共犯の錯誤とは?抽象的事実の錯誤との関係と判例(最判昭54.4.13)
共犯の錯誤を解説。抽象的事実の錯誤との関係、共謀の射程との違い、部分的犯罪共同説による処理、最判昭54.4.13をはじめとする判例の理解を、答案での書き方とあわせて整理します。
この判例のポイント
共同正犯者の一部が当初の共謀と異なる犯罪を実現した場合(共犯の錯誤)について、認識した犯罪事実と実現した犯罪事実の間に構成要件の重なり合いが認められる限度で、共同正犯の故意が認められるとした判例。共犯における抽象的事実の錯誤の処理基準を示し、構成要件の実質的重なり合いの判断方法を明らかにした重要判例である。
この記事では、受験生がつまずきやすい次の3点を正面から整理する。第一に「共犯の錯誤とは何か」という定義と射程。第二に「窃盗の共謀で強盗が実行された場合などの共犯事例をどう処理するか」という具体的なあてはめ(窃盗・共犯・判例の関係)。第三に「部分的犯罪共同説とは何か」という共犯の本質論の通説的立場である。結論を先取りすれば、共犯の錯誤は単独犯における抽象的事実の錯誤と同じ発想で処理され、共犯者間で罪名がずれること(=部分的犯罪共同説)を正面から認めるのが判例・通説の立場である。
共犯の錯誤とは(定義)
共犯の錯誤とは、共犯者(共同正犯・教唆犯・幇助犯)が認識・共謀していた犯罪事実と、実際に実行・実現された犯罪事実とが食い違う場合の問題をいう。 平たく言えば、「みんなで犯罪をやろうと話し合った内容(共謀)」と「現場で実際に起きたこと(実行結果)」がズレたときに、共謀にとどまった者の罪責をどこまで認めるか、という論点である。
共犯の錯誤は、大きく次の2つの場面に分けて理解すると整理しやすい。
- 共犯者間の認識のずれ(広義の共犯の錯誤):複数の関与者の間で、誰がどの犯罪を認識していたかにズレがある場面。たとえば「殴るだけ」と思っていた者と「奪うつもり」だった者が混在しているケース。
- 錯誤の客体・方法の問題(共犯における具体的事実の錯誤):共謀した相手とは別の人に結果が生じた場合など、共犯の枠内で生じる客体の錯誤・方法の錯誤の場面。
本記事および本判例(最判昭54.4.13)が扱うのは、主に1の場面、すなわち共謀した犯罪と実現した犯罪が異なる構成要件にまたがる場合(抽象的事実の錯誤型)である。
なぜ単独犯の錯誤論と接続するのか
単独犯であれば、行為者が認識した犯罪と実現した犯罪のズレは「故意の有無」の問題として錯誤論で処理される。共犯の場合も、共謀(=共犯者の認識内容)と実現結果がズレたときに、共謀にとどまった者に実現犯罪の故意が認められるかが問われる。つまり共犯の錯誤は、突き詰めれば「故意がどこまで及ぶか」という錯誤論の延長線上にある問題であり、単独犯の錯誤論(具体的事実の錯誤/抽象的事実の錯誤)の枠組みをそのまま応用できる。この発想を押さえておくと、後述の論証が一気に書きやすくなる。
事案の概要
被告人Xは、Aと共に、被害者に対して暴行を加える旨の共謀をした。ところが、Aは共謀の範囲を超えて、被害者から金品を奪取する行為(強盗)に及んだ。
Xは暴行の限度で共謀していたにすぎず、強盗の故意はなかったと主張した。問題は、暴行の共謀に基づいて実行に着手した共同正犯者の一人が、共謀の範囲を超えて強盗を実行した場合に、他の共同正犯者の罪責がどうなるかであった。
争点
- 共同正犯者の一部が共謀の範囲を超えた犯罪を実行した場合、他の共同正犯者の罪責はどうなるか
- 認識した犯罪(暴行)と実現した犯罪(強盗)の間に構成要件の重なり合いが認められるか
判旨
最高裁は、共犯の錯誤について以下の趣旨を判示した。
