【判例】会社分割における詐害行為取消権
会社分割における詐害行為取消権の適用に関する判例を詳解。濫用的会社分割の問題、最判平24.10.12の判示内容、会社法759条4項の新設、債権者保護の在り方を体系的に分析します。
この判例のポイント
会社分割(吸収分割・新設分割)に伴い、分割会社に残された債権者(残存債権者)が害されるような場合であっても、会社分割は詐害行為取消権(民法424条)の対象となり得るとした最高裁判決。従来、会社分割のような組織法上の行為に対して詐害行為取消権が行使できるかについて争いがあったが、最高裁は、新設分割設立会社にその債務の履行を請求できない残存債権者は、民法424条の規定により、詐害行為取消権を行使することができると判示し、債権者保護の強化を図った。
この記事では、まず検索ニーズの高い基本用語(会社分割・詐害的会社分割・詐害行為取消権)を冒頭で端的に定義したうえで、リーディングケースである最判平24.10.12(詐害的会社分割の判例)の判旨と射程、さらに平成26年改正により新設された会社法759条4項・764条4項との関係までを体系的に整理する。
まず押さえる3つの定義(会社分割/詐害的会社分割/詐害行為取消権)
検索でこのページにたどり着く方の多くは、「会社分割とは何か」「詐害的会社分割とは何か」「会社分割に詐害行為取消権を使えるのか(判例)」を最短で知りたいはずである。先に結論となる定義を端的に示す。
会社分割とは
会社分割とは、会社(株式会社・合同会社)がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を、他の会社に包括的に承継させる組織再編行為をいう。 既存の会社に承継させる「吸収分割」(会社法757条以下)と、新たに設立する会社に承継させる「新設分割」(会社法762条以下)の2類型がある。合併と異なり分割会社は消滅せず存続する点、事業譲渡と異なり個別の権利移転手続(債権譲渡の対抗要件具備や契約上の地位の個別の移転手続)を要さず権利義務が包括的に移転する点に特徴がある。
詐害的会社分割(濫用的会社分割)とは
詐害的会社分割(濫用的会社分割)とは、債務超過ないし経営難に陥った会社が、会社分割の仕組みを利用して、収益性の高い事業や優良資産だけを承継会社・新設会社に移転し、分割会社には採算の悪い事業と多額の債務(とりわけ承継されない債務)を残すことにより、分割会社に残された債権者(残存債権者)の債権回収を著しく困難にする会社分割をいう。 「詐害的」「濫用的」はいずれもほぼ同義で用いられる。本来は事業再生の手法でもある会社分割が、債権者を害する目的・効果で用いられる点に問題がある。本判決(最判平24.10.12)は、この詐害的会社分割が問題となった事案である。
詐害行為取消権とは
詐害行為取消権(民法424条)とは、債務者が債権者を害することを知ってした行為(詐害行為)について、債権者が裁判所に対しその取消しと、逸出した財産の取戻し(返還又は価額償還)を請求できる権利をいう。 責任財産の保全を目的とする制度であり、必ず訴えによって行使しなければならない(裁判上の行使)。本判決は、この詐害行為取消権を、組織再編行為である会社分割に対して行使できることを正面から認めた点に意義がある。
| 用語 | 一言でいうと | 主な根拠条文 |
|---|---|---|
| 会社分割 | 事業の権利義務を他社へ包括承継させる組織再編 | 会社法757条・762条 |
| 詐害的会社分割 | 優良資産を移し債務だけ残して債権者を害する会社分割 | (定義は判例・学説) |
| 詐害行為取消権 | 債権者を害する行為を取り消し財産を取り戻す権利 | 民法424条 |
事案の概要
A社(分割会社)は、多額の債務を負い経営が悪化していた。A社は、事業の再建を図るとして新設分割を行い、収益性の高い事業部門を新設会社B社に承継させた。A社にはB社の株式が割り当てられたが、A社には採算の悪い事業と多額の債務が残された。
