問題提起の書き方パターン集|論文の出だし
司法試験・予備試験の論文答案における問題提起の書き方をパターン別に解説。論点の見つけ方から、出だしの書き方まで実践的に紹介します。
この記事のポイント
論文答案の「出だし」は、採点者に与える第一印象を決定づける。 問題提起が的確であれば、論点を正確に把握していることが伝わり、その後の論証にも好印象を与える。逆に、問題提起がずれていれば、どれほど優れた論証を展開しても高得点は望めない。本記事では、問題提起の書き方を類型別にパターン化し、科目ごとの使い分けとともに解説する。
問題提起の基本構造
問題提起とは何か
問題提起とは、答案で論じるべき法的問題を明示することである。具体的には、以下の2つの要素を含む記述を指す。
- 何が問題なのか ── どの条文のどの要件が問題となるか、あるいはどの法律関係が問題となるか
- なぜ問題なのか ── 条文の文言だけでは結論が一義的に定まらない理由
この2つの要素がそろって初めて、「問題提起」として機能する。単に「○○が問題となる」と書くだけでは、なぜ問題なのかが示されていないため不十分である。
問題提起が必要な場面と不要な場面
すべての論点で詳細な問題提起が必要なわけではない。
問題提起が必要な場面:
- 条文の文言の解釈が分かれる場面
- 条文が明示していない法理を適用する場面
- 判例・学説で見解が対立している論点
- 問題文の事実関係から複数の結論がありうる場面
問題提起を簡略化できる場面:
- 判例・通説で争いがない論点
- 条文の文言から結論が明らかな場面
- 付随的・補助的な論点
問題提起の6つのパターン
パターン1:条文の文言から問題を提起する
最も基本的なパターンである。条文の文言に該当するかどうかが問題となる場面で使う。
テンプレート:
○○は「△△」(条文番号)に当たるか。○○は(事実の特殊性)であるため、「△△」の意義が問題となる。
具体例(刑法・窃盗罪の「財物」の意義):
XがAの管理するデータを複製した行為は窃盗罪(刑法235条)の「他人の財物」を「窃取」したといえるか。電磁的記録は有体物ではないため、「財物」に当たるかが問題となる。
使いどころ: 民法・刑法の各条文の要件該当性を論じる場面で汎用的に使える。条文番号を明示することで、何の条文を検討しているのかが一目で伝わる。
パターン2:行為の法的性質から問題を提起する
ある行為がどの法的カテゴリーに属するかが問題となる場面で使う。
テンプレート:
○○は法的にいかなる性質を有するか。これが△△に当たるとすれば□□の効果が生じ、☆☆に当たるとすれば別の効果が生じることから、その法的性質が問題となる。
具体例(民法・混合契約の法的性質):
本件契約は売買と請負の要素を併せ持つところ、法的にいかなる性質を有するか。売買と解すれば契約不適合責任の期間制限(566条)が適用され、請負と解すれば636条が適用されることから、その法的性質が問題となる。
使いどころ: 民法の契約類型の問題、行政法の行政行為の性質論、刑法の行為の一罪性・数罪性の問題などで使える。
パターン3:条文の適用範囲・射程から問題を提起する
条文が直接規定していない場面に、当該条文の趣旨を及ぼすことができるかが問題となる場面で使う。
テンプレート:
○○の場面は、条文が直接規定する場面ではない。もっとも、○○の趣旨が△△にも及ぶのであれば、同条の類推適用が認められる余地がある。そこで、○○の類推適用の可否が問題となる。
具体例(民法94条2項類推適用):
本件では、A自身は虚偽の外観作出に関与していないから、94条2項を直接適用することはできない。もっとも、Aが外観の存在を知りながら放置していた場合にも、同条項の趣旨が及ぶのであれば、善意の第三者Bの保護が図られる。そこで、94条2項の類推適用の可否が問題となる。
使いどころ: 民法の類推適用の論点(94条2項類推、110条類推など)、刑法の罪刑法定主義との関係で問題となる場面で特に有効である。
パターン4:権利・利益の衝突から問題を提起する
複数の権利や利益が衝突する場面で使う。特に憲法の答案で頻出するパターンである。
