【判例】義務付け訴訟の要件(最判平24.2.9)
義務付け訴訟の要件に関する判例を解説。申請型義務付け訴訟と非申請型義務付け訴訟の区別、訴訟要件と本案勝訴要件を分析します。
この判例のポイント
義務付け訴訟は2004年の行政事件訴訟法改正により導入された訴訟類型であり、申請型と非申請型の二類型がある。非申請型義務付け訴訟(行訴法3条6項1号)は、一定の処分がなされないことにより「重大な損害を生ずるおそれ」があり、かつ「他に適当な方法がないとき」に限り提起できる。 判例は、この訴訟要件の解釈を通じて義務付け訴訟の射程を画定してきた。
そして、義務付け訴訟を理解するうえで受験生が最もつまずきやすいのが、「訴訟要件」と「本案勝訴要件」の二段構造である。義務付け訴訟は、まず「その訴えを起こしてよいか」(訴訟要件)を満たして門前払いを免れ、そのうえで「裁判所が行政庁に処分を命じてよいか」(本案勝訴要件=本案勝訴要件)を満たして初めて勝訴できる。両者は審査する場面も条文も異なるため、本記事ではこの二つを正面から切り分けて解説する。
事案の概要
Xは、近隣の違法建築物によって日照・通風等の被害を受けているとして、建築基準法に基づく是正命令(除却命令等)の発動を求め、行政庁Yに対して非申請型義務付け訴訟を提起した。
Yは、是正命令を発するかどうかは行政庁の裁量に委ねられているとして、義務付け訴訟は不適法であると主張した。具体的には、Xには「重大な損害を生ずるおそれ」がないこと、及び「他に適当な方法」(民事上の差止請求等)があることを理由に、訴訟要件を欠くとの抗弁を行った。
争点
- 非申請型義務付け訴訟における「重大な損害を生ずるおそれ」の判断基準
- 「他に適当な方法がないとき」(補充性)の意義
- 申請型義務付け訴訟と非申請型義務付け訴訟の訴訟要件の相違
判旨
裁判所は、非申請型義務付け訴訟の訴訟要件について、以下の判断枠組みを示した。
「重大な損害を生ずるおそれ」の判断にあたっては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案する(行訴法37条の2第2項)べきであるとした。
また、「他に適当な方法がないとき」については、他の訴訟類型(取消訴訟・当事者訴訟・民事訴訟等)によって実効的な救済を受けることができるかどうかを基準として判断すべきであり、他の方法があっても救済として不十分・不適切である場合には補充性の要件を充たすとした。
ポイント解説
義務付け訴訟の「要件」とは何か――二段構造を最初に押さえる
「義務付け訴訟 要件」と検索したとき、答案で本当に問われているのは、実は性質の異なる二種類の要件である。両者を一括りに「要件」と呼んでしまうと答案の論理が崩れるため、まず全体像を整理する。
段階 名称 審査する問い 欠けたときの帰結 第1段階 訴訟要件 その義務付けの訴えを起こすこと自体が許されるか 訴え却下(門前払い) 第2段階 本案勝訴要件 裁判所が行政庁に「処分をせよ」と命じてよいか 請求棄却(中身で負け)訴訟要件は「入口」の問題であり、原告適格・重大な損害・補充性・併合提起などが含まれる。これを満たさなければ、裁判所は中身を一切判断せず、訴え却下となる。
これに対して本案勝訴要件は「中身」の問題である。訴訟要件をすべてクリアして審理に入ったうえで、実際に行政庁に処分を命じる判決を出してよいかを判断する基準である。これを満たさなければ、訴えは適法でも請求棄却となる。
答案では、まず「①訴訟要件を満たすか→②本案勝訴要件を満たすか」という順序で論述するのが基本である。この順序を崩すと採点者に「要件の性質を理解していない」と判断されやすい。以下、まず二類型を整理したうえで、訴訟要件・本案勝訴要件をそれぞれ詳述する。
義務付け訴訟の二類型
行訴法は義務付け訴訟を以下の二類型に分けて規定している。
