株式買取請求 公正な価格で買取り 806条 効力発生 設立登記の日に効力発生 764条吸収分割との相違点
項目 吸収分割 新設分割 承継先 既存の会社 新設する会社 作成する書面 分割契約 分割計画 効力発生時期 効力発生日 設立登記の日 簡易手続 あり(784条・796条) 分割会社についてあり(805条) 略式手続 あり(784条・796条) なし対価の柔軟化
制度の概要
平成17年会社法制定により、会社分割の対価として株式以外のものを交付することが認められた(対価の柔軟化)。
交付できる対価の種類
- 承継会社の株式
- 金銭
- 承継会社の社債
- 承継会社の新株予約権
- 承継会社の新株予約権付社債
- その他の財産
無対価分割
完全親子会社間の吸収分割等では、対価を交付しないことも可能である(無対価分割)。
簡易分割と略式分割
簡易分割
類型 要件 効果 分割会社の簡易分割(784条2項・805条) 承継させる資産の帳簿価額が分割会社の総資産額の5分の1以下 分割会社の株主総会決議が不要 承継会社の簡易吸収分割(796条2項) 交付する対価の帳簿価額が承継会社の純資産額の5分の1以下 承継会社の株主総会決議が不要略式分割
- 分割会社が承継会社の特別支配会社(総株主の議決権の90%以上を保有)である場合、又はその逆の場合
- 被支配会社の株主総会決議が不要(784条1項・796条1項)
債権者保護手続
分割会社の債権者保護手続(789条・810条)
会社分割は包括承継により債務が移転するため、分割会社に残る債権者と承継会社に移転する債権者の双方について保護が必要である。
異議を述べることができる債権者
対象 分割会社側 承継会社側 異議を述べられる者 分割後に分割会社に対して債務の履行を請求できなくなる債権者(789条1項2号) 承継会社の債権者(799条1項2号)手続の内容
- 官報公告 + 知れている債権者への個別催告(789条2項・799条2項)
- 異議を述べた債権者に対しては、弁済、担保の提供、信託のいずれかの措置を講じなければならない(789条5項・799条5項)
- 催告期間は1か月以上
不法行為債権者の保護
不法行為に基づく債権者は「知れている債権者」に含まれないことがあるため、保護が不十分となるおそれがある。この点については、直接履行請求権(759条4項・764条4項)が定められている。
詐害的会社分割
問題の所在
詐害的会社分割とは、分割会社が債務超過の状態にあるにもかかわらず、優良な事業・資産のみを新設会社又は承継会社に移転させ、分割会社には債務のみを残すという形態の会社分割をいう。
平成26年改正による対応
平成26年改正で、以下の規定が新設された。
759条4項・764条4項(残存債権者の直接履行請求権)
- 分割会社が残存債権者を害することを知って会社分割をした場合
- 残存債権者は、承継会社又は新設会社に対して、承継した財産の価額を限度として、直接に債務の履行を請求することができる
詐害行為取消権(民法424条)との関係
- 判例(最判平24.10.12)は、会社分割も詐害行為取消権の対象となりうると判示した
- ただし、平成26年改正で直接履行請求権が新設されたことにより、実務上の重要性はやや低下
分割無効の訴え(828条1項9号・10号)
訴えの概要
項目 吸収分割無効の訴え 新設分割無効の訴え 条文 828条1項9号 828条1項10号 被告 分割の当事会社 分割会社+新設会社 出訴期間 効力発生日から6か月以内 設立の日から6か月以内 原告適格 株主等・取締役・監査役・清算人・破産管財人・債権者保護手続で異議を述べた債権者 同左無効事由
- 分割契約・分割計画の内容の法令違反
- 株主総会決議の瑕疵(決議を経ていない場合等)
- 債権者保護手続の欠缺
- 事前開示書類の不備
判決の効力
- 対世効(838条)
- 将来効(839条):判決確定前に生じた法律関係には影響しない
試験対策での位置づけ
会社分割は、組織再編の中でも論文式試験で出題可能性の高いテーマである。
- 吸収分割と新設分割の手続の異同(特に効力発生時期の違い)を正確に区別する
- 簡易分割・略式分割の要件は短答式で頻出
- 詐害的会社分割と残存債権者の直接履行請求権(759条4項・764条4項)は近時の重要論点
- 債権者保護手続の対象となる債権者の範囲を正確に把握する
- 事業譲渡との比較(包括承継か特定承継か)は体系理解の基本
関連判例
- 最判平24.10.12:会社分割に対する詐害行為取消権の適用可能性を肯定
- 最判平12.5.17:会社分割の前身制度である営業譲渡と詐害行為取消権
- 最決平24.4.24:新設分割と労働契約承継法の適用関係
- 東京地判平22.5.27:詐害的会社分割における債権者保護の射程
まとめ
会社分割は、吸収分割と新設分割の2類型があり、いずれも分割契約又は分割計画の作成・株主総会の特別決議・債権者保護手続という三本柱の手続を要する。対価の柔軟化により多様な組織再編が可能となった一方、詐害的会社分割という濫用的利用への対処が重要な課題となり、平成26年改正で残存債権者の直接履行請求権が新設された。試験対策としては、手続の流れを時系列で整理し、簡易・略式の要件、債権者保護手続の対象範囲、分割無効の訴えの要件を正確に押さえておくことが不可欠である。