指名委員会等設置会社と監査等委員会設置会社の比較――3つの機関設計を体系整理
監査役会設置会社・指名委員会等設置会社・監査等委員会設置会社の3類型を比較表で整理。各機関の権限・構成・社外取締役の役割を解説します。
この記事のポイント
株式会社の機関設計には、監査役会設置会社・指名委員会等設置会社・監査等委員会設置会社の3つの基本類型がある。指名委員会等設置会社は3つの委員会と執行役を置くモニタリング型の機関設計であり、監査等委員会設置会社は監査等委員である取締役が取締役会の構成員として監督機能を果たす折衷的な機関設計である。令和元年改正により社外取締役の設置が義務化され、いずれの類型においてもガバナンスの実効性確保が重要な課題となっている。本稿では、3類型の定義・要件・論点・判例・あてはめ・比較表・答案の書き方・FAQまでを体系的に整理し、短答・論文の双方で得点できる水準まで知識を引き上げることを目的とする。
3つの機関設計の全体像
なぜ3類型を区別する必要があるのか
会社法における「機関設計」とは、株式会社の意思決定・業務執行・監督監査をどの機関に担わせるかという組織設計のことをいう。会社法は、会社の規模(大会社か否か)と公開性(公開会社か否か)に応じて、設置すべき機関の組み合わせを定めている(326条以下)。とりわけ大規模な公開会社では、所有と経営が分離し、株主が経営者を直接監視することが困難になるため、第三者的立場から経営を監督・監査する仕組みが不可欠となる。この監督監査機能をどのような機関に担わせるかという点で、日本の会社法は歴史的に3つの異なる解答を用意してきた。これが3類型である。
機関設計の問題は、コーポレート・ガバナンス(企業統治)論と直結する。すなわち、経営者の暴走や不正をいかに防ぎ、株主をはじめとするステークホルダーの利益を保護するかという実質的課題に対する、制度的な回答が機関設計なのである。試験対策上は条文の暗記に偏りがちだが、各類型が「監督と業務執行の分離をどこまで徹底するか」という一本の軸の上に並んでいることを理解すると、知識が一気に整理される。
沿革――なぜ3類型が並立するのか
3類型は同時に生まれたものではなく、ガバナンス強化の要請に応じて段階的に追加されてきた歴史的産物である。もともと日本の株式会社は監査役制度を中核とする一元的な仕組みであったが、相次ぐ企業不祥事を背景に監査役の権限が累次の改正で強化され、大会社では監査役会・社外監査役の設置が求められるに至った。これが監査役会設置会社の系譜である。次いで、グローバルな投資家から「取締役会による経営者の監督機能が弱い」との批判を受け、アメリカ型の委員会制度を範とする委員会等設置会社(現・指名委員会等設置会社)が平成14年に導入された。しかしその硬さゆえ普及せず、社外取締役活用の実効性を高めつつ導入障壁を下げる中間形態として、平成26年改正で監査等委員会設置会社が創設された。このように、3類型は「監督機能をいかに実効的に組み込むか」という共通課題への、時代ごとの異なる解答の積層なのである。沿革を理解すると、各類型の制度趣旨の違いが腑に落ちやすい。
大規模公開会社の機関設計
大規模な公開会社(監査役会設置義務のある会社)は、以下の3類型のいずれかを選択する必要がある。
- 監査役会設置会社(伝統的な日本型ガバナンス)
- 指名委員会等設置会社(平成14年商法改正で導入、旧:委員会設置会社)
- 監査等委員会設置会社(平成26年改正で導入)
これらは互いに排他的な関係にあり、併存することはできない(327条4項・5項)。すなわち、指名委員会等設置会社および監査等委員会設置会社は監査役を置いてはならず(327条4項)、指名委員会等設置会社と監査等委員会設置会社を同時に採用することもできない(327条6項)。これは、各類型が監督監査機能を担う中核機関を異にしており、それらを併存させると権限の重複や責任の所在の不明確化を招くためである。
3類型の基本比較表
| 項目 | 監査役会設置会社 | 指名委員会等設置会社 | 監査等委員会設置会社 |
|---|---|---|---|
| 監査役 | 必置 | 設置不可 | 設置不可 |
| 取締役会 | 必置 | 必置 | 必置 |
