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配偶者居住権の制度設計

配偶者居住権と配偶者短期居住権の要件・効果を解説。2018年相続法改正で新設された1028条以下の制度設計、登記の対抗力、遺産分割での評価方法を整理します。

この記事のポイント

2018年相続法改正により、配偶者居住権(1028条〜1036条)及び配偶者短期居住権(1037条〜1041条)が新設された。配偶者居住権は、被相続人の配偶者が相続開始時に居住していた建物に終身又は一定期間居住し続けることができる権利であり、遺産分割において配偶者の居住の保護と他の財産の取得を両立させる制度である。


配偶者居住権の新設の背景

旧法下の問題

旧法下では、配偶者が居住建物を取得すると、その評価額が大きいため、預貯金等の他の遺産をほとんど取得できないという問題があった。

具体例: 遺産が自宅(2000万円)と預貯金(2000万円)の場合

旧法 配偶者 子 自宅を取得 自宅2000万円 預貯金2000万円 預貯金 0円 ―

配偶者は自宅に住み続けられるが、生活資金を確保できないという問題が生じていた。

改正による解決

配偶者居住権を利用することで、以下のような遺産分割が可能となる。

改正法 配偶者 子 配偶者居住権 1000万円 ― 所有権(負担付き) ― 1000万円 預貯金 1000万円 1000万円

配偶者は居住を継続しつつ、預貯金も取得できる。


配偶者居住権の要件

成立要件(1028条1項)

配偶者居住権が成立するためには、以下の要件を満たす必要がある。

  1. 被相続人の配偶者であること
  2. 相続開始の時に被相続人の財産に属した建物に居住していたこと
  3. 以下のいずれかに該当すること
    • 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき(1号)
    • 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき(2号)

家庭裁判所の審判による取得(1029条)

遺産分割の請求を受けた家庭裁判所は、以下の場合に配偶者居住権の取得を定めることができる。

  • 共同相続人間に配偶者居住権の取得についての合意が成立しているとき(1号)
  • 配偶者が配偶者居住権の取得を希望し、居住建物の所有者の受ける不利益を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき(2号)

除外される場合

被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合には、配偶者居住権は成立しない(1028条1項ただし書)。


配偶者居住権の効果

存続期間

配偶者居住権の存続期間は、原則として配偶者の終身の間である(1030条本文)。ただし、遺産分割協議、遺言又は家庭裁判所の審判により、別段の定めをすることができる(同条ただし書)。

使用収益権

  • 配偶者は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって居住建物の使用及び収益をする(1032条1項)
  • 配偶者居住権は譲渡することができない(1032条2項)
  • 居住建物の所有者の承諾を得なければ、増改築や第三者への使用収益をさせることができない(1032条3項)

修繕等

  • 配偶者は居住建物の使用及び収益に必要な修繕をすることができる(1033条1項)
  • 居住建物の修繕が必要である場合に配偶者が相当の期間内に修繕しないときは、所有者が修繕できる(1033条2項)

費用負担

  • 配偶者は居住建物の通常の必要費を負担する(1034条1項)
  • 通常の必要費以外の費用(有益費等)については、所有者の負担とし、196条が準用される(1034条2項)

登記と対抗力

登記請求権

居住建物の所有者は、配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負う(1031条1項)。

対抗力

配偶者居住権の登記をしたときは、居住建物について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる(1031条2項、605条準用)。

登記がなければ、居住建物が第三者に譲渡された場合に配偶者居住権を対抗できないため、登記は実務上極めて重要である。


配偶者居住権の消滅

配偶者居住権は、以下の事由により消滅する。

消滅事由 条文 存続期間の満了 1030条 配偶者の死亡 1036条・597条3項準用 居住建物の全部滅失 1036条・616条の2準用 用法違反等による消滅請求 1032条4項 配偶者による放棄 ―

消滅時には、配偶者は居住建物の返還義務を負う。ただし、配偶者が居住建物について共有持分を有する場合は、所有者は共有に基づく返還請求ができない(1035条2項)。


配偶者短期居住権(1037条〜1041条)

制度趣旨

配偶者短期居住権は、遺産分割が完了するまでの間等、配偶者の短期的な居住を保護する制度である。

要件

  • 被相続人の配偶者が、相続開始の時に被相続人の財産に属した建物に無償で居住していたこと(1037条1項)
  • 配偶者居住権とは異なり、被相続人との共有の場合も成立する

存続期間

場合 存続期間 居住建物が遺産分割の対象となる場合 遺産分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から6か月を経過する日のいずれか遅い日(1037条1項1号) 上記以外の場合(遺贈等) 居住建物取得者が配偶者短期居住権の消滅を申し入れた日から6か月を経過する日(1037条1項2号)

配偶者居住権との比較

項目 配偶者居住権 配偶者短期居住権 成立要件 遺産分割・遺贈 相続開始時の無償居住 存続期間 終身(原則) 6か月程度 登記 可能(対抗力あり) 不可 譲渡 不可 不可 収益権 あり なし 第三者対抗力 あり(登記) なし

遺産分割における評価方法

配偶者居住権の評価額は、居住建物及びその敷地の価額から、配偶者居住権付きの所有権の価額を控除して算定される。

評価の考慮要素は以下の通りである。

  • 建物の固定資産税評価額
  • 建物の耐用年数と築年数
  • 配偶者の年齢(平均余命)
  • 法定利率による現在価値への割引

試験対策での位置づけ

配偶者居住権は、2018年相続法改正の中核的制度であり、論文式試験での出題可能性が高い。

特に押さえるべきポイントは以下の通りである。

  • 配偶者居住権の成立要件(特に共有建物の除外)
  • 登記の対抗力と登記請求権
  • 配偶者居住権と配偶者短期居住権の比較
  • 遺産分割における配偶者居住権の評価方法
  • 配偶者居住権の消滅事由

関連判例

  • 最判平成8年12月17日: 相続開始後の配偶者の居住利益(改正前の判例法理)
  • 東京高決令和3年1月21日: 配偶者居住権の評価に関する裁判例

まとめ

配偶者居住権は、高齢化社会における配偶者の居住保護と遺産分割の公平を両立させるために新設された制度である。配偶者が居住を継続しつつ他の財産も取得できるという実務的メリットは大きく、遺産分割実務に大きな変化をもたらしている。配偶者短期居住権とあわせて、その要件・効果を正確に理解することが重要である。

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