類型 条文 要件 典型例 非申請型(直接型) 3条6項1号、37条の2 重大な損害+補充性 規制権限の発動を求める場合 申請型 3条6項2号、37条の3 申請権の存在+併合提起 許認可申請の拒否処分の取消しと併せて許認可を求める場合非申請型義務付け訴訟は、法令上の申請権がない者が、行政庁に対して一定の処分を求める訴訟である。申請権がないにもかかわらず行政庁に処分を義務付けるものであるため、訴訟要件が厳格に設定されている。
申請型義務付け訴訟は、法令に基づく申請を行ったが拒否処分を受けた場合、または不作為が続いている場合に提起できる。拒否処分の取消訴訟(または不作為の違法確認訴訟)と併合して提起することが要件とされている。
非申請型義務付け訴訟の訴訟要件
非申請型義務付け訴訟の訴訟要件は以下のとおりである。
- 一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあること(37条の2第1項)
- 他に適当な方法がないこと(補充性)(37条の2第1項)
- 原告適格(37条の2第3項。取消訴訟の原告適格に関する9条2項を準用)
「重大な損害」の判断にあたっては、損害の回復の困難の程度、損害の性質・程度、処分の内容・性質が考慮要素とされている(37条の2第2項)。単なる経済的損害であれば金銭賠償により回復可能であるため、「重大な損害」とは認められにくい。他方、生命・身体・健康に対する損害は回復困難性が高く、重大な損害と認められやすい。
申請型義務付け訴訟の訴訟要件
申請型義務付け訴訟の訴訟要件は以下のとおりである。
- 法令に基づく申請に対して処分がなされないこと(不作為型)又は申請を拒否する処分がなされたこと(拒否処分型)
- 不作為の違法確認訴訟(不作為型)又は拒否処分の取消訴訟・無効等確認訴訟(拒否処分型)との併合提起
申請型は非申請型と比べて、補充性の要件や重大な損害の要件が課されていない点で、訴訟要件が緩和されている。これは、申請権を有する者は行政庁から応答を受ける権利を有しており、申請に対する適切な処分を求める正当な利益が認められるからである。
本案勝訴要件とは――定義と二つの場合
本案勝訴要件の定義
「本案勝訴要件」とは、義務付け訴訟が訴訟要件を満たして適法であることを前提に、裁判所が実際に行政庁へ「処分をすべき旨を命じる」判決(認容判決)を出すために満たされなければならない実体的な要件をいう。 ひとことで言えば、「裁判所が行政庁の判断を飛び越えて処分を命じてよいだけの理由があるか」を測る基準である。
ここがポイントである。訴訟要件を満たしても、それだけでは原告は勝てない。「訴えを起こしてよい」ことと「行政庁に処分を命じてよい」ことは別問題だからである。前者が満たされると審理に入れる(訴え却下を免れる)が、後者が満たされて初めて請求認容(勝訴)となる。後者を満たさなければ、訴えは適法でも請求棄却である。
本案勝訴要件は、申請型・非申請型のいずれにも共通して、行訴法37条の2第5項および37条の3第5項が定める次の二つの場合のいずれかに該当することを要求する。
- 行政庁がその処分をすべきであることが、その処分の根拠となる法令の規定から明らかであると認められる場合(覊束行為の場合)
- 行政庁がその処分をしないことが、その裁量権の範囲を超え、又はその濫用となると認められる場合(裁量行為の場合)
なぜ二つに分かれるのか――裁量の有無による切り分け
本案勝訴要件が二つの場合に分かれているのは、処分が覊束行為か裁量行為かによって、裁判所が踏み込める深さが異なるからである。
- 覊束行為(法令が要件と効果を一義的に定め、行政庁に判断の余地がない処分)の場合は、要件を満たせば処分をすべきことが法令から「明らか」である。裁判所は法令を解釈すれば結論を出せるため、第1の場合(37条の2第5項前段)で処分を命じることができる。
- 裁量行為(行政庁に判断の余地がある処分)の場合は、本来どの処分をするかは行政庁の判断に委ねられている。それでも裁判所が処分を命じてよいのは、行政庁が処分をしないことが裁量権の逸脱・濫用に当たり、適法な選択肢が事実上一つしか残っていないと評価できる場合に限られる。これが第2の場合(37条の2第5項後段)である。