| 会計監査人 | 大会社では必置 | 必置 | 必置 |
| 執行役 | なし | 必置 | なし |
| 委員会 | なし | 指名・監査・報酬の3委員会 | 監査等委員会のみ |
| 社外取締役 | 令和元年改正で義務化 | 各委員会の過半数 | 監査等委員の過半数 |
| 取締役任期 | 2年(短縮可) | 1年 | 監査等委員2年・その他1年 |
| 導入時期 | 旧来型 | 平成14年 | 平成26年 |
この表を縦に眺めると、会計監査人がいずれの委員会型でも必置であること、執行役は指名委員会等設置会社にのみ存在すること、委員会の数が3→1と減っていく折衷性が見えてくる。横に眺めると、各類型が監督主体・社外者要件・任期において一貫した思想を持っていることが分かる。
監査役会設置会社
機関構成
- 取締役会 + 監査役会 + 会計監査人(大会社の場合)
- 日本の上場企業で最も多く採用されてきた伝統的な機関設計
監査役会設置会社は、業務執行の意思決定を取締役会に委ね、その執行と意思決定の適法性・妥当性を監査役(会)が独立の立場から監査するという二元的な構造をとる。取締役会と監査役会が車の両輪のように機能することが想定されている。
監査役会の構成
- 監査役は3人以上で、その半数以上が社外監査役(335条3項)
- 監査役は常勤監査役を互選で選定する(390条3項)
- 監査役の任期は4年(336条1項)で、短縮不可
ここで「半数以上」という要件に注意が必要である。委員会型が「過半数」を要求するのに対し、監査役会では「半数以上」で足りる。たとえば監査役3名なら社外監査役は2名(過半数)ではなく、計算上は1.5名以上すなわち2名が必要となるが、4名なら2名でよい。「半数以上」と「過半数」の使い分けは短答式で頻出の引っかけポイントである。
監査役の権限
- 業務監査権(381条1項):取締役の職務執行を監査
- 会計監査権(381条1項)
- 取締役会出席義務・意見陳述義務(383条1項)
- 違法行為差止請求権(385条1項)
- 取締役会招集請求権(383条2項・3項)
- 株主総会提出議案等の調査・報告義務(384条)
監査役の監査は、原則として適法性監査(取締役の職務執行が法令・定款に違反していないかの監査)に及び、妥当性監査(経営判断の当否の監査)には及ばないと解されている。これは、妥当性の判断は経営の領域に属し、監査役が立ち入るべきではないという考え方に基づく。
特徴と課題
- 監査役は取締役会の構成員ではないため、議決権がなく、経営意思決定への直接的関与が限定的
- 社外監査役の独立性確保が実務上の課題
- 監査役は取締役会への出席・意見陳述はできるが、議決には加われないため、監督機能の実効性に限界があると指摘されてきた
この「議決権の有無」は3類型を区別する決定的なメルクマールである。監査役は議決権を持たない外部監視者であるのに対し、委員会型の監査委員・監査等委員は取締役そのものであり議決権を有する。この一点が、日本型ガバナンスから欧米型モニタリング・モデルへの転換の核心である。
指名委員会等設置会社
制度趣旨
業務執行と監督の分離(モニタリング・モデル)を徹底し、取締役会は経営の基本方針の決定と執行役の監督に専念する機関設計である。アメリカ型の取締役会制度を参考に、平成14年商法改正で「委員会等設置会社」として導入され、その後「委員会設置会社」を経て、平成26年改正で「指名委員会等設置会社」と名称が変更された。
取締役会から業務執行を切り離して執行役に委ね、取締役会自体は「経営を行う場」ではなく「経営者を監督する場」と位置づける点に最大の特徴がある。
機関構成
- 取締役会 + 指名委員会・監査委員会・報酬委員会 + 執行役 + 会計監査人
- 監査役は設置不可(327条4項)
3つの委員会
| 委員会 | 構成 | 主な権限 |
|---|---|---|
| 指名委員会 | 取締役3人以上(過半数が社外取締役)(400条) | 株主総会に提出する取締役の選解任議案の内容を決定(404条1項) |
| 監査委員会 | 取締役3人以上(過半数が社外取締役)(400条) | 執行役・取締役の職務執行の監査、監査報告の作成(404条2項) |
