窃盗罪の構成要件|占有の意義と不法領得の意思
刑法235条の窃盗罪の構成要件を解説。他人の占有する財物、窃取行為、占有の意義と判断基準、不法領得の意思の内容を判例とともに整理します。
この記事のポイント
窃盗罪(刑法235条)は「他人の財物を窃取した者」を処罰する規定であり、財産犯の中で最も基本的かつ出題頻度の高い犯罪類型である。 窃盗罪の検討においては、「他人の財物」の意義(特に占有の帰属)、「窃取」の意義、不法領得の意思の要否・内容が中心的な論点となる。
窃盗罪の構成要件
客体:「他人の財物」
財物の意義
財物とは、有体物をいうのが原則であるが、管理可能な電気も財物とみなされる(245条)。
- 有体物であれば、動産・不動産を問わない(不動産侵奪罪は235条の2)
- 情報それ自体は財物ではない
- 財産的価値がない物も財物に含まれうる(主観的価値を含む)
「他人の」の意義
他人が所有する財物であることが必要である。自己の所有物であっても、他人が占有し、または公務所の命令により他人が看守する場合は、他人の財物とみなされる(242条)。
占有の意義
窃盗罪における占有とは、財物に対する事実上の支配をいう。民法上の占有よりも事実的な概念である。
占有の判断基準
占有の有無は、以下の要素を総合的に考慮して判断される。
- 客観的要素: 財物に対する事実上の支配の存否
- 財物との場所的接近性
- 財物の存在する場所の排他性
- 財物の形状・性質
- 主観的要素: 財物を支配する意思(占有の意思)
占有が問題となる類型
死者の占有
被害者を殺害した後に財物を奪取した場合、死者に占有が認められるかが問題となる。
- 判例: 殺害直後であれば、なお被害者の占有が継続しているものとして窃盗罪の成立を認める(最判昭41.4.8)
- 学説: 死者には占有が認められないとし、占有離脱物横領罪とする見解もある
封緘物の占有
封緘された物の中身(内容物)の占有が、受託者と委託者のいずれに帰属するかが問題となる。
- 判例: 封緘物全体の占有は受託者にあるが、内容物の占有は委託者に帰属する(大判大8.4.5)
- 受託者が封を開けて中身を取り出せば窃盗罪、封緘物全体を持ち去れば横領罪
上下・主従関係における占有
雇用関係にある場合、上位者(雇用主)と下位者(従業員)のいずれに占有が帰属するかが問題となる。
- 原則として上位者に占有が帰属する
- 下位者は上位者の占有を補助するにすぎない(占有補助者)
- ただし、下位者に独立の管理権限が与えられている場合は下位者に占有が認められる
窃取行為
窃取の意義
窃取とは、他人の占有する財物を、占有者の意思に反して自己または第三者の占有に移転することをいう。
- 占有の移転は暴行・脅迫以外の手段による(暴行・脅迫を用いれば強盗罪)
- 被害者の処分行為に基づく交付があれば詐欺罪(処分行為の有無が窃盗と詐欺の区別)
- 窃取は秘密裡に行われることが典型であるが、公然と行われても窃取に該当する
既遂時期
窃盗罪の既遂時期は、行為者が財物の占有を取得した時点(取得時説)である。
不法領得の意思
要否
窃盗罪の成立に不法領得の意思が必要かについては、以下の対立がある。
- 必要説(判例・通説): 使用窃盗を不可罰とし、毀棄罪との区別を明確にするために必要
- 不要説: 故意の他に主観的要件を要求する理論的根拠がない
内容
判例は不法領得の意思を以下の2つの要素に分解する。
- 排除意思: 権利者を排除して他人の物を自己の所有物と同様に扱う意思
- 利用処分意思: その経済的用法に従い、これを利用しまたは処分する意思
具体的事例
事例 排除意思 利用処分意思 結論 一時使用して返還する意思 × ○ 窃盗不成立(使用窃盗) 壊す目的で持ち去る ○ × 窃盗不成立(器物損壊の可否) 嫌がらせで隠す △ × 事案による 売却する目的で持ち去る ○ ○ 窃盗成立親族相盗例
244条の規定
- 1項: 配偶者、直系血族または同居の親族との間で窃盗罪等を犯した場合は、刑を免除する
- 2項: その他の親族との間で犯した場合は、親告罪とする
法的性質
244条の法的性質については、一身的処罰阻却事由(政策的に処罰を控えるもの)と解するのが通説である。
試験での出題ポイント
論文式試験での検討手順
- 客体の特定: 他人の財物であることの認定
- 占有の帰属: 誰が財物を占有しているかの認定(死者の占有・封緘物等)
- 窃取行為の認定: 占有者の意思に反する占有移転の有無
- 不法領得の意思: 排除意思と利用処分意思の検討
- 既遂時期: 占有取得の有無
- 親族相盗例: 244条の適用の検討
まとめ
- 窃盗罪の客体は他人の財物であり、占有の帰属が重要な論点となる
- 占有は財物に対する事実上の支配であり、民法上の占有より事実的な概念である
- 窃取は占有者の意思に反する占有移転であり、処分行為の有無で詐欺罪と区別される
- 不法領得の意思は排除意思と利用処分意思からなり、使用窃盗と毀棄を除外する機能を有する
- 親族相盗例は一身的処罰阻却事由として刑の免除または親告罪化を定める
FAQ
Q1. 死者から財物を奪うと何罪になりますか?
判例は、殺害直後であれば死者の占有がなお継続しているとして窃盗罪の成立を認めます。殺害から時間が経過した場合は占有離脱物横領罪(254条)となります。
Q2. 使用窃盗はなぜ罰せられないのですか?
不法領得の意思のうち権利者排除意思が欠けるためです。一時使用して返還する意思の場合、権利者を排除する意思がないとして窃盗罪は成立しません。
Q3. 封緘物の中身を取り出すと何罪ですか?
判例によれば窃盗罪です。封緘物全体の占有は受託者にありますが、内容物の占有は委託者に帰属するため、中身を取り出す行為は他人の占有する財物の窃取となります。