敵対的買収防衛策の法的枠組み――ブルドックソース事件から学ぶ
敵対的買収防衛策の類型(ポイズンピル・ホワイトナイト等)とブルドックソース事件の判断枠組み、株主平等原則との関係を体系的に解説します。
この記事のポイント
敵対的買収防衛策は、経営陣の保身目的での発動が許されない一方、企業価値の毀損を防ぐための合理的な防衛策は一定の要件の下で適法とされる。ブルドックソース事件(最決平19.8.7)は、株主総会の特別決議に基づく防衛策の発動について、株主平等原則(109条1項)との関係で重要な判断枠組みを示した最高裁決定である。
敵対的買収の基本構造
敵対的買収とは
敵対的買収とは、対象会社の取締役会の同意を得ないまま、公開買付け(TOB)等の手段により会社の支配権を取得しようとする行為をいう。
公開買付け(TOB)の法的規律
公開買付けは金融商品取引法(27条の2以下)に規律されている。
- 市場外で発行済株式の3分の1超を取得する場合にはTOBが義務付けられる(27条の2第1項)
- 全部買付義務(27条の13第4項):一定の場合に応募株式の全部の買付けが必要
- 強圧性の問題:株主が買付けに応じざるを得ない状況が生じる
主要な買収防衛策の類型
事前の防衛策
| 防衛策 | 内容 | 法的論点 |
|---|---|---|
| ポイズンピル(新株予約権方式) | 敵対的買収者が一定割合の株式を取得した場合に、既存株主に新株予約権を無償で割り当てる仕組み | 買収者の持株比率を希釈化。差別的行使条件の適法性が問題 |
| 黄金株(拒否権付種類株式) | 組織再編等の重要事項について拒否権を付した種類株式を友好的な第三者に発行 | 108条1項8号で認められるが、上場会社での利用は東証規則で制限 |
| 定款変更 | 取締役の任期のずらし(スタッガード・ボード)等 | 取締役の一斉交代を防止 |
事後の防衛策
| 防衛策 | 内容 | 法的論点 |
|---|---|---|
| ホワイトナイト | 友好的な第三者(白馬の騎士)に株式を取得してもらう | 第三者割当増資の公正性が問題 |
| パックマンディフェンス | 対象会社が逆に買収者の株式を取得する | 相互保有規制(308条1項括弧書)との関係 |
| クラウンジュエル | 対象会社の主要資産を譲渡して企業価値を下げる | 取締役の善管注意義務違反の可能性 |
| 焦土作戦 | 対象会社が多額の負債を負って魅力を低下させる | 同上 |
ブルドックソース事件(最決平19.8.7)
事案の概要
米国の投資ファンドであるスティール・パートナーズが、ブルドックソース株式会社に対して公開買付けを行った。これに対し、ブルドックソースは株主総会の特別決議を経て、全株主に新株予約権を無償割当てする防衛策を発動した。
この新株予約権には、スティール・パートナーズは行使できないという差別的行使条件が付されていた(ただし、スティール・パートナーズに対しては新株予約権の対価として金銭が交付された)。
争点
- 差別的行使条件を付した新株予約権の無償割当ては、株主平等原則(109条1項)に違反しないか
- 本件防衛策の発動は、著しく不公正な方法による新株予約権の発行に当たらないか
最高裁の判断枠組み
最高裁は、以下の判断枠組みを示した。
第1段階:株主平等原則との関係
株主平等の原則の趣旨は、株式会社が株主を、その有する株式の内容及び数に応じて平等に取り扱うべきことを定めたものであるが、個々の株主の利益は、一般的には会社の利益と表裏の関係にある。特定の株主による経営支配権の取得に伴い、会社の企業価値がき損され、会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されることになるような場合には、その防止のために当該株主を差別的に取り扱ったとしても、当該取扱いが衡平の理念に反し、相当性を欠くものでない限り、株主平等の原則に反しない
第2段階:防衛策の相当性の判断
- 株主総会の特別決議を経ていること(経営者の恣意的判断ではないこと)
- 買収者に対して金銭的補償(対価の交付)がなされていること
- 買収者が濫用的買収者に該当すること
結論
最高裁は、本件防衛策は株主平等原則に反せず、著しく不公正な方法にも当たらないとして、防衛策の発動を適法と判断した。