X(原告)はA社に対する債権者であったが、新設分割に際してA社からB社への債務の承継対象とはされなかった(いわゆる残存債権者)。A社は新設分割後、実質的に無資力の状態となり、Xは債権の回収が著しく困難となった。
Xは、A社の新設分割は、債権者を害する行為であるとして、民法424条に基づく詐害行為取消権を行使し、B社に対して、A社からB社に承継された財産の返還(又は価額賠償)を求めた。
第一審はXの請求を認容し、控訴審もこれを維持した。B社が上告した。
争点
- 会社分割のような組織法上の行為に対して、詐害行為取消権(民法424条)を行使することができるか
- 会社分割に対して詐害行為取消権が行使された場合の効果はいかなるものか
- 会社法上の債権者保護手続との関係はどうか
判旨
最高裁は上告を棄却し、詐害行為取消権の行使を認めた。
新設分割がされた場合において、新設分割設立会社にその債務の履行(当該債務の保証に係る債務の履行を含む。)を請求することができない新設分割株式会社の債権者は、民法424条の規定により、新設分割を詐害行為として取り消すことができる
― 最高裁判所第二小法廷 平成24年10月12日 平成23年(受)第1580号
最高裁は、以下の理由を述べた。
新設分割について、これを詐害行為取消しの対象とすることができないとすると、濫用的な会社分割がされた場合に、残存債権者が害されることとなり不当である。会社法その他の法令において、新設分割を詐害行為取消権の行使の対象から除外する旨を定めた規定はない
― 最高裁判所第二小法廷 平成24年10月12日
取消しの効果
詐害行為取消権の行使によって新設分割が取り消された場合、その効果は、新設分割設立会社に承継された財産の価額の限度で、取消債権者に対する関係において効力を有する
― 判例法理
詐害行為取消権の要件と会社分割における論点
詐害的会社分割を詐害行為として取り消すには、民法424条の一般的要件をみたす必要がある。会社分割の特殊性が問題となる点を、要件ごとに整理する。
(1) 被保全債権の存在
取消債権者は、詐害行為(会社分割)の前に発生原因のある債権(被保全債権)を有していなければならない。詐害的会社分割の事案で取消しを求めるのは、典型的には、分割会社に対して債権を有していたにもかかわらず、その債務が承継会社・新設会社に承継されなかった残存債権者である。
(2) 詐害行為(債権者を害する行為)
債務者の行為によって、その責任財産が減少し、債権者が十分な弁済を受けられなくなること(無資力ないし無資力の深化)が必要である。会社分割では、優良事業・優良資産が承継会社・新設会社に流出する一方、分割会社にはその対価として承継会社・新設会社の株式が交付される。しかし、移転した事業の継続的収益力(のれん)を株式評価に十分反映できないことなどから、形式上は対価が交付されていても、実質的には責任財産が減少し残存債権者が害される、という点が論点となる。
ここで最大の論点が、「会社分割という組織法上の行為が、そもそも民法424条にいう『行為』(旧法では『法律行為』)として詐害行為取消権の対象となるか」であった。会社分割は包括承継という組織法固有の効果をもち、個別の財産処分行為とは性質を異にするため、否定説も有力に主張されていた(後述「学説・議論」参照)。本判決はこの点を肯定した。
(3) 債務者(分割会社)の詐害意思
債務者が、債権者を害することを知って行為をしたことが必要である。詐害的会社分割では、優良資産を切り出し債務だけを残すという計画それ自体に、残存債権者を害することの認識が認められやすい。
(4) 受益者(承継会社・新設会社)の悪意
受益者が、行為の時において債権者を害することを知っていたことが必要である(受益者が善意であれば取消しは認められない)。新設分割の事案では、新設会社は分割会社が単独で設立し、分割会社の認識がそのまま新設会社に帰属すると評価できるため、受益者の悪意が問題とならない場面が多い。これに対し、第三者が関与する吸収分割では、承継会社の善意・悪意が独立して問題となりうる。
(5) 効果の特殊性 — 相対的取消しと価額の限度
