弁済の提供と相殺|債権の消滅原因を横断整理
民法の弁済・供託・相殺を体系的に解説。弁済の提供の方法、第三者弁済、供託の要件、相殺の要件と差押えとの関係を整理します。
この記事のポイント
弁済と相殺は債権の消滅原因の中核をなし、試験においても頻出の分野である。 弁済では第三者弁済(474条)と弁済による代位(499条・500条)が、相殺では相殺適状の要件と差押えと相殺の関係(511条)が重要論点となる。改正民法は第三者弁済の要件と差押えと相殺の関係を大幅に見直した。
弁済
弁済の提供(492条・493条)
弁済の提供をすれば、債務者は不履行の責任を免れる(492条)。
提供の方法 内容 適用場面 現実の提供 債務の本旨に従った履行の提供 原則 口頭の提供 弁済の準備をしたことを通知して受領を催告 債権者が予め受領を拒んでいる場合等第三者弁済(474条)
改正民法は第三者弁済の要件を整理した。
- 原則: 債務者以外の第三者も弁済できる(474条1項)
- 制限: 債務の性質が許さない場合、当事者が反対の意思を表示した場合は不可(474条1項・2項)
- 正当な利益を有しない第三者: 債務者の意思に反して弁済できない(474条2項)。ただし、債務者の意思に反することを債権者が知らなかったときは有効(474条2項ただし書)
弁済による代位(499条・500条)
弁済をするについて正当な利益を有する者は、弁済によって当然に債権者に代位する(499条・500条)。
- 法定代位: 保証人、物上保証人、第三取得者等
- 任意代位: 正当な利益を有しない第三者(債権者の承諾が必要)
供託
要件(494条)
以下の場合に供託をすることで債務を免れることができる。
- 弁済の提供をしたが、債権者がその受領を拒んだとき(受領拒否)
- 債権者が弁済を受領することができないとき(受領不能)
- 弁済者が過失なく債権者を確知することができないとき(債権者不確知)
供託の効果
供託により、その債権は消滅する(494条1項)。
相殺
相殺の要件(505条)
- 二人の間に対立する債権が存在すること
- 双方の債権が同種の目的を有すること(通常は金銭債権)
- 双方の債権が弁済期にあること(相殺適状)
- 相殺禁止事由に該当しないこと
相殺の方法
相殺は一方的な意思表示によって行う(506条1項)。相手方の同意は不要である。
相殺禁止(509条)
以下の場合は相殺が禁止される。
禁止事由 改正前 改正後 不法行為債権を受働債権とする相殺 全面禁止 悪意の不法行為・人の生命身体の侵害に限定(509条)改正民法509条は相殺禁止を以下の場合に限定した。
- 悪意による不法行為に基づく損害賠償債務を受働債権とする相殺(1号)
- 人の生命又は身体の侵害による損害賠償債務を受働債権とする相殺(2号)
差押えと相殺(511条)
改正民法511条は、差押えと相殺の関係を以下のように整理した。
- 差押え前に取得した債権による相殺: 可能(511条1項)
- 差押え後に取得した債権による相殺: 原則不可(511条2項本文)
- ただし、差押え後に取得した債権であっても、差押え前の原因に基づいて生じた債権による相殺は可能(511条2項ただし書)
これは従来の無制限説(最大判昭45.6.24)の立場を基本的に維持しつつ、明文化したものである。
試験での出題ポイント
- 弁済の提供: 現実の提供と口頭の提供の使い分け
- 第三者弁済: 正当な利益を有しない第三者の弁済の要件
- 弁済による代位: 法定代位と任意代位の区別
- 相殺適状: 弁済期の到来の判断
- 差押えと相殺: 511条の改正内容
まとめ
- 弁済の提供は現実の提供が原則、口頭の提供は例外的場面
- 第三者弁済は改正で要件が整理され、正当な利益のない第三者の弁済は債務者の意思に反してできない
- 弁済による代位は正当な利益を有する者は当然代位
- 相殺禁止は改正で限定され、悪意の不法行為と生命身体侵害に限定
- 差押えと相殺は無制限説を基本に明文化(511条2項ただし書)
FAQ
Q1. 第三者弁済はいつでもできますか?
原則として可能ですが、正当な利益を有しない第三者は債務者の意思に反して弁済できません。ただし、債権者がその事情を知らなかった場合は有効です。
Q2. 差押え後に相殺できますか?
差押え前に取得した債権による相殺は可能です。差押え後に取得した債権でも、差押え前の原因に基づく債権であれば相殺できます(改正511条2項ただし書)。
Q3. 不法行為の損害賠償債権を相殺に使えますか?
自働債権として使うことは可能です。受働債権として使うこと(不法行為の加害者が相殺すること)が制限されており、悪意の不法行為と生命身体侵害の場合に禁止されます。