テンプレート:
○○は、Xの△△権(条文番号)を制約するものである。一方で、本件規制は□□という目的を有する。そこで、本件規制が△△権に対する許容される制約といえるかが問題となる。
具体例(憲法・表現の自由の制約):
本件条例は、特定の表現行為を禁止するものであり、Xの表現の自由(憲法21条1項)を制約する。一方で、本件条例は青少年の健全育成という目的を有する。そこで、本件規制が表現の自由に対する許容される制約といえるか、すなわち本件条例が合憲であるかが問題となる。
使いどころ: 憲法の人権制約の問題全般、民法の権利濫用の問題、行政法の処分の適法性の問題などで使える。
パターン5:手続・要件の充足から問題を提起する
訴訟法上の手続的な問題や、要件の充足が争われる場面で使う。
テンプレート:
○○は、△△の要件を満たすか。本件では□□という事情があるため、(特定の要件)の充足が問題となる。
具体例(民事訴訟法・確認の利益):
Xの本件確認訴訟は適法か。確認訴訟が適法であるためには確認の利益が必要であるところ、本件ではXがすでに給付判決を得る手段を有しており、確認の利益の有無が問題となる。
使いどころ: 民事訴訟法の訴訟要件の問題(当事者適格、確認の利益、訴えの利益など)、刑事訴訟法の捜査の適法性の問題、行政法の処分性・原告適格の問題で使える。
パターン6:制度趣旨・法原則から問題を提起する
明文の規定がない場面で、法の一般原則や制度趣旨から問題を提起するパターンである。
テンプレート:
○○の場面について直接の規定は存在しない。もっとも、△△の原則(あるいは□□の制度趣旨)に照らせば、○○に一定の法的効果を認める必要があるとも考えられる。そこで、(具体的な法的問題)が問題となる。
具体例(信義則に基づく問題提起):
AがBに対して本件債権を行使することについて、これを制限する明文の規定は存在しない。もっとも、Aは従前Bに対して債権を行使しない旨を表明しており、信義則(民法1条2項)上、Aの権利行使が許されるかが問題となる。
科目別・問題提起の書き出し表現
憲法の問題提起
憲法では、主に以下の2つの構造で問題提起を行う。
人権制約型:
本件○○は、Xの△△(憲法□条)を制約するものであるところ、かかる制約が憲法上許容されるか。
統治機構型:
本件○○は、△△(憲法□条)に違反しないか。
民法の問題提起
民法では、請求の法的根拠を明示したうえで問題提起を行う。
請求権構成型:
Xは、Yに対し、○○に基づき△△を請求できるか。本件では、(要件の問題点)が問題となる。
法律行為の効力型:
本件○○は有効か。○○には△△の瑕疵があるため、その効力が問題となる。
刑法の問題提起
刑法では、構成要件該当性・違法性・責任の体系に沿って問題提起を行う。
構成要件該当性型:
Xの上記行為に○○罪(刑法□条)が成立するか。本件では、△△の該当性が問題となる。
違法性阻却型:
Xの行為は構成要件に該当するところ、○○(刑法□条)により違法性が阻却されないか。
刑事訴訟法の問題提起
刑事訴訟法では、捜査の適法性と証拠の許容性が主要な問題提起の対象となる。
捜査の適法性型:
本件○○は適法な捜査として許容されるか。△△は強制処分に当たるか、任意処分として許される限度を超えないかが問題となる。
証拠能力型:
本件○○を証拠として用いることは許されるか。△△の証拠能力が問題となる。
民事訴訟法の問題提起
民事訴訟法では、訴訟要件と訴訟行為の適法性が主要な問題提起の対象となる。
訴訟要件型:
本件訴えは適法か。○○の要件の充足が問題となる。
既判力の範囲型:
前訴判決の既判力は、本件後訴に及ぶか。既判力の○○的範囲が問題となる。
問題提起でよくある失敗と改善策
失敗1:問題提起が広すぎる
悪い例:
XのYに対する請求は認められるか。
改善例:
XはYに対し、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)をすることが考えられる。本件では、Yの行為と損害との間の因果関係が問題となる。
何の法的根拠に基づくどの請求なのかを特定し、どの要件が問題なのかを絞り込むべきである。
