共犯からの離脱|因果的影響力の遮断と離脱の認定基準
共犯からの離脱の判断基準を体系的に解説。着手前の離脱と着手後の離脱の区別、因果的影響力の遮断、判例の認定基準を整理します。
この記事のポイント
共犯からの離脱とは、共犯関係にある者が犯行の途中でその関係から脱退し、以後の犯罪行為について責任を免れることをいう。 離脱が認められるためには、自己の与えた因果的影響力を遮断する必要があり、実行の着手前後で要件が異なる。
共犯からの離脱の理論的基礎
因果的共犯論からの説明
共犯の処罰根拠を因果的共犯論(惹起説)に求める立場からは、共犯者が結果に対する因果的寄与を有する限り共犯としての責任を負う。したがって、離脱が認められるためには、自己が設定した因果的影響力を遮断することが必要となる。
離脱と中止犯の関係
比較項目 共犯からの離脱 中止犯(43条但書) 効果 離脱後の行為につき不処罰 刑の必要的減免 要件 因果的影響力の遮断 自己の意思による中止 対象 共犯関係全般 自己の犯罪の未遂 任意性 不要 必要着手前の離脱
要件
実行の着手前の段階では、離脱の要件は比較的緩やかに解されている。
- 離脱の意思表示:他の共犯者に対して離脱の意思を明確に伝えること
- 了承:他の共犯者がこれを了承すること
- 因果的影響力の遮断:自己の加功による因果的影響力が残存していないこと
判例の立場
最決平21.6.30は、暴力団組長による殺人計画からの離脱について、計画から離脱する旨の意思を表明し、他の共犯者もこれを了承した場合には、着手前の離脱が認められるとした。
具体的判断要素
- 離脱の意思表示の明確性
- 他の共犯者の了承の有無
- 提供した道具・情報の回収
- 計画への関与の程度
着手後の離脱
要件の加重
実行の着手後は、既に法益侵害の具体的危険が発生しているため、着手前よりも厳格な要件が求められる。
- 離脱の意思表示
- 因果的影響力の積極的な除去:単なる離脱の表明では足りず、結果発生を防止する積極的な措置が必要
- 他の共犯者の行為の阻止または結果防止への努力
判例の立場
最決平元.6.26(暴行事件)は、先行する暴行により生じた傷害の結果を防止する措置を講じない限り、後行者の暴行による結果についても共同正犯の責任を免れないとした。
着手後の離脱が認められる場合
- 被害者を救助し、病院に搬送した場合
- 他の共犯者の犯行を物理的に阻止した場合
- 犯行現場から警察に通報し、結果発生を防止した場合
共同正犯の離脱と教唆犯・幇助犯の離脱
共同正犯の離脱
共同正犯の場合、物理的因果性と心理的因果性の双方の遮断が必要とされる。他の共犯者に対する心理的影響力の除去だけでは足りず、自己が提供した物理的手段(凶器・車両等)の回収も求められる。
教唆犯の離脱
教唆犯の離脱については、教唆により生じた犯意を消滅させることが必要と解される。単に「やめろ」と言っただけでは足りず、正犯者が犯意を放棄したことの確認が必要。
幇助犯の離脱
幇助犯の離脱は、自己の提供した援助の効果を除去することが必要。提供した道具の回収、情報の無効化等の措置が求められる。
重要判例の整理
最決平元.6.26(暴行後の離脱)
項目 内容 事案 共犯者らと共に被害者に暴行を加えた後、現場を離れた被告人に対し、その後の他の共犯者による暴行の結果についても責任を問えるか 判旨 被告人が現場を離脱しただけでは、先行する暴行の因果的影響力は遮断されず、離脱は認められない 意義 着手後の離脱には結果防止のための積極的措置が必要であることを示した最決平21.6.30(着手前の離脱)
項目 内容 事案 殺人計画の共謀後、着手前に離脱を表明し了承された事案 判旨 着手前に離脱の意思を表明し、他の共犯者が了承した場合は離脱を認めうる 意義 着手前の離脱の判断基準を明確化まとめ
- 共犯からの離脱は因果的影響力の遮断が基本的な判断基準
- 着手前は離脱の意思表示と了承で足りるが、着手後は結果防止の積極的措置が必要
- 物理的因果性と心理的因果性の双方の遮断が求められる
- 共同正犯・教唆犯・幇助犯で離脱の要件に差異がある
- 判例は事案の具体的事情に即して因果的影響力の残存を判断している
FAQ
Q1. 着手前に犯行現場を離れるだけで離脱は認められますか?
黙示的に離脱の意思が伝わる場合もありますが、原則として離脱の意思を明確に表明し、他の共犯者の了承を得ることが必要です。特に、自己が提供した道具や情報が残っている場合は、その回収も求められます。
Q2. 離脱が認められた場合の法的効果は?
離脱後に他の共犯者が行った行為および結果については責任を負いません。ただし、離脱前に行った行為については、既遂・未遂の別に応じた責任を負います。
Q3. 共犯からの離脱と中止犯は併せて主張できますか?
理論的には可能です。離脱が認められた上で、自己の行為が未遂にとどまる場合に中止犯の成否を検討することになります。