被害者の同意と正当行為|違法性阻却事由の体系
被害者の同意と正当行為を解説。違法性阻却事由の体系、同意の要件と限界、治療行為・スポーツの正当化根拠を整理します。
この記事のポイント
違法性阻却事由は、構成要件に該当する行為の違法性を否定する事由であり、正当防衛(36条)、緊急避難(37条)のほか、正当行為(35条)、被害者の同意がある。 正当行為には法令行為、正当業務行為が含まれ、被害者の同意は構成要件該当性を阻却する場合と違法性を阻却する場合がある。
違法性阻却事由の体系
事由 条文 内容 正当行為 35条 法令行為・正当業務行為 正当防衛 36条 急迫不正の侵害に対する防衛 緊急避難 37条 現在の危難を避けるための行為 被害者の同意 明文なし 法益の処分に対する被害者の承諾 超法規的違法性阻却 明文なし 法益衡量等による正当化被害者の同意
構成要件阻却と違法性阻却
構成要件阻却 違法性阻却 場面 同意により構成要件該当性自体が否定される場合 構成要件には該当するが違法性が阻却される場合 例 住居侵入罪(同意あれば「侵入」に当たらない) 傷害罪(同意傷害の違法性阻却)同意の有効要件
- 処分権限: 同意者が法益の処分権限を有すること
- 同意能力: 同意の意味・内容を理解する能力があること
- 任意性: 強制・欺罔によらない自由な意思に基づくこと
- 行為時の存在: 行為時に同意が存在すること
- 認識: 行為者が同意の存在を認識していること(主観説による場合)
同意の限界
生命に対する同意: 生命は個人の処分に委ねられない法益であり、殺人罪については被害者の同意があっても違法性は阻却されず、同意殺人罪(202条)が成立する。
傷害に対する同意: 判例は、社会的相当性の範囲内でのみ同意による違法性阻却を認める。
正当行為(35条)
法令行為
法令に基づく行為は正当行為として違法性が阻却される。
- 死刑の執行
- 逮捕行為(刑事訴訟法に基づく)
- 懲戒権の行使
正当業務行為
社会的に正当と認められる業務上の行為。
医療行為: 治療目的で患者の身体を侵襲する行為は、以下の要件を満たせば正当業務行為として違法性が阻却される。
- 治療目的であること
- 医学的適応性があること
- 医術的正当性(医学上承認された方法)
- 患者の同意(インフォームド・コンセント)
スポーツ: ルールの範囲内での身体的接触は正当業務行為として違法性が阻却される。
報道活動: 取材・報道行為は、社会的相当性の範囲内で正当業務行為となりうる。
自救行為
意義
権利者が、公的救済を待ついとまがなく、自力でその権利を回復する行為。
許容性
判例は自救行為を原則として認めないが、公的救済を待つことが著しく困難で、かつ行為が社会的相当性の範囲内にある場合には、例外的に違法性阻却を認める余地がある。
超法規的違法性阻却事由
意義
正当防衛、緊急避難等の法定の違法性阻却事由に該当しない場合でも、法益衡量の結果、行為の違法性が阻却される場合がありうる。
判断基準
- 侵害される法益と保全される法益の比較衡量
- 行為の社会的相当性
- 手段の補充性
試験での出題ポイント
- 被害者の同意の要件: 処分権限・同意能力・任意性
- 同意の限界: 生命に対する同意は違法性阻却しない
- 医療行為の正当化: 4要件の検討
- 構成要件阻却と違法性阻却の区別: 同意の体系的位置づけ
- 自救行為: 原則不可、例外的許容
まとめ
- 被害者の同意は構成要件を阻却する場合と違法性を阻却する場合がある
- 同意の有効要件は処分権限・同意能力・任意性・行為時存在
- 生命に対する同意は違法性阻却せず、同意殺人罪が成立
- 正当業務行為として医療行為・スポーツ等が違法性阻却される
- 自救行為は原則不可だが例外的に認められる余地がある
FAQ
Q1. 被害者が同意していれば傷害罪は成立しませんか?
同意があれば違法性が阻却される場合がありますが、限界があります。判例は社会的相当性の範囲内でのみ同意による違法性阻却を認めており、重大な傷害については同意があっても違法性は阻却されない場合があります。
Q2. 医療行為はなぜ傷害罪にならないのですか?
35条の正当業務行為として違法性が阻却されるためです。治療目的、医学的適応性、医術的正当性、患者の同意の4要件を満たす必要があります。
Q3. 格闘技で相手を怪我させたら犯罪になりますか?
ルールの範囲内での行為は正当業務行為として違法性が阻却されます。ただし、ルールを著しく逸脱した行為や、故意に危険な行為をした場合は犯罪が成立しえます。