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【判例】夫婦同姓合憲判決(最大判平27.12.16・最大決令3.6.23)

夫婦同姓制度(民法750条)を合憲とした最高裁大法廷判決と令和3年決定を解説。憲法13条・14条1項・24条の審査枠組みと反対意見の論理を詳しく分析します。

この判例のポイント

夫婦が婚姻の際に夫又は妻の氏を称するとする民法750条は、憲法13条・14条1項・24条のいずれにも違反しないとした判決。氏名に関する人格的利益は憲法上の権利として保障されるが、氏の変更は婚姻の効力の一つであり直ちにその権利を侵害するものではないとした。令和3年大法廷決定でも合憲判断が維持されたが、反対意見が増加し、立法論としての議論が続いている。


事案の概要

原告らは、婚姻に際して夫婦のいずれかが氏(姓)を改めなければならないとする民法750条の規定が、憲法13条(人格権)、14条1項(法の下の平等)、24条(婚姻の自由・両性の本質的平等)に違反するとして、国に対し国家賠償を請求した。

民法750条は「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」と規定しており、文言上は男女いずれの氏を選択するかについて中立的である。しかし実態としては、婚姻の約96%において女性が氏を改めており、氏の変更に伴う不利益は主に女性が負担している。

原告らは、夫婦同姓を法律上強制する制度は、氏名に関する人格的利益を侵害し、また実質的に女性に不利益を課すものであるから違憲であると主張した。


争点

  • 民法750条は、憲法13条(人格権・氏名に関する利益)に違反するか
  • 同条は、憲法14条1項(法の下の平等)に違反するか
  • 同条は、憲法24条(婚姻の自由・両性の本質的平等)に違反するか

判旨

憲法13条違反の主張について

氏は、婚姻及び家族に関する法制度の一部として法律がその具体的な内容を規律しているものであるから、氏に関する上記人格的利益の内容も、憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとまではいえないものの、(中略)法制度の内容によってその具体的な内容が規律されるものであるところ、現行の法制度の下で氏を改めることによってアイデンティティの喪失感を抱くなどの不利益を受ける場合があることは否定できない

― 最高裁判所大法廷 平成27年12月16日 平成26年(オ)第1023号

最高裁は、氏名に関する人格的利益を認めつつも、氏は法制度によって規律されるものであり、民法750条が直ちに憲法13条に違反するものではないとした。

憲法14条1項違反の主張について

民法750条は、夫婦が夫又は妻の氏を称するものとしており、夫婦がいずれの氏を称するかを夫婦となろうとする者の間の協議に委ねているのであって、その文言上性別に基づく法的な差別的取扱いを定めているわけではなく、(中略)本件規定は、憲法14条1項に違反するものではない

― 最高裁判所大法廷 平成27年12月16日 平成26年(オ)第1023号

民法750条の文言は形式的に男女平等であり、夫婦いずれの氏を選択するかは当事者の協議に委ねられていることから、法的な差別的取扱いには当たらないとした。

憲法24条違反の主張について

婚姻に伴い夫婦が同一の氏を称する夫婦同氏制は、(中略)嫡出子の仕組みなどとともに、婚姻制度や家族に関する法制度の一部としてその合理性を有しているものである。(中略)夫婦同氏制それ自体に男女間の形式的な不平等が存在するわけではなく、(中略)個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠く制度であるとは認められない

― 最高裁判所大法廷 平成27年12月16日 平成26年(オ)第1023号

最高裁は、婚姻・家族に関する事項について立法裁量を認めたうえで、夫婦同姓制度は家族の一体性を示す点で合理性があり、憲法24条に違反しないとした。

令和3年大法廷決定(最大決令3.6.23)

令和3年の大法廷決定でも、民法750条及び戸籍法74条1号の合憲性が再度争われたが、合憲判断が維持された。ただし、15名の裁判官のうち4名が反対意見を述べ、夫婦別姓を選択できないことは憲法24条に違反するとした。


ポイント解説

「形式的平等」と「実質的平等」の問題

本判決の重要な論点は、形式的平等と実質的平等の乖離である。

観点 内容 形式的平等 民法750条は夫婦いずれの氏を称するかを当事者の協議に委ねており、男女の区別はない 実質的平等 実態として約96%の夫婦で女性が氏を変更しており、不利益は事実上女性に偏在 多数意見の判断 形式的に男女平等であるため、14条1項違反ではない 批判 間接差別(中立的な制度が特定の性に不均衡な不利益を及ぼすこと)の観点が欠落

憲法24条の審査枠組み

本判決は、憲法24条の審査枠組みについて以下のように整理した。

  • 24条1項: 婚姻は両当事者の合意のみに基づく(婚姻の自由の保障)
  • 24条2項: 婚姻・家族に関する事項は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して法律で定める(立法裁量の枠組み)