共謀の範囲を超えて実行された行為についても、認識した犯罪事実と実現した犯罪事実との間に構成要件が実質的に重なり合う限度で、軽い犯罪の共同正犯が成立する
― 最高裁判所第二小法廷 昭和54年4月13日(趣旨)
すなわち、最高裁は以下の枠組みを示した。
- 共犯の錯誤は、抽象的事実の錯誤の共犯への適用として処理される
- 認識した事実(暴行)と実現した事実(強盗)の間に構成要件の重なり合いがある限度で故意が認められる
- 重なり合いが認められる軽い犯罪の限度で共同正犯が成立する
ポイント解説
共犯の錯誤の類型
共犯の錯誤には、以下の類型がある。
| 類型 | 内容 | 具体例 |
|---|---|---|
| 共謀の射程内の逸脱 | 共謀の範囲内と評価できる行為 | 窃盗の共謀で侵入窃盗を実行 |
| 共謀の射程外の逸脱 | 共謀の範囲を超えた行為 | 暴行の共謀で強盗を実行 |
| 異なる犯罪の実行 | 全く異なる犯罪を実行 | 窃盗の共謀で放火を実行 |
本件は「共謀の射程外の逸脱」の事案であり、暴行の共謀にとどまる者が強盗の結果について責任を負うかが問題となった。
共犯の錯誤を解く2段階の思考枠組み
共犯の錯誤を答案で処理するときは、次の2段階で考えると漏れがない。
- 共謀の射程の判断(共犯論のレベル):そもそも実現された結果が、当初の共謀によって基礎づけられる因果性の範囲内(共謀の射程内)にあるか。射程内なら、実現犯罪について共同正犯の客観面が肯定される。
- 故意の符合の判断(錯誤論のレベル):射程内で客観面が肯定されたとしても、共謀にとどまった者に実現犯罪の故意があるか。認識した犯罪と実現した犯罪が異なる構成要件にまたがる場合は、抽象的事実の錯誤として構成要件の重なり合いを検討する。
この2段階のうち、本判例が示したのは主に2の故意の符合(重なり合い)の処理である。逆に「そもそも共謀の射程が及んでいるか」を問う事案では、判例上論じられてきた共謀の射程論が前面に出る。両者は補い合う関係にあり、答案ではまず射程、次に錯誤の順で検討すると整理しやすい。
抽象的事実の錯誤の原理
抽象的事実の錯誤とは、行為者が認識した事実と実際に発生した事実が異なる構成要件にまたがる場合の錯誤をいう。刑法38条2項は、「重い罪に当たるべき行為をしたのに、行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は、その重い罪によって処断することはできない」と規定する。
判例・通説(法定的符合説)は、異なる構成要件間に実質的な重なり合い(構成要件の重なり合い)が認められる場合には、その重なり合いの限度で故意が認められるとする。
構成要件の重なり合いの判断
暴行罪と強盗罪の間の構成要件の重なり合いについて、以下のように整理される。
- 強盗罪: 暴行・脅迫を手段として財物を奪取する犯罪
- 暴行罪: 人の身体に対する有形力の行使
強盗罪は暴行を手段として含んでいるから、暴行の限度で構成要件の重なり合いが認められる。したがって、暴行の故意しかなかったXについては、暴行罪の限度で共同正犯が成立する。
「実質的重なり合い」をどう判断するか
構成要件の重なり合いを判断する際の通説的な視点は、形式的に条文の文言が一致するかではなく、保護法益と行為態様の両面で重なるかを実質的に見る点にある。
- 保護法益の共通性:両罪が同質の法益を保護しているか。窃盗罪と強盗罪はいずれも財産(占有・所有)を保護し、暴行罪と強盗罪は身体の安全(暴行)の点で重なる。