この切り分けは、三権分立の下で行政庁の第一次的判断権を尊重しつつ、それが限界を超えたときにだけ司法が介入するという発想に基づく。裁量行為についていきなり裁判所が「この処分をせよ」と命じれば行政権への過度の介入になるため、「不作為が裁量権の逸脱・濫用に当たる」という形で、介入の正当化根拠を要求しているのである。
「明らか」の場合(覊束処分)
第1の場合は、根拠法令の文言・趣旨から、当該事実関係の下では特定の処分をすることが法的に義務づけられていると言えるかを検討する。要件該当事実が認定でき、かつ法令が「〜しなければならない」型の覊束的な規定を置いているときに認められやすい。
たとえば、法令上の要件をすべて満たした申請に対して、行政庁に拒否の裁量が認められていない許認可については、「処分をすべきことが法令から明らか」と評価できる場面がある。逆に、「相当と認めるとき」「公益上必要があると認めるとき」といった効果裁量・要件裁量を示す文言がある処分では、第1の場合での認容は難しく、第2の場合の検討に移ることになる。
「裁量権の逸脱・濫用」の場合(裁量処分)
第2の場合は、行政裁量の司法審査の一般論をそのまま用いる。すなわち、判断過程に著しい不合理がないか、考慮すべき事項を考慮し考慮すべきでない事項を考慮していないか、事実の基礎を欠かないか、社会通念上著しく妥当性を欠かないかといった観点から、「処分をしないこと」が裁量権の逸脱・濫用に当たるかを審査する。
ここで重要なのは、義務付け訴訟では審査の対象が「行政庁がした処分」ではなく「処分をしないという不作為(または拒否)」である点である。取消訴訟が「した処分」の違法性を問うのに対し、義務付け訴訟は「しないこと」の違法性を問う。したがって、考慮要素の重み付けや結論の合理性を、「この事実関係の下では処分をしないという選択肢は許されない」という方向で論じることになる。
非申請型で問題となる規制権限の不行使については、裁量権の収縮論(後述)と結び付けて、「規制権限を行使しないことが著しく合理性を欠き許されない」と評価できるかが本案の中心論点になる。
訴訟要件と本案勝訴要件の関係――まとめ図
義務付け訴訟の勝訴までの流れを段階で示すと次のとおりである。
[非申請型]
訴訟要件: ①重大な損害のおそれ ②補充性 ③原告適格(9条2項準用)
↓ すべて満たす(満たさなければ訴え却下)
本案勝訴要件: 処分をすべきことが法令から明らか / 不作為が裁量権の逸脱・濫用
↓ いずれかを満たす(満たさなければ請求棄却)
認容判決(行政庁に処分を命じる)
[申請型]
訴訟要件: ①法令に基づく申請権 ②取消訴訟等との併合提起
↓ 満たす(満たさなければ訴え却下)
併合提起した取消訴訟等に理由がある(拒否処分が違法・不作為が違法)
+
本案勝訴要件: 処分をすべきことが法令から明らか / 拒否・不作為が裁量権の逸脱・濫用
↓ 満たす(満たさなければ請求棄却)
認容判決(行政庁に処分を命じる)
申請型には、上記に加えて併合提起した取消訴訟・不作為違法確認訴訟に理由があること(拒否処分が違法であること等)が本案勝訴要件として加わる点に注意が必要である(37条の3第5項)。つまり申請型は、「①併合提起した訴えに理由がある」かつ「②義務付けの本案勝訴要件(明らか/裁量権の逸脱・濫用)を満たす」という二重の中身審査を経る。
比較項目 訴訟要件 本案勝訴要件 問い 訴えを起こしてよいか 処分を命じてよいか 審査の場面 入口(適法性) 中身(理由の有無) 欠けたときの主文 却下 棄却 非申請型の中身 重大な損害・補充性・原告適格 明らか/裁量権の逸脱・濫用 申請型の中身 申請権・併合提起 併合訴訟に理由+明らか/逸脱・濫用 根拠条文 37条の2第1項・3項、37条の3第1項 37条の2第5項、37条の3第5項学説・議論
義務付け訴訟の導入をめぐる議論
2004年改正前の行訴法には義務付け訴訟の明文規定がなく、その許容性自体が争われていた。
