【判例】真正身分犯と共犯(最判昭31.5.24)
真正身分犯と共犯に関する最判昭31.5.24を解説。刑法65条1項・2項の解釈、真正身分犯と不真正身分犯の区別、身分なき共犯者の罪責について詳しく分析します。
この判例のポイント
刑法65条1項は真正身分犯について、身分のない者であっても身分者と共犯関係に立つ場合には共犯が成立することを定めたものであり、同条2項は不真正身分犯について、身分のない者には通常の刑を科すべきことを定めたものであるとする判例法理の基礎を示した判例。身分犯の共犯に関する刑法65条の解釈について、1項と2項の適用関係を明らかにした重要判例である。
事案の概要
身分を有する者Aと身分を有しない者B(被告人)が共同して犯行に及んだ事案において、Bの罪責が問題となった。
身分犯の共犯の問題として、刑法65条1項により身分のないBにも共犯が成立するか、また同条2項により刑が修正されるかが争われた。
争点
- 刑法65条1項と2項の関係をいかに解すべきか
- 真正身分犯と不真正身分犯の区別の基準は何か
- 身分のない者が身分犯の共犯となる場合の罪責はどうなるか
判旨
最高裁は、刑法65条の解釈について以下の趣旨を判示した。
刑法65条1項は、犯人の身分によつて構成すべき犯罪行為に加功したときは身分のない者であつても共犯とする旨を規定し、同条2項は、身分によつて特に刑の軽重があるときは身分のない者には通常の刑を科する旨を規定したものである
― 最高裁判所第一小法廷 昭和31年5月24日(趣旨)
すなわち、刑法65条の1項と2項の関係について以下の枠組みが示された。
- 65条1項: 真正身分犯に関する規定。身分が犯罪の構成要件の要素となっている場合(身分がなければ犯罪が成立しない場合)、身分のない者も共犯として成立する。
- 65条2項: 不真正身分犯に関する規定。身分によって刑の軽重がある場合(身分がなくても犯罪は成立するが、身分により加重・減軽される場合)、身分のない者には通常の刑(非身分犯の刑)を科す。
ポイント解説
真正身分犯と不真正身分犯
身分犯は以下のように分類される。
| 類型 | 定義 | 具体例 | 65条の適用 |
|---|---|---|---|
| 真正身分犯 | 身分が構成要件要素 | 収賄罪(公務員)、横領罪(占有者) | 1項 |
| 不真正身分犯 | 身分により刑が加重・減軽 | 業務上横領罪、常習犯 | 2項 |
真正身分犯: 身分がなければ犯罪自体が成立しない犯罪。例えば、収賄罪(刑法197条)は「公務員」という身分がなければ成立しない。
不真正身分犯: 身分がなくても犯罪は成立するが、身分の存在により刑が加重又は減軽される犯罪。例えば、業務上横領罪(刑法253条)は「業務上」の身分により横領罪(252条)より重く処罰される。
65条1項の効果
65条1項により、身分のない者であっても真正身分犯の共犯(共同正犯、教唆犯、幇助犯)として処罰される。
例:非公務員が公務員と共謀して賄賂を収受した場合、非公務員にも収賄罪の共同正犯が成立する。
65条2項の効果
65条2項により、不真正身分犯について身分のない者には「通常の刑」が科される。
例:非業務者が業務上の占有者と共謀して横領した場合、判例の立場では65条1項により業務上横領罪の共同正犯が成立するが、65条2項により非業務者には単純横領罪の刑が科される。
判例の立場の具体的適用(業務上横領罪の場合)
業務上横領罪と非身分者の共犯の処理は、65条の解釈をめぐる最も議論の多い場面である。判例の立場は以下のとおりである。
- 65条1項: 業務上横領罪は身分犯であるから、非業務者も共犯として成立する
- 65条2項: 非業務者には「通常の刑」として単純横領罪の刑を科す
この結果、非業務者は業務上横領罪の共同正犯として有罪となるが、科される刑は単純横領罪の法定刑の範囲内となる。
学説・議論
65条1項・2項の関係に関する学説
65条1項と2項の関係について、以下の学説が対立する。
判例の立場(区別説): 1項は真正身分犯に関する規定、2項は不真正身分犯に関する規定と解する。真正身分犯と不真正身分犯で適用条項を分ける。
統一的理解説(一部の学説): 1項は身分犯の共犯の成立を定めた規定、2項は身分犯の共犯の科刑を定めた規定と解する。この説では、1項は真正身分犯・不真正身分犯の双方に適用され、2項は科刑の個別化を定めたものと理解される。