企業価値研究会の指針
買収防衛策に関する指針(2005年)
経済産業省・法務省による「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」は、適法な防衛策の要件として以下の3原則を示した。
- 企業価値・株主共同の利益の確保・向上の原則:防衛策は企業価値ひいては株主共同の利益の確保・向上を目的とするものでなければならない
- 事前開示・株主意思の原則:防衛策の内容は事前に開示され、株主の合理的な意思に依拠するものであるべき
- 必要性・相当性確保の原則:防衛策は必要かつ相当な範囲のものでなければならない
企業買収における行動指針(2023年改訂)
2023年に経済産業省が改訂した「企業買収における行動指針」では、以下の考え方が示された。
- 買収提案に対しては、企業価値の向上に資するか否かを基準に判断すべき
- 取締役会の真摯な検討義務が強調された
- 防衛策の発動は株主意思の確認を経ることが望ましい
株主平等原則(109条1項)との関係
株主平等原則の意義
会社法109条1項は、「株式会社は、株主を、その有する株式の内容及び数に応じて、平等に取り扱わなければならない」と規定する。
防衛策との緊張関係
買収防衛策は、特定の株主(買収者)を差別的に取り扱うものであるため、株主平等原則との緊張関係が常に問題となる。
| 場面 | 株主平等原則との関係 |
|---|---|
| 差別的行使条件付き新株予約権 | ブルドックソース事件で一定の要件の下で適法と判断 |
| 差別的な第三者割当増資 | 主要目的ルールにより判断(不公正発行の法理) |
| 差別的な自己株式取得 | 156条〜の手続的規制に服する |
主要目的ルール
新株発行・新株予約権発行の差止め(210条・247条)に関して、判例は主要目的ルールを採用している。
- 新株発行等の主要な目的が資金調達等の正当な目的にある場合:適法
- 主要な目的が経営者の支配権維持にある場合:不公正発行として差止めの対象
近時の裁判例と実務動向
東京機械製作所事件(東京高決令3.11.9)
- 有事(買収局面)における事後的な防衛策の発動の適法性が争われた
- 株主総会の承認を得た防衛策について、裁判所はその合理性を肯定
MOM(Majority of Minority)決議
- 買収者を除く少数株主の過半数の賛成による承認
- ブルドックソース事件では採用されなかったが、防衛策の正当性を高める手段として注目されている
独立委員会の設置
- 防衛策の発動判断に際し、社外取締役・社外有識者からなる独立委員会の勧告を受けることが実務上一般化
- 経営者の恣意的判断を排除し、防衛策の客観性・公正性を担保する
試験対策での位置づけ
敵対的買収防衛策は、会社法の中でも論文式試験の重要テーマである。
- ブルドックソース事件の判断枠組みを正確に再現できるようにする
- 株主平等原則(109条1項)の趣旨と、差別的取扱いが許容される要件を論じる力が求められる
- 主要目的ルールは新株発行差止めの場面で必ず言及するポイント
- 短答式試験では、各防衛策の類型とその法的論点が問われることがある
- 「企業価値・株主共同の利益」という判断基準を答案に盛り込むことが高得点のポイント
関連判例
- 最決平19.8.7(ブルドックソース事件):差別的行使条件付き新株予約権の無償割当ての適法性
- 東京高決平17.3.23(ニッポン放送事件):第三者割当増資の差止め、主要目的ルールの適用
- 東京地決平17.7.29(日本技開事件):事前警告型防衛策の適法性
- 東京高決令3.11.9(東京機械製作所事件):有事導入型防衛策の適法性
まとめ
敵対的買収防衛策の適法性は、企業価値ひいては株主共同の利益の確保・向上に資するか否かという観点から判断される。ブルドックソース事件は、株主総会の特別決議を経た防衛策について、差別的取扱いの相当性が認められる限り株主平等原則に反しないとする判断枠組みを示した。試験対策としては、各防衛策の類型を把握したうえで、株主平等原則・不公正発行の法理・主要目的ルールという3つの法的枠組みを使いこなせるようにしておくことが重要である。
科目を選び、肢別演習で知識を確かめられます。