- 否定説(旧判例): 三権分立の観点から、裁判所が行政庁に特定の処分を命じることは行政権への過度の介入であり、許されないとする。行政庁の第一次的判断権を尊重すべきである
- 肯定説: 行政訴訟による実効的な権利救済のためには、取消訴訟だけでは不十分な場合がある。特に、申請に対する拒否処分を取り消しても行政庁が再び拒否処分を行う可能性がある場合には、義務付け判決が必要である
2004年改正は肯定説を立法化したものであるが、非申請型について厳格な訴訟要件を課すことで、三権分立への配慮も維持している。
規制権限の不行使と義務付け訴訟
非申請型義務付け訴訟の最も重要な適用場面の一つは、行政庁の規制権限の不行使に対する救済である。
近隣住民が建築規制の発動を求める場合や、消費者が事業者に対する行政処分を求める場合など、第三者の利益のために規制権限の発動を求める義務付け訴訟は、行政裁量との関係で困難な問題を提起する。
判例は、規制権限の不行使について裁量権の収縮論(裁量権が収縮し、特定の処分を行うことが義務づけられる場面がある)を前提としつつ、義務付け訴訟においても同様の判断枠組みが妥当するものとしている。
仮の義務付けとの関係
義務付け訴訟には、本案判決前の仮の救済として仮の義務付け(行訴法37条の5第1項)の制度が設けられている。仮の義務付けは、「義務付けの訴えに係る処分がされないことにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要がある」場合に認められる。
仮の義務付けの要件は本案の義務付けの要件よりもさらに厳格であり、実際に仮の義務付けが認められた例は多くないが、生活保護の開始決定など、緊急の権利保護が必要な場面で重要な機能を果たしている。
判例の射程
生活保護と義務付け訴訟
申請型義務付け訴訟の重要な適用場面として、生活保護の申請に対する拒否処分の取消しと保護開始決定の義務付けがある。生活保護は申請に基づいて開始されるため(生活保護法7条)、申請型義務付け訴訟の要件を充たしやすい。
情報公開と義務付け訴訟
情報公開請求に対する不開示決定についても、不開示決定の取消訴訟と併せて開示決定の義務付けを求めることができる。情報公開の場面では、取消判決を得ても行政庁が再び不開示決定を行う可能性があるため、義務付け判決の実効性が特に重要である。
義務付け訴訟と取消訴訟の関係
義務付け訴訟は取消訴訟を代替するものではなく、補完するものとして位置づけられる。取消訴訟が「違法な処分の取消し」という消極的救済であるのに対し、義務付け訴訟は「適法な処分の発動」という積極的救済を提供する。両者は車の両輪として行政訴訟の実効的な権利救済を支えている。
具体例で見る訴訟要件と本案勝訴要件
要件論は抽象的になりがちなので、典型的な二つの場面で「訴訟要件→本案勝訴要件」を通しで確認する。
例1:近隣住民が是正命令を求める(非申請型)
近隣の違法建築によって日照・採光・通風の被害を受けているXが、行政庁に対して建築基準法上の是正命令の発動を義務付ける訴えを起こす場面である。Xには是正命令を求める法令上の申請権がないため、非申請型となる。
- 訴訟要件①重大な損害:被害が日照阻害にとどまり経済的損害に解消できる程度であれば「重大な損害」は認められにくい。他方、建物の倒壊の危険など生命・身体への具体的危険があれば、回復困難性が高く「重大な損害」が認められやすい。
- 訴訟要件②補充性:民事の建築差止請求等が考えられるが、それでは違法状態の公的除去という救済として不十分・不適切と評価できれば、補充性を満たす。
- 訴訟要件③原告適格:9条2項準用。建築規制が保護する個別的利益の範囲にXが含まれるかを、根拠法令の趣旨・目的、被侵害利益の内容・性質等から判断する。
- 本案勝訴要件:是正命令の発動は裁量行為であるため、第2の場合を検討する。危険の重大性・行政庁の認識可能性・不行使の継続期間等を総合し、「是正命令を発しないことが裁量権の逸脱・濫用に当たる」と言えるかを判断する。