| 報酬委員会 | 取締役3人以上(過半数が社外取締役)(400条) | 取締役・執行役の個人別の報酬等の内容を決定(404条3項) |
3委員会はいずれも取締役3人以上で構成され、その過半数が社外取締役でなければならない(400条1項・3項)。重要なのは、これらの委員会の決定が取締役会によって覆されないという点である。たとえば指名委員会が決定した選解任議案の内容は、取締役会の決議によっても変更できない。これにより、社外取締役主導の人事・報酬決定が制度的に担保され、経営トップが自らの人事や報酬を恣意的に決める「お手盛り」を防止している。
委員の資格制限
- 監査委員は、当該会社の執行役・業務執行取締役・支配人その他の使用人を兼ねることができない(400条4項)
- 指名委員会・報酬委員会の委員にはこのような兼任禁止規定はない
この差異の理由は、監査委員が「監査する側」であり、「監査される側」である執行役等を兼ねると自己監査になってしまうためである。指名・報酬委員会にはこのような自己監査の構造的問題が生じないため、兼任禁止規定がない。
執行役と代表執行役
- 執行役(402条)は業務の執行を行う
- 取締役会の決議により代表執行役を選定する(420条1項)
- 執行役は取締役を兼ねることができる(402条6項)
- 取締役会は業務執行の決定を大幅に執行役に委任できる(416条4項)
- 執行役の任期は1年(402条7項)
執行役は、取締役会から委任を受けた業務執行の決定および業務の執行を行う機関である。日本の他の機関設計には存在しない、指名委員会等設置会社に固有の機関であり、これがあるかないかが指名委員会等設置会社を一目で識別する指標となる。代表執行役は対外的に会社を代表する(420条3項・349条準用)。
取締役会の権限の特徴
指名委員会等設置会社の取締役会は、以下の事項を除き、業務執行の決定を執行役に委任することができる(416条4項)。
- 経営の基本方針の決定
- 内部統制システムの決定
- 委員会の委員・執行役・代表執行役の選定解職
- その他法定事項
このように業務執行の決定権限を大幅に執行役へ委任できるため、取締役会は迅速な経営判断を執行役に委ねつつ、自らはその監督に専念できる。これがモニタリング・モデルの実装である。なお、取締役の任期は1年に短縮されており(332条6項)、毎年の株主総会で信任を問う仕組みになっている。
監査等委員会設置会社
制度趣旨
平成26年改正で導入された、監査役会設置会社と指名委員会等設置会社の折衷型の機関設計である。3つの委員会ではなく監査等委員会のみを置くことで、導入のハードルを下げつつ、社外取締役による監督機能の強化を図るものである。
指名委員会等設置会社は、指名・報酬まで社外取締役主導で決定されるため日本企業に敬遠され、導入が進まなかった。そこで、社外取締役の活用というガバナンス強化の要請に応えつつ、指名・報酬の決定権限までは社外者に委ねない、いわば「使いやすい」中間形態として設計されたのが監査等委員会設置会社である。導入後、上場企業の採用が急速に進み、現在では監査役会設置会社に次ぐ採用数となっている。
機関構成
- 取締役会 + 監査等委員会 + 会計監査人
- 監査役は設置不可(327条4項)
- 執行役は置かない
監査等委員会の構成と権限
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 構成 | 取締役3人以上で、その過半数が社外取締役(331条6項) |
| 任期 | 監査等委員である取締役は2年、それ以外は1年(332条3項・4項) |
| 監査権限 | 取締役の職務の執行の監査(399条の2第3項1号) |
| 選定方法 | 監査等委員である取締役は、それ以外の取締役と区別して株主総会で選任(329条2項) |
| 選解任の意見 | 監査等委員である取締役の選解任・辞任について意見陳述権(342条の2第1項・2項) |
| 株主総会での意見 | 監査等委員以外の取締役の選解任・報酬について株主総会で意見を述べることができる(342条の2第4項・361条6項) |
