/ 行政法

抗告訴訟の訴訟類型選択 ― 取消訴訟から確認訴訟まで

取消訴訟・無効等確認訴訟・義務付け訴訟・差止訴訟・当事者訴訟の選択基準を体系的に解説。訴訟類型選択のフローチャートと事案別の検討方法を整理します。

この記事のポイント

行政事件訴訟法は、取消訴訟・無効等確認訴訟・不作為の違法確認訴訟・義務付け訴訟・差止訴訟の5類型の抗告訴訟を定めている。訴訟類型の選択は、処分の有無、出訴期間の経過の有無、救済の実効性等の観点から判断される。処分性がない場合には、当事者訴訟(確認訴訟)の活用が重要である。試験では、具体的事案に即した訴訟類型の選択が問われる。


抗告訴訟の類型一覧

行政事件訴訟法が定める訴訟類型

訴訟類型 条文 内容 取消訴訟 3条2項 処分又は裁決の取消しを求める訴訟 無効等確認訴訟 3条4項 処分又は裁決の無効等の確認を求める訴訟 不作為の違法確認訴訟 3条5項 行政庁の不作為の違法の確認を求める訴訟 義務付け訴訟 3条6項 行政庁に一定の処分をすべき旨を命ずることを求める訴訟 差止訴訟 3条7項 行政庁が一定の処分をすべきでない旨を命ずることを求める訴訟 (無名抗告訴訟) 3条1項 法定外の抗告訴訟(予防的不作為訴訟等)

訴訟類型選択のフローチャート

基本的な選択の流れ

訴訟類型の選択は、以下の順序で検討する。

Step 1: 処分の存在の確認

  • 処分が既に行われた場合 → Step 2へ
  • 処分がまだ行われていない場合 → Step 4へ
  • 処分が申請に対してなされるべきもので不作為がある場合 → Step 5へ

Step 2: 出訴期間の経過の確認

  • 出訴期間(主観的6か月・客観的1年)の場合 → 取消訴訟
  • 出訴期間を経過した場合 → Step 3へ

Step 3: 処分の瑕疵の程度の検討

  • 処分に重大かつ明白な瑕疵がある場合 → 無効等確認訴訟
  • 重大かつ明白な瑕疵がない場合 → 取消訴訟の出訴期間徒過により争えない

Step 4: 処分がまだ行われていない場合

  • 処分が行われる蓋然性が高い場合 → 差止訴訟
  • 申請に対して処分がなされるべき場合(申請型) → 義務付け訴訟(申請型)
  • 申請権がない場合(非申請型) → 義務付け訴訟(非申請型)

Step 5: 不作為がある場合

  • 行政庁が申請に対して何らの処分もしない場合 → 不作為の違法確認訴訟 + 義務付け訴訟(申請型)の併合提起

各訴訟類型の詳細

取消訴訟(3条2項)

取消訴訟は、処分又は裁決の取消しを求める訴訟であり、抗告訴訟の中核をなす訴訟類型である。

  • 訴訟要件: 処分性・原告適格・狭義の訴えの利益・出訴期間・被告適格・管轄
  • 出訴期間: 処分を知った日から6か月、処分の日から1年(14条)
  • 排他的管轄: 処分の効力を争うには取消訴訟によらなければならない(公定力)

無効等確認訴訟(3条4項・36条)

無効等確認訴訟は、処分又は裁決の存否又は効力の有無の確認を求める訴訟である。

  • 出訴期間の制限なし: 無効な処分には公定力が及ばないため
  • 補充性の要件: 「当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができないもの」(36条)
  • 重大かつ明白な瑕疵: 処分が無効であるためには、瑕疵が重大かつ明白でなければならない(通説・判例)

不作為の違法確認訴訟(3条5項・37条)

不作為の違法確認訴訟は、行政庁が法令に基づく申請に対して相当の期間内に何らかの処分をしないことの違法の確認を求める訴訟である。

  • 原告適格: 申請をした者(37条)
  • 不作為の存在: 相当の期間を経過しても処分がなされないこと
  • 実効性の問題: 違法確認にとどまるため、義務付け訴訟との併合提起が推奨される

義務付け訴訟(3条6項・37条の2・37条の3)

義務付け訴訟は、行政庁に一定の処分をすべき旨を命ずることを求める訴訟である。2004年改正で法定された。

非申請型義務付け訴訟(37条の2)

  • 要件: 一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあること、他に適当な方法がないこと
  • 本案勝訴要件: 行政庁がその処分をすべきであることがその処分の根拠となる法令の規定から明らかであるか、行政庁がその処分をしないことがその裁量権の範囲を超えもしくはその濫用となると認められるとき

申請型義務付け訴訟(37条の3)

  • 要件: 申請に対する処分がなされない場合又は申請が拒否された場合
  • 併合提起: 不作為の違法確認訴訟又は取消訴訟・無効等確認訴訟との併合提起が必要
  • 本案勝訴要件: 併合提起された訴訟について理由があり、かつ行政庁がその処分をすべきであることが明らかであるとき等