ここでのコツは、①②③(入口)をクリアした後に、改めて本案で「不作為の違法性」を独立して論じることである。入口を通っただけでは、まだ「行政庁に命じてよい」とは言えない。
例2:許認可の拒否処分に対する申請型
事業者Yが法令に基づく許可を申請したところ拒否処分を受けたため、拒否処分の取消訴訟と併合して許可処分の義務付けを求める場面である。Yには法令上の申請権があるため、申請型となる。
- 訴訟要件①申請権:当該法令がYに申請権を認めているかを確認する。
- 訴訟要件②併合提起:拒否処分の取消訴訟(拒否処分型)と併合して提起しているかを確認する。
- 本案勝訴要件(その1):併合した取消訴訟に理由があること、すなわち拒否処分が違法であること。
- 本案勝訴要件(その2):許可をすべきことが法令から明らか(覊束行為)であるか、又は拒否が裁量権の逸脱・濫用(裁量行為)であること。
申請型では本案で二段の中身審査がある点が、非申請型との実務的な違いである。許可要件をすべて充足しており行政庁に拒否の裁量がなければ「明らか」、効果裁量がある許可であれば「裁量権の逸脱・濫用」で論じることになる。
よくある誤解
誤解1:訴訟要件を満たせば勝てる
最も多い誤りである。重大な損害・補充性・原告適格を満たしても、それは「審理に入れる」だけであり、勝訴ではない。本案勝訴要件(明らか/裁量権の逸脱・濫用)を別途満たさなければ請求棄却となる。要件を一括りにせず、入口と中身を分けて書くことが必要である。
誤解2:本案勝訴要件は非申請型にしかない
本案勝訴要件は申請型・非申請型のいずれにも存在する(37条の3第5項・37条の2第5項)。むしろ申請型は併合訴訟の理由まで含めて本案審査が二段になる点で、本案の議論が厚くなることもある。
誤解3:裁量処分では裁判所が処分内容まで全部決める
裁量処分では、裁判所は「一定の処分をすべき」と命じるにとどまり、複数あり得る適法な処分のうちどれを選ぶかまでは原則として指定しない。裁量権が収縮して適法な選択肢が一つに絞られる場合に初めて、特定処分の義務付けが可能になる。
誤解4:申請型なら重大な損害を必ず書く
申請型の訴訟要件に「重大な損害」「補充性」は含まれない。申請型でこれらを訴訟要件として論じると、要件の理解を誤っていると評価される。書くべきは申請権と併合提起である。
誤解5:取消訴訟が認容されれば義務付けは不要
拒否処分を取り消しても、行政庁が改めて別の理由で拒否処分を繰り返す可能性がある。取消判決だけでは実効的救済にならないからこそ、義務付け訴訟を併合して「処分そのものを命じる」必要がある。これが申請型義務付け訴訟の存在意義である。
反対意見・補足意見
本判決には特段の反対意見・補足意見は付されていないが、義務付け訴訟の訴訟要件の解釈、特に非申請型における「重大な損害」の要件については、下級審の判断にばらつきがある。
試験対策での位置づけ
義務付け訴訟は、司法試験・予備試験の行政法においてA級の最重要論点の一つであり、2004年行訴法改正の核心的制度として繰り返し出題されている。出題実績としては、新司法試験では平成22年、平成26年、平成30年、令和2年に出題され、予備試験でも複数回出題されている。主な出題パターンは、(1)申請型と非申請型の区別と各訴訟要件、(2)非申請型における「重大な損害」の判断、(3)補充性の要件の解釈、(4)仮の義務付けとの関係、の四つが主な類型である。答案では、申請型・非申請型の区別を正確に行い、各訴訟要件を丁寧に検討することが求められる。
答案での使い方
論証パターン(非申請型)
「非申請型義務付け訴訟(行訴法3条6項1号)は、行政庁が一定の処分をすべきであるにもかかわらずこれがされないときに提起できる。訴訟要件として、(1)一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあること、(2)他に適当な方法がないこと(補充性)、(3)原告適格(9条2項準用)が必要である。 「重大な損害」の判断にあたっては、損害の回復の困難の程度を考慮し、損害の性質・程度並びに処分の内容・性質をも勘案する(37条の2第2項)。」