- 行為態様の共通性:実行行為の態様が重なるか。重い罪が軽い罪を手段・要素として包含している(強盗は窃取+暴行・脅迫を要素とする)ような関係にあると、重なり合いが認められやすい。
両面で重なれば、軽い罪の限度で故意(および客観的構成要件該当性)が肯定される。これが「実質的符合」と呼ばれる発想であり、本判例が前提とする法定的符合説の核心である。
結果的加重犯との関係
共犯の錯誤の場面では、結果的加重犯の共同正犯の成否も問題となりうる。例えば、暴行の共謀で被害者が死亡した場合、傷害致死罪の共同正犯が成立するかが問題となる。判例は、暴行・傷害の共同正犯者については、加重結果(死亡)について故意がなくても、基本犯(暴行・傷害)の共同正犯が成立する以上、結果的加重犯(傷害致死罪)の共同正犯が成立しうるとの立場を取ってきた。結果的加重犯では加重結果について故意を要しないため、共謀の範囲を超えた重い結果が発生しても、それが基本行為に内在する危険の現実化といえる限り、共同正犯者全員が結果的加重犯の責任を負う点に注意したい。
学説・議論
法定的符合説と具体的符合説
共犯の錯誤の処理について、錯誤論の対立がある。
法定的符合説(判例・通説): 認識した事実と実現した事実の間に構成要件の重なり合いがある限度で故意を認める。重なり合いの範囲は構成要件の類型的一致により判断する。
具体的符合説: 認識した事実と実現した事実が具体的に一致することを要求する。この説からは、暴行を認識していたのに強盗が実現した場合、暴行罪の故意も否定される余地がある。
共謀の射程論
共犯の錯誤を処理する別のアプローチとして、共謀の射程論がある。これは、実行された行為が共謀の射程内にあるかどうかにより判断するものである。
- 共謀の射程内であれば、実現した犯罪について共同正犯が成立する
- 共謀の射程外であれば、共謀した犯罪の限度で共同正犯が成立する
共謀の射程の判断にあたっては、共謀の内容、犯行の状況、逸脱の程度等が考慮される。
正犯者の罪責との関係
実際に強盗を実行したAについては強盗罪の正犯が成立し、共謀の範囲内にとどまったXについては暴行罪(又はその結果に応じた犯罪)の共同正犯が成立する。このように、共同正犯者間で罪名が異なる結果(部分的犯罪共同説)が導かれる。
犯罪共同説と行為共同説
共犯の本質論における犯罪共同説と行為共同説の対立も、共犯の錯誤の処理に影響する。
- 犯罪共同説: 共同正犯は特定の犯罪を共同して実行するものであるから、共謀された犯罪についてのみ共同正犯が成立する
- 行為共同説: 共同正犯は行為を共同するものであるから、各共犯者の罪責は個別に判断される
- 部分的犯罪共同説(通説): 構成要件が重なり合う限度で犯罪を共同にすることができる
部分的犯罪共同説とは(定義と位置づけ)
部分的犯罪共同説とは、共犯(共同正犯)が成立するためには共犯者間で「同一の犯罪」を共同にする必要があるとしつつ、認識した犯罪と実現した犯罪の構成要件が重なり合う限度では、その重なり合う軽い罪の範囲で共同正犯の成立を認める説をいう。 共犯の本質論における現在の通説的立場であり、本判例(最判昭54.4.13)が前提とする考え方でもある。
「部分的」という言葉は、犯罪の完全な一致までは要求せず、構成要件が重なり合う「一部分」で共同を認めるという趣旨を表している。つまり、完全犯罪共同説(後述)を出発点としつつ、それを緩和したのが部分的犯罪共同説である。
3説の対比(完全犯罪共同説・部分的犯罪共同説・行為共同説)
部分的犯罪共同説の位置づけを理解するには、両隣の立場と並べて見るのが早い。
| 学説 | 共犯の本質 | 異なる罪を認識した共犯者の処理 | 罪名の一致 |
|---|---|---|---|