会社分割を詐害行為として取り消すといっても、組織再編としての会社分割の効力それ自体を遡及的に消滅させるわけではない。取消しの効果は、取消債権者との関係において相対的に生じ、かつ承継財産の価額の限度にとどまる。会社分割の効力を覆して登記をやり直すといった事態は生じず、取引の安全との調和が図られている。
ポイント解説
会社分割制度の概要
会社分割は、会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を他の会社に承継させる組織法上の行為である。吸収分割(既存の会社に承継させる場合)と新設分割(新たに設立する会社に承継させる場合)の2類型がある。
| 分割の類型 | 内容 | 対価の帰属先 |
|---|---|---|
| 吸収分割 | 既存会社に権利義務を承継 | 分割会社又はその株主 |
| 新設分割 | 新設会社に権利義務を承継 | 分割会社又はその株主 |
濫用的会社分割の問題
「濫用的会社分割」とは、債務超過の会社が会社分割を利用して、収益性の高い事業と優良資産を新設会社(又は承継会社)に移転し、分割会社に多額の債務のみを残すことにより、分割会社の債権者の債権回収を困難にする行為をいう。
この問題は、会社分割制度が導入された当初から指摘されていたが、旧法下では債権者保護の手段が不十分であった。具体的には、以下の問題点があった。
(1) 残存債権者の保護の欠缺:会社法上の債権者保護手続(異議手続)は、分割会社に残される債権者(残存債権者)には適用されないとの解釈が有力であった。
(2) 組織法上の行為に対する詐害行為取消権の可否:会社分割は組織法上の行為(法律行為ではなく組織再編行為)であるため、民法424条の「法律行為」に該当するかについて争いがあった。
残存債権者と承継債権者
会社分割における債権者は、分割計画(分割契約)の内容により、以下のように分類される。
| 債権者の類型 | 内容 | 保護手段 |
|---|---|---|
| 承継債権者 | 承継会社(新設会社)に移転する債務の債権者 | 分割会社と承継会社の双方に請求可能な場合あり |
| 残存債権者 | 分割会社に残される債務の債権者 | 旧法下では保護が不十分 |
濫用的会社分割において最も害されるのは残存債権者であり、本判決はその保護のために詐害行為取消権の行使を認めたものである。
会社法の平成26年改正(759条4項の新設)
本判決を受けて、平成26年会社法改正により、会社法759条4項(吸収分割の場合)及び764条4項(新設分割の場合)が新設された。これらの規定は、分割会社が残存債権者を害することを知って会社分割をした場合には、残存債権者は承継会社(新設会社)に対して、承継した財産の価額を限度として債務の履行を請求できることを定めている。
これにより、残存債権者は詐害行為取消訴訟を提起することなく、直接、承継会社(新設会社)に対して請求できるようになった。
具体例とあてはめ
詐害的会社分割と詐害行為取消権の関係を、典型的な事例に即して確認する。
モデル事例
A社は、製造部門(黒字・優良資産あり)と不動産賃貸部門(赤字)を営んでいたが、金融機関ほか複数の債権者に対し合計5億円の債務を負い、実質的に債務超過に陥っていた。A社は事業再建の名目で新設分割を行い、黒字の製造部門と主要資産をすべて新設会社B社に承継させ、B社株式の交付を受けた。一方、A社にはほとんど無価値となった不動産賃貸部門と、金融機関X(債権額2億円)に対する債務が残された。Xの債務はB社に承継されず、分割後のA社には見るべき資産がなくなった。
あてはめの流れ
第一に、XはA社に対する被保全債権(2億円)を会社分割前から有しており、被保全債権の要件をみたす。
第二に、A社は優良部門を切り出してB社に移したことで、Xの引当てとなるべき責任財産が実質的に失われ、Xは債権回収が著しく困難になった。形式上はB社株式が対価として交付されているが、移転した事業の収益力に見合う価値が株式評価に反映されておらず、実質的に債権者を害する行為と評価できる。
第三に、A社は黒字部門だけを切り出す計画であり、残存債権者Xを害することを知っていたといえる(詐害意思)。