論証パターン(申請型)
「申請型義務付け訴訟(行訴法3条6項2号)は、法令に基づく申請に対して処分がなされない場合に提起できる。訴訟要件として、(1)法令に基づく申請権の存在、(2)拒否処分の取消訴訟又は不作為の違法確認訴訟との併合提起が必要である。 非申請型と異なり重大な損害・補充性の要件は不要である。」
論証パターン(本案勝訴要件)
「義務付け訴訟が認容されるためには、訴訟要件を満たすことに加えて、本案勝訴要件として、(1)行政庁がその処分をすべきであることが処分の根拠法令から明らかであると認められること、又は(2)行政庁がその処分をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められること、のいずれかが必要である(行訴法37条の2第5項)。 本件処分が覊束行為であれば、要件該当事実の認定により前者を、裁量行為であれば、判断過程の合理性等を検討し、処分をしないことが社会通念上著しく妥当性を欠くといえるかにより後者を判断する。」
あてはめの一例(規制権限の不行使)
近隣住民が建築基準法上の是正命令(除却命令)の義務付けを求める事案では、是正命令の発動には行政庁の裁量が認められるため、本案では第2の場合(裁量権の逸脱・濫用)を検討することになる。
論じ方の骨格は次のとおりである。①違法建築物により近隣住民の生命・身体・健康に対する具体的危険が生じていること、②行政庁がその危険を認識し又は容易に認識し得たこと、③是正命令により危険を除去できるのに長期間にわたり権限を行使していないこと、を指摘し、これらを総合すると「是正命令を発しないという不作為は、被侵害利益の重大性に照らして著しく合理性を欠き、裁量権の逸脱・濫用に当たる」と評価できるか、という流れで結論を導く。逆に、危険の程度が低く金銭賠償等で対応可能な事案であれば、本案勝訴要件を満たさず請求棄却となる。
なお、訴訟要件である「重大な損害」と、本案で問題となる「被侵害利益の重大性」は条文上の位置づけが異なる。入口(訴訟要件)と中身(本案)で同じ事情を使うとしても、論じる場面を分けて書くことが、答案の評価を上げるポイントである。
重要概念の整理
比較項目 非申請型義務付け訴訟 申請型義務付け訴訟 条文 3条6項1号、37条の2 3条6項2号、37条の3 典型例 規制権限の発動を第三者が求める場合 許認可の拒否に対して義務付けを求める場合 重大な損害 必要 不要 補充性 必要 不要 併合提起 不要 必要(取消訴訟又は不作為違法確認訴訟) 本案勝訴要件 処分をすべきことが根拠法令から明らか、又は裁量権の逸脱・濫用 同左発展的考察
義務付け訴訟は導入から20年が経過し、判例の蓄積が進んでいる。特に注目すべきは、規制権限の不行使に対する義務付け訴訟の活用である。環境規制や消費者保護の分野では、行政庁の不作為に対して第三者が規制の発動を求める場面が増加しており、非申請型義務付け訴訟の活用範囲が拡大している。また、生活保護行政や障害者福祉行政の分野では、申請型義務付け訴訟が権利救済の有効な手段として定着しつつある。今後は、気候変動対策としての規制権限の発動を求める義務付け訴訟(いわゆる気候訴訟)の可能性も議論されている。
よくある質問
Q1: 非申請型と申請型の区別基準は何ですか。
決定的な区別基準は、法令に基づく申請権が存在するかどうかである。申請権がある場合は申請型、ない場合は非申請型となる。規制権限の発動を求める近隣住民の訴えは典型的な非申請型である。
Q2: 「重大な損害」の認定基準は何ですか。
損害の回復の困難の程度が中心的な考慮要素である。生命・身体・健康に対する損害は回復困難性が高く重大な損害と認められやすい。単なる経済的損害は金銭賠償により回復可能であるため認められにくい。
Q3: 補充性の要件は厳格に解釈されますか。
判例は補充性の要件を緩和的に解釈する傾向にある。他の訴訟類型による救済が理論上可能であっても、それが実効的な救済として不十分・不適切である場合には補充性の要件を充たすとされている。
