事業報告・計算書類の法的規律――作成から承認までの手続を整理
計算書類の種類、作成・監査・承認の手続、事業報告の記載事項、株主の閲覧謄写権(442条)、連結計算書類について体系的に解説します。
この記事のポイント
株式会社は、毎事業年度、計算書類(貸借対照表・損益計算書等)及び事業報告を作成し、監査を経たうえで株主総会の承認を受けなければならない。計算書類は会社の財産状態と経営成績を明らかにするものであり、株主・債権者の利益保護の基盤となる。株主の閲覧謄写権(442条)や連結計算書類の制度と合わせて、計算規定の全体像を正確に把握することが重要である。
計算書類の種類
会社法上の計算書類(435条2項)
株式会社は、各事業年度に係る計算書類として以下のものを作成しなければならない。
計算書類 内容 備考 貸借対照表 事業年度末日における会社の財産状態を表示 資産・負債・純資産の状況 損益計算書 当該事業年度における会社の経営成績を表示 収益・費用・利益の状況 株主資本等変動計算書 純資産の部の各項目の変動を表示 剰余金の配当、自己株式の取得等の影響 個別注記表 重要な会計方針等の注記事項を記載 会社計算規則で内容が規定附属明細書(435条2項)
計算書類に加え、計算書類の附属明細書の作成も必要である。附属明細書は、計算書類の記載事項を補足する重要な事項を記載するものである。
事業報告と事業報告の附属明細書(435条2項)
事業報告は計算書類とは別個の書類であり、会社の状況に関する重要な事項を記載する。
事業報告の記載事項
主な記載事項
事業報告の記載事項は、会社法施行規則(118条〜128条)に詳細に定められている。
- 事業の経過及びその成果
- 会社の現況に関する事項(主要な事業内容、営業所の状況等)
- 株式に関する事項(発行済株式の総数、自己株式の数等)
- 会社役員に関する事項(氏名、地位、担当、報酬等)
- 社外役員に関する事項(社外取締役・社外監査役の活動状況)
- 内部統制システムに関する事項(362条4項6号等)
- 会計参与との間の取決めの内容(設置会社のみ)
公開会社の追加記載事項
公開会社では、以下の事項も記載が必要となる。
- 主要な借入先
- 株式の大量保有の状況
- 親会社等との取引に関する事項
- 企業集団の現況に関する事項
計算書類の作成・監査・承認の手続
手続の全体像
計算書類の作成から承認に至る手続は、以下の流れで進行する。
(1) 取締役が計算書類・事業報告を作成
↓
(2) 監査役(監査役会)による監査
↓
(3) 会計監査人による監査(会計監査人設置会社の場合)
↓
(4) 取締役会による承認(取締役会設置会社の場合)
↓
(5) 株主への提供
↓
(6) 株主総会における承認・報告
各段階の詳細
1. 作成(435条2項)
- 取締役(代表取締役)が計算書類及び事業報告を作成する
- 作成義務者は取締役であり、会計参与がいる場合は会計参与と共同して計算書類を作成する(374条1項)
2. 監査役(監査役会)による監査(436条1項)
- 監査役設置会社では、計算書類及び事業報告について監査役の監査を受けなければならない
- 監査役会設置会社では監査役会の監査を受ける
- 監査役は監査報告を作成する
3. 会計監査人による監査(436条2項)
- 会計監査人設置会社では、計算書類について会計監査人の監査も受けなければならない
- 会計監査人は会計監査報告を作成する
- 事業報告は会計監査人の監査対象ではない
4. 取締役会による承認(436条3項)
- 取締役会設置会社では、監査を受けた計算書類・事業報告について取締役会の承認を受ける
5. 株主への提供(437条)
- 取締役は、株主総会の招集通知に際して、計算書類及び事業報告を株主に提供しなければならない
6. 株主総会における承認(438条)
- 計算書類は、原則として株主総会の承認を受けなければならない(438条2項)
- 事業報告は、取締役が株主総会に報告する(438条3項):承認は不要
会計監査人設置会社の特則
計算書類の確定(439条)
会計監査人設置会社で、以下の要件をすべて満たす場合には、計算書類について株主総会の承認は不要であり、取締役が株主総会に報告すれば足りる。
