詐欺罪の応用論点|不作為の欺罔・訴訟詐欺・クレジットカード詐欺
詐欺罪の応用論点を解説。不作為の欺罔行為、訴訟詐欺の成否、クレジットカード詐欺、電子計算機使用詐欺罪との関係を判例とともに整理します。
この記事のポイント
詐欺罪は財産犯の中で最も論点が多く、近年の出題でも頻出である。 不作為の欺罔行為の成否、処分行為と処分意思の要否、訴訟詐欺、各種キャッシュレス決済に関連する詐欺の成否が重要論点である。
不作為の欺罔行為
問題の所在
積極的に虚偽の事実を告げるのではなく、真実を告知しないことが欺罔行為に当たるか。
判例の立場
告知義務がある場合に真実を告知しないことは、不作為による欺罔行為に該当する。
場面 告知義務 詐欺罪の成否 釣銭を多く受け取った場合(受領時に気付いた) あり 詐欺罪成立(1項詐欺) 釣銭を多く受け取った場合(受領後に気付いた) 争いあり 占有離脱物横領罪の可能性 預金口座への誤振込みを知りつつ払戻し あり 詐欺罪成立(最決平15.3.12)誤振込みの判例(最決平15.3.12)
銀行に対して誤振込みであることを告知する信義則上の義務があり、これを秘して払戻しを請求する行為は欺罔行為に該当する。
処分行為の要否
窃盗罪との区別
詐欺罪と窃盗罪の区別の決定的基準は処分行為(交付行為)の有無である。
要素 詐欺罪 窃盗罪 移転の態様 被害者の処分行為に基づく 犯人の奪取行為による 被害者の意思 瑕疵ある意思に基づく交付 被害者の意思に反する処分意思の要否
学説 内容 必要説(判例・通説) 処分行為には処分の意思(財産的処分の認識)が必要 不要説 外形的な交付行為があれば足りる処分意思の内容
- 財物の移転についての認識で足りる
- 具体的な財産的損害の認識までは不要
訴訟詐欺
意義
裁判所を欺いて勝訴判決を得、相手方から財物または財産上の利益を得る行為。
成否
- 詐欺罪成立:判例は裁判所を被欺罔者、相手方を被害者とする三角詐欺として肯定
- 裁判所の判決に基づく強制執行による利益は「財産上の利益」に当たる
クレジットカード詐欺
他人名義のカードの使用
場面 被欺罔者 処分行為 成立する罪 他人のカードで対面決済 加盟店 商品の交付 1項詐欺 拾得カードでATM利用 なし(機械) なし 窃盗罪自己名義カードの支払意思なき使用
支払能力・意思がないのに自己名義のカードで決済する行為。
- 加盟店に対する1項詐欺が成立しうる
- カード会社に対する2項詐欺の成否も問題
電子計算機使用詐欺罪(246条の2)
趣旨
コンピュータに対する不正な入力は通常の詐欺罪(人を欺く行為)に該当しないため、特別に規定。
構成要件
要件 内容 虚偽の情報・不正な指令 電子計算機に対する虚偽の情報の入力または不正な指令 財産権の得喪変更の記録 電磁的記録の作出 財産上不法の利益 財産上の利益の取得適用場面
- 他人のキャッシュカードでATMから現金引出し → 窃盗罪(ATMから財物を取得)
- 他人のカード情報でネットショッピング → 電子計算機使用詐欺罪
- 銀行口座のデータを不正操作して預金額を増やす → 電子計算機使用詐欺罪
2項詐欺(246条2項)
「財産上の利益」の意義
具体例 肯否 債務の免除 肯定 支払の猶予 肯定 役務の提供 肯定 無銭飲食・無銭宿泊 肯定(代金支払義務の免脱)処分行為の要否
2項詐欺においても処分行為が必要か。
- 必要説(通説):財産上の利益の移転についての処分行為が必要
- 無銭飲食の場合:代金支払いを免れる意思で欺罔し、相手方が支払いを免除する処分行為が必要
まとめ
- 不作為の欺罔行為は告知義務がある場合に成立しうる
- 処分行為の有無が窃盗罪と詐欺罪の区別基準
- 訴訟詐欺は三角詐欺の一類型として詐欺罪が成立
- 他人名義カードの対面使用は1項詐欺、ATM利用は窃盗罪
- 電子計算機使用詐欺罪はコンピュータに対する不正入力を処罰
FAQ
Q1. 無銭飲食で詐欺罪が成立するための要件は?
最初から代金を支払う意思がないのに飲食を注文する場合は1項詐欺です。飲食後に支払いを免れる行為は2項詐欺ですが、処分行為の認定が問題となります(単に逃走しただけでは詐欺罪不成立との見解もある)。
Q2. フィッシング詐欺はどの罪に当たりますか?
フィッシングサイトで個人情報を入力させる行為自体は不正アクセス禁止法違反。その情報を用いて金銭を取得した場合は、態様に応じて詐欺罪または電子計算機使用詐欺罪が成立します。
Q3. 万引きは窃盗罪ですか詐欺罪ですか?
レジを通さずに商品を持ち出す行為は窃盗罪です。処分行為(交付行為)がないため詐欺罪にはなりません。