| 完全犯罪共同説 | 共犯者は完全に同一の特定犯罪を共同する | 重い罪の共同正犯が成立し、軽い罪の認識者は故意を理由に減軽(38条2項)で調整 | 罪名は一致させる(重い罪で一致) |
| 部分的犯罪共同説(通説) | 構成要件が重なり合う限度で犯罪を共同できる | 重なり合う軽い罪の限度で共同正犯が成立 | 罪名は重なり合う限度でのみ一致(ずれを許容) |
| 行為共同説 | 共犯者は自然的・前構成要件的な「行為」を共同する | 各人がそれぞれ認識した犯罪の共同正犯が個別に成立 | 罪名は一致しなくてよい |
具体例で見る違い(傷害の共謀で殺人が実現した場合)
甲は「傷害」、乙は「殺人」を認識して暴行を加え、被害者が死亡したとする。
- 完全犯罪共同説:客観的には重い殺人罪の共同正犯が成立するが、甲には殺人の故意がないため38条2項により傷害致死の限度で処断、とするのが伝統的整理。罪名は形式上「殺人罪の共同正犯」としつつ科刑で調整する点に技巧性がある。
- 部分的犯罪共同説(通説):傷害罪(傷害致死罪)と殺人罪が傷害の限度で重なり合うため、甲には傷害致死罪の共同正犯、乙には殺人罪(の共同正犯)が成立すると端的に説明できる。罪名のずれをそのまま認めるため、結論が明快である。
- 行為共同説:甲は傷害致死罪、乙は殺人罪が、それぞれ独立に共同正犯として成立する。
このように、部分的犯罪共同説は「罪名はずれてよいが、共同正犯が成立する基盤は構成要件の重なり合いに求める」という、両極の中間に位置する説である。判例(最決昭54.4.13のほか、傷害致死と殺人の罪名のずれを認めた裁判例の系譜)は、この部分的犯罪共同説と整合的な処理をしてきたと評価される。
なぜ通説は部分的犯罪共同説を採るのか
- 完全犯罪共同説のように「重い罪で罪名を一致させて科刑で調整」する処理は技巧的で、共犯者間の不公平(軽い故意の者に重い罪名が付く形式)を生む。
- 行為共同説は罪名のずれを全面的に許容するため明快だが、「共同正犯はやはり特定の犯罪を共同するもの」という共犯処罰の実質的根拠(相互利用・補充による法益侵害)を捉えきれないと批判される。
- 部分的犯罪共同説は、共同正犯の成立基盤を構成要件の重なり合いに求めつつ、各人の故意の範囲で罪名を確定するため、共犯処罰の根拠と個人責任の原則の双方に整合的である。
判例の射程
窃盗の共謀と共犯の錯誤(窃盗・共犯の代表事例)
「窃盗 共犯 判例」という観点でもっとも典型的に問われるのが、窃盗の共謀に基づいて一部の共犯者が強盗を実行した場合である。たとえば、甲と乙が「夜間に他人の家に侵入して金品を盗もう(窃盗)」と共謀したところ、現場で家人に気づかれた乙が、逃走と財物確保のために家人を殴って金品を奪った(事後強盗・強盗)というケースである。
この場合、窃盗の故意しかなかった甲の罪責をどう処理するか。判例・通説の枠組みに従えば、次のように考える。
- 構成要件の重なり合い:窃盗罪(235条)と強盗罪(236条)は、いずれも他人の財物の占有を侵害して領得する点で保護法益が共通し、強盗罪は窃盗(窃取)に暴行・脅迫を加えた加重類型と整理できる。したがって、両罪は窃盗の限度で実質的に重なり合う。
- 故意の符合:甲は窃盗の故意しかないため、重なり合う軽い罪である窃盗罪の限度で故意が認められる。
- 共同正犯の成立範囲:甲には窃盗罪の共同正犯が成立し、実際に強盗(事後強盗)を実行した乙には強盗罪(または事後強盗罪)が成立する。共犯者間で罪名がずれるのが特徴であり、これは後述の部分的犯罪共同説によって基礎づけられる。