24条2項は立法府に一定の裁量を認めるが、個人の尊厳と両性の本質的平等という要請に照らして合理性を欠く制度は許されない。多数意見はこの枠組みの中で合理性を肯定したが、反対意見はこの枠組みの中でも合理性を否定した。

通称使用と法制度の関係

多数意見は、旧姓の通称使用が社会的に広まっていることを指摘し、氏の変更に伴う不利益はある程度緩和されているとした。しかし、反対意見はこれを批判し、通称使用はあくまで事実上の慣行にすぎず、法的な保障はないと指摘した。

平成27年判決と令和3年決定の比較

項目 平成27年判決 令和3年決定 結論 合憲 合憲 反対意見 5名(岡部喜代子ほか) 4名(宮崎裕子ほか) 意見・補足意見 複数あり 複数あり 国会への言及 立法政策として検討を促す 同様に国会での検討を求める

学説・議論

夫婦別姓導入をめぐる立場

  • 選択的夫婦別姓導入説(学説多数): 夫婦同姓のみを認める現行制度は、氏名に関する人格的利益を不当に制約し、実質的に女性差別である。選択的夫婦別姓制度を導入すべき
  • 合憲説(判例の立場): 夫婦同姓制度は家族の一体性を示す合理的な制度であり、選択的夫婦別姓の導入は立法裁量の問題
  • 夫婦同姓堅持説: 家族の一体性・子の福祉の観点から夫婦同姓制度を維持すべき

間接差別の問題

多数意見が形式的平等のみを審査し、実質的平等(間接差別)の問題に十分に踏み込まなかった点については、学説から強い批判がある。女性差別撤廃条約委員会も日本に対し夫婦同姓制度の見直しを繰り返し勧告している。

24条の規範的意義

24条2項が立法裁量をどの程度制約するかについて、本判決は緩やかな審査にとどまったとの評価が多い。学説では、24条は単なる立法指針ではなく、婚姻の自由を実質的に保障する規範として、より厳格な審査が求められるとする見解が有力である。


判例の射程

直接的射程

本判決は民法750条の合憲性を判断したものであり、夫婦同姓制度の合憲性に直接の射程が及ぶ。令和3年決定でも合憲判断が維持されているが、反対意見の存在や社会状況の変化を踏まえ、将来的に判断が変更される可能性は否定できない。

拡張可能性

  • 婚姻の自由の範囲: 同性婚を認めない民法・戸籍法の合憲性の問題にも、本判決の24条の解釈論が援用されうる
  • 間接差別の審査手法: 形式的平等と実質的平等の乖離の問題は、他の法制度(税制、社会保障等)の審査にも共通する

試験対策での位置づけ

本判決は再婚禁止期間違憲判決と同日に言い渡された判決であり、両者を比較して出題されることが多い。短答式では、合憲の結論(14条1項・24条いずれも合憲)、氏名に関する人格的利益の位置づけ、反対意見の存在等が問われる。

論文式では、24条の審査枠組み(立法裁量の範囲と限界)、間接差別の問題形式的平等と実質的平等の関係が出題ポイントである。令和3年決定の反対意見も含めた総合的な理解が求められる。


答案での使い方

論証パターン

本件では、〔婚姻に関する制度上の制約〕が憲法24条に違反しない
かが問題となる。
この点、判例は、婚姻及び家族に関する事項について国会に合理的
な立法裁量を認めつつ、個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照
らして合理性を欠く制度は許されないとする(最大判平27.12.16)。
本件の制度が合理性を有するかについて、〔立法目的の合理性〕と
〔制度の合理的関連性〕を検討する。

引用すべき規範

  • 婚姻・家族に関する事項は立法裁量が認められるが、個人の尊厳と両性の本質的平等に照らして合理性を欠く制度は許されない
  • 氏名に関する人格的利益は法制度によって規律されるものであり、直ちに13条の人格権の一内容として保障されるものではない

関連条文

すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

― 日本国憲法 第13条

婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。

― 日本国憲法 第24条第1項

配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

― 日本国憲法 第24条第2項


関連判例


まとめ

  • 民法750条の夫婦同姓制度は、憲法13条・14条1項・24条のいずれにも違反しない(合憲)
  • 氏名に関する人格的利益は認めつつも、氏は法制度によって規律されるものとした
  • 形式的に男女平等であるため14条1項違反は否定されたが、実質的平等(間接差別)の問題は残る
  • 令和3年決定でも合憲判断が維持されたが、反対意見が存在し、国会での検討を促している
  • 学説の多数は選択的夫婦別姓制度の導入を支持しており、判例と学説の間に緊張関係がある
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