M&Aと労働者の保護|事業譲渡・会社分割における労働契約の承継
M&Aにおける労働者保護を解説。事業譲渡と会社分割での労働契約の承継の違い、労働契約承継法の要件、労働者の異議申述権を整理します。
この記事のポイント
事業譲渡では労働契約は個別の同意なく承継されないが、会社分割では労働契約承継法により一定の手続を経て包括的に承継される。 両者の違いを正確に理解することがM&A法務の基本である。
事業譲渡と労働契約
原則:個別同意が必要
事業譲渡は個別の権利義務の移転であるため、労働契約の承継には労働者の個別の同意(民法625条1項)が必要。
承継拒否の問題
場面 労働者の地位 労働者が承継に同意 譲受会社との労働契約が成立 労働者が承継を拒否 譲渡会社に残留(事業廃止なら整理解雇の問題) 譲受会社が特定の労働者の承継を拒否 不当労働行為等の問題が生じうる会社分割と労働契約承継法
労働契約承継法の概要
項目 内容 適用場面 会社分割 承継の原則 分割計画書(契約書)に記載された労働契約は承継会社に承継 労働者の保護 事前の通知・協議義務、異議申述権承継される労働契約の範囲
労働者の類型 分割計画書に記載 承継 異議申述権 承継事業に主として従事する労働者 記載あり 承継される なし 承継事業に主として従事する労働者 記載なし 承継されない あり 承継事業に主として従事しない労働者 記載あり 承継される あり 承継事業に主として従事しない労働者 記載なし 承継されない なし異議申述の効果
- 異議を述べた場合、分割計画書の記載にかかわらず、労働契約は承継されない(又は承継される)
- 「主として従事する労働者」が記載されていない場合に異議を述べると承継される
- 「主として従事しない労働者」が記載されている場合に異議を述べると承継されない
事前の通知・協議義務
7条措置(労働契約承継法7条)
分割会社は、分割に際して労働者の理解と協力を得るよう努めなければならない(努力義務)。
5条協議(商法等改正附則5条)
分割会社は、承継される労働者との間で、労働契約の承継に関する事項について個別に協議しなければならない。
項目 7条措置 5条協議 性質 努力義務 義務 対象 全ての労働者 承継される労働者 違反の効果 直接の私法的効力なし 会社分割の無効原因となりうる合併と労働契約
合併の場合
合併では権利義務の包括承継が行われるため、労働契約は当然に承継される。労働者の同意は不要。
まとめ
- 事業譲渡では個別同意なく労働契約は承継されない
- 会社分割では労働契約承継法に基づき包括的に承継
- 労働者には類型に応じた異議申述権が認められる
- 分割会社には5条協議の義務がある
- 合併では労働契約は当然に承継される
FAQ
Q1. 事業譲渡で労働者全員を承継しない場合、不当な選別にならないですか?
承継する労働者の選定が合理的理由に基づかない場合、不当労働行為や解雇権濫用として争われる可能性があります。
Q2. 5条協議が行われなかった場合の効果は?
判例(日本IBM事件・最判平22.7.12)は、5条協議が全く行われなかった場合は労働契約の承継の効力を争うことができるとしています。
Q3. 転籍と事業譲渡による承継の違いは?
いずれも労働者の同意が必要ですが、事業譲渡は事業の一体としての移転に伴うものであり、転籍は個別の人事異動です。