窃盗罪の応用論点|不法領得の意思・占有の帰属・親族間窃盗
窃盗罪の応用論点を解説。不法領得の意思の内容と機能、死者の占有、占有の帰属、親族相盗例の範囲を判例とともに整理します。
この記事のポイント
窃盗罪は刑法各論で最も出題頻度が高い犯罪類型であり、不法領得の意思の要否・内容、占有の帰属、死者の占有が応用論点として重要である。 いずれも判例が蓄積されており、判例の射程の理解が必要。
不法領得の意思
定義(判例)
最判昭26.7.13:権利者を排除して他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従い利用処分する意思
2つの要素
要素 内容 機能 排除意思 権利者を排除して自己の所有物として扱う意思 使用窃盗(一時使用)との区別 利用処分意思 経済的用法に従い利用処分する意思 毀棄罪(器物損壊等)との区別不法領得の意思が否定される場合
場面 不法領得の意思 成立する罪 一時使用目的で自動車を持ち去り返還 否定(使用窃盗) 不可罰 嫌がらせ目的で物を隠匿 否定(利用処分意思なし) 器物損壊罪 短時間の情報閲覧目的 争いあり 事案による不法領得の意思が肯定される場合
- 自動車を乗り捨てる目的で持ち去り:排除意思あり → 窃盗罪
- 下着を持ち去りコレクションにする:利用処分意思あり → 窃盗罪
占有の帰属
占有の意義
窃盗罪の客体は「他人の占有する財物」であり、ここでいう「占有」は事実上の支配を意味する。民法上の占有(180条)とは異なる。
占有の判断基準
要素 内容 物理的支配 財物に対する客観的な支配の事実 占有の意思 支配の意思 時間的・場所的近接性 財物との距離・時間の関係 社会通念 当該場所・財物の性質による判断占有の帰属が問題となる場面
場面 占有の帰属 判例 上下・主従の関係 上位者に帰属 店長と従業員 共同占有 共同占有者全員 同居人間 封緘物の中身 委託者に帰属 内容物は委託者の占有 公道上の落とし物 誰の占有にも属さない 遺失物横領罪 建物内の落とし物 建物管理者の占有 窃盗罪死者の占有
問題の所在
被害者を殺害した後にその財物を取得した場合、財物の占有は誰に帰属するか。
判例の立場
場面 処理 判例 殺害後に財物奪取の意思が生じた場合 窃盗罪(死者の占有を肯定) 最判昭41.4.8 最初から財物奪取の意思で殺害した場合 強盗殺人罪 当然の帰結 殺害と無関係の第三者が取得 占有離脱物横領罪 死者に占有なし理論的説明
- 生前の占有の延長:死亡直後は生前の占有がなお継続していると擬制
- 殺害者との関係では、殺害行為により占有を侵害した者として窃盗罪の成立を肯定
親族相盗例(244条)
内容
親族関係 効果 条文 配偶者・直系血族・同居親族 刑の免除 244条1項 上記以外の親族 親告罪 244条2項 親族でない共犯者 適用なし 244条3項「親族」の範囲
- 6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族(民法725条)
- 内縁配偶者は含まれない(判例)
共犯との関係
非親族の共犯者には244条の特例は適用されない。身分犯の問題として65条との関係が議論される。
不可罰的事後行為
意義
先行する犯罪行為の中に包括的に評価される事後の行為で、別罪を構成しないもの。
窃盗罪との関係
- 窃盗犯人が盗品を売却:不可罰的事後行為
- 窃盗犯人が盗品を損壊:不可罰的事後行為(器物損壊罪は不成立)
まとめ
- 不法領得の意思は排除意思と利用処分意思の2要素
- 占有は事実上の支配を意味し、民法上の占有とは異なる
- 封緘物の中身は委託者の占有、建物内の落とし物は管理者の占有
- 死者の占有は殺害者との関係では肯定される
- 親族相盗例は一定の親族間で刑の免除または親告罪とする
FAQ
Q1. 使用窃盗と窃盗罪の区別の基準は?
判例は返還意思の有無、使用時間、使用態様等を総合的に考慮します。自動車の場合、数時間の使用後に元の場所に戻す意思があれば使用窃盗として不可罰となりえます。
Q2. 電気は窃盗罪の客体になりますか?
はい。245条が「電気は、財物とみなす」と規定しており、無断で電気を使用する行為は窃盗罪の客体となります。
Q3. 情報の窃取は窃盗罪になりますか?
情報それ自体は「財物」に当たらないため、窃盗罪は成立しません。ただし、情報が記録された媒体(USB等)を持ち出せば窃盗罪が成立します。