- 会計監査人の会計監査報告に無限定適正意見が付されていること
- 監査役(監査役会・監査委員会・監査等委員会)の監査報告に会計監査人の監査結果を相当でないとする意見がないこと
- 上記の監査報告に付記事項がないこと(会社計算規則135条等参照)
この特則は計算書類の確定(承認省略)と呼ばれ、大会社の実務で広く活用されている。
趣旨
会計の専門家である会計監査人の監査を経て適正であると認められた計算書類については、改めて株主総会の承認を要求する必要性が乏しいことから、手続の簡素化が図られている。
計算書類の公告(440条)
決算公告の義務
株式会社は、定時株主総会の終結後遅滞なく、貸借対照表(大会社では貸借対照表及び損益計算書)を公告しなければならない(440条1項)。
公告方法
方法 内容 官報 貸借対照表の要旨で足りる(440条2項) 日刊新聞紙 貸借対照表の要旨で足りる(440条2項) 電子公告 全文を掲載する必要がある(440条3項)有価証券報告書提出会社の例外
金融商品取引法に基づく有価証券報告書を提出している会社は、計算書類の公告が免除される(440条4項)。
株主の閲覧謄写権(442条)
権利の内容
株主及び会社債権者は、会社の営業時間内であればいつでも、計算書類等の閲覧又は謄写を請求することができる(442条3項)。
対象書類
- 計算書類及びその附属明細書
- 事業報告及びその附属明細書
- 監査報告
- 会計監査報告
閲覧謄写権者
権利者 閲覧 謄写(写しの交付) 株主 可能 可能(費用負担) 会社債権者 可能 可能(費用負担) 親会社社員(親会社の株主等) 裁判所の許可が必要(442条4項) 裁判所の許可が必要会計帳簿閲覧請求権(433条)との比較
項目 計算書類の閲覧謄写(442条) 会計帳簿の閲覧謄写(433条) 請求権者 株主・債権者(持株要件なし) 3%以上の株主のみ 理由の明示 不要 必要 拒絶事由 なし あり(433条2項) 対象 計算書類・事業報告等 会計帳簿(仕訳帳・元帳等)連結計算書類(444条)
作成義務
大会社で有価証券報告書提出義務のある会社は、連結計算書類を作成しなければならない(444条3項)。
連結計算書類の種類
- 連結貸借対照表
- 連結損益計算書
- 連結株主資本等変動計算書
- 連結注記表
監査と報告
- 連結計算書類は会計監査人及び監査役(監査役会等)の監査を受ける(444条4項)
- 株主総会の承認は不要であり、取締役が報告する(444条7項)
臨時計算書類(441条)
意義
株式会社は、事業年度の途中の一定の日を臨時決算日として、その日における計算書類(臨時計算書類)を作成することができる(441条1項)。
効果
臨時計算書類が作成された場合、臨時決算日までの期間の利益を分配可能額に算入することができる(461条2項2号)。
試験対策での位置づけ
計算書類に関する規定は、短答式試験で細かく問われる分野である。
- 計算書類の種類(4種類+附属明細書)を正確に挙げられるようにする
- 監査役と会計監査人の監査対象の違い(事業報告は会計監査人の監査対象外)に注意
- 439条の承認省略の要件は頻出ポイント
- 442条の閲覧謄写権と433条の帳簿閲覧請求権の相違を混同しないこと
- 決算公告の方法(官報・日刊新聞紙は要旨で足りるが、電子公告は全文)
- 論文式試験では、計算書類の手続違反が株主総会決議の瑕疵に影響するかという形で出題されることがある
関連判例
- 最判平20.11.26:会計帳簿閲覧請求権における「理由の明示」の程度
- 最判平21.1.15:会計帳簿閲覧請求の拒絶事由と立証責任
- 最判平16.7.1:株主総会決議取消しの訴えにおける計算書類の承認手続の瑕疵
- 最判平18.4.10:会計監査人の責任と善管注意義務
まとめ
計算規定は、計算書類の作成 → 監査 → 承認(又は報告)→ 公告という一連の手続を定めている。この流れの中で、監査役と会計監査人の監査対象の違い、会計監査人設置会社における承認省略の特則(439条)、株主の閲覧謄写権(442条)の範囲を正確に理解することが重要である。計算書類は会社法の全体像の中では地味な分野に見えるが、短答式試験では差がつきやすいポイントであるため、表を使って体系的に整理しておくことを勧める。