連帯的作用・個別的作用説: 身分の「連帯的作用」(共犯に影響を及ぼす側面)を1項が、「個別的作用」(行為者個人の事情として刑に影響を及ぼす側面)を2項が規定していると解する。
業務上横領罪の共犯の処理に関する学説の対立
業務上横領罪の非身分者の共犯について、以下の見解が対立する。
判例の立場: 65条1項により業務上横領罪の共同正犯が成立し、65条2項により単純横領罪の刑を科す。
単純横領罪説: 非身分者は業務上横領罪ではなく、単純横領罪の共同正犯が成立する。65条2項の「通常の刑」とは通常の犯罪の刑のことであり、犯罪自体が変更されるとする。
業務上横領罪説: 非身分者にも業務上横領罪が全面的に適用される(65条1項のみ適用、2項は適用なし)。
身分概念の範囲
65条にいう「身分」の範囲について議論がある。
- 身分の意義: 判例は、身分を「一定の犯罪行為に関する犯人の人的関係である特殊の地位又は状態」と解する(最判昭27.9.19)
- 身分の具体例: 公務員、業務者、男女の別、親族関係、常習性等
- 目的犯における目的: 目的犯の目的(例:行使の目的)が65条の身分に該当するかは議論がある
判例の射程
収賄罪と非公務員の共犯
非公務員が公務員と共謀して収賄行為を行った場合、65条1項により収賄罪の共犯が成立する。収賄罪は真正身分犯であるから、2項の適用はなく、非公務員にも収賄罪の刑が科される。
保護責任者遺棄罪と非保護責任者の共犯
保護責任者遺棄罪(刑法218条)は真正身分犯であり、保護責任者でない者が保護責任者と共犯関係に立つ場合、65条1項により共犯が成立する。もっとも、非保護責任者には単純遺棄罪の刑が科されるかについては議論がある。
常習犯の共犯
常習犯(例:常習賭博罪)は不真正身分犯と解されている。常習性のない者が常習犯と共犯関係に立つ場合、65条2項により通常の刑が科される。
反対意見・補足意見
本判決に特段の反対意見は付されていないが、65条の解釈をめぐっては最高裁内部でも見解が分かれる可能性がある。判例法理は一貫して区別説を採用しているが、学説の批判を受けて微調整がなされる場面もある。
試験対策での位置づけ
出題可能性
身分犯と共犯の問題は、刑法総論の最重要論点の一つであり、出題可能性は極めて高い。
- 65条1項と2項の関係を論じさせる理論問題
- 業務上横領罪の非身分者の共犯に関する事例問題
- 真正身分犯と不真正身分犯の区別を問う問題
- 短答式試験での65条の適用に関する正誤問題
短答式試験での出題ポイント
- 身分のない者も真正身分犯の共犯となりうる(○・65条1項)
- 不真正身分犯について身分のない者には通常の刑が科される(○・65条2項)
- 非公務員は収賄罪の共犯となりえない(×)
- 非業務者が業務者と共同して横領した場合、判例は業務上横領罪の共同正犯の成立を認める(○)
答案での使い方(論証パターン)
基本論証(真正身分犯の共犯)
非公務員である甲が公務員乙と共謀して賄賂を収受した場合、甲に収賄罪の共同正犯が成立するか。
収賄罪は公務員という身分が構成要件要素である真正身分犯である。刑法65条1項は、「犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、身分のない者であっても、共犯とする」と規定する。したがって、非公務員甲も65条1項により収賄罪の共同正犯が成立する。
不真正身分犯の共犯の論証
非業務者である甲が業務上の占有者乙と共謀して横領した場合の甲の罪責を検討する。
判例は、業務上横領罪は身分犯であるから、65条1項により非業務者甲にも業務上横領罪の共同正犯が成立するとする。もっとも、65条2項により「身分によって特に刑の軽重があるとき」に該当するから、甲には通常の刑、すなわち単純横領罪(252条)の法定刑が科される。
重要概念の整理
刑法65条の構造
| 条項 | 適用場面 | 効果 |
|---|---|---|
| 65条1項 | 真正身分犯の共犯 | 身分なき者も共犯として成立 |
| 65条2項 | 不真正身分犯の共犯 | 身分なき者には通常の刑 |
身分犯の分類と具体例
| 分類 | 具体例 | 身分 |
|---|---|---|
| 真正身分犯 | 収賄罪(197条) | 公務員 |
| 真正身分犯 | 横領罪(252条) | 委託に基づく占有者 |
| 不真正身分犯 | 業務上横領罪(253条) | 業務者 |
| 不真正身分犯 | 常習賭博罪(186条1項) | 常習者 |
