仲裁と裁判外紛争解決(ADR)
仲裁法の基本構造、仲裁合意の効力、仲裁判断の効力、ADR促進法の概要を訴訟との比較を交えて体系的に解説します。
この記事のポイント
- 仲裁は当事者の合意に基づき第三者(仲裁人)の判断に紛争解決を委ねる制度である
- 仲裁合意があると裁判所は訴えを却下しなければならない(仲裁法14条1項)
- 仲裁判断は確定判決と同一の効力を有する(仲裁法45条1項)
- ADR促進法は裁判外紛争解決手続の利用促進を目的とする法律である
仲裁制度の意義
仲裁とは
仲裁とは、当事者の合意(仲裁合意)に基づき、私人である第三者(仲裁人)に紛争の判断を委ね、その判断(仲裁判断)に服することを約束する紛争解決手続をいう。
仲裁の特徴
| 特徴 | 内容 |
|---|---|
| 私的自治に基づく | 当事者の合意が手続の基礎 |
| 一審制 | 仲裁判断に対する上訴はできない |
| 非公開 | 手続は非公開が原則 |
| 終局性 | 仲裁判断は確定判決と同一の効力 |
| 国際性 | 国際商事紛争でも広く利用される |
仲裁法の沿革
日本の仲裁法は、平成15年法律第138号として制定された。UNCITRAL(国連国際商取引法委員会)の国際商事仲裁モデル法を基礎としている。旧法(旧民事訴訟法786条〜805条)を全面改正したものである。
仲裁合意
仲裁合意の意義
仲裁合意とは、既に生じた又は将来において生ずる一定の法律関係に関する民事上の紛争の全部又は一部の解決を仲裁人に委ねることを合意することをいう(仲裁法2条1項)。
仲裁合意の要件
| 要件 | 内容 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 書面性 | 仲裁合意は書面によってしなければならない | 仲裁法13条2項 |
| 対象の特定性 | 一定の法律関係に関する紛争であること | 仲裁法2条1項 |
| 仲裁可能性 | 和解の対象となりうる民事上の紛争であること | 仲裁法13条1項 |
書面要件の緩和
仲裁法13条は書面性を要求するが、以下の場合も書面による仲裁合意があったものとされる。
- 電磁的記録によりなされた場合(13条4項)
- 契約書に仲裁条項を含む文書の引用がある場合(13条5項)
- 訴訟手続において一方当事者が仲裁合意の存在を主張し、相手方がこれを争わなかった場合(13条6項)
仲裁合意の効力(14条)
仲裁合意の効力として最も重要なのは、訴訟排除効である。
仲裁法14条1項は「仲裁合意の対象となる民事上の紛争について訴えが提起されたときは、受訴裁判所は、被告の申立てにより、訴えを却下しなければならない」と定める。
訴訟排除効の要件
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 被告の申立て | 裁判所が職権で判断するのではなく、被告の抗弁が必要 |
| 本案の弁論前 | 被告が本案について弁論をする前に申立てをすること(14条1項ただし書) |
| 仲裁合意が有効であること | 仲裁合意が無効、取消し又は履行不能でないこと |
例外(訴訟排除効が生じない場合)
仲裁法14条1項ただし書は、以下の場合には訴えを却下しないと定める。
- 仲裁合意が無効であるとき
- 仲裁合意が取り消すことができるものであるとき
- 仲裁合意がその効力を有しないとき
- 仲裁合意に基づく仲裁手続を行うことができないとき
仲裁手続
仲裁人の選任
仲裁人の数及び選任方法は、当事者の合意により定められる。合意がない場合、仲裁法16条以下が規定する。
| 項目 | 内容 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 仲裁人の数 | 当事者の合意による。合意がなければ3人 | 16条1項・2項 |
| 選任方法 | 当事者の合意による。合意がなければ法定の手続 | 17条 |
| 忌避 | 仲裁人に公正性・独立性を疑わせる事情がある場合 | 18条・19条 |
仲裁手続の進行
仲裁手続の進行は、原則として当事者の合意に従う。合意がない場合、仲裁廷がこれを定める。
- 口頭審理の実施 — 仲裁廷は当事者の申立てにより又は職権で口頭審理を行うことができる(32条)
- 証拠調べ — 仲裁廷は自ら証拠調べを行うことができる。ただし、裁判所の協力が必要な場合がある(35条)
- 和解 — 仲裁手続中に当事者が和解した場合、仲裁廷は和解の内容による仲裁判断をすることができる(38条)
仲裁判断
仲裁判断の意義
仲裁判断とは、仲裁廷が紛争の本案について行う終局的な判断をいう。
仲裁判断の効力(45条)
仲裁法45条1項は「仲裁判断は、確定判決と同一の効力を有する」と定める。
| 効力 | 内容 |
|---|---|
| 既判力 | 仲裁判断の内容に拘束力が生じる |
| 執行力 | 裁判所の執行決定を得れば強制執行が可能(46条) |
| 形成力 | 形成的な仲裁判断には形成力が認められる |
仲裁判断の執行(46条)
仲裁判断に基づく強制執行を行うためには、裁判所の執行決定を得る必要がある。
- 申立先 — 仲裁地を管轄する地方裁判所等
- 審査事項 — 仲裁判断の取消事由(44条1項各号)に該当しないこと
仲裁判断の取消し(44条)
仲裁判断の取消しの訴えは、以下の事由がある場合に認められる。
| 号数 | 取消事由 |
|---|---|
| 1号 | 仲裁合意が無効であるとき |
| 2号 | 仲裁廷の構成又は仲裁手続が法令に違反するとき |