第四に、B社はA社が単独で設立した新設会社であり、A社の認識がそのままB社に及ぶと評価できるから、受益者の悪意の要件も問題なくみたす。
したがって、Xは民法424条により新設分割を詐害行為として取り消し、B社に承継された財産の価額の限度で、その返還(又は価額償還)を求めることができる。なお、平成26年改正後の事案であれば、Xは取消訴訟によらずとも、会社法764条4項(新設分割の場合)により、承継財産の価額を限度として直接B社に債務の履行を請求することもできる。
取消しが認められない場合の例
これに対し、(1)会社分割の対価として分割会社に承継財産の価値に見合う相当な対価(金銭や処分容易な財産)が交付され責任財産が減少していない場合、(2)残存債権者の債権が会社分割後に発生したものである場合、(3)吸収分割で承継会社が善意であった場合などは、要件を欠き取消しは認められない。
学説・議論
組織法上の行為と詐害行為取消権
本判決以前は、会社分割のような組織法上の行為に対して詐害行為取消権を行使できるかについて、以下の見解が対立していた。
肯定説は、会社分割も財産の移転を伴う行為であり、債権者を害する効果を有する以上、詐害行為取消権の対象となり得るとする。債権者保護の実効性を重視する立場である。
否定説は、会社分割は組織法上の行為であり、包括的な権利義務の承継という効果を有するため、個別の「法律行為」を対象とする詐害行為取消権の枠組みにはなじまないとする。また、会社分割の効力を遡及的に覆すことは法的安定性を害するとの批判もあった。
最高裁は肯定説を採用し、会社分割に対する詐害行為取消権の行使を認めた。もっとも、取消しの効果は相対的効力(取消債権者との関係でのみ効力を有する)にとどまり、会社分割自体が遡及的に無効となるものではないとした。
取消しの効果の範囲
詐害行為取消権の行使による取消しの効果については、以下の議論がある。
財産返還説は、承継会社(新設会社)に承継された財産の原状回復(返還又は価額賠償)を認めるとする。
債務負担説は、会社分割の効力自体は維持しつつ、承継会社(新設会社)に対して分割会社の残存債務の履行を請求できるとする。
平成26年改正による759条4項は、債務負担説に近い立法的解決を図ったものと評価されている。
法人格否認の法理との関係
濫用的会社分割の場面では、法人格否認の法理の適用の可否も議論されている。すなわち、分割会社と承継会社(新設会社)の法人格の分離を否認し、承継会社に対して分割会社の債務の履行を請求できるかという問題である。
判例は、法人格否認の法理の適用は極めて限定的であり、濫用的会社分割の場面では詐害行為取消権(及び平成26年改正後の759条4項)による解決が優先されるとの立場をとっている。
判例の射程
本判決の射程は以下のとおりである。
第一に、本判決は新設分割についての判断であるが、吸収分割についても同様に詐害行為取消権の行使が可能であると解されている。
第二に、本判決は事業譲渡に対する詐害行為取消権の行使の可否にも影響を及ぼす。事業譲渡は個別の財産移転行為の集合であり、詐害行為取消権の対象となることはより明確であるとされている。
第三に、平成26年改正後は、759条4項による直接請求が可能となったため、詐害行為取消権を行使する実務上の必要性は減少した。もっとも、759条4項の要件を満たさない場合には、なお詐害行為取消権の行使が問題となり得る。
第四に、平成29年改正民法(債権法改正)により詐害行為取消権の要件・効果が見直されたが、会社分割に対する適用の基本的枠組みは変わらないと解されている。
反対意見・補足意見
本判決には、田原睦夫裁判官の補足意見が付されている。
田原裁判官は、会社分割に対する詐害行為取消権の行使を肯定しつつも、組織法上の行為に対する詐害行為取消権の行使には以下の限界があることを指摘した。
(1) 詐害行為取消権の行使は、債権者との関係での相対的取消しにとどまり、会社分割自体の効力が遡及的に否定されるものではない。
(2) 承継会社(新設会社)が善意の場合には、詐害行為取消権の行使が制限される可能性がある。