監査等委員である取締役は、株主総会の段階から他の取締役と区別して選任される(329条2項)。これにより、監査等委員の地位の独立性が確保される。また、監査等委員である取締役の解任は株主総会の特別決議による(344条の2第3項・309条2項7号)。これは、容易に解任されないことで監査の独立性を担保する趣旨である。
監査等委員会の「等」の意味
監査等委員会の名称にある「等」は、単なる監査にとどまらず、取締役の選解任・報酬についての意見陳述権という、指名委員会・報酬委員会の機能の一部を担うことを示している。すなわち、指名委員会・報酬委員会を設置しない代わりに、監査等委員会が株主総会の場でこれらについて意見を述べることで、間接的に人事・報酬への牽制を効かせる仕組みである。決定権ではなく意見陳述権にとどまる点が、指名委員会等設置会社との決定的な違いである。
監査等委員会設置会社の取締役会の権限
- 取締役の過半数が社外取締役である場合、又は定款で定めた場合には、重要な業務執行の決定を取締役に委任することができる(399条の13第5項・6項)
- これにより、指名委員会等設置会社に近いモニタリング型のガバナンスが実現可能
- 委任しない場合は、監査役会設置会社に近いマネジメント型の運用も可能
この「委任できる」という柔軟性が監査等委員会設置会社の使い勝手の良さを支えている。執行役という別個の機関を置かずとも、代表取締役・業務執行取締役に業務執行を委ねつつ、社外取締役過半数の監査等委員会が監督する体制を構築できる。
3つの機関設計の詳細比較
監督・監査の仕組み
| 比較項目 | 監査役会設置 | 指名委員会等設置 | 監査等委員会設置 |
|---|---|---|---|
| 監督の主体 | 監査役会 | 3委員会(特に監査委員会) | 監査等委員会 |
| 議決権の有無 | 監査役に取締役会での議決権なし | 委員は取締役として議決権あり | 監査等委員は取締役として議決権あり |
| 業務執行者の選解任 | 取締役会が決定 | 指名委員会が議案決定 | 取締役会が決定(意見陳述権あり) |
| 報酬の決定 | 株主総会で決定 | 報酬委員会が個人別に決定 | 株主総会で決定(意見陳述権あり) |
| 常勤者の要否 | 常勤監査役必置 | 常勤の監査委員は任意 | 常勤の監査等委員は任意 |
| 業務執行の担い手 | 代表取締役・業務執行取締役 | 執行役・代表執行役 | 代表取締役・業務執行取締役 |
社外者の要件
| 比較項目 | 監査役会設置 | 指名委員会等設置 | 監査等委員会設置 |
|---|---|---|---|
| 社外者の必要数 | 社外監査役:半数以上 | 各委員会:過半数が社外取締役 | 過半数が社外取締役 |
| 社外取締役の義務 | 令和元年改正で1名以上必置(327条の2) | 各委員会に過半数 | 過半数 |
| 監督者の地位 | 取締役会の構成員でない | 取締役会の構成員 | 取締役会の構成員 |
任期の比較(頻出ポイント)
| 役職 | 監査役会設置 | 指名委員会等設置 | 監査等委員会設置 |
|---|---|---|---|
| 取締役 | 2年(定款・総会で短縮可) | 1年(短縮不可の方向) | (監査等委員以外)1年 |
| 監査役・監査委員・監査等委員 | 監査役4年(短縮不可) | 監査委員は取締役として1年 | 監査等委員は2年 |
| 執行役 | ― | 1年 | ― |
任期は短答式で極めてよく問われる。整理のコツは、「監督・監査を担う者の任期は長め(独立性のため)、業務執行を担う者の任期は短め(毎年信任を問うため)」という発想である。監査役4年、監査等委員2年は独立性確保のため長く、指名委員会等設置会社の取締役・執行役1年は機動的な信任のため短い。
令和元年改正の影響
社外取締役の設置義務化(327条の2)
- 上場会社等(監査役会設置会社で公開会社かつ大会社であって有価証券報告書提出義務のある会社)は、社外取締役を置かなければならない
- 改正前は「置くことが相当でない理由」の説明義務(コンプライ・オア・エクスプレイン)にとどまっていた