ここで注意すべきは、共謀の射程の検討である。たとえば乙の暴行が「窃盗を遂げるための当然の手段」として共謀の射程内と評価できる場合と、共謀とは無関係な動機(個人的な恨み等)による完全な逸脱と評価できる場合とで、甲が結果について客観的に帰責されるかが変わりうる。答案では「①共謀の射程→②構成要件の重なり合い」の順で丁寧に検討したい。
窃盗と強盗の錯誤(一覧整理)
| 認識(共謀)した犯罪 | 実現した犯罪 | 重なり合いの有無・範囲 | 共謀にとどまった者の罪責 |
|---|---|---|---|
| 窃盗 | 強盗 | 窃盗の限度で重なる | 窃盗罪の共同正犯 |
| 窃盗 | 事後強盗 | 窃盗の限度で重なる | 窃盗罪の共同正犯 |
| 窃盗 | 器物損壊 | 原則重ならない | 窃盗(未遂)の限度で共同正犯 |
| 占有離脱物横領 | 窃盗 | 領得罪として重なる | 占有離脱物横領罪の限度で共同正犯 |
このように、窃盗をめぐる共犯の錯誤は、財産犯(領得罪)相互の重なり合いの典型例として、論文・短答の双方で頻出である。
傷害と殺人の錯誤
傷害の共謀に基づいて一部の共犯者が殺人を実行した場合、傷害致死罪の限度で共同正犯が成立するかが問題となる。構成要件の重なり合いが認められる範囲が問題となる。
教唆犯・幇助犯への適用
共犯の錯誤の法理は、共同正犯のみならず、教唆犯(刑法61条)や幇助犯(刑法62条)についても適用される。教唆者が認識した犯罪と被教唆者が実行した犯罪が異なる場合にも、構成要件の重なり合いの限度で教唆犯の故意が認められる。
たとえば、甲が乙に窃盗を教唆したところ、乙が強盗を実行した場合、甲には窃盗罪の教唆犯が成立する(重なり合う窃盗の限度)。逆に、甲が乙に強盗を教唆したところ乙が窃盗にとどまった場合は、より軽い窃盗罪の教唆犯が成立する。教唆・幇助は実行行為を分担しない関与形態だが、「認識した犯罪と実現した犯罪のズレを重なり合いで処理する」という構造は共同正犯と完全に共通である。
なお、教唆犯では共犯の従属性との関係も意識したい。被教唆者(正犯)が実行に出ていなければ教唆犯は成立しないため、共犯の錯誤を論じる前提として、正犯が重なり合う軽い罪の実行に出ていることが必要である。
反対意見・補足意見
本判決に特段の反対意見は付されていない。共犯の錯誤の処理について抽象的事実の錯誤の法理を適用するという基本的枠組みは、判例・通説として確立している。
試験対策での位置づけ
出題可能性
共犯の錯誤は、刑法総論の最重要論点の一つであり、出題可能性は極めて高い。
- 共同正犯者間の錯誤を問う事例問題(論文式試験の定番)
- 抽象的事実の錯誤と共犯の関係を問う理論問題
- 構成要件の重なり合いの判断に関する問題
- 短答式試験での共犯の錯誤に関する正誤問題
短答式試験での出題ポイント
- 共同正犯者の一部が共謀を超えた犯罪を実行した場合、他の共犯者は共謀の範囲内の犯罪について責任を負う(○)
- 認識した犯罪と実現した犯罪の構成要件が重なり合う限度で故意が認められる(○)
- 共犯者間で罪名が異なることは認められない(×・部分的犯罪共同説)
答案での使い方(論証パターン)
答案の思考プロセス(書く順番)
共犯の錯誤の事例問題は、次の流れで書くと過不足がない。
- 問題提起:「甲は◯◯の故意で共謀したにとどまるところ、乙が□□を実行した。甲は□□について罪責を負うか」と論点を切り出す。
- 共謀の射程:実現結果が共謀に基づく因果性の範囲内(射程内)といえるかを、共謀の内容・逸脱の動機と態様・関連性から評価する。射程外なら、そもそも実現犯罪の客観的帰責が否定される方向に進む。