| 3号 | 仲裁判断が仲裁合意の範囲外の事項についてなされたとき |
| 4号 | 仲裁手続における当事者の防御権が保障されなかったとき |
| 5号 | 仲裁判断が日本の公序に違反するとき |
| 6号 | 紛争が仲裁の対象とすることができないものであるとき |
ADR(裁判外紛争解決手続)
ADRの意義
ADR(Alternative Dispute Resolution)とは、裁判によらない紛争解決手続の総称をいう。仲裁のほか、調停、あっせん等の手続がこれに含まれる。
ADRの種類
| 種類 | 内容 | 拘束力 |
|---|---|---|
| 仲裁 | 仲裁人の判断に服する | 確定判決と同一の効力 |
| 調停 | 調停人が当事者間の合意を媒介する | 合意による拘束力のみ(民事調停法を除く) |
| あっせん | あっせん人が当事者間の交渉を促進する | 拘束力なし |
| 相談 | 専門家による法律相談 | 拘束力なし |
裁判所が関与するADR
| 制度 | 根拠法 | 効力 |
|---|---|---|
| 民事調停 | 民事調停法 | 調停調書は確定判決と同一の効力(民事調停法16条) |
| 家事調停 | 家事事件手続法 | 確定した審判と同一の効力(268条1項) |
| 労働審判 | 労働審判法 | 異議がなければ確定判決と同一の効力(21条4項) |
ADR促進法(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律)
ADR促進法の概要
ADR促進法(平成16年法律第151号)は、民間紛争解決手続の業務の認証制度を設け、裁判外紛争解決手続の利用を促進することを目的とする法律である。
認証制度
ADR促進法は、法務大臣による認証を受けた民間紛争解決手続機関(認証紛争解決事業者)について、以下の特例を認める。
| 特例 | 内容 |
|---|---|
| 時効の完成猶予 | 認証紛争解決手続によって紛争解決を図る旨の合意がなされた場合、時効の完成が猶予される(ADR促進法25条) |
| 調停前置の特例 | 認証紛争解決手続を経た場合、調停前置主義の適用が除外される(26条) |
認証の要件
認証紛争解決事業者となるための主な要件は以下のとおりである。
- 紛争解決手続の業務を適正に行うための体制が整備されていること
- 手続実施者(調停人等)が法律の素養を有すること
- 手続の公正・適確な実施に関する措置が講じられていること
訴訟とADRの比較
メリット・デメリットの比較
| 比較項目 | 訴訟 | 仲裁 | 調停・あっせん |
|---|---|---|---|
| 手続の公開性 | 公開 | 非公開 | 非公開 |
| 判断の拘束力 | 確定判決に既判力 | 確定判決と同一の効力 | 合意に基づく |
| 手続の柔軟性 | 法定の手続に従う | 当事者の合意で柔軟に設計可能 | 柔軟 |
| 費用 | 印紙代等の裁判費用 | 仲裁人報酬等(高額になることも) | 比較的低額 |
| 期間 | 長期化する場合あり | 比較的短期 | 短期 |
| 上訴の可否 | 三審制 | 一審制(上訴不可) | 不服申立ての制度なし |
| 執行力 | 判決確定後に直接執行可能 | 執行決定が必要 | 原則なし(調停調書等を除く) |
| 専門性 | 裁判官による判断 | 専門家を仲裁人に選任可能 | 専門家が関与可能 |
ADR利用が適する紛争類型
- 国際商事紛争 — 中立的な仲裁地・仲裁機関を選択可能
- 専門的知識を要する紛争 — 建設紛争、知的財産紛争等
- 秘密保持が重要な紛争 — 営業秘密等が関わる紛争
- 継続的取引関係の維持が望まれる紛争 — 調停・あっせんによる合意形成
仲裁と憲法32条
裁判を受ける権利との関係
仲裁合意により裁判を受ける権利(憲法32条)が制限されることについて、以下のように整理される。
- 通説 — 仲裁合意は当事者の自由な意思に基づく処分であり、憲法32条に反しない
- 理由 — 裁判を受ける権利は放棄可能な権利であり、私的自治の範囲内で仲裁合意をすることは許される
- 限界 — 消費者契約や労働契約における仲裁合意については、交渉力の格差から制限が設けられている(仲裁法附則等)
試験対策での位置づけ
仲裁とADRは、以下の点が試験で問われやすい。
- 仲裁合意の効力 — 訴訟排除効の要件(被告の申立て・本案弁論前)
- 仲裁判断の効力 — 確定判決と同一の効力(45条)
- 仲裁判断の取消事由 — 44条各号の内容
- ADRの種類と特徴 — 仲裁・調停・あっせんの比較
- 短答式試験 — 仲裁法の条文知識(仲裁合意の書面性、執行決定の要否等)
関連判例
- 最判平成9年9月4日 — 仲裁合意の有効性と訴訟排除効
- 最決平成28年12月12日 — 仲裁判断の取消事由と公序違反
- 最判昭和50年7月15日 — 仲裁契約の解釈
- 東京高決平成15年9月16日 — 国際仲裁における仲裁判断の承認・執行
まとめ
仲裁は、当事者の合意に基づく私的自治を尊重した紛争解決手続であり、仲裁合意の訴訟排除効(14条)と仲裁判断の確定判決同一効力(45条)がその核心的な効力である。ADRは仲裁を含む裁判外紛争解決手続の総称であり、ADR促進法により認証制度が整備されている。訴訟との比較において、非公開性、柔軟性、専門性、一審制といった特徴を理解し、各紛争類型に適した紛争解決手続の選択を考えられるようにしておくことが重要である。
科目を選び、肢別演習で知識を確かめられます。