- この改正により、監査役会設置会社においても社外取締役によるガバナンス強化が図られた
改正前は、社外取締役を置かない場合に株主総会でその理由を説明すれば足りるという「説明責任型」の規律であったが、改正により一定の会社では設置そのものが強制される「義務型」へと転換した。これは、社外取締役の有用性が広く認識され、コーポレートガバナンス・コードによる事実上の要請も相まって、もはや任意に委ねるべき段階を過ぎたという判断による。
業務執行の社外取締役への委託(348条の2)
- 令和元年改正で、会社と取締役との利益相反状況における業務執行を社外取締役に委託できる規定が新設された
- 社外取締役の活用範囲が拡大
社外取締役は本来「業務を執行しない取締役」として独立性を保つことが社外性の要件(2条15号)であるが、MBO(経営陣による買収)の場面など、会社と経営陣の利益が相反する局面では、むしろ社外取締役が交渉を主導することが望ましい。そこで、取締役会の決議により業務執行を社外取締役に委託しても、その限りで社外性を失わないこととした(セーフ・ハーバー・ルール)。これにより社外取締役の機能的活用が制度的に後押しされた。
具体例・あてはめで理解する
設例1:機関設計の選択
製造業を営む上場会社A社(公開会社かつ大会社)が、迅速な経営判断と社外取締役による監督強化の両立を望んでいるとする。この場合、A社が指名委員会等設置会社を選べば、執行役への大幅な権限委任により機動的な業務執行が可能となる一方、指名・報酬まで社外取締役主導となるため経営陣の抵抗が予想される。これに対し監査等委員会設置会社を選べば、取締役の過半数を社外取締役とするか定款で定めることで重要な業務執行の決定を取締役に委任でき、かつ指名・報酬の最終決定権は取締役会・株主総会に残るため、経営陣にとって受け入れやすい。実務上、後者が広く選択されている理由がここにある。
設例2:監査委員と監査等委員の兼任の可否
指名委員会等設置会社の監査委員Bが、同社の業務執行取締役を兼ねることはできるか。これは400条4項に反し許されない。監査する側が監査される側を兼ねれば自己監査となり、監査の客観性が失われるからである。一方、指名委員会の委員Cが業務執行取締役を兼ねることは禁止されていない。このように、委員会ごとに兼任禁止の有無が異なる点を設例で確認しておくとよい。
設例3:監査等委員の解任
監査等委員会設置会社で、経営陣が自らに批判的な監査等委員Dを排除しようと考えた場合、Dを解任するには株主総会の特別決議が必要である(344条の2第3項)。通常の取締役の解任が普通決議で足りる(341条参照)のと異なり、加重された要件により監査等委員の地位の安定と監査の独立性が守られている。あてはめでは、この決議要件の違いを指摘できるかが分かれ目となる。
設例4:執行役による業務執行の委任の限界
指名委員会等設置会社E社の取締役会が、重要な財産の処分を含むほぼすべての業務執行の決定を執行役Fに委任する旨を決議したとする。これは原則として適法である。指名委員会等設置会社の取締役会は、416条4項により、経営の基本方針・内部統制システムの整備・委員会委員や執行役の選定解職など法定の専権事項を除き、業務執行の決定を執行役に大幅に委任できるからである。監査役会設置会社では「重要な財産の処分及び譲受け」等の重要事項を取締役に委任できない(362条4項)のと対照的であり、この委任可能範囲の広狭がモニタリング・モデルの特徴を端的に表している。なお、専権事項にまで踏み込んで委任した部分は、その限度で無効と解される。
設例5:監査等委員会設置会社における委任の前提条件
監査等委員会設置会社G社が、重要な業務執行の決定を個々の取締役に委任したいと考えている。この委任が認められるためには、(1)取締役の過半数が社外取締役であること、又は(2)定款にその旨の定めがあること、のいずれかが必要である(399条の13第5項・6項)。G社の社外取締役が取締役全体の過半数に満たない場合、定款変更(特別決議)をしない限り重要な業務執行の決定を委任できず、取締役会で決定しなければならない。この前提条件を見落とすと、委任の効力に関するあてはめを誤る。
答案での書き方
論文式試験での頭の使い方