差止訴訟(3条7項・37条の4)

差止訴訟は、行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでない旨を命ずることを求める訴訟である。2004年改正で法定された。

  • 要件: 一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがあること、他に適当な方法がないこと(補充性)
  • 本案勝訴要件: 行政庁がその処分又は裁決をすることがその処分又は裁決の根拠となる法令の規定に違反すると認められるとき等

処分性がない場合の救済 ― 当事者訴訟(確認訴訟)

問題の所在

処分性が認められない行政活動(行政指導・行政計画の一部・通達等)に対しては、抗告訴訟を提起することができない。この場合の救済手段として、当事者訴訟としての確認訴訟(行政事件訴訟法4条後段)が活用される。

確認訴訟の活用例

事案類型 確認の対象 判例 在外邦人選挙権 選挙権を有する地位の確認 最大判平17.9.14 国籍の確認 日本国籍を有する地位の確認 最大判平20.6.4 法律の違憲確認 法律が適用されないことの確認 (学説上議論あり)

確認の利益

確認訴訟が適法であるためには、確認の利益が必要である。確認の利益は以下の要素から判断される。

  • 方法選択の適否: 確認訴訟が最も有効適切な手段であるか
  • 対象選択の適否: 確認の対象が適切に選択されているか
  • 即時確定の利益: 現時点で確認判決を得る必要があるか

具体的事案での訴訟選択の検討例

事例1: 営業許可の拒否処分を受けた場合

  • 第1選択: 拒否処分の取消訴訟(出訴期間内)
  • 併合提起: 許可処分の義務付け訴訟(申請型)
  • 取消訴訟が認容されても、行政庁が再び拒否処分をする可能性があるため、義務付け訴訟の併合提起が実効的

事例2: 違法建築物の除却命令が予想される場合

  • 第1選択: 除却命令の差止訴訟
  • 要件: 重大な損害のおそれ + 補充性
  • 既に命令が出された場合は取消訴訟に切り替え

事例3: 行政指導に従わない場合に不利益処分が予想される場合

  • 行政指導自体は処分性がないため取消訴訟の対象とならない
  • 不利益処分の差止訴訟、または行政指導に従う義務がないことの確認訴訟(当事者訴訟)

試験対策での位置づけ

訴訟類型の選択は、行政法の論文式試験において最も重要なテーマの一つである。

  • 事例問題の冒頭で訴訟類型の選択を論じるのが定石であり、ここで的確な選択ができるかが合否を分ける
  • フローチャートを頭に入れておくことで、事案に応じた適切な訴訟類型を迅速に選択できる
  • 2004年改正で導入された義務付け訴訟・差止訴訟は出題頻度が高い
  • 処分性がない場合の当事者訴訟(確認訴訟)の活用は、近年の重要テーマである
  • 短答式では、各訴訟類型の訴訟要件の違いが細かく問われる

答案では以下の流れで論じる。

  1. 訴訟類型の選択(処分性の有無を前提に最適な類型を選択)
  2. 訴訟要件の検討(処分性・原告適格・訴えの利益等)
  3. 本案の検討(違法事由・裁量統制等)

訴訟類型選択でよくある間違い

  • 義務付け訴訟の併合提起忘れ: 申請型義務付け訴訟は取消訴訟等との併合提起が要件であり、単独では提起できない
  • 差止訴訟と取消訴訟の混同: 処分が既に行われた場合は差止訴訟ではなく取消訴訟を選択する
  • 当事者訴訟の検討漏れ: 処分性がない場合に抗告訴訟に固執せず、当事者訴訟(確認訴訟)を検討する
  • 仮の救済の検討漏れ: 義務付け訴訟には仮の義務付け(37条の5第2項)、差止訴訟には仮の差止め(37条の5第2項)があることを忘れない

関連判例

  • 在外邦人選挙権事件(最大判平17.9.14)― 当事者訴訟としての確認訴訟
  • 土地区画整理事業計画事件(最大判平20.9.10)― 処分性の拡大
  • 小田急高架訴訟(最大判平17.12.7)― 原告適格の判断基準
  • もんじゅ訴訟(最判平4.9.22)― 無効等確認訴訟の原告適格

まとめ

行政事件訴訟法は、取消訴訟・無効等確認訴訟・不作為の違法確認訴訟・義務付け訴訟・差止訴訟の5類型の抗告訴訟を定めている。訴訟類型の選択は、処分の存在・出訴期間の経過・瑕疵の程度・救済の実効性といった要素を考慮して行う。処分性がない場合には、当事者訴訟としての確認訴訟が重要な救済手段となる。論文式試験では事例に即した訴訟類型の選択が問われるため、各類型の要件と選択基準を正確に理解し、フローチャートに沿った判断ができるよう訓練することが不可欠である。

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