因果関係の判断基準|危険の現実化説と介在事情の処理
刑法における因果関係の判断基準を体系的に解説。条件関係、相当因果関係説、危険の現実化説、介在事情の処理方法を判例とともに整理します。
この記事のポイント
因果関係は構成要件該当性の判断において不可欠な要素であり、実行行為と結果の間の法的な結びつきを意味する。 近時の判例は、相当因果関係説から「危険の現実化」説へと判断枠組みを転換しており、その理解が司法試験で必須となっている。
因果関係の基本構造
条件関係(事実的因果関係)
「あれなければこれなし」(conditio sine qua non)の関係。実行行為がなければ結果が発生しなかったという事実的関係。
法的因果関係
条件関係を前提に、実行行為と結果の間に法的に意味のある因果関係が認められるか。
実行行為 → [条件関係] → [法的因果関係] → 結果
学説の展開
条件説
条件関係があれば因果関係を認める見解。処罰範囲が広すぎるとの批判がある。
相当因果関係説
立場 判断基底 主観説 行為者が認識・予見した事情 客観説 行為時に客観的に存在した全事情+行為後の一般人が予見可能な事情 折衷説(通説) 行為時に一般人が認識可能な事情+行為者が特に認識していた事情危険の現実化説(判例の現在の立場)
実行行為の持つ危険性が結果として現実化したかを判断基準とする。
判断要素 内容 実行行為の危険性 行為自体が結果発生の現実的危険を有するか 介在事情の異常性 介在事情がどの程度異常か 介在事情の結果への寄与度 介在事情が結果にどの程度寄与したか 実行行為の寄与の持続 実行行為の危険が結果発生まで持続したか介在事情の類型別処理
類型1:被害者の行為が介在
判例 事案 因果関係 大阪南港事件(最決平2.11.20) 暴行後、第三者が追い打ち暴行。死因は第一暴行による傷害 肯定 高速道路侵入事件(最決平15.7.16) 監禁から逃れるため高速道路に飛び出し死亡 肯定 熊撃ち事件 暴行を受けた被害者が逃走中に崖から転落 事案による類型2:第三者の行為が介在
判例 事案 因果関係 大阪南港事件 第三者の暴行が介在したが、死因は被告人の暴行 肯定 夜間潜水事件(最決平4.12.17) 指導者の過失ある指導中に受講者が潜水事故死 肯定類型3:被害者の特殊事情
判例 事案 因果関係 脳梅毒事件 被害者に脳梅毒の持病があり暴行で死亡 肯定 被害者の高齢・持病 通常より結果が重大化 原則肯定類型4:医師の過誤が介在
判例 事案 因果関係 暴行→搬送先での医療過誤→死亡 医療過誤が重大でも、暴行による傷害が死因に寄与 原則肯定重要判例の詳細分析
大阪南港事件(最決平2.11.20)
項目 内容 事案 被告人が被害者に暴行→瀕死状態で放置→第三者が追い打ち暴行→死亡。死因は被告人の暴行による内因性高血圧性橋脳出血 判旨 被告人の暴行が死因を形成し、第三者の暴行は死期を若干早めたにすぎない場合、因果関係は肯定される 意義 介在事情が結果を早めたにすぎない場合の処理基準を提示高速道路侵入事件(最決平15.7.16)
項目 内容 事案 被告人らの暴行・監禁から逃れるため被害者が高速道路に進入し、走行車両に衝突されて死亡 判旨 被害者の行動が被告人らの暴行から逃れるためにやむなくとった行動であり、その行動が被告人らの暴行に起因する以上、因果関係を肯定できる 意義 被害者の行為が介在しても、実行行為の危険が現実化したと評価できる場合に因果関係を肯定因果関係の錯誤
早すぎた構成要件の実現
第1行為で結果が発生したが、行為者は第2行為で結果を発生させるつもりだった場合。
- 例:殺害後に海に投棄するつもりが、首を絞めた時点で死亡していた
- 因果関係の錯誤が故意を阻却するかが問題
遅すぎた構成要件の実現
行為後に予想外の経緯で結果が発生した場合。
- 例:殴打して気絶させた後、死んだと思って投棄したところ、溺死した
- 因果経過の錯誤が重要でない限り故意は阻却されない
まとめ
- 因果関係は条件関係を前提に法的因果関係を判断する
- 判例は危険の現実化説を採用し、実行行為の危険が結果に現実化したかを判断
- 介在事情の処理は異常性と結果への寄与度がポイント
- 被害者の行為が介在しても、行為者の行為に起因する場合は因果関係肯定
- 因果関係の錯誤は故意の問題として処理される
FAQ
Q1. 危険の現実化説と相当因果関係説の実質的な違いは?
相当因果関係説は「一般人の予見可能性」を基準とするのに対し、危険の現実化説は「実行行為の危険性の結果への現実化」を直接判断します。後者はより事実に即した判断を可能にします。
Q2. 条件関係は常に必要ですか?
通説は条件関係を因果関係の最低限の要件としていますが、択一的競合(AとBがそれぞれ致死量の毒を投与し、合わさって死亡した場合)で条件関係の修正が議論されています。
Q3. 答案での因果関係の書き方は?
実行行為の危険性を指摘→介在事情の異常性を検討→実行行為の危険が結果に現実化したかを評価、という流れが基本です。