機関設計が問われる論文問題では、まず当該会社がどの機関設計を採用しているかを問題文から正確に拾うことが出発点となる。「執行役」「代表執行役」という語が出てきたら指名委員会等設置会社、「監査等委員である取締役」とあれば監査等委員会設置会社、「監査役会」とあれば監査役会設置会社である。この識別を誤ると、適用すべき条文体系がまるごとずれてしまうため、最初の事実認定が決定的に重要である。
答案構成の型
典型的な答案の流れは次のとおりである。
- 機関設計の特定:問題文の事実から類型を確定し、適用条文群を示す。
- 問題となる権限・手続の特定:誰が・どの機関が・何を決定/監査する権限を持つかを条文に即して摘示する。
- 要件のあてはめ:員数要件(過半数・半数以上)、社外性要件(2条15号・16号)、決議要件(普通決議・特別決議)を一つずつ検討する。
- 結論と評価:手続の適法性・効力を結論づけ、ガバナンス上の趣旨に立ち返って評価する。
答案で使える一文の例
「本件会社は監査等委員である取締役を置く旨を定款で定めている(326条2項)から監査等委員会設置会社であり、監査役を置くことはできない(327条4項)。監査等委員会は取締役3人以上でその過半数が社外取締役でなければならず(331条6項)、監査等委員である取締役は他の取締役と区別して株主総会で選任される(329条2項)。」――このように、類型の特定→必置/設置不可→構成要件、という順で条文を連ねると、知識の正確さが伝わる答案になる。
よくある失点パターン
- 「過半数」と「半数以上」を取り違える(監査役会は半数以上、委員会型は過半数)。
- 監査役に取締役会での議決権があると誤記する(監査役に議決権はない)。
- 指名委員会等設置会社で監査役を置けると誤る(327条4項違反で不可)。
- 監査等委員の解任を普通決議と誤る(特別決議が必要)。
- 執行役を監査役会設置会社や監査等委員会設置会社に置けると誤る(執行役は指名委員会等設置会社固有)。
関連判例
- 最決平19.8.7(ブルドックソース事件):買収防衛策の発動と株主平等原則・取締役会の権限行使の適法性が問題となった事案。機関の権限行使の限界を考える素材となる。
- 最判平22.7.15(アパマンショップHD株主代表訴訟事件):取締役の善管注意義務と経営判断原則。業務執行の決定に関する取締役の責任の枠組みを示した重要判例で、機関設計ごとの業務執行者の責任論と結びつく。
- 最判平21.11.27:監査役の解任に「正当な理由」がない場合の損害賠償(339条2項関連)。監査役の地位の保障に関わる。
- 最判平20.1.28(ニッポン放送事件等の周辺):取締役の善管注意義務の範囲に関する議論の素材。
判例は条文の番号・趣旨が問われることが多いため、事件名と判旨の核心をセットで押さえておくとよい。番号が不確実な場合は条文趣旨の説明に重心を置き、誤った番号を書かないことが答案戦略上は安全である。
FAQ(よくある疑問)
Q1. 監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社の最大の違いは何か。
A. 指名・報酬の決定権の所在である。指名委員会等設置会社では指名委員会・報酬委員会が選解任議案・個人別報酬を「決定」するのに対し、監査等委員会設置会社にはこれらの委員会がなく、監査等委員会は選解任・報酬について株主総会で「意見を述べる」にとどまる。決定権か意見陳述権か、という違いが核心である。
Q2. なぜ監査等委員会設置会社の方が多く採用されているのか。
A. 指名・報酬の決定権を社外者主導の委員会に渡さずに済み、執行役という新たな機関も不要で、既存の取締役会の延長線上で社外取締役過半数の監査機関を組成できるため、導入のハードルが低いからである。ガバナンス強化と経営陣の受容性のバランスがよい。
Q3. 3類型はいつでも変更できるのか。
A. 機関設計は定款で定める事項であり(326条2項)、定款変更(株主総会の特別決議、466条・309条2項11号)により他の類型へ移行できる。実務でも監査役会設置会社から監査等委員会設置会社への移行が多くみられる。
Q4. 社外取締役と社外監査役の要件は同じか。