- 錯誤論への接続:射程内でも、認識した犯罪と実現した犯罪が異なる構成要件にまたがるため、抽象的事実の錯誤の問題となることを指摘する。
- 規範定立:構成要件が実質的に重なり合う限度で軽い罪の故意(および共同正犯)が成立する、という規範を立てる(法定的符合説・部分的犯罪共同説)。
- あてはめ:保護法益と行為態様の共通性から重なり合いの有無・範囲を具体的に検討する。
- 結論:重なり合う軽い罪の共同正犯の成立を認める。実行者については重い罪が成立し、罪名がずれることを部分的犯罪共同説で根拠づける。
基本論証(暴行の共謀で強盗が実行された場合)
甲は暴行の限度で共謀していたにすぎないところ、乙が強盗を実行した。甲の罪責はどうなるか。
まず、乙の強盗が当初の共謀に基づく因果性の範囲内(共謀の射程内)にあるかを検討する。本問では〔逸脱の態様・動機を踏まえて〕共謀の射程内にあると評価できる。もっとも、甲は暴行の故意しかなく、実現した強盗との間に構成要件のずれがあるため、共犯の錯誤(抽象的事実の錯誤)の問題となる。
この点、共犯の錯誤の場面では、抽象的事実の錯誤の法理が妥当する。すなわち、認識した犯罪事実と実現した犯罪事実の間に構成要件の実質的重なり合いが認められる限度で、軽い犯罪の故意が認められ、その限度で共同正犯が成立すると解する(部分的犯罪共同説・最判昭54.4.13参照)。
本問において、強盗罪は暴行・脅迫を手段として財物を奪取する犯罪であり、暴行罪はその手段たる暴行を内容とするから、両罪は暴行の限度で実質的に重なり合う。したがって、甲には暴行罪の限度で故意が認められ、暴行罪の共同正犯が成立する。これに対し、実際に強盗を実行した乙には強盗罪が成立する。共犯者間で罪名がずれるが、これは構成要件の重なり合う限度で共同正犯を認める部分的犯罪共同説の帰結であり、不当ではない。
応用論証(窃盗の共謀で強盗が実現した場合)
甲・乙が窃盗を共謀したところ、乙が現場で家人に暴行を加え金品を奪取した(強盗)事案では、窃盗罪と強盗罪が財物奪取(領得)の点で重なり合うことを指摘し、甲には窃盗罪の共同正犯、乙には強盗罪が成立する、と展開する。論証の骨格は暴行→強盗のケースと同じだが、重なり合いの根拠(保護法益=財産の共通性)を財産犯の視点で書き分けられると差がつく。
重要概念の整理
共犯の錯誤の処理
| 認識した犯罪 | 実現した犯罪 | 重なり合い | 成立する犯罪 |
|---|---|---|---|
| 暴行 | 強盗 | 暴行の限度 | 暴行罪の共同正犯 |
| 窃盗 | 強盗 | 窃盗の限度 | 窃盗罪の共同正犯 |
| 傷害 | 殺人 | 傷害の限度 | 傷害罪の共同正犯 |
| 窃盗 | 放火 | なし | 窃盗未遂の共同正犯 |
錯誤論の体系
| 錯誤の類型 | 内容 | 処理 |
|---|---|---|
| 具体的事実の錯誤 | 同一構成要件内の錯誤 | 法定的符合説で故意肯定 |
| 抽象的事実の錯誤 | 異なる構成要件間の錯誤 | 重なり合いの限度で故意肯定 |
| 共犯の錯誤 | 共犯者間での認識のずれ | 抽象的事実の錯誤の適用 |
共犯の本質論と錯誤の処理
| 学説 | 共犯の本質 | 錯誤の処理 |
|---|---|---|
| 犯罪共同説 | 特定の犯罪の共同 | 共謀した犯罪の限度で処理 |
| 行為共同説 | 行為の共同 | 各共犯者の罪責は個別判断 |
| 部分的犯罪共同説(通説) | 構成要件重なり合いの限度で共同 | 重なり合いの限度で共同正犯 |
発展的考察
共謀の射程の具体的判断基準
共謀の射程が及ぶかどうかの判断は、実務上極めて重要である。以下の要素が考慮される。