| 不真正身分犯 | 尊属殺重罰規定(旧200条) | 卑属(削除) |
業務上横領罪の共犯処理の比較
| 学説 | 成立する犯罪 | 科される刑 |
|---|---|---|
| 判例(区別説) | 業務上横領罪の共同正犯 | 単純横領罪の刑 |
| 単純横領罪説 | 単純横領罪の共同正犯 | 単純横領罪の刑 |
| 業務上横領罪説 | 業務上横領罪の共同正犯 | 業務上横領罪の刑 |
発展的考察
消極的身分犯
身分があることにより刑が減軽・免除される犯罪(消極的身分犯)の共犯の処理も問題となる。例えば、親族間の犯罪に関する特例(刑法244条の親族相盗例)は消極的身分犯として65条の適用が問題となる。
65条と共犯の本質論
65条の解釈は、共犯の本質論(共犯独立性説・共犯従属性説)とも関連する。共犯従属性説を前提とすれば、正犯の身分が共犯に連帯的に作用するかどうかが問題となり、65条はこの問題に対する立法的解決と位置づけられる。
企業犯罪と身分犯
企業犯罪の場面では、特別の地位にある者(取締役等)の身分犯に非身分者(従業員等)が加担する事案が多い。65条の適用はこの場面でも重要な実務的意義を有する。
身分概念の現代的課題
テクノロジーの発展に伴い、従来の身分概念に当てはまらない新たな地位・関係(システム管理者、プラットフォーム運営者等)が出現している。これらが65条の「身分」に該当するかは今後の課題である。
よくある質問
Q1: 65条1項の「共犯」には共同正犯も含まれますか?
A1: はい。判例は65条1項の「共犯」には共同正犯、教唆犯、幇助犯のいずれも含まれると解しています。したがって、身分のない者が身分者と共同して犯行を行った場合、身分のない者にも共同正犯が成立します。
Q2: 65条2項の「通常の刑」とは何を指しますか?
A2: 判例の立場では、「通常の刑」とは身分のない者に適用される通常の犯罪の法定刑を指します。例えば、業務上横領罪の場合、非業務者には単純横領罪の法定刑(5年以下の懲役)が適用されます。
Q3: 真正身分犯と不真正身分犯の区別の基準は何ですか?
A3: 身分がなければ犯罪自体が成立しない場合が真正身分犯、身分がなくても犯罪は成立するが身分により刑が加重・減軽される場合が不真正身分犯です。例えば、収賄罪は公務員でなければ成立しないので真正身分犯、業務上横領罪は業務者でなくても横領罪は成立するので不真正身分犯です。
Q4: 身分のない者が単独で身分犯を犯すことはできますか?
A4: 真正身分犯については、身分のない者が単独で犯すことはできません。身分が構成要件要素であるため、身分がなければ構成要件に該当しません。不真正身分犯については、身分のない者は通常の犯罪(基本犯)を犯すことは可能です。
Q5: 65条は正犯にも適用されますか?
A5: 65条は文言上「共犯」に関する規定ですが、判例は1項について共同正犯にも適用されるとしています。もっとも、身分のない者が単独で真正身分犯の正犯となることはできません。あくまで身分者と共同正犯関係にある場合に適用されるものです。
関連条文
- 刑法65条1項(身分犯の共犯):犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、身分のない者であっても、共犯とする。
- 刑法65条2項:身分によって特に刑の軽重があるときは、身分のない者には通常の刑を科する。
- 刑法60条(共同正犯)
- 刑法252条(横領)
- 刑法253条(業務上横領)
関連判例
- 最判昭27.9.19:身分の意義に関する判例
- 最判昭32.11.19:65条の適用に関する判例
- 最決平20.5.20:身分犯と共犯に関する近時の判例
- 最判昭42.3.7:不真正身分犯の共犯に関する判例
まとめ
最判昭31.5.24は、刑法65条1項を真正身分犯の共犯に関する規定、同条2項を不真正身分犯の共犯に関する規定と解する区別説を採用した判例である。この判例法理により、身分のない者であっても真正身分犯の共犯として処罰され、不真正身分犯の共犯の場合には通常の刑が科されるという枠組みが確立した。65条の解釈をめぐっては学説上の対立が続いているが、判例は一貫して区別説を維持している。試験対策としては、65条1項と2項の適用場面の区別、真正身分犯と不真正身分犯の具体例、業務上横領罪の共犯処理を正確に理解しておくことが不可欠である。
科目を選び、肢別演習で知識を確かめられます。