(3) 会社分割後に承継会社(新設会社)と取引関係に入った第三者の利益にも配慮する必要がある。
試験対策での位置づけ
会社分割における詐害行為取消権は、司法試験・予備試験において以下の形で出題される。
(1) 濫用的会社分割と債権者保護の論点として、残存債権者の保護手段を問う出題
(2) 詐害行為取消権の適用範囲の論点として、組織法上の行為に対する適用の可否を問う出題
(3) 平成26年改正による759条4項の解釈・適用を問う出題
(4) 民法(債権法改正)と会社法の交錯として、詐害行為取消権の改正が会社分割に及ぼす影響を問う出題
特に、旧法下の判例法理(本判決)と平成26年改正後の制度を対比して理解することが重要である。
詐害的会社分割をめぐる判例・裁判例の整理
「会社分割 詐害行為取消権 判例」という検索意図に正面から答えるため、本判決を中心に、関連する裁判例の流れを時系列で整理する。なお、下級審裁判例の具体的な事案・結論は概況にとどめ、確立した法理は本判決(最判平24.10.12)に依拠して理解するのが安全である。
| 段階 | 主な内容 | 位置づけ |
|---|---|---|
| 制度導入後の下級審 | 詐害的会社分割について法人格否認の法理や詐害行為取消権を用いて残存債権者を救済しようとする裁判例が現れる | 救済法理が模索された時期 |
| 最判平24.10.12(本判決) | 新設分割について残存債権者による詐害行為取消権の行使を肯定 | リーディングケース |
| 平成26年会社法改正 | 759条4項(吸収分割)・764条4項(新設分割)を新設し、残存債権者の直接請求権を立法化 | 立法的解決 |
| 平成29年民法(債権法)改正 | 詐害行為取消権の要件・効果を整理(424条以下) | 一般法のアップデート |
本判決が「リーディングケース」とされるのは、それまで解釈に争いのあった「組織法上の行為に詐害行為取消権を行使できるか」という論点について、最高裁が初めて明確な肯定の判断を示したからである。試験では、本判決の判旨(新設分割の取消しを認めた点・取消しの効果が承継財産の価額の限度にとどまる点)を正確に摘示できるかが問われる。
答案での使い方
答案では、以下の流れで論じることが有効である。
- 問題の所在の提示:濫用的会社分割により残存債権者が害される場合に、いかなる法的手段が認められるかを提示する。
- 会社法上の債権者保護手続の検討:会社法789条等の債権者保護手続が残存債権者に適用されるか(又は759条4項の適用があるか)を検討する。
- 詐害行為取消権の適用の検討:組織法上の行為である会社分割に対して詐害行為取消権を行使できるか、最判平24.10.12の判旨を摘示して論じる。
- 取消しの効果の検討:取消しの効果(相対的効力、承継財産の価額の限度)を論じる。
- 759条4項による解決:平成26年改正後の事案では、759条4項(吸収分割)・764条4項(新設分割)の直接請求を優先的に検討する。
答案作成上の注意点
第一に、設問が改正前後のいずれを前提にしているかを必ず確認する。平成26年改正前の事案であれば本判決の判旨(詐害行為取消権の可否)が中心論点となり、改正後の事案であれば759条4項・764条4項の直接請求権の要件充足が中心論点となる。両者を混同して論じると評価を落とすため、まず適用法令の特定を丁寧に行う。
第二に、詐害行為取消権を論じる際は、(1)被保全債権、(2)詐害行為(責任財産の減少・無資力)、(3)詐害意思、(4)受益者の悪意という要件を順に検討し、会社分割の特殊性(包括承継であること・対価として株式が交付されること・取消しの効果が承継財産の価額の限度にとどまり相対的であること)を意識的に書き込む。特に「形式上は対価が交付されていても実質的に責任財産が減少しうる」という評価を、事実を拾って具体的に示すと説得力が増す。
第三に、759条4項・764条4項を論じる際は、「分割会社が残存債権者を害することを知って会社分割をしたこと」「承継財産の価額を限度とする直接請求であること」を正確に示す。詐害行為取消権との併存関係(どちらを選択してもよいこと)にも一言触れられるとよい。