- 共謀の具体的内容と範囲
- 逸脱行為の態様と程度
- 共謀と逸脱行為の関連性
- 共犯者間の意思疎通の状況
過剰行為と正当防衛
共犯者の一人が正当防衛の限度を超えた過剰行為を行った場合、他の共犯者がその過剰結果について責任を負うかは、共犯の錯誤の問題として議論される。
予備罪・陰謀罪との関係
共謀が実行に移されたものの、共謀した犯罪とは異なる犯罪が実現された場合、共謀罪・予備罪との関係がどうなるかも検討を要する。
組織犯罪における共犯の錯誤
組織犯罪(暴力団犯罪、特殊詐欺等)では、組織の上部と末端の間で認識にずれがある場合が多い。この場面での共犯の錯誤の処理は、組織犯罪対策の観点からも重要である。
よくある質問
Q1: 共謀を超えた犯罪を実行した者は、共謀した犯罪と実行した犯罪のどちらで処罰されますか?
A1: 実行者は、実際に実行した犯罪(重い犯罪)で処罰されます。例えば、暴行の共謀に基づいて強盗を実行した場合、実行者は強盗罪で処罰されます。共謀の範囲を超えた部分は、実行者の単独犯(又は実行者のみの共同正犯)として処理されます。
Q2: 構成要件の重なり合いがない場合はどうなりますか?
A2: 構成要件の重なり合いが全く認められない場合(例:窃盗の共謀で放火が実行された場合)には、共謀の範囲内の犯罪(窃盗)の未遂の共同正犯が成立するにとどまります。実行された犯罪(放火)については、共謀していなかった者は責任を負いません。
Q3: 教唆の錯誤の場合も同様に処理されますか?
A3: はい。教唆犯においても同様の処理がなされます。教唆者が認識した犯罪と被教唆者が実行した犯罪が異なる場合、構成要件の重なり合いの限度で教唆犯の故意が認められます。
Q4: 共犯の錯誤と共謀の射程はどのような関係にありますか?
A4: 共犯の錯誤は故意論(錯誤論)のアプローチであり、共謀の射程は共犯論のアプローチです。両者は異なる理論的枠組みですが、結論において一致することが多いとされています。共謀の射程内であれば錯誤の問題は生じず、射程外であれば錯誤の問題として処理されます。
Q5: 部分的犯罪共同説とは何ですか?
A5: 部分的犯罪共同説は、共犯の本質論における通説の立場です。構成要件が重なり合う限度で犯罪を共同にすることができるとする説であり、共犯者間で罪名が異なることを認めます。本判決は、この部分的犯罪共同説を前提とした判断を示しています。
Q6: 部分的犯罪共同説と完全犯罪共同説は、結論でどう違いますか?
A6: 傷害の故意の者と殺人の故意の者が共同して被害者を死亡させた場合を例にとると、完全犯罪共同説は形式上「殺人罪の共同正犯」が成立するとしたうえで、傷害の故意しかない者は38条2項により傷害致死の限度で処断する(罪名は重い罪で一致させ科刑で調整する)という構成をとります。これに対し部分的犯罪共同説は、傷害致死罪と殺人罪が重なり合う限度で、傷害の故意の者には傷害致死罪の共同正犯、殺人の故意の者には殺人罪が成立すると、罪名のずれをそのまま認めます。科刑の結論は近くても、罪名の処理が異なる点に注意が必要です。
Q7: 窃盗の共謀をしただけの者が、仲間の起こした強盗の責任を負うことはありますか?
A7: 重い強盗罪の責任を負うことは原則ありません。窃盗罪と強盗罪は窃盗(財物奪取)の限度で重なり合うため、窃盗の故意しかない者には窃盗罪の共同正犯が成立するにとどまります。ただし前提として、仲間の強盗が当初の共謀の射程内にあるか(共謀に基づく逸脱といえるか)の検討が必要で、射程内であればこの処理になります。
Q8: 共犯の錯誤と「具体的事実の錯誤」は別物ですか?