A. 異なる。社外取締役の要件は2条15号、社外監査役の要件は2条16号に定められており、過去・現在の会社との関係(業務執行者でないこと、一定の近親者でないこと等)について各別に規定されている。混同しないよう、号数とともに区別して覚える。
Q5. 監査委員・監査等委員に常勤者は必要か。
A. いずれも常勤者の選定は法律上義務づけられていない(監査役会の常勤監査役必置〔390条3項〕とは異なる)。ただし実務上は常勤の監査(等)委員を置く例も多い。「常勤者必置か否か」は短答で問われやすい。
Q6. 会計監査人は3類型すべてで必置か。
A. 指名委員会等設置会社と監査等委員会設置会社では会計監査人が必置である(327条5項)。監査役会設置会社では、大会社である場合に必置となる(328条1項)。委員会型は規模を問わず会計監査人が必須である点に注意。
Q7. 監査委員会・監査等委員会の監査は、監査役の監査とどう違うのか。
A. 監査役監査が、独立の機関である監査役が個々に職務を執行する「独任制」を基礎とするのに対し、監査委員会・監査等委員会の監査は会議体としての委員会が組織的に行う「組織監査」である点に本質的な違いがある。委員会型では、内部統制システムを通じて執行部門から情報を吸い上げ、委員会が組織的に監督するモデルが想定されている。そのため、委員会型では常勤者が必須とされていないのである。また、監査委員・監査等委員は取締役として取締役会の議決に加わり、取締役会の監督機能と一体化している点も、議決権を持たない監査役との大きな違いである。
Q8. 指名委員会等設置会社の取締役は業務執行できるのか。
A. 原則として取締役は業務執行をせず、業務執行は執行役が担う(415条)。取締役は執行役を兼ねることはできるが(402条6項)、取締役の地位そのものとしては業務執行権を持たない。これが「業務執行と監督の分離」を制度化したモニタリング・モデルの核心であり、取締役会は監督に専念する建付けになっている。
Q9. どの類型でも株主代表訴訟は提起できるのか。
A. 株主代表訴訟(847条)は機関設計の類型を問わず提起できる。ただし、提訴請求の宛先や手続において、監査役設置会社では監査役、指名委員会等設置会社では監査委員、監査等委員会設置会社では監査等委員が会社を代表して対応するなど、監査担当機関の違いに応じた読み替えがある(386条、399条の7、408条等)。誰が会社を代表するかは類型ごとに確認が必要である。
試験対策での位置づけ
機関設計の比較は、会社法の中でも短答式試験の超頻出分野であり、論文式でも事案の前提として頻繁に現れる。
- 3つの機関設計の名称と基本構造を正確に区別できるようにする。
- 社外取締役・社外監査役の員数要件(過半数か半数以上か)は特に間違えやすいポイント。
- 指名委員会等設置会社における3委員会の権限の違いと、各委員会決定の取締役会による変更不可を正確に把握する。
- 監査等委員会設置会社の取締役の任期の差異(監査等委員は2年、それ以外は1年)に注意。
- 執行役の有無は類型識別の最速の手がかりであり、答案の冒頭で活用する。
- 論文式試験では、機関設計の選択と関連付けて取締役の責任や株主総会決議の瑕疵、利益相反取引が問われることがある。
まとめ
3つの機関設計は、監督と業務執行の分離の度合いという観点から段階的に整理することができる。監査役会設置会社は監査役が業務執行とは独立に監査を行う伝統型、指名委員会等設置会社は業務執行と監督を完全に分離するモニタリング型、監査等委員会設置会社はその中間に位置する折衷型である。識別の最速の指標は「執行役の有無」と「監査主体が議決権を持つか否か」であり、ここから条文体系全体にアクセスできる。令和元年改正による社外取締役の設置義務化(327条の2)と業務執行の社外取締役への委託(348条の2)により、いずれの類型においても社外者によるガバナンス機能の強化が進んでいる。各機関設計の構成・権限・社外者要件・任期の違いを比較表で整理し、設例によるあてはめと答案の型まで含めて反復しておくことが、短答・論文双方を制する鍵となる。
科目を選び、肢別演習で知識を確かめられます。