重要概念の整理
残存債権者の保護手段の比較
| 保護手段 | 根拠 | 要件 | 効果 |
|---|---|---|---|
| 詐害行為取消権 | 民法424条 | 詐害意思・債権者を害する行為 | 相対的取消し・財産返還 |
| 直接請求権 | 会社法759条4項 | 債権者を害することの認識 | 承継財産の価額を限度に直接請求 |
| 債権者異議手続 | 会社法789条 | 分割計画による | 弁済・担保提供 |
会社分割の手続の流れ
| 手続 | 内容 | 関連条文 |
|---|---|---|
| 分割計画(契約)の作成 | 承継する権利義務等を定める | 会社法757条・762条 |
| 株主総会の承認 | 特別決議による | 会社法783条・804条 |
| 債権者保護手続 | 異議を述べる機会の付与 | 会社法789条・810条 |
| 登記 | 効力発生 | 会社法923条 |
濫用的会社分割に関する判例の展開
| 判例 | 内容 | 意義 |
|---|---|---|
| 最判平24.10.12 | 新設分割に対する詐害行為取消権の行使を肯定 | リーディングケース |
| 平成26年改正 | 会社法759条4項・764条4項の新設 | 立法的解決 |
発展的考察
債権法改正と詐害行為取消権
平成29年改正民法(2020年4月施行)は、詐害行為取消権の要件・効果を大幅に見直した。改正後は、詐害行為取消権の類型が整理され、(1)相当の対価を得てした財産の処分行為、(2)偏頗行為(特定の債権者のみに弁済する行為)、(3)過大な代物弁済等について、個別の要件が定められた。
会社分割に対する詐害行為取消権の行使については、改正後の民法424条の要件をどのように適用するかが問題となるが、基本的枠組みは本判決の射程内にあると解されている。
事業再生と会社分割
会社分割は、事業再生の手法としても活用されている。債務超過の企業が優良事業部門を新設会社に移転し、分割会社について破産又は特別清算の手続を行うことで、事業の存続と債権者の保護の両立を図ることができる。
もっとも、このような会社分割が濫用的なものに該当しないかについては、個別具体的な事情に即した判断が必要であり、(1)事業再生の必要性、(2)債権者への配慮の程度、(3)手続の公正性等の要素を総合的に考慮すべきである。
国際比較
アメリカ法では、詐害的譲渡(fraudulent transfer / fraudulent conveyance)の法理により、債権者を害する財産移転の取消しが認められている。統一詐害的譲渡法(UFTA)は、会社分割のような組織再編行為にも適用され得るとされている。
EU法では、会社分割指令により、分割会社の債権者の保護が図られている。具体的には、分割後も分割会社と承継会社が連帯して債務を負担する仕組みが採用されている国が多い。
よくある質問
Q1. 残存債権者は常に詐害行為取消権を行使できるのか?
A. 詐害行為取消権の行使には、(1)分割会社が債権者を害することを知って会社分割をしたこと(詐害意思)、(2)会社分割により分割会社が無資力となったこと(債権者を害する行為)、(3)受益者(承継会社・新設会社)が善意でないこと等の要件が必要である。
Q2. 759条4項と詐害行為取消権の関係は?
A. 759条4項は会社法上の特則として、詐害行為取消訴訟を提起することなく、残存債権者が直接、承継会社に対して請求できる権利を定めている。759条4項の要件を満たす場合には、同条による直接請求が優先的に利用されることが多いが、詐害行為取消権との併存は否定されていない。
Q3. 分割後の承継会社の取引相手は影響を受けるか?
A. 詐害行為取消権の行使は相対的効力を有するにとどまるため、承継会社(新設会社)と取引関係に入った善意の第三者の利益は保護される。759条4項による直接請求の場合も、承継財産の価額を限度とするものであり、承継会社自体の法的地位が覆されるわけではない。
Q4. 合併にも詐害行為取消権を行使できるか?
