株式譲渡自由の原則と制限――127条の趣旨から譲渡承認手続まで
株式譲渡自由の原則(127条)の趣旨、定款による譲渡制限、譲渡承認手続、承認なき譲渡の効力、名義書換について体系的に解説します。
この記事のポイント
株式は原則として自由に譲渡できる(127条)。これは株主の投下資本回収を保障するための根本原則である。しかし、閉鎖的な会社において好ましくない者が株主となることを防ぐため、定款で譲渡制限を設けることが認められている(107条1項1号・108条1項4号)。承認なき譲渡は会社に対しては効力を生じないが、当事者間では有効であるとするのが判例である。
株式譲渡自由の原則(127条)
原則の意義
会社法127条は「株主は、その有する株式を譲渡することができる」と規定し、株式譲渡自由の原則を定めている。
趣旨
株式譲渡自由の原則の趣旨は、以下の2点に求められる。
- 投下資本回収の保障:株式会社では社員(株主)の退社が認められていないため、株主が投下資本を回収する手段として株式の譲渡を自由に認める必要がある
- 会社の利益との調和:株式会社は物的会社であり、社員の個性は重要ではないため、株主が交替しても会社運営に支障はない
自己株式取得の規制緩和との関係
平成13年改正以降、自己株式の取得規制が大幅に緩和され、会社が自己株式を取得する形での投下資本回収も容易になった。しかし、自己株式の取得には財源規制(461条)があるため、株式譲渡自由の原則の重要性は依然として失われていない。
株式の譲渡方法
株券発行会社と株券不発行会社
項目 株券発行会社 株券不発行会社 譲渡方法 株券の交付(128条1項) 意思表示のみで効力発生 対抗要件 株券の占有(131条1項) 株主名簿の名義書換(130条1項) 善意取得 あり(131条2項) なし 原則・例外 定款で定めた場合のみ発行(214条) 原則(株券不発行)振替株式
上場会社の株式は社債、株式等の振替に関する法律(振替法)に基づく振替制度により管理される。譲渡は振替口座簿の記録によって行われ、株券は発行されない。
定款による譲渡制限
制度の趣旨
閉鎖的な会社(中小企業等)では、株主の個性が重要であり、好ましくない者が株主となることを防止する必要がある。そこで、会社法は定款による株式の譲渡制限を認めている。
全部の株式に譲渡制限を付す場合(107条1項1号)
- すべての株式について、譲渡による取得に会社の承認を要する旨を定款で定めることができる
- このような会社を公開会社でない会社(非公開会社)という
- 定款変更には株主全員の同意が必要(原則:特殊決議〈309条3項1号〉)
一部の種類株式に譲渡制限を付す場合(108条1項4号)
- 特定の種類の株式についてのみ譲渡制限を付すことができる
- この場合でも、譲渡制限の付されていない種類株式が存在すれば公開会社に該当する
公開会社と非公開会社の主な相違
項目 公開会社 非公開会社 取締役会 必置(327条1項1号) 任意 取締役の任期 2年以内(332条1項) 10年まで伸長可能(332条2項) 監査役の任期 4年以内(336条1項) 10年まで伸長可能(336条2項) 募集株式の発行 取締役会決議(201条1項) 株主総会の特別決議(199条2項) 株主割当て 制限あり 柔軟譲渡承認手続
手続の流れ
譲渡制限株式を譲渡する場合の手続は、以下のとおりである。
1. 承認の請求
- 株主が譲渡しようとする場合(136条)
- 株式取得者が承認を請求する場合(137条):株券発行会社では株券の提示が必要
2. 承認機関
- 原則:株主総会(139条1項本文)
- 取締役会設置会社:取締役会(139条1項ただし書)
- 定款で別段の定めが可能(139条1項ただし書)
3. 承認又は不承認の通知
- 承認請求の日から2週間以内に通知しなければならない(145条1号)
- 期間内に通知しなかった場合は承認したものとみなされる(145条1号)
4. 不承認の場合の買取り
承認をしない場合、請求者が買取りを請求していたときは、以下のいずれかが株式を買い取る。
- 会社自身が買い取る(140条1項):株主総会の特別決議が必要
- 会社が指定する指定買取人が買い取る(140条4項)
売買価格の決定
- 当事者間の協議による(144条1項)
- 協議が調わない場合は裁判所に対する価格決定の申立て(144条2項)
- 申立てがない場合は供託額が売買価格となる(144条5項)
承認なき譲渡の効力
会社に対する効力
最判昭48.6.15は、譲渡制限株式について承認を得ずに行われた譲渡の効力について、以下のとおり判示した。
定款で株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨を定めた場合に、取締役会の承認を得ずにした株式の譲渡は、会社に対する関係では効力を生じないが、譲渡当事者間においては有効である
効力の整理
関係 効力 理由 当事者間 有効 譲渡制限は会社の利益保護のための制度であり、当事者間の法律関係まで否定する趣旨ではない 会社に対して 無効(効力を生じない) 会社にとって好ましくない者が株主として権利を行使することを防ぐ趣旨承認なき取得者の法的地位
- 会社に対しては株主としての権利を主張できない
- 会社に対して承認の請求をすることができる(137条)
- 名義書換請求が不当に拒絶された場合は、株主であることを会社に対抗できる(最判昭41.7.28)
名義書換
名義書換の意義
株主名簿の名義書換は、株券不発行会社における株式譲渡の対抗要件であり(130条1項)、株券発行会社においても会社に対する対抗要件となる(130条2項)。
名義書換の不当拒絶
会社が正当な理由なく名義書換を拒絶した場合、判例は名義書換なくして会社に対抗できると解している(最判昭41.7.28)。
- 信義則上、会社は名義書換がないことを理由に株主としての権利行使を拒むことができない
- ただし、会社の側から名義書換未了の譲受人を株主として取り扱うことは任意である
株主名簿の基準日制度(124条)
- 会社は一定の日を基準日として定め、その日における株主名簿上の株主を権利行使できる者と定めることができる
- 基準日は権利行使日の3か月前以降でなければならない(124条2項)
- 基準日を定めたときは公告が必要(124条3項)
試験対策での位置づけ
株式譲渡自由の原則は、会社法全体の基本原則のひとつであり、短答式・論文式の双方で問われる重要テーマである。
- 短答式では、127条の趣旨、譲渡制限の手続、承認みなし(145条)の要件が頻出
- 論文式では、承認なき譲渡の効力(当事者間有効・会社との関係では無効)を前提に、名義書換の不当拒絶や基準日後の株主の権利行使と組み合わせた出題が想定される
- 公開会社と非公開会社の機関設計・募集株式発行手続の差異と関連付けて理解すると、体系的な知識が身に付く
関連判例
- 最判昭48.6.15:承認なき譲渡は当事者間では有効、会社に対しては効力を生じない
- 最判昭41.7.28:名義書換の不当拒絶があった場合、名義書換なくして会社に対抗できる
- 最判昭63.3.15:譲渡制限株式の相続と承認手続の要否
- 最判平5.3.30:一人会社における譲渡制限の適用の可否
まとめ
株式譲渡自由の原則(127条)は、株主の投下資本回収を保障するために不可欠の原則である。他方、閉鎖的な会社においては定款による譲渡制限が認められ、その場合には承認手続(136条〜)を経る必要がある。承認なき譲渡の効力については、当事者間有効・会社に対しては無効という二面的構造を正確に理解し、名義書換の不当拒絶に関する判例法理と合わせて押さえておくことが重要である。