Q4: 義務付け訴訟で勝訴した場合、行政庁はどうなりますか。
義務付け判決が確定した場合、行政庁は判決に従って処分を行う義務を負う。もっとも、裁量処分の場合には、裁判所は具体的な処分内容まで指定するのではなく、行政庁に一定の処分をすべき旨を命じるにとどまる。
Q5: 本案勝訴要件とは何ですか。訴訟要件と何が違うのですか。
本案勝訴要件とは、訴訟要件を満たして適法に提起された義務付け訴訟について、裁判所が実際に「処分をせよ」と命じる認容判決を出すために必要な実体的要件である。訴訟要件は「訴えを起こしてよいか」という入口の問題で、欠ければ訴え却下となる。本案勝訴要件は「処分を命じてよいか」という中身の問題で、欠ければ請求棄却となる。両者は審査の場面も主文(却下か棄却か)も異なる。
Q6: 本案勝訴要件は具体的にどう定められていますか。
行訴法37条の2第5項(非申請型)・37条の3第5項(申請型)が、(1)行政庁が処分をすべきことが根拠法令から明らかである場合、又は(2)処分をしないことが裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められる場合、のいずれかであることを要求している。覊束行為なら(1)、裁量行為なら(2)で検討するのが基本である。
Q7: 申請型の本案勝訴要件は非申請型と同じですか。
「明らか/裁量権の逸脱・濫用」という骨格は共通である。ただし申請型では、これに加えて、併合提起した拒否処分取消訴訟(又は不作為違法確認訴訟)に理由があること、すなわち拒否処分が違法である(不作為が違法である)ことが本案勝訴要件として要求される点が異なる(37条の3第5項)。
Q8: 訴訟要件で「重大な損害」を論じたのに、本案でも損害の重大性を書くのは重複ではないですか。
重複ではない。「重大な損害」は非申請型を提起できるかという訴訟要件であり、本案で問題となる被侵害利益の重大性は、不作為が裁量権の逸脱・濫用に当たるかという別の評価の中で機能する。同じ事実を用いても、訴訟要件の検討と本案の検討は項目を分けて論じる必要がある。
関連条文
この法律において「義務付けの訴え」とは、次に掲げる場合において、行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟をいう。
一 行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされないとき。
二 行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされた場合において、当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないとき。― 行政事件訴訟法 第3条第6項
関連判例
- 差止訴訟の要件に関する判例 - 義務付け訴訟と並ぶ新訴訟類型
- 処分性の判断基準の判例 - 義務付け訴訟の前提としての処分性
まとめ
義務付け訴訟に関する判例は、2004年行訴法改正で導入された義務付け訴訟の訴訟要件の解釈を通じて、行政訴訟による実効的な権利救済の範囲を画定してきた。非申請型義務付け訴訟は「重大な損害」と「補充性」の要件が厳格であるのに対し、申請型義務付け訴訟はこれらの要件が緩和されている。
そして義務付け訴訟の核心は、「訴訟要件(入口)」と「本案勝訴要件(中身)」の二段構造を正確に切り分けることにある。訴訟要件を満たして訴え却下を免れ、さらに本案勝訴要件、すなわち「処分をすべきことが法令から明らか」又は「処分をしないことが裁量権の逸脱・濫用」のいずれか(行訴法37条の2第5項、37条の3第5項)を満たして初めて、行政庁に処分を命じる認容判決が得られる。この順序と性質の違いを答案で明確に示せるかどうかが、合否を分けるポイントである。義務付け訴訟は、規制権限の不行使に対する救済や、申請に対する拒否処分への対抗手段として重要な機能を果たしており、取消訴訟と相まって行政訴訟の実効性を高めるものである。