A. 合併は、消滅会社の権利義務がすべて存続会社(新設会社)に包括的に承継される行為であり、債権者が害される状況は通常生じにくい。もっとも、不適切な合併比率により特定の債権者が害される場合には、理論的には詐害行為取消権の行使が問題となり得るが、判例はこの点について明確な判断を示していない。
Q5. 詐害行為取消権の消滅時効はどのくらいか?
A. 改正民法では、詐害行為取消請求に係る訴えは、債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時から2年を経過したときは提起できず、また行為の時から10年を経過したときも提起できないとされている(民法426条)。詐害的会社分割の事案でも、残存債権者は分割の事実と詐害性を知った時から速やかに権利行使を検討する必要がある。
Q6. 詐害的会社分割と詐害行為取消権の関係を一言でいうと?
A. 詐害的会社分割とは「優良資産を移して債務だけ残し残存債権者を害する会社分割」であり、詐害行為取消権とは「債権者を害する行為を取り消して財産を取り戻す権利」である。本判決(最判平24.10.12)は、前者に対して後者を行使できることを認めた、という関係にある。平成26年改正後は、会社法759条4項・764条4項の直接請求権がこれと並ぶ救済手段として用意されている。
Q7. 会社分割と事業譲渡は詐害行為取消権の扱いが違うのか?
A. 事業譲渡は個別の財産移転行為の集合であり、もともと詐害行為取消権の対象となることに大きな争いはない。これに対し会社分割は組織法上の包括承継であるため、対象となるか自体が論点であった。本判決はこの点について会社分割も詐害行為取消権の対象となりうることを明らかにした。実務上は、詐害的に優良事業を切り出す手段として事業譲渡・会社分割のいずれが用いられても、残存債権者の保護が図られる方向にある。
関連条文
- 民法424条(詐害行為取消権):債権者を害する法律行為の取消しを認める規定。
- 会社法757条(吸収分割契約の締結):吸収分割の手続を定める。
- 会社法759条4項(残存債権者の直接請求権):平成26年改正で新設。
- 会社法764条4項(新設分割の場合の残存債権者の保護):平成26年改正で新設。
- 会社法789条(債権者の異議):会社分割における債権者保護手続。
関連判例
- 最判平24.10.12:本判決。新設分割に対する詐害行為取消権の行使を肯定。
- 東京地判平22.5.27:濫用的会社分割について法人格否認の法理の適用を認めた事例。
- 福岡地判平23.2.17:会社分割に対する詐害行為取消権の行使を認めた下級審判例。
- 最判平16.7.1:詐害行為取消権の要件に関する一般的判例。
まとめ
本判決は、濫用的会社分割において残存債権者が害される場合に、詐害行為取消権の行使を認めた画期的な判例である。組織法上の行為である会社分割に対して民法上の詐害行為取消権が適用されることを最高裁が明確に認めたことにより、会社分割制度における債権者保護が大きく強化された。
その後の平成26年会社法改正により、会社法759条4項(764条4項)が新設され、残存債権者の保護が立法的に手当てされた。現在では、759条4項による直接請求と詐害行為取消権の行使が併存する形で、残存債権者の保護が図られている。
試験対策としては、旧法下の判例法理(本判決)と改正後の制度(759条4項・764条4項)を対比し、それぞれの要件・効果を正確に整理することが重要である。
最後に、本記事の要点を改めて整理する。会社分割は事業の権利義務を他社へ包括承継させる組織再編であり、その仕組みが債権者を害する形で用いられたものが詐害的会社分割(濫用的会社分割)である。これに対し残存債権者を救済する一般法上の手段が詐害行為取消権(民法424条)であり、本判決(最判平24.10.12)は、組織法上の行為である会社分割についても詐害行為取消権を行使しうることを明確にした。もっとも取消しの効果は承継財産の価額の限度・相対的効力にとどまり、組織再編としての効力自体は維持される点に注意を要する。そして平成26年改正により、残存債権者は取消訴訟を経ずに承継会社・新設会社へ直接請求できる道(759条4項・764条4項)が立法的に整備された。詐害的会社分割の問題は、この「判例による解決」から「立法による解決」への流れを理解することで、全体像をつかむことができる。
科目を選び、肢別演習で知識を確かめられます。