A8: 共犯の錯誤という大きな枠の中に、同一構成要件内のズレ(共犯における具体的事実の錯誤=客体の錯誤・方法の錯誤)と、異なる構成要件にまたがるズレ(共犯における抽象的事実の錯誤)の両方が含まれます。本判例が扱うのは後者の抽象的事実の錯誤型です。前者の場合は、単独犯と同様に法定的符合説により原則として故意が阻却されません。
よくある誤解(受験生がつまずく3点)
誤解1:「共犯の錯誤=共謀の射程の問題」だと思い込む
共謀の射程(共犯論)と故意の符合(錯誤論)は別レベルの問題です。射程内であっても、認識と実現が異なる構成要件にまたがれば、なお抽象的事実の錯誤として重なり合いを検討する必要があります。逆に射程外なら、そもそも実現犯罪の客観的帰責が否定され、錯誤論に進む前に決着することもあります。両者を混同せず、順番に検討しましょう。
誤解2:「共犯者は全員同じ罪名でなければならない」と考える
これは完全犯罪共同説を絶対視した誤解です。通説(部分的犯罪共同説)は、構成要件が重なり合う限度で共同正犯を認めつつ、各人の故意の範囲で罪名を確定するため、共犯者間で罪名がずれること自体は当然に認められます(例:一方は窃盗罪、他方は強盗罪)。
誤解3:「重なり合いがなければ無罪」と早合点する
構成要件の重なり合いが全くない場合(例:窃盗の共謀で放火が実現)でも、共謀した犯罪については未遂や予備の限度で罪責が残りうるほか、実現犯罪を実行した者自身はその犯罪で当然に処罰されます。「重なり合いなし=関与者全員無罪」ではない点に注意が必要です。
関連条文
- 刑法38条2項(事実の錯誤):重い罪に当たるべき行為をしたのに、行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は、その重い罪によって処断することはできない。
- 刑法60条(共同正犯):二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。
- 刑法61条(教唆犯)
関連判例
- 最判昭25.7.11:抽象的事実の錯誤に関する基本判例
- 最決平17.7.4:共謀の射程に関する判例
- 最判昭54.3.27:共犯と故意に関する判例
- 最大判昭33.5.28:共同正犯の本質に関する判例
まとめ
最判昭54.4.13は、共犯の錯誤について、抽象的事実の錯誤の法理を適用し、認識した犯罪事実と実現した犯罪事実の間に構成要件の実質的重なり合いが認められる限度で、軽い犯罪の共同正犯が成立するとした判例である。この法理は、部分的犯罪共同説を前提とし、共犯者間で罪名が異なることを認めるものである。
最後に、本記事の核心を3点で再確認する。
- 共犯の錯誤とは、共謀した犯罪と実現した犯罪がズレた場合の問題であり、単独犯の抽象的事実の錯誤の発想を共犯に応用して処理する。検討は「①共謀の射程(共犯論)→②構成要件の重なり合い(錯誤論)」の2段階で行う。
- 窃盗の共謀で強盗が実現した事例(窃盗・共犯の典型)では、窃盗罪と強盗罪が財物奪取の限度で重なり合うため、窃盗の故意しかない者には窃盗罪の共同正犯が成立し、実行者には強盗罪が成立する。
- 部分的犯罪共同説は、構成要件が重なり合う限度で共同正犯を認めつつ、各人の故意の範囲で罪名を確定する通説的立場であり、共犯者間で罪名がずれることを正面から認める。本判例の処理はこれと整合的である。
試験対策としては、共犯の錯誤の処理枠組み(抽象的事実の錯誤の適用)、構成要件の重なり合いの具体的判断、部分的犯罪共同説の内容を正確に理解し、事例問題に即した当てはめができるようにしておくことが不可欠である。
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