失敗2:問題提起が冗長すぎる
悪い例:
そもそも○○とは□□を意味するところ、これは古くから学説でも議論されており、A説はこう考え、B説はこう考えるが、この問題は現在に至るまで完全には解決されておらず、そこで本件でもこれが問題となる。
改善例:
○○が「△△」(条文番号)に当たるかが問題となる。
問題提起は端的に書くべきであり、学説の議論状況を問題提起の段階で詳述する必要はない。
失敗3:問題提起がない
論証をいきなり規範定立から始める答案がある。これでは何の問題を論じているのかが不明確になり、採点者にとって読みづらい。
悪い例:
思うに、○○の趣旨は△△にある。したがって、□□と解すべきである。
改善例:
○○が△△に当たるかが問題となる。思うに、○○の趣旨は□□にある。かかる趣旨に照らせば、(基準)により判断すべきである。
問題提起を書くことで、論証の出発点が明確になる。
失敗4:条文の摘示がない
問題提起において条文番号を明示しないと、何の条文を検討しているのかが不明確になる。
悪い例:
Xの行為は正当防衛に当たらないか。
改善例:
Xの行為につき、正当防衛(刑法36条1項)が成立しないか。
条文番号の明示は、法的素養を示すとともに、論証の正確性を担保する。
効率的な問題提起のためのトレーニング法
方法1:過去問の出題趣旨を分析する
出題趣旨には、出題者がどの論点を問うているかが記載されている。過去問を検討する際に、出題趣旨で示された論点ごとに問題提起を書く練習をすると効果的である。
方法2:条文から問題点を洗い出す
基本書を読む際に、各条文について「どのような事実があれば問題提起が必要になるか」を考える習慣をつける。条文の文言が抽象的な箇所ほど、問題提起が求められる可能性が高い。
方法3:時間制限付きで練習する
問題提起だけを5分以内に書く練習を繰り返す。問題文を読んでから問題提起までのスピードを上げることで、本番での時間配分に余裕が生まれる。
まとめ
問題提起は論文答案の「出発点」であり、その正確さが答案全体の方向性を左右する。本記事のポイントを整理すると以下のとおりである。
- 問題提起には「何が問題なのか」と「なぜ問題なのか」の2要素が必要である
- 問題提起のパターンは、条文の文言型・法的性質型・適用範囲型・権利衝突型・要件充足型・制度趣旨型の6つに分類できる
- 科目ごとに定番の問題提起の書き出し表現がある
- 問題提起は端的に書くべきであり、冗長な前置きや学説の詳述は不要である
- 条文番号の明示は必須であり、法的根拠を明確にすることが基本である
問題提起の力は、法的問題を発見する力そのものである。日頃から「何が問題なのか」を意識して学習することが、問題提起力の向上につながる。
よくある質問(FAQ)
Q1. 問題提起は何行くらいで書くべきですか?
1〜3行が目安である。中心的な論点では、なぜ問題となるのかを含めて3行程度書くことが望ましい。付随的な論点では1行で十分である。問題提起に5行以上使うのは冗長であり、その分を規範定立やあてはめに充てるべきである。
Q2. 「問題となる」以外の締め方はありますか?
「問題となる」は最も一般的な締め方であるが、他にも「検討する」「以下、論じる」「検討を要する」などの表現がある。「○○について、以下検討する。」という書き方も簡潔で効果的である。ただし、表現の工夫にこだわりすぎる必要はなく、内容の正確さを優先すべきである。
Q3. 論点落としを防ぐにはどうすればよいですか?
問題文を読む段階で、各当事者の法的地位と請求の法的根拠を網羅的に検討することが重要である。憲法では制約される権利を特定し、民法では考えうる請求権を列挙し、刑法では各行為について成立しうる犯罪を検討する。この段階で問題提起を書き出すことで、論点落としを防ぐことができる。
Q4. 問題文に明示されていない論点も問題提起すべきですか?
問題文に明示されていなくても、事実関係から当然に問題となる論点については問題提起すべきである。ただし、問題文が特定の論点に誘導している場合は、その論点を中心に検討すべきであり、問題文の誘導を無視して独自の